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日本の若者はリベラルではなく保守化している

カテゴリー:社会・政治・時事問題

はじめに

今回の解散・総選挙の結果に鑑みて、若者はリベラルであるのになぜ自由民主党に票を入れたか、なぜリベラル政党(特に立憲民主党、中道改革連合)が嫌われたか、というネットでの論調や記事がたくさん見られました。私はできる限り目を通してみましたが、多くは納得のいくものではありませんでした。様々な疑問点があります。

これらの多くの記事には、大きな問題点として、その主旨がどのような学説・文献的根拠で導かれたのか明らかでないということがあり、そのままでは単に主観にしか見えないというところがあります。そして、「先進民主主義国における若者の右傾化」という世界的潮流や、日本の世論調査におけるこの 10 年余における若者のリスク回避、内向き(安全)思考、体制寄りの傾向を無視しています。

ネット記事では、リベラルという言葉が多義的に解釈されており、「なぜ自民党に投票したのか」、「立憲や中道が嫌われるのか」という主題と噛み合わない部分もあります。このような政治的文脈では、イデオロギーとしてのリベラルに立脚すべきでしょう。この前提が崩れると如何様にも解釈が可能になります。

政治的態度とそれを支配する気質としての保守(右派)とリベラル(左派)は、階層性への嗜好や脅威の捉え方の違い [1]また偏狭主義的か普遍主義的かによっても説明されています [2](下図)。簡単に言えば、体制依存的で個人の倫理観を重視するのが保守(究極は新自由主義者)、権威打破的で個人、国家よりも世界に対して、より強い道徳的関心を示すのがリベラルということになります。

なお、ここで言う保守は、学術的な世界標準のそれであって、よく日本流で言われる政治的価値を持たせた「保守」は無視します。

このブログ記事では、「若者はリベラル」としたネット記事の論評を踏まえながら、日本の若者は決してイデオロギーとしてリベラルではなく、むしろ保守化しているという見解を述べたいと思います。

1. ネットの記事

まずは、朝日新聞と大阪大の三浦麻子教授(社会心理学)が実施したネット意識調査の記事です [3]。以下のように記述されています。

ネット意識調査で、自らのイデオロギー(政治的立場)を左寄り(リベラル)と自認している人の投票先は、40代以下だと自民党が最多だったことがわかった。10~30代では34%に達し、次いで国民民主党が10%、中道改革連合を選んだ人は9%にとどまった

この記事にあるように「自認のリベラル」という前提で調査が行われていますので、回答者が本当にイデオロギー的にリベラルであるかどうか不明なところがあります。政治的立場が左寄りであれば、自由民主党を選ぶ理由は希薄です。おそらく、回答者は自らの民主主義的・文化的概念の理解をイデオロギーと混同している可能性があります(後述)。

次に"note"からの記事を拾ってみます [4]。以下のように説明されています。

若い世代には、ジェンダー平等、格差縮小、外国人との共生、環境保全などを是とする「文化的リベラル価値観層」は確かに存在するし、その比率はむしろ高齢者世代より高い。しかしながらそれ以外の価値観、安保政策や福祉財源の割り振り(シルバーデモクラシー観)で決定的な差があり、《正義》の観点でも旧リベラルは切り崩せるだけの論拠を持たず劣勢である。

このように、文化的リベラル価値観という言葉が使われており、イデオロギーから逸脱しています。後述するように、ジェンダー平等、格差縮小などは、民主主義国では法的に保障された概念であって、それ自体によってリベラルという括りはできません。また、旧リベラル vs 新リベラルという二項対立で、意図的にリベラルの解釈を歪ませています。

以下も"note"からの主張です [5]

イデオロギーの変容: 若者にとって「保守・リベラル」の定義は旧来のものと異なり、現状を打破する「改革志向」こそ「リベラル」の指標となっている。
SNSによる情報の独占: 高市一強のSNS環境で得られる政治知識から投票に移す若者が多い。また、断定的な言葉を多用する政治家を若者は「真のリーダー像」として好んでいる。
生活のリアリズム: 多様性への理解(価値観)と、雇用や経済の安定(実利)を切り分け、生存戦略として「確実な現状維持・発展」を選択し、投票行動に移している。

