長らく積読山に埋もれていたが、遅まきながら一通り目を通したので、感想をメモ。会社法周りの実務の基礎としてもよいけど、司法試験から実務に行く間の懸け橋としても良いと思う一冊。
会社法周りのブティックファームとして有名な中村・角田・松本法律事務所*1の先生方が所内の勉強会の内容を、ボスとサブの会話形式にして出された一冊。
「まえがき」にもあるように、法律や省令の条文に立ち返って、段階を踏んで順を追って考えるという姿勢が徹底されている。条文をきちんと引用しているのも、億劫がって条文を見ないという可能性を排除し、「逃げ場」をふさぐ感もある。ともあれ、下位法令まで含めた関連する条文の文言を丹念に検討しているのは、条文に立ち返って考えることの重要性を改めて感じさせてくれる。また、扱われているテーマも重要そうなものが含まれているので、会社法周り特にガバナンスや組織再編あたりの実務を学ぶとっかかりとしても良いのではないかと感じる。また、そういう姿勢を徹底することは、会社法以外の分野でも実務のとっかかりとしても重要だろう。更に、会社法以外の分野の話でも、必要な周辺知識についてもしっかり言及がなされている。具体的には、第1回では民訴の多数当事者訴訟の話、第2回では商業登記の話、第3回では委任立法の限界の話、第6回では事実認定論等の説明もなされている。そういうところまでしっかり目配りがなされているのは、当然と言えば当然だろうけど、流石と感じる。
個人的には、第1回の総会の説明義務では、株主が招集総会での説明義務の問題は、考えたことがなかったので、条文からすればこうなるのか、と驚きながら読んだ。第2回の社長解任事件では、解任後のことも考えると、広範な考慮と周到な準備なしにはなしえないという難しさを強く感じた。第3回の監査役のところでは、監査役制度についてあまり考えたことがなかった(汗)こともあり、歴史的な経緯も含め、なるほどと思いつつ読んだ。第4回の総会のシナリオは、細かい動きの意味の説明にあらためて学ぶことが多かった。第5回の大和銀行事件は、ボスの判旨への批判になるほどと思いつつ読んだ。第6回の住友信託対UFJホールディングス事件は、リアルタイムで見ていたはずの事件だが、既に忘却の彼方にあった当時の文脈についての解説や、地裁決定への抗告審への対応についての分析、フィデュシャリー・アウト条項の検討が興味深かった。
以上からすれば、会社法周りに限らず、司法試験合格までに学んだことを実務にどう生かすかということを感じるという意味でも、本書を読むことは有用なのではないかと感じた。とはいえ2020年末時点の内容のようなので(「まえがき」の記載からそう考える。)、この分野での最近の諸々の動きを考えると、できればそろそろ内容の更新の改訂をしていただき*2、爾後も同様にしていただき、長らく読み継がれてほしいと考える。