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企業法務1年目の教科書法律相談・ジェネコ対応の手引 / 幅野直人 (著)

契約書レビュー本が評判の幅野先生の第2弾。GW中の個人的課題図書として前著と同様に感想を呟きながら読んで見たので、呟いたことを基に感想をメモしてみる。経験値の少ない方であれば前著と並び必読と考える。

 

なお、こちらは、既報のとおり、今はJTCの(よそでいうところの)法務部長なので、そういう視点での感想になっていることを付言しておく。

 

第1章概観。依頼者(相談者)の予測可能性の確保ということが指摘されているが、この章では読者の予測可能性の確保が意識されていて、読みやすさにつながっていると思う。法律の理解より先に、ビジネス、自社、社会の理解が説かれているのも好感が持てる(こちらが現職でどこまで貫徹できているかは心もとないが)。とりあえず返信する、のところは、すごく重要と感じる。急ぎで外部の弁護士に相談するときには、レスがないのはすごくストレスになるので。
あえてさらに追加してほしいことを述べるなら、ハブとしての機能を果たす、という点への言及の際に、なぜ企業内法務が企業内でのハブとなり得るのかの記載がほしいかもしれない*1。契約書という形でビジネスが集約されたり、契約書の稟議という形で社内の意思決定をする際に関わるから、ではなかろうか。より具体的にはそうした書面の内容確認を通じて様々な案件に関与する余地が生じるということになろうか。

 

第2章初動のポイント。初動で間違うとリカバリーが効かないか、効いても高くつくこともあるので、この部分に焦点を当てているのはなるほどと感じる。書かれている内容はご説ご尤もと思う事ばかり。とはいえ、いくつかいいたくなることもある。
まず、書かれていることはいずれも実践すれば理想的だが、リソースの制約で実現できないことがある。案件を拾いに行く姿勢は大事だが、本当に拾うのが良いのか、拾いきれるのかという視点が必要なことが企業内ではあると思うし、様子見が望ましいこともあるかもしれず、その点の理解も必要とも感じる。法律に照らして仮に答えが出たとしても、法務が答えを出すべきかどうかは企業内の職能分担との関係で決まることもある。そういう間合いも踏まえる必要があるし、そういう観点から、上司から拾いに行くべきではないという指摘が出る可能性はないではない。その点も理解しておく方がよいかもしれない。上司がそういう視点でものをいう可能性があることは1年目からも理解しておくべきではないか。理想は理想として認識して目指すべきだけど、現実は現実として存在して、両者の間には乖離があるのは、一定程度容認できたほうがいいということだろうか。理想に燃えた若者が無用に幻滅しないようにということは考えてもよいのではないかと思う次第。メールなどのやり取りの際は、特に相手の偉い人だと長いメールは読まないとか、添付ファイルは開かない等の事態も想定する必要がある(これを若手に想定させるのは酷に過ぎるが)*2。以上は2章総論についての感想。
2でヒアリングのポイント。質問リストとかを用意するのは良いけど依頼者に埋めてもらうのは、相手の能力次第ではできないことも想定しておくべきか。都合の悪いことほど隠そうとするので、都合の悪そうなことほど言ってもらう必要があるという点は積極的に言うのもありかもしれない。また、情報を断片的にしか出さずに自分に都合の良い言質を取ろうとする人間がいる点への注意喚起もあってもよいのかもしれない。
3は初期判断のポイント。証拠類の確保から入るところが個人的には好感度が高い(謎)。あえて何かを言うなら、企業内の場合、目の前の問題に法務が判断してよいのか、業務分掌との兼ね合いで確認が必要なことがあるくらいか。
4は外部弁護士起用のポイント。企業内と外の弁護士との橋渡しの様子や社内の落とし込みについて書かれているのは良いと感じた。思いつくことはいろいろあれど、企業内にいる若手が知っておくべき点としていくつか。まず、依頼に対し事務所のコンフリクトチェックが入ると、実働はその分遅れる。当然のことながら、コンフリクトありで、対応してもらえない可能性もあることも重要。この辺はスケジュール感との関係で重要。また、事務所選びでは、同種の案件の経験の有無が訊かれることもあるので、判例検索などを指示される可能性があるかもしれない。事務所とのフィーアレンジは、お願いする作業のあり様によっても変化し得ることも理解してよいかも。準備に手間がかかる話だと準備でタイムチャージが膨らむので、訴額などの兼ね合いで適切でなくなる可能性があるとかも重要かもしれない。

 

第3章案件処理のポイント。1総論では、スケジュールを意識することの重要性等諸々同意だけど、スケジュールとの関係では企業内の意思決定プロセスも意識すべきと考える。
2のリサーチのポイントは、こんなものなのかと思いながら読む。一点だけあえて言うと、行政に会社名を出して訊きに行くのは慎重にした方がいい場合もあるということ。変に行政に関心を持たれると面倒の種になることがある(詳細略)。そういう場合こそ外の事務所に依頼して訊いてもらうべきなのだが。
3の回答・文書作成のポイントは、諸々納得で、特に質と速さのバランスについての指摘は肚落ちしやすいのではないか。視認性を高めるためにマーカーを引くとかのところは、やりすぎるとどこぞのコペルニクス的転回の書面(謎)みたいになったりしないか気になった。