ここでも、若者にとって「保守・リベラル」の定義は旧来のものとは異なる、と言っている点で、学術分野のリベラル基準を逸脱しています。「若者のリベラル観が違うから高市自民党に投票した」では、主観的主張のラインを超えるものではありません。

「今の若い世代は、上の世代に比較すれば、実に「リベラル」であり、むしろ若者は『リベラル』であるがゆえに、立民流の『リベラル』スタイルが苦手なのである」という白川氏の主張 [6] も、リベラルの意味を意図的に「ダブスタ」化させています。以下、白川氏の主張ですが、日本の現象に合わせて主観的リベラル観を当てはめただけす

高市首相の支持拡大は、右傾化でも保守回帰でもない。それは戦後の平和主義が抱えている「日本的リベラル政治」=「変化させない政治」への拒絶であり、「現実に向き合う政治」への希求である。

さらに千田氏は、リベラル政党を「高市首相をいじめる攻撃的なおじさん集団」と揶揄っています [7]。これは、野党政治家の普通の仕事である与党批判を、悪口、攻撃的と言い換えているに過ぎません。若者がリベラルを嫌う理由はまた後述します。

若者の右傾化と男女間のイデオロギー的差異(女性の方がリベラル的傾向)は世界的な傾向です。その世界共通の潮流の中での日本の若者の傾向も捉えることができます。そこには、ソーシャルメディアに押されるレガシーメディアの状況が関係しているでしょう(後述)。多くのネット記事は、これらの世界的傾向を全く無視して日本の内向きな主観論に終始しています。

特に若年男性の保守化傾向は高市政権よりずうっと前から見られることで、第二次安倍政権頃から始まっています。長期間のデフレ環境という社会的・経済的脅威に対して、リスク回避と階層性嗜好の傾向が強くなり、それでも男性は社会的優位性志向があり、強いものや目新しいものへの期待感を抱き始め、それが民主党政権から第二次安倍政権への移行のタイミングと重なったということではないでしょうか。

立憲民主党は 2017 年に結党しましたが、その頃にはすでに若年男性は内閣と自民党への高い支持を示していました。過去 30 年、途中 2 年間の民主党政権があったとはいえ、ほとんどが自民党政権であるので、「日本的リベラル政治」への拒絶も何もないでしょう。若者はほとんど自民党政治しか経験していないわけで、事実、30 歳未満の立憲民主党への支持は最初から 2% 以下です(→学生の気質の変化と世論調査)。

この流れの中で、高市政権は女性初の首相という目新しさを提供しました。これまでの男女間の政権支持の違いを埋める効果があったと思われます。この意味で、「女性総理の歴史的大勝の背景には、殴られてきた女の歴史がある」と述べる北原氏の主張 [8]は、一見に値します。以下、彼女の主張です。

大多数の女性たちにとって、自らの被害者性を一ミリも感じさせない高市さんの生き方は(実際のところはわからないとしても)、自分を肯定する力にもなるだろう。それはもちろん、被害者を踏みにじってきた社会、被害者になること・弱者になることを「負け」と考えてきた日本社会の残酷さの裏返しでもある。でも、そしてそういう女性たちに、“ジェンダー平等”というスローガンなど空疎なのだ。高市さんは選択的夫婦別姓に反対しているからダメ、高市さんは家父長制的だからダメ、なんて批判は空しいのだ。

2. 日本的リベラル:誤った概念による混乱

上述したネット記事の多くは、西欧型先進民主主義国と日本の立ち位置、および政治的保守・リベラル、気質的保守・リベラルに対する解釈の混乱があると感じられます。ここでもう一度おさらいしてみましょう。

民主主義は多次元的な概念であり、単なる制度や規則、仕組みなどの形式的集合体ではありません。それは市民の「体験」に深く根ざした中核的価値観の集合体と言えます。この中核的価値観とは、個人の自律性と平等主義、多様性への寛容、そして個人と制度の双方に対する抑圧からの自由であり、リベラルそのものに根差した価値観と言えるでしょう [9]

