はじめに
もうすっかり年中行事になってしまいましたが、夏の COVID-19 患者数が増えてきました。モデルナの感染症流行・疫学情報サイトを参照すると、全国レベルでの新規患者数は 4 万人、東京では 5 千人に達しています(図1)。例年だと、連休とお盆の休みでこれから患者数は減って行きますが(その傾向はすでに出ている)、その後がどうなるか、注目されます。

図1. 東京におけるCOVID患者数の推移.
メディア報道もほとんどなくなって、世の中はすっかり忘却の彼方にあるように思われるものの、COVID の脅威は衰えていません。たとえば、COVID 死者数ですが、昨年、3 万 6 千人、一昨年は 3 万 8 千人に達しており、減っていません。今年になってからの 1–3 月分だけでも 1 万 1 千人の死者数を記録しています。
感染後少なくとも 12 週間以上症状が持続する長期コロナ症(いわゆる後遺症)については、記録がないので全体像がわかりませんが、潜在的な患者数はかなりの多さになると思われます。世界的には、4 億人以上が持続的な影響(疲労感、呼吸困難、記憶障害までなど多岐にわたる症状)を抱えている可能性があり、日常生活に深刻な影響を及ぼす場合があります。
以前、カナダの研究において、感染を繰り返すと長期コロナ症のリスクが高まるという報告がありました。一方で、COVID ワクチン接種はこのリスクを低減するということも言われています。ワクチン接種 [1] でも自然感染 [2] でも、SARS-CoV-2 スパイクタンパク質特異的 IgG 抗体と T 細胞の増殖の増加が保護作用を持つことを示す経験的証拠を提供しています。
これらの免疫応答の証拠と再感染による長期コロナ症のリスク上昇の報告とは、一見矛盾します。なぜなら、自然感染でもワクチン接種でも特異的免疫応答が保護作用を持つなら、再感染で長期コロナ症になる確率はむしろ低くなるはずだからです。
少し前ですが、メドアーカイヴに、感染の繰り返しは長期コロナ症のリスクを高めるものではないというプレプリント [3] が投稿され、その解説記事 [4] も出ました。これまでの考えの修正が必要なようです(つまり、上述した矛盾は存在しない)。ここで紹介したいと思います。
1. 感染の繰り返しはリスクを高めるか
今回のプレプリントはカナダの研究者によるもので、ケベック州の医療従事者の再感染後の長期コロナ症の発症リスクを報告したものです。結論から言えば、最初の感染よりも再感染後の方が発症リスクが低いことを示していますが、その累積リスクは感染回数を重ねるごとに増加するため、全体的な負担は依然として高い水準にあるとしています。
研究チームは 2023 年 5 月 16 日から 6 月 15 日まで、パンデミック期間中に州の医療システムで活動していた医師、看護師、呼吸療法士などの医療従事者を対象に電子アンケートを実施しました。調査では、雇用状況、感染歴、症状の有無と持続期間、各感染エピソードの重症度、およびワクチン接種状況に関するデータが収集され、持続的な症状と認知機能の障害、およびこれらの症状が機能状態に与える影響が評価されました。
症例は、現在進行中、回復済み、不明の 3 つのカテゴリーに分類され、さらに、症状の重症度について軽度、中等度、重度の 3 段階で評価されました。対照群としては、COVID に感染したことがない参加者および 12 週間以内に回復した参加者も含まれました。
さらに、各感染における変異体情報は、ケベック州における感染のタイミングと主要な流行株に基づいて推察されました。長期コロナ症のリスクは、調査完了の少なくとも 12 週間前に発生した感染に基づいて計算され、初回感染と再感染の間で比較が行われました。
結果として、医療従事者において長期コロナ症が依然として広範かつ障害を引き起こす疾患であることが判明し、COVID 感染した人の約 17% が該当することがわかりました。しかし、最初の感染後の長期コロナ症発症リスクは、再感染に比べて約 3 倍高かったことも明らかになりました(図2)。
つまり、感染を繰り返すことで累積の発症率は増加しますが(3 回の感染を経験した人のうち37%が発症)、再感染ごとの発症リスクは初回感染に比べて低かったということです。言い換えれば、感染を繰り返していけば全体としてのリスク(罹患による累積リスクと長期コロナ症になる確率)は高まっていきますが、個々の感染を見れば、最近の変異体感染ほど発症確率は低くなるということです。
最も高いリスクは SARS-CoV-2 の祖先株(オリジナル株)と関連しており、オミクロンを含む後続の変異体ではリスクが低下しました。しかし、オミクロンが非常に広範に蔓延していたため、オミクロン感染長期コロナ症が全症例のほぼ 79% を占めていました。

図2. 累積および個々の感染における長期コロナ症の発症リスク(文献 [3] より転載).
