カテゴリー:社会・政治・時事問題
はじめに
暗黒 4 重気質(ダーク・テトラッド)とは、マキャヴェリズム、ナルシシズム、サイコパシー、サディズムのネガティヴな気質を言います [1]。暗黒的な気質とはいえ、そのいずれか、あるいは複数の傾向が、多かれ少なかれ誰にでも見られるものです。一般的に、これらは嫌悪的な性格特性としてみなされますが、政治家にとっては、支持者との関係の中で必ずしもネガティヴなイメージにならないこともあります。
いい例がドナルド・トランプ米大統領です。普通に見て、暗黒 4 重気質の塊にように思える人物であり、ガーディアン紙によれば独我論者(solipsist)とさえ形容されています [2]。独我論とは、信じられるのは自分の精神だけであり、それ以外のあらゆるものの存在やそれに関する知識・認識は信用できないとする考え方です。それにもかかわらず、米国民の過半数は、再び彼を大統領として選びました。
一体、政治家の暗黒気質は有権者の行動にどのように影響を与えるのでしょうか? 非常に興味深い課題ですが、調べた研究は多くありません。
今回、ポーランドの社会心理学者モニカ・プルシック博士は、ジョー・バイデン前大統領とドナルド・トランプを暗黒気質面から比較した研究を発表しました [3](下図)。研究成果は、独立系科学記事ニュース(社会心理学、精神医学、神経科学など)サイトである PsyPost にも取り上げられ、解説されています [4]。

結論から言うと、政治家の暗黒パーソナリティのある面は、支持者によって好意的にも受け取られる場合があるということになります。プルシックの研究は、前のブログ記事(⇨暗黒気質と「問題あるソーシャルメディア利用」)で取り上げていますが、ここであらためて詳しく紹介したいと思います。
1. 研究の概要
既往研究では、主に有権者の気質が政党支持や投票行動とどのような関係があるかということに焦点が当てられてきました。一方、プルシックの研究 [3] は、政治家の暗黒 4 重気質の認知が有権者の行動にどのような影響を与えるかということを分析した点で、新しさがあります。彼女は、2020 年の米大統領選挙に焦点を当て、トランプとバイデンの暗黒気質に対する有権者の認知を比較し、支持意欲との関連性を調査しました。主に、以下の三つの研究課題(RQ)がありました。
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RQ1: 潜在的な有権者は、大統領候補のマキャベリズム、ナルシシズム、サイコパシー、サディズムといった特徴を知覚するか、そして、これらの知覚は候補者間で異なるのか?
RQ2: 好意的な候補者とそうでない候補者の間で、これらの特徴を認識することに非対称性はあるのか、たとえば、好意的な候補者ではそうでない候補者に比べて否定的な性格特性がより少なく認識されるようなことはあるのか?
RQ3:候補者のこうした暗黒気質の特徴を観察することは、その候補者に投票する意思とどのように関係しているのか?
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研究対象は、MTurk で募集した米国 456 人(20~70歳、民主党 42.2%、共和党 45.7%)です。参加者は、所属政党や学歴などの社会人口統計学的情報を提供し、用意された 28 項目の暗黒気質尺度(modified SD4 scale)を用いて、トランプとバイデンの暗黒 4 重気質の特徴を評価しました。
この尺度には、たとえば、マキャベリズムについて「この大統領候補は、自分の秘密を人に知られるのは賢明でないと考えている」、ナルシシズムについて「この大統領候補は、たまに目立ちたがる」といった質問が含まれています。参加者は、両候補の各項目について、「強くそう思わない」から「強くそう思う」までの 7 段階のリッカート尺度に基づく評価と、各候補者への投票意向が求められました。
結果として、両候補とも有意な暗黒気質レベルを示していると有権者に認識されました。トランプは、ナルシスト、サディスト、サイコパス、マキャヴェリストとして特徴づけられ、マキャヴェリズムを除いて暗黒気質がバイデンよりも強いと認識されました。一方、バイデンはマキャヴェリスト、ナルシスト、サイコパスとして主に見られていることがわかりました。
有権者による認知は政治的志向や投票意欲と相関し、両候補者の政治的見解、特性の強さ、対立する暗黒気質の度合いによって修正されるようです。民主党支持者は、バイデンよりもトランプに、特にナルシシズム、サイコパシー、サディズムといった特徴をより多く帰属させましが、共和党支持者はより同質に捉える傾向にありました。
興味深いのは、投票意欲に関連する暗黒気質属性が、両党支持者で分散・偏向して見られることです。たとえば、トランプのナルシシズムは共和党員の彼への投票意向を高めるのに有効でしたが、民主党員のトランプ氏への投票意向を低下させました。
暗黒気質のバランスは重要であり、気質の中でも「明るい」ナルシシズムとマキャベリズムはより「暗い」サイコパシーとサディズムよりも支持者に受け入れられる傾向にありました。そして、対立候補に見られる暗黒気質は、支持する候補に見られるそれよりも投票意欲に強い影響を与えました。
この研究では、政治家の暗黒気質を測定するのに修正 SD4 尺度が用いられましたが、結果は、これが心理測定学的に機能することが証明しています。この調査結果は、政治家の暗黒気質を調査することの重要性を強調していると言えるでしょう。
2. 解釈ー政治的意味
プルシックの研究 [3] は、政治家の暗黒気質の見方が有権者の政治思想によって大きく異なり、それが投票行動に影響を与えることを示しています。一般的に、リベラルな有権者ほど候補者の暗黒気質を強く意識して支持意欲に反映させるのに対し、保守的な有権者ほど暗黒気質を候補者間で同質的に見る(言い換えればそれを気にしない、あるいは評価する能力がない)ということが言えるでしょう。
重要なことは、有権者の暗黒気質の捉え方、評価の仕方で投票行動にも影響が現れるということです。ナルシシズムは政治家によく見られる傾向ですが、好みの候補者のナルシシズムは支持者に好印象を与え、対立候補者のそれは悪い印象を与えるという二極化効果をもたらすことが、今回の研究でわかりました。この傾向は特にリベラルな有権者で強いということになります。
研究は、暗黒 4 重気質のバランスも大きな影響を与えることを示しています。一般的に「より明るい」気質であるナルシシズムとマキャヴェリズムは、好みの候補者に起因する場合は有利であるのに対し、「より暗い」サイコパシーとサディズムは一貫して支持率を低下させました。上述したように、バイデンのナルシシズムは政治思想を超えて肯定的に捉えられました。とはいえ、トランプのナルシシズムは共和党の支持を高め、民主党の支持を低下させるという非対称性もあります。
これらの知見は、政治家候補の暗黒 4 重気質の認知が選挙の選択性形成に重要な役割を果たすけれども、その影響は複雑であり、党派性によって媒介されることも示唆しています。もとより、プルシックの研究結果を説明する単一の普遍的なメカニズムを特定することはできません。とはいえ、いくつかの点で解釈することは可能です。
前提としておかなければいけないことは、政治思想(政治的同一性)に関連する政治的好意主義が重要な役割を果たしていると言うことです。政治的同一性は最も強い特性のひとつであるため、政治家の暗黒気質に対する認識が、投票意図のスタートを完全に変えてしまうことはないでしょう。つまり、ある候補者の特徴を民主党員が肯定的に捉えたとしても、共和党員が同じように捉えるとは限らず、その逆もまた然りであるということです。
その上で、暗黒 4 重気質の度合いは重要な要因であることも間違いありません。結論として、政治家・候補者の軽い暗黒特性(ナルシシズムとマキャベリズム)