 

第4章紛争相談対応におけるポイント。1はじめに、では訴訟やADR以外の話に焦点をあてているとあるのがなるほどというところ。
2の紛争相談対応の目的では、レピュテーションリスクも含めた企業のダメージの最小化を最大の目的としているところは重要と感じる。
3 第3章までのポイントで、これまでの内容を基に受任通知のドラフトを作る過程を解説しているのは、うまい作りだなと感じた。事実確認の部分で相手方調査が入るのも重要。相手方webサイトでどこを重視するかもなるほどと感じる。紛争に法務や弁護士が表立って介入すると相手の警戒感が上がる点の指摘も重要と感じる。
4の良く問題となる法律のところは、簡潔にまとまっていて良いのだけど、知識が不十分な読者向けに、知識補充に使える文献の案内が脚注とかであると良かったかもしれない。
5の品質クレーム問題における対応のポイントはエンドプロダクトでの話のようだけど、それでも記載が薄いような。保険対応とかサプライチェーンに沿った求償の議論とかも出てくるはずなのではないか。
6の相手方への対応では、ADRについての説明はもう少しあってもよかったかもしれない。執行力が認められるケースがあるとかいうあたりとか等。国内案件前提の記載なので(それでいいのかは議論があるかもしれないが)、仲裁についてNY条約の話が出ないのは当然としても。銀行口座の差し押さえで交渉が進むケースへの言及は、確かにあってしかるべきかと。法律論からは出てきづらい話かもしれないので。
7の通知書のポイントでは、当たり前かもしれないけど、獲得目標や期限の設定、将来の使われ方の意識(訴状を書いてから内容証明は書け、という言い方に接したことがある)等、なるほどと思うことが多かった。送付方法のところも、今時ならではのバリエーションが興味深かった。あえて言うなら、そういうバリエーションがあるなかで、内容証明を使うというのは、ある意味で「戦闘開始」と受け取られる可能性が高まったのではないかと感じる。相手の態度を硬化させる危険には注意が必要と感じる。
8交渉のポイントは、オーソドックスな交渉の話という印象。相手方のBATNAなどをリサーチや従前のやり取りからどう推測するかが気になったが、その辺は本書の範囲を超えるか。留意点として相手方に交渉に応じるメリットを感じさせるという点は重要と感じた。
9合意書のポイントでは、口外防止条項は入れるのは必要としても実効性がどこまであるのかは疑義がある点は指摘しても良いのではないかということが気になったのと(昨今の某事例で示されたように)、和解条項に関する実証的研究を参考文献としている点につき、かの本が一般には入手しやすくない点が気になった(こちらは修習時に教官から買えと言われて買ったが。民事実務講義Iとかの方が一般の書店で売っている点でよいのではなかろうか。)。

 

第5章。契約相談対応におけるポイント。
1 はじめにでは、契約相談対応の流れが鳥瞰され、この先の予告となっている。
2契約相談対応の目的で意図に沿い、リスクの低い契約書がゴールとして設定されているのは良いと感じる。
3 第3章までのポイントで、3章までの復習をしながら要所の解説をしているのが良い。実務書の案内もあり、幅野契約本も含め。示されている書籍もおおむね妥当な気がした。
4 レビューの形式。wordについては、事業部門や相手方のリテラシーがイマイチで、偽装修正履歴とかがある可能性や、内部向けコメントと明言しても外部向けと一緒に相手に流してしまう人間の存在について、注意喚起をしても良いのではないかと感じた。
5 契約書全体で確認・検証すべき事項。意図に沿うか、不利になっていないか、適法・有効な契約か、等指摘には納得。wordのプロパティの話まで入っているのは親切と感じた(ファイルのプロパティの確認は、wordに限らず必要だけど)。
6 個別の契約条項で確認・検証すべき事項については、デフォルトルールの確認から入るあたりが手堅い感じがした。条項の有利不利について、闇雲に自分側に有利にすることを唱道していない点も穏当で良いと感じた。
契約書のコメント形式のコラムについては、神々の争いのあるところなので、あらかじめ知っておいて損のない話と感じた。

 

最後のケーススタディは、企業側、事務所側双方の動きが具体的な書面例と共に示されていて良いと感じた。あえて言うなら、企業側からのメールの表題は、改善するなら「新規ご相談(債権回収)の件:佐藤@ハーバーノ法務」とすると思う。案件内容がより具体的に伝わるうえ、誰からかも明示されるので。さりげなく弁護士報酬についての話も含まれているのも良い。

 

一通り目を通したが、配慮が行き届いた良い本ではないかと僭越ながら感じた次第。特に経験値の不足している方は自分用に読むと良いし、そういう方々を指導する側も指導する際の道しるべになるのではなかろうか。

*1:この辺りは個別具体的な状況次第ではあるが...。

*2:そういう場合はメール冒頭にエグゼクティブサマリーをつける形での対応になるだろう。




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