そして先進民主主義国では、それらの概念が法令として制度化されており、デフォルトとして確立されている状態です。したがって、その上で政治的に社会的に保守かリベラルかを考える必要があります。その思考には保守的、リベラル的気質が関係します(→保守とは?リベラルとは?認知力の違いは?)。

リベラルも多次元的であって、様々な角度からの意味づけや定義があります。現代においては、最低限として、立憲主義による政府・権力の抑制、市民に法制度への平等なアクセスを志向する政治的マインドが民主主義の基礎であり [9]、その上で、政治的に寛容性、包摂性、多様性にどれだけ向かうかがリベラルの本質と言えます。

V-Dem 民主主義指数は多様な民主主義の質を測る尺度ですが、日本はこの指数で民主主義が進んだ国とされています。当然ながら、日本の若者は民主主義を理解し、その意識が高いと言えるでしょう。重要なのは、その意識自体がリベラルということではなく、その上でイデオロギーとしての保守かリベラルかということが問われているわけです。

日本特有の問題として、民主主義指数の項目の中で、先進国と比較して「市民参加」の値が低いことが挙げられます。民主主義の理解は進んでいるけれども、能動的に政治に向き合うというほどでもない、自ら参加してリスクは取るほどでもない、ということなのでしょう。不確実性回避という国民性が現れているとも言えます。

今回の多くの調査や主張で、民主主義の基礎であるジェンダー平等、同性婚、夫婦別姓、外国人との共生、環境保全などをリベラルの指標として用いています。しかし、これらは全くの日本ならではのリベラル解釈でしょう。

ジェンダー平等や同性婚は基本的人権の一つであって、先進民主主義国ではそれらの概念を法的に保障しています。つまり、ジェンダー平等や同性婚に理解があるということは立憲主義に立つ、遵法精神の現れであって、先進民主主義国では保守 vs. リベラル以前の当たり前のことなのです。

夫婦別姓については、もはや何をか言わんやです。夫婦別姓は専制主義国である中国や北朝鮮でさえ当たり前であり、選択的夫婦別姓も含めて世界の社会常識です。唯一日本だけが、法的に強制的夫婦同姓制度をとっているわけです。夫婦別姓は、慣習と同時に個人の氏名という基本的人権の問題であり、リベラル云々以前の問題なのです。

日本は確かに民主主義国ですが、一方で同性婚や夫婦別姓などに対する法的保障がありません。その世界常識から立ち遅れた認識が、リベラル感を歪めていると言えるでしょうし、そこから基本的人権の問題を保守 vs. リベラルに置き換えてしまったということでしょう。

3. 愛国心は反リベラルの指標か

いくつかのネット記事で、愛国心を保守・リベラル度を測る物差しと使っているのもおかしなことです。なぜなら、国を愛する気持ちは、誰もが生まれた時から持っているものだからです。自分の故郷、家族、友人、社会などを愛する延長線上に愛国心があります。保守、リベラルには関係ありません。

ただ重要なのは、その愛の形が人によって違うということでしょう。これに関して,Reddit に面白い形容がありました。「保守派は、まるで 4 歳児が母親を愛するように米国を愛している。4 歳児にとって母親のすることは全て素晴らしく、母親を批判する者は皆悪い人間だ。リベラル派は大人として米国を愛する。大人の愛とは、愛する対象を真に理解し、良い面も悪い面も受け入れ、愛する者の成長を助けることを意味する」。

上記の形容はいささか極端だとして、ある意味的を得ています。保守派が言う愛国心は愛国主義(patriotism)ではなく、しばしば国家主義(ナショナリズム、nationalism)の色が強くなり、国や政権への批判を否定します [10]。政府への批判を「非国民」扱いすることもあります。

愛国心は一般的に肯定的な含意を持ちます。自国を愛し、国民全体の偉大な利益に奉仕する様々な前向きな感情、態度、行動を指すために用いられます。もちろん国の成長を助けるための批判、政権の不祥事や失敗に対する批判も愛国心からです。

