これから書く内容については正直少し勇気がいる。いままでお世話になってきた人たちが読んだら少し気分を悪くするかもしれないからだ。あるいはそうでもないのかもしれない。すでに見透かされていたのかもしれない。とりあえず書いていく。
私は、1996年ごろから2025年の今年まで、約30年間、ソフトウェアエンジニアとして働いていた。いや、この言い方は正確ではない。途中、ブランク期間が無数にあるからだ。実質、ソフトウェアエンジニアとして働いていた期間は20年くらいだろうと思う。それ以外の期間は、ぶらぶらニートをしたり、違う仕事にトライしようとしたりしていた。
結論から言うと、私はソフトウェアエンジニアとして働くのが好きではなかったのだろうと思う。私は、この仕事を好きになろうと何度も努力をした。しかし、結局、うまく行かなかった。よく「一生懸命仕事をやって得意になると、周囲から感謝され、その仕事を好きになる」という人がいる。残念ながらそうでないこともある。それなりに仕事はうまくこなしたし、いろんな人に感謝していただいた。それでも私はこの仕事があまり好きになれなかった。
ソフトウェアエンジニアという仕事が、これからAI時代に入って、どうなっていくのかはわからない。ひょっとしたらあまり稼げない仕事になるかもしれない。それでも当分は平均より高給な仕事であり続けるだろう。だから、私もできればこの仕事が好きになりたかった。安定した形で働き続けることができれば経済的には何の問題もないからだ。
ただ、どうしても私はこの仕事を続ける意味が見つけられなくて、今年の3月末で業務委託のソフトウェアエンジニアの仕事をやめた。私には貯えがあるがゆえに「カネのために働かなければならない」という言い訳は通用しなくなってしまったのだ。仕事自体のやりがいのためにこの仕事を続けられるか何度も自問したが、答えは否だった。
私がソフトウェアエンジニアを始めた動機はカネだった。フリーターだった25歳のころ、私はカネに困っていた。それで、時給の良いバイトとして、小さなソフトウェアハウスにもぐりこんだのだ。だから、カネが十分貯まったいま、この仕事をやめるのは筋が通っていると言えるかもしれない。私は恥も外聞もなく、こう言っておくことにする。今後、万が一カネに困ることがあれば、またこの仕事をやるかもしれない、と(まあ、そのころまでには、AIに仕事を奪われて復帰の道も絶たれているかもしれないが)。
私は、昔、「Rails で行こう」という名前で、はてなでブログを書いていた。当時は、私はフリーランスになったばかりで、Ruby on Rails (あるウェブの技術の名前)の仕事が欲しかった。だから、Ruby on Rails に関していろいろ調べてブログを書いていた。Rails の黎明期で、あまり Rails に関する情報がなかったせいか、私のブログを見に来てくれる人もそれなりに多かった。ただ、今思えば、技術のことを書くことがそんなに面白いとは思っていなかったと思う。それが証拠に、やがて私はそのブログに社会的な事柄について書くことの方が多くなった。最後のほうは、もう Rails に関係しないエントリーばかりになった。「Rails のことを書かないなら、タイトルに使うな」と苦情が来たので、もっともだと思い、私はブログのタイトルを変えた。嫌々な気持ちで技術ブログを書いていたことを読者に申し訳なく思う。
私は、たぶん決められた仕様に従って黙々とソフトウェアを作っていくということ自体が好きになれなかったのだろうと思う。私は多くの場合、IT産業の重層下請構造の最末端で、すでに決められた仕様を実装する仕事をしていたが、私の目からみると、その仕様がビジネスの目的にあまり役立つように思えないことが多かった。
「ならば正社員になり、ソフトウェアを設計する側に回ればよいではないか。発注する側に回ればよいのではないか」と言われるかもしれない。それは確かに的を射ている。しかし、私にはその仕事も魅力的に思えなかった。だから、私は正社員にも(ほぼ)ならなかったし、プロジェクトマネジャーやプロダクトマネジャーのような立場に立とうと努力することもなかった。
もっといえば、実は、ビジネスというもの自体にあまり興味がなかったのかもしれない。そしてビジネスの目標をソフトウェアを通じて実現していくということにも興味がなかったのかもしれない。
結局、30年間(あるいは働いていた20年間)を心の底ではたいして面白いとは思っていなかった仕事のために費やしてしまった。それはカネを稼いで食うためだった。
これは人生の失敗なのだろうか。そうかもしれない。あるいはそうでもないかもしれない。いずれにしろ過ぎた時間は戻ってこない。だから、この気持ちをこのブログエントリーとともに荼毘に付そう。
私はいま55歳。運よく大きな怪我も病気もしなければ、あと30年くらいは生きられるかもしれない。私は、「やりたいこと」より「できる」ことに焦点を合わせがちな部分がある。それがゆえに、好きでもない仕事を30年間もやる羽目になってしまった。たぶん、「少しは本当に自分のやりたいことに焦点を合わせてみなさい」と神様に言われているのかもしれない。「役に立つか」とか「カネが稼げるか」ではなく、本当に自分がやっていて楽しく充実感を感じられることを今後は探していくつもりだ。