インハウスで普段刑事事件に接することがないのだが、昨年の袴田事件の再審無罪判決は*1、いくつかの意味で驚きを禁じ得なかった。あれこれ言うにしても、最低限判決文くらいは目を通すべきだろうと思ったので*2、冬休みの宿題の一つとして読もうと思っていた。どこまで理解できたかはさておき、一通り目を通したので、雑駁な素人の感想をメモしてみる*3*4。
判決文をダウンロードしてみるとpdfで110頁余と思ったほど長くない。争点が被告人の犯人性に絞られ、それに関する検察の主張3つについて各々検討される形なので、この程度で済んでいるということなのだろう。
その中でも、有罪立証の中心とされた5点の衣類について詳細に検討している。検討の上、証拠としての関連性を欠き、証拠排除するだけでなく、捜査機関による捏造である点も、詳細に検討しているのが印象的だった。実験結果からすれば、衣類を1年以上味噌漬けしたら血痕に赤みが残らず、証拠採用した時点では赤みが残っているとされたことと整合しないという点の指摘は、弁護人側が実験して確かめようと思う時点で凄いと思うし、やってみて、結果を法廷に持ち込むところまで持っていく執念は単純にすごいと感じた*5。
また、この判決についての報道では、捜査機関の捏造と断じた旨報道されており、その報道に接したときに、裁判所がそこまで踏み込んだ判断をしてしまうと、却って検察の無用な反発を生んで、無理筋でも控訴されて、却って袴田さんの無罪確定が遅れるのではないかと素人ながら気になった。
しかしながら、その点については、判示の中で、5点の衣類や端切れについて、捜査機関による捏造が実行可能であった点や捏造に及ぶことが現実的に想定可能な点が、捜査及び公判の経過に即して、証拠に基づき詳細に検討されていた。控訴させないという裁判所の意地のようなものも感じたし*6、ここまで書かれていると、高裁でさらに不利な判断をされる危険を冒してまで、控訴するという決断を検察側がするのは、難しいのではなかろうかとも感じた。
上記の意味では、裁判所が、この再審(と再審決定をした高裁)では、良い仕事をしたという見方もできるような気もしないでもない。しかしながら、再審決定がここまでかかったのは、検察側のみならず再審を認めなかった裁判所側にも責任がないとは考えにくいだろう。再審についての制度が不十分な点があるのも否めないだろう。それらの点について、再検討が必要なのだろうと思う。
*2:特に無罪判決を批判をするのであれば、正確性の担保できない報道だけに基づいてするのは、単なる結論への不平不満以上のものになるのは困難であろう。仮にそれ以上の何かを、特に、当該判決に対して考えを異にする人々に向かって、反対する旨の考えに賛同を求めることを望むのであれば、判決文は見ておくべきだろうし、可能であれば適法な形で証拠も見ておく方が望ましいのだろう。それでもなお、裁判所のが証人尋問時等に取った心証等は含まれていないかもしれないので、限界はあるかもしれないが。
*3:本エントリではこの判決を批判する意図はない。そもそもこちらにそのような能力はない。
*4:なお、up後に若干の加筆をした。
*5:他方でズボンは着用不能であったという主張については、認められていなかった...。
*6:意地を見せるのであれば、取り調べ時間の異常な長さが最初から調書の任意性に疑義が生じて然るべきではないかとも思えることを考えると、第1審時点から見せるべきだったと思う。そういう意味では、見せるのが極端に遅すぎたとは思うが、見せないよりは遥かにマシだろう。