ナショナリズムは一般的に否定的なニュアンスを持ちます。これは、帰属の同質性を主張しながら、何らかの理由でそれが認められない人々を犠牲にして、より極端で排他的な祖国愛を掲げる政治思想や運動を指します。

日本に原爆を落としたトルーマンは、米国第一主義を今のトランプ型とは異なり、米国民の主たる関心事を世界全体に永続的な平和の条件を創出することと見なしました [10]。彼にとって、愛国的に自国の利益を最優先するとは、ナショナリズムと戦うことを意味しました。

同様の見解は、フランスのマクロン大統領の主張にも見られます。彼は「愛国主義はナショナリズムの正反対である」、「ナショナリズムは愛国主義への裏切りである」と述べています。

このように、愛国心の強さを保守 vs. リベラルの指標とすることは適切ではありません。むしろ、リベラルだからこそ愛国心が強いとも言え、若者が愛国心がより希薄ならリベラル度が弱いということも言えます。日本の愛国心の捉え方は、このような屁理屈も可能なくらい歪んでいます。

4. 憲法改正と自衛隊

憲法改正と自衛隊に関するネット記事の主張もしばしば不適切な感じが拭えません。まず、防衛(軍事能力と戦略)安全保障(国家と国民の利益・安全のための包括的措置と戦略)の混同が多く見られます。前者は安全保障の一部の側面しかないのに対し、後者は軍事面のみならず、サイバー・セキュリティ、情報収集、外交(多国間交渉と協力体制)、食糧・エネルギー・資源、災害・気候変動対策などグローバルに考えます。

ここからわかるように、保守派(右派)は防衛に、リベラル派(左派)は安全保障に力点を置くことが多いです。憲法改正における自衛隊明記は軍事面(防衛)からの措置であり、特に自民党草案に従えば自衛隊をなくし国防軍(すなわち軍隊)を創設することになっています。その後の4重点項目では自衛隊に戻されていますが、自民党が多数をとった今国防軍が復活することは何の不思議もないです。

自民党の 9 条改正案での自衛隊の明記は、日米安保条約の下では他国への侵攻・共同作戦が義務化されることになるでしょう。その意味は従米強化であり、米軍が必要と考えるなら、日本の軍隊はどこにでも出かけなければならないことになります。軍隊であれば、徴兵令も可能になります。

さらに、自民党や補完勢力が考えている緊急事態条項の設置は、政府の権限を強化するものです。簡単に言えば、災害や内乱などの緊急時(今は災害に限定している)に応じて、選挙を経ずに衆議院議員が任期延長ができる仕組みです。戦前のヒトラー政権は、放火事件をきっかけに憲法の大統領緊急令を発動し、左派弾圧を行うと同時に独裁政治を可能にしました。

ネット記事では、若者の自衛隊への好感や憲法明記への賛成は現実主義的で、従来の「左右」軸では捉えにくい、とありますが、それは直感や無知からくるものかもしれません。まさしく、保守的気質ならではという気がします。

もし、若者の多数がリベラルであるなら、憲法改正による自衛隊明記をもう少し分析的に捉えるでしょうし、グローバルな安全保障に投影して熟考することになるでしょう。防衛は本質的に反応的であり、差し迫った脅威に対応するのに対し、安全保障は予防的であり、脅威が現実化する前に阻止しようとします。若者は果たしてどちらでしょうか?

5. 若者はリベラルではなく保守化している

今回の「若者はリベラルにかかわらずが自民党に投票したのはなぜ?」というのは、前提そのものの誤りから生じたさらなる誤謬であると思います。「若者はリベラルだ」という前提で話が展開するので、「なぜ自民党を選択?」という余計な混乱と屁理屈が出てくるのです。

学説にあるリベラルの捉え方 [1, 2] に照らし合わせれば、「リベラルではないから自民党を選んだ」というのが、最も単純明快な答えだと言えます。立憲民主党や中道改革が嫌い、あるいはこれらは眼中にないというところはまだわかりますが、本当にイデオロギー的リベラルだったら、そこから自民党へは行かないはずです。

