天台教学の基礎に円融の三諦説がある。中論の訳出がこの三諦説の元になって、天台宗の三諦円融の教義が完成した。
そもそも天台宗は慧文が龍樹の『中論』によって〈三諦〉を一心に、空・仮・中を同時に悟ったことによって始まった。
慧文は天台宗の初祖である。龍樹を開祖とすれば二祖。時は西暦500年前後、中国の南北朝時代、北斉の僧。南嶽大師慧思の師僧で、『大品般若経』とその注釈書である大智度論や中論を所依として禅観につとめ、悟った。弟子の南嶽慧思は『大品般若経』に加えて『法華経』を重視して、禅修と頓悟禅を説いた。慧思は天台大師智顗の師僧となる。南嶽慧思は智顗に「お前とわたしは昔インドの霊鷲山でお釈迦さまの『法華経』を一緒に聞いたことがある」と不思議な因縁を語り、再会を喜んだ逸話がある。
⚫︎天台宗のテキストだと、『中論』第24章第18詩はこうある。
〈因縁所生法。我説即是空。亦為是仮名。亦是中道義。〉
「因縁所生の法は、我れ説きて即ちこれ空、また名づけて仮名なり、またこれ中道の義とす」
⚫︎鳩摩羅什の漢訳は、空が無になったり、因縁所が衆因縁になる他は、同じである。こちらを参照。
「衆生縁生法。我説即是無。亦為是仮名。亦是中道義。」
⚫︎サンスクリット語は以下。
縁起、それをわれわれは空と呼ぶ。
〈yaḣ pratītyasamutpādaḣ śūnyatāṁ tāṁ pracak̇smahe/ 〉
それは[因に]依っての表示〈仮名〉であり、それこそが中道である。
〈sā prajñaptir upādāya pratipat saiva madhyamā//〉
三諦とは空・仮・中という三つの真理。すべての存在は実体を有しないとする空諦、すべての事象は縁起によって生じているとする仮諦、そして、その空諦と仮諦を踏まえた上で、すべての存在や事象は真実の相を示しているとする中諦である。空をさらに空じた境地に中諦(中道)が現れるとされる。そしてこの三つは不思議にとけ合っている様を三諦円融という。
しかし、元ネタとなった『中論』第24章第18詩だが、皆様ご存知であろう中村元先生の研究によれば、この詩句は縁起・空・仮名・中道という4つの概念が同じ意味を持つようだ。中村元先生「天台以後の解釈がはたしてナーガールジュナの原意を得ているであろうか…」と呟いている。ようは、空をさらに空じた境地なんて龍樹は言ってなかったんじゃないの…?と中村先生は格義仏教(中国仏教)に問われているわけだ。
三諦の教義がどのように龍樹の原意と違っているのかは、また次回以降に掘り下げるとして、格義仏教の影響を色濃く残した教義がコアとなったものが天台宗であることは間違いない。ただ、肝心の龍樹の法も、釈迦牟尼の時代には言われてはいなかっただろう。仏教は現地の文化の影響を受けて変質していく。中国での道教の影響は不可避なものだ。
例えば、南嶽大師慧思の誓願文には、長寿を求め、外丹(錬丹術)の力を借り、内丹(気功、仙道)を修すると記述している。『立誓願文』に「為護法故 求長寿命 不願生天及余趣 願諸賢聖佐助我 得好芝草及神丹 療治衆病除饑渇 常得経行修諸禅 願得深山寂静処 足神丹薬修此願 藉外丹力修内丹」とある。仙道の影響は十分にあっただろう。弘法大師にも同じような錬丹術にまつわる逸話があるので、それは格義仏教の影響を受けたと考えても間違いないだろう。画像は南嶽大師慧思。
