一通り目を通したので感想をメモ。
元裁判官で、今は弁護士として、刑事事件も手掛けられている著者が、ご自身の経験や心理学の知見*1も交えて、冤罪について一般向けに説くもの。専門家向けに書かれた「冤罪学」のエッセンスが説かれているのではないかと考える。こちらも一応最広義では専門家に含まれるはずだが、かの本は、相応に大部な本であり、普段の業務から縁遠すぎて手に取るのはためらわれたこともあり、本書を購入してみた。
冤罪が生じ得る土壌や仕組みを、著者が弁護人として関与した事件などを基に説くとともに、問題を改善するための試みについても書かれている。平易な文章でコンパクトにまとめられているので、特段の予備知識がなくても、通読できるだろう。
前記の意味で悪い本ではないとは思うのだが、個人的に気になったり、違和感があったことがあったので、以下メモしておく。
- 冤罪を作る原因のかなりの部分が捜査機関や検察のやり方にあることは、いうまでもないのだが、彼らに問題行為があった場合に、抑止力になるはずの裁判所に問題点がなかったのか、問題点が仮にあったとして、何らかの対策が講じられているのか、というあたりについての記載がほとんどないように感じた。勾留許可の場面での「自動販売機」と評されるような対応を見るだけでも、裁判所に何ら問題がないとは信じがたいし、裁判官経験があり、本書の記載からすれば刑事事件も担当した経験があると思われる著者であれば、少なくともそういう経験のない弁護士よりは語るべきものがあるのではないかと思うが、そのあたりについては、控えめに言って言葉が少ないように思われた。守秘義務とかが妨げというか言い訳になって、そういう結果になったのかが気になった。
- 冤罪リスクなどを理由に死刑廃止論を説かれている点も、冤罪となる確率が半分を超えているという主張があるならわからないでもないが、論理が飛躍していないかという気がした。死刑判決が下されるような事件の中には、文字通りの意味で「合理的な疑いを超える」立証が、証拠などの偽造などを経ることなく、なされた事件もあるはずで*2、それらについてまで、冤罪リスクを理由に死刑の対象からはずすという議論には違和感が残った*3。