若者の多くは、基本的人権や民主主義についてはよく理解している思います(それを日本流にリベラルだと考えているフシもある)。ところが、頭で理解はしていても、経済的脅威や社会への不満・閉塞感から(特に男性は)社会的優位性への志向が高まっていて、さらには底辺に日本人特有の階層性(権威構造)への選好や不確実性回避(安定への依存)があるとも考えられます。

階層性嗜好や不確実性回避は保守気質の特性であり、直感的思考の産物と見なされています [11](→保守とは?リベラルとは?認知力の違いは?。保守的な国民性に加えて、ネット・SNS+スマホという情報獲得の習慣化と AI 依存への増加が、直感的思考、イメージ思考の固定化を余計に促しているのではないでしょうか。世界的に右傾化が共通しているという現象は、情報空間の変化が大きく影響していることを暗示させます。

気になるのが、思春期におけるソーシャルメディア利用の習慣化が、情報への脆弱性を促してしまうという報告です [12]。ネット情報を客観的、分析的に捉えることなく、直感的に受け入れる傾向がある(つまり鵜呑みにしやすい)ということです。直感的思考では分析的にはなりにくい、したがってリベラルになりにくいと言われています。

研究では、より多くの「いいね!」が付いた投稿を見た際、10 代の脳の報酬中枢の活動が増加することも示されています [12]。つまり、10 代は「いいね!」や閲覧数が多いソーシャルメディアのコンテンツに特に注目する強い傾向があります。生まれた時からネット+スマホがデフォルトの情報獲得手段になっている世代は、このような直感的に反応するリスクがあるのです。

そもそも SNS には右翼・保守的政治バイアスがあり [13]、事実より虚偽、目新しさが速く拡散するという特性があります(→SNS における政治的バイアスとデジタル・ポピュリズム)。この特性によって、SNS 世代は保守・右翼情報に優占的に晒されるということになります。つまり、現代の若者は非常にリベラル化し難い情報空間に置かれているのです。

この意味で、米国の右傾化する若者はニュースを消費しているのではなく、物語(narrative)を吸収しているだけという指摘 [14] は示唆的です。ニューヨーク・タイムズの記事を読む代わりに、好きなインフルエンサーやコンテンツクリエイター、YouTube 配信者の元へ向かわせる分散型のメディア生態系は、多くの若者を投票へと駆り立てる一因となっていると言います。

保守的気質の特性も考慮する必要があります。ヒトは他の動物と同様に、扁桃体が感知する原始的保守性を生まれつき持っています。自由に生きる上で、干渉するもの、未知なるもの、異質なものに対して警戒し、排除するというのはその基本です。そこから集団の持続的生存に必要な寛容性や包摂性に向かうというのがリベラルですが、それにはより学習と理解と分析が必要です。

しかし、脅威の捉え方や脅威に対する感受性が異なると、リベラル思考にはなり得ない場合が出てきます [1]。保守的な人は神経生物学的に恐怖や不安を感じやすく、脅威の捉え方が内向きになります(→イデオロギーと認知・生物学的特性との関係)。例えば「敵が攻めてきたらどうする」という思考がそうです。一方、リベラルな人は、気候変動、核戦争、生物多様性の喪失のように脅威をグローバルに捉えます。

学説では、保守的な人は負のバイアスを持つことが示されています。本質的に脅威、嫌悪、否定的な刺激に対する何らかの増強された脆弱性や感受性があり、それらを拒否することがわかっています [15]。保守性が高まるほどに前帯状皮質および背内側前頭前野の活動が増加し、脅威体験に拒絶感・忌避感を持つことが報告されています [16]。安倍元総理が繰り返していた「悪魔の民主党政権」は、その典型例でしょう。

そして、保守とリベラルのイデオロギー対立が顕著な現代においては、リベラル派が分析的議論を用いて相手を説得することは効果がなく、そのためには寛容が必要ことも示されています [17]つまり、リベラル政党が、分析的に理詰めで議論、主張することは、保守化・右傾化している人たちに対してはもとより、デジタル社会で直感思考に傾いている人たちに対しても、苦痛で耐え難いことなのです。