長期コロナ症のリスクは、初期の病気の重症度も重要な要因となりました。急性期で重症になった人、特に入院した人や複数の重症症状を報告した人は、長期的な影響を受ける可能性が高いことがわかりました。一方、軽症または中等症の病気だった人(初感染か再感染かを問わず)では、リスクは 5% 未満でした。
調査時点において症状を継続して経験していた対象者の中で、自己申告による症状の重症度に基づき、43% が中等度の長期症状、33% が重度の長期症状と分類されました。これらの対象者はより多くの症状を報告しており、疲労、脳の霧のような認知機能障害、運動後の倦怠感、呼吸困難など多くの症状を経験していました。一部の症例は1年以上持続し、ごく一部は 3 年以上続いていました。
2. 研究の限界と展望
研究チームはこの調査の限界も述べています。まず、電子アンケートにおいて低い回答率であったことで、長期コロナ症有病率を過大評価した可能性があります。また、自己報告データへの依存が記憶バイアスを導入した可能性があり、研究対象が主に中年層、白人、女性で構成されていたため、一般化に影響を与えた可能性もあります。
ワクチン接種率は、結果に大きな影響を与えた可能性があります、このコホートにおいては、3 回以上の接種を受けた人が 78.6%であり、オミクロン感染後の長期コロナ症のリスク低下に寄与した可能性があります。
全体として、この研究は、長期コロナ症が依然として深刻な持続的健康問題であることを確認しました。特に、最初の感染後や重症例においてその影響は顕著です。再感染の個々のリスクは低いものの、SARS-CoV-2 の継続的な流行と蔓延により、その累積的な影響は依然として重大であると言えると結論づけられています。
最前線の医療従事者が引き続き感染リスクにさらされている中、長期コロナ症の機能的な影響を理解し対応することは不可欠です。研究結果は、今後の健康政策において、予防措置と影響を受けた人々への長期的な支援の両方を考慮する必要性を強調しています。
長期コロナ症への注目度が高まる中、誰が最もリスクが高く、繰り返しの感染でこのリスクがどのように変化するかという点については、まだ多くの疑問が残されています。主要な課題は、多くの症状が他の一般的な疾患と重なるため、COVID を原因として特定することが困難である点です。さらに、特異的な診断バイオマーカーが存在しないため、長期コロナ症は通常、症状の持続期間と患者の自己申告に基づいて診断されます。
しかし、世界中でウイルスの新規変異体が引き続き拡散する中、再感染を経験する人が増加しています。したがって、特に再感染後の長期コロナ症の真の負担を理解することは、これからのモニタリングも極めて重要です。
おわりに
これまで言われてきた「感染を繰り返すと長期コロナ症のリスクが高くなる」という意味を誤解していた人も多いのではないかと思います。私もいささか誤解していました。つまり、感染の繰り返しで免疫などに悪影響があり、それによって発症リスクが高くなるというわけではなく、感染すればするほど潜在的な健康問題と長期障害になる確率は高まっていくという当然の結果を言っているわけです。オミクロン以降、個々の感染で発症するリスクはむしろ低下しています。
ここで懸念されるのが、感染ごとの発症率の低下を強調する錯視効果で生まれる全体の長期コロナ症発症の増加です。オミクロンは軽症、致死率は低いという言説が、特に専門家や医者によって広められた結果、かえって死亡の絶対数や被害を大幅に増加させてしまったことは記憶に新しいところです(「オミクロンは重症化率が低い」に隠れた被害の実態、コロナ被害の認知的錯覚による誤解、第8波流行でまた最悪被害を更新か)。
いまだに流行を繰り返しているにもかかわらず(冒頭図1)、すっかり忘れられている感がある COVID であり、SNS 上では「コロナは風邪」という情弱発言も相変わらずです。知らぬが仏とはよく言ったもので、無知や情弱は人を無敵にしますが、経験してみて初めて自覚・後悔するのも世の常です。COVID 流行は持続しており、長期障害者の増加が懸念されます。
今回、研究者たちは長期コロナ症の 7 つの異なる症状群を観察し、重症例では全身性、神経認知性、呼吸器系の問題が最も一般的であることを報告しました。私が知る長期障害の人たちも全身性、神経認知性の症状が多いことと一致します。神経認知性という点では、自覚していない人も多いと考えられ、知らず知らずのうちに仕事や勉学に悪影響を与えている可能性もあります。
引用文献
[1] Grady, C.B. et al. Impact of COVID-19 vaccination on symptoms and immune phenotypes in vaccine-naïve individuals with Long COVID. Commun. Med. 5, 163 (2025). https://doi.org/10.1038/s43856-025-00829-3
[2] Fen, J. et al.: Early de novo T cell expansion following SARS-CoV-2 infection predicts favourable clinical and virological outcomes. eBioMedicine 117, 105795 (2025). https://www.thelancet.com/journals/ebiom/article/PIIS2352-3964(25)00239-7/fulltext
[3] Carazo, S. et al.: Long COVID risk and severity after COVID-19 infections and reinfections in Quebec healthcare workers. medRxiv. Posted May 09, 2025. https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2025.05.08.25327059v1
[4] Sidharthan, C.: Reinfections lower long COVID risk but raise cumulative burden. News Medical Life Sciences. May 14, 2025. https://www.news-medical.net/news/20250514/Reinfections-lower-long-COVID-risk-but-raise-cumulative-burden.aspx
引用したブログ記事
2022.12.17. 第8波流行でまた最悪被害を更新か
2022.09.04. コロナ被害の認知的錯覚による誤解
2022.01.30. 「オミクロンは重症化率が低い」に隠れた被害の実態
カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2025年)