何のことやら。呟いたことを基にメモ。
TL上で話題になっていた東京地判R6.3.29(令和4年(ワ)第11914号。判例秘書L07930723)に目を通してみた。簡単にいうと、企業内弁護士が、能力不足等を理由に解雇されたこと等を争って、請求が棄却されたという話である。
裁判所の認定した事実によると
原告は、法科大学院を卒業後、司法試験に合格し、平成21年に司法修習を終了し、法曹資格を取得し、法律事務所で弁護士として稼働し、その後、いわゆるインハウスローヤーとして合計約5年程度にわたり、複数の企業の法務部門で勤務した経歴を有していた
とのこと。他方で、被告はどうやらIT系の企業であるところ
被告は、当初の求人では法曹資格を有する人物を募集するものではなかったが、原告が法曹資格を有していたことから、原告の年俸額を当初の求人の賃金水準よりも高い金額で定め、また、社内のグループ・マネージャーらに対し、原告を法曹有資格者として紹介した。
ということであり、他に同社内に企業内弁護士(インハウスローヤー)がいるという記載がないことから、原告は一人目のインハウスとして入社した模様である。なお、当初所属は管理本部法務グループであり、年俸は800万円台のようである。
解雇が正当と認めた事由として裁判所が大きく問題視したのは、大要次の事実。
- 部署に来た書類で郵送での返送を要するものについて、郵送作業はアシスタントがすべきとして、自分では対応しようとせず、上司が1時間以上説得する羽目になった。
- 契約書の押印業務や保管業務につき、自分の専門性が活かせないと拒否して、上司の説得にも応じず、結局他の同僚が対応するに至った。
- 業務用のパソコンやシステムについて、業務上必要のない問い合わせ等を総務部門や情報システム部門に頻繁に行い、当該部署の業務に支障をきたした。
- 成績不良で管理本部付に異動した後も、指定した期限までに報告書を提出せず、一方的に締め切りが延長されたと強弁し、上司側の期限認識が誤っていると上司を非難。
このほかにも不適切とされた行為はあったが、個人的にはこれだけでも十分お腹一杯という感じである。おそらく組織で働くということに対する適性が皆無なのではなかろうか。詳細は略すが、会社側も相応に慎重に事を運んでいて、当人に名誉回復の機会を与えたものと考えられること*1も踏まえると、いずれにしても解雇は正当という結論は動かしがたいのではないかと感じる。
...というのは前置きで、この調子だと、訴訟となった企業以前の職歴でも相応に問題があった可能性すらあるのではないかとも思えるところで、こうした傾向をこの会社の採用プロセスで見抜けなかったのかというのが、企業で、法務の管理職として、インハウスローヤーも含め法務部員の採用面接もする立場からすれば、気になるところである。
おそらく、想定外に「ハイスペック」な人材が応募してきたため*2、資格に惑わされて、適切に目利きができなかったのではないかと思われる*3。
では、どういう問いを立てれば見抜けたのか、「素人」質問で見抜く方法がないか。とりあえず思いつくことをいくつかメモしてみる。
- そもそも自社でどういう業務をしたいかを聞いて、専門性が活かせる業務、という答えが返ってきたら、そういう業務以外のいわゆる「雑用」もしてもらうことがあるが、それでよいかと尋ねるというのは、最もストレートな訊き方だろう。もっとストレートにいわゆる「雑用」もしてもらうが問題ないかと訊くのもあり得るだろう。
- 上司になる人間が法曹有資格者でない場合は、その点をどう思うか、その指示に従えるか、訊いてみるのもよいだろうし*4、上司に法律のバックグラウンドがないが、そういう上司に法律に関する事柄をどういう形で説明するか、ということを訊いてみて、その様子から説明できそうか探るのもありかもしれない*5。
- 今回のように転職歴がある場合は、個別の退職理由を尋ねてみるのはあり得るのではないか。その中で、専門性への過度のこだわりがある場合や、他責性が強い場合は注意が必要かもしれない。
*1:上記の4つ目の点は、当人に名誉回復の機会を与える意図もあったと思われるのに、当人がそれに応えなかったということも判旨で指摘されていた。
*2:企業内では、資格がないとできないような業務を企業内でする確率は高くないうえ、逆に資格への影響を恐れて過度に保守的な判断をするのであれば、むしろ資格は有害にすらなり得る。もちろん、資格取得に結実した学識や学習能力などは間違いなく武器になるのだろうが。そういうことを考えると資格に惑わされる必要はないのではなかろうか(汗)。
*3:求職者側からすれば、資格の利点という見方も成り立つだろう。
*4:上司が有資格者であっても、修習期が若い場合は、修習期が下の上司でも気にしないか訊くというのは、あり得ると考えるし、こちらの場合は常に訊くようにしている。
*5:実際に法律問題を用意して(作問を「外」に頼むのも想定できるだろう。)、素人に説明させてみるというのも思いつくが、実際には「素人」がするのは難しいだろう。