若者が保守化し、思考が直感的になっていれば、当然同様なことが起こります。ネット記事の多くは、リベラル政党の主張を「ただのうるさい、面倒臭いオジさんの主張にしか感じられない」と述べていますが、理詰めで分析的な主張を脅威に感じ、拒否する姿を言い換えているに過ぎません。本当にリベラルなら、拒否ではなく議論に向かうでしょう。

今回の中道改革連合の大敗は、保守的有権者のリベラルへの拒否反応と高市イメージへの親和性、それに時代の空気を読めなかった中道幹部の戦略の失敗が合わさった結果でしょう。

結論として、日本の若者の多くは西欧型民主主義をよく理解している、しかし自己利益を最優先、干渉されたくないという意識と共に、日本人特有のリスク回避、安心を満足させるための体制依存、分析的よりは直感思考、経済的脅威や社会への不満・閉塞感の解消においてはイメージとしての目新しさに期待という姿が浮かび上がってきます。

おわりに

今回、高市自民党が圧勝しました。これが今の日本の民意です。とはいえ、選挙制度もよく理解せずに票を投じた結果であることは、多くの人が「自民党勝ちすぎ」と世論調査で回答していることに表れています。

この中で私が驚いたのは、18–29 歳の若者の 47% (全体でも29%)が、自民党の圧倒的多数の議席獲得を「良いこと」と回答していることです。果たして民主主義を本当に理解しているのだろうかと、また心配になりました。

一方で、18–29 歳の比例投票行動をよく見ると、中道、共産、れいわ、社民などのリベラル政党に投じている割合が 10% ほどあります。若者の政治観が物語化している中で、少数派ながらリベラル感覚を持つ層もしっかりと残っているということでしょう。

最近の研究ですが、知識、健康、所得などの国の発展度合いが高いほど、政治的に保守、リベラルが 50:50 に分極し、低い国ほど独裁的な政府に近づくという報告が出たばかりです [18]。では、圧倒的な自民党の政府にしてしまった日本は、発展度合いが低いのでしょうか。少なくとも政治的にはそうなのかもしれません。

政府はその時の民度を反映するものです。二度の総理大臣を経験した西園寺公望は、晩年「色々やってみたが、結局、人民の程度以上にはならなかった」と述べました [19]。松下幸之助の言葉「民主主義国家においては、国民はその程度に応じた政府しかもちえない」も有名です。

政府は国民の平均レベル以上にはならない、というのは学術的にも指摘されています。投票行動の理由として利己心と信念の両方があり、大多数は「自己利益」のために特定政党に投票することは非倫理的だと考えていますが、右派層はそのように考える度合いが低いと指摘されています [20]。全体として投票結果はこれに引きづられます。

さらに、政治的意識の差異が有権者層の思考と選択に著しい不均質性をもたらし、より意識の高い有権者の意見は意識の低い有権者よりも強い制約を受けることも報告されています。時間経過とともにその平均に安定化していきます [21]。意識の高い状態からずうっと低い平均レベルで政治家が選ばれることになりますから、出来上がった政府は民度の平均レベル以上にはならないということです。

引用文献

[1] Clifton, J. D. W. and Kerry, N.: Belief in a dangerous world does not explain substantial variance in political attitudes, but other world beliefs do. Soc. Psychol. Person. Sci. 14, 515-525 (2022). https://doi.org/10.1177/19485506221119324 

[2] Waytz, A. et al. Ideological differences in the expanse of the moral circle. Nat. Commun. 10, 4389 (2019). https://doi.org/10.1038/s41467-019-12227-0

[3] 小宮山亮磨: リベラル自認の10~30代、「自民に投票」3割 中道は1割届かず. 2026.02.08. https://digital.asahi.com/articles/ASV264K1WV26ULLI004M.html

[4] 女子大生起業家 :「リベラルの若者」が自民党に投票する構造. Note 2026.02.09. https://note.com/seanky/n/n105e4166a784

[5] 佐々木悠翔:「リベラル自認」の若者がなぜ自民党に投票したのか? Note 2026.02.10. https://note.com/haru5260/n/n8c0e47dc9944

[6] 白川司: そりゃボロ負けするわ…中道改革連合が若者にソッポを向かれた納得の理由. Diamond Online 2026.02.11. https://diamond.jp/articles/-/383604

[7] 千田有紀: 「高市首相をいじめる攻撃的なおじさん集団」社会学者が見たリベラルな若者ほど"立民離れ"起こした根本原因. President Online 2026.02.12. https://president.jp/articles/-/108982?page=1

[8] 北原みのり: 高市首相「歴史的大勝」はイデオロギーよりアイデンティティー? 「殴られてきた女の歴史」を思う. AERA Digital 2026.02.13. https://dot.asahi.com/articles/-/276035?page=1

[9] Karstedt, S. (2013). Democracy and the project of liberal inclusion. In: Carrington, K., Ball, M., O’Brien, E., Tauri, J.M. (eds) Crime, Justice and Social Democracy. Critical Criminological Perspectives. Palgrave Macmillan, London. https://doi.org/10.1057/9781137008695_2

[10] Holtzer, J.: What is the difference between nationalism and patriotism? The Conversation June 28, 2023. https://theconversation.com/what-is-the-difference-between-nationalism-and-patriotism-208170

[11] Van Berkel, L. et al.: (2015). Hierarchy, dominance, and deliberation: Egalitarian values require mental effort. Person. Soc. Psychol. Bull. 41, 1207–1222 (2015). https://doi.org/10.1177/0146167215591961

[12] Abrams, Z.: Why young brains are especially vulnerable to social media. American Psychological Association. Last updated August. 3, 2023. https://www.apa.org/news/apa/2022/social-media-children-teens

[13] Chen, W. et al.: Neutral bots probe political bias on social media. Nat. Commun. 12, 5580 (2021). https://doi.org/10.1038/s41467-021-25738-6

[14] Hughes, S. A.: Young voters shifted right in the 2024 election; the Ash Center for Democratic Governance and Innovation examined why. Harvard Kennedy School. October 20, 2025. https://www.hks.harvard.edu/faculty-research/policy-topics/politics/young-voters-shifted-right-2024-election-ash-center

[15] Hibbing, J. R. et al.: Differences in negativity bias underlie variations in political ideology. Behav. Brain Sci. 37, 297–307 (2014). https://doi.org/10.1017/S0140525X1300119

[16] Nash, K. and Leota, J.: Political orientation as psychological defense or basic disposition? A social neuroscience examination. Cogn. Affect. Behav. Neurosci. 22, 586–599 (2021). https://doi.org/10.3758/s13415-021-00965-y

[17] Yilmaz, O. and Saribay, S. A.: An attempt to clarify the link between cognitive style and political ideology: A non-western replication and extension. Judg. Dec. Making. 11, 287-300 (2016). https://doi.org/10.1017/S1930-297500003119

[18] Young, D. J. et al.: A new measure of issue polarization using k-means clustering: US trends 1988–2024 and predictors of polarization across the world. R. Soc. Open Sci. 113, 251428 (2026). https://doi.org/10.1098/rsos.251428

[19] ビジョナリー編集部:「色々やってみたが、結局、人民の程度以上にはならなかった」人民の教育が大切と説いた西園寺公望. ビジョナリー 2025.10.02. https://www.diamondv.jp/article/4zrjs7QYAU6wusQzkqPBgx?

[20] Carlsson, F. and Johansson-Stenman, O.: Why do you vote and vote as you do? Kyklos First published: 15 October 2010. https://doi.org/10.1111/j.1467-6435.2010.00475.x

[21] Bartle, J.: Political awareness, opinion constraint and the stability of ideological positions. Political Studies 48, 467-484 (2000). https://doi.org/10.1111/1467-9248.00270

引用したブログ記事

2025.11.06.  保守とは?リベラルとは?認知力の違いは?

2025.05.27.  SNS における政治的バイアスとデジタル・ポピュリズム

2024.11.24.  イデオロギーと認知・生物学的特性との関係

2018.05.10. 学生の気質の変化と世論調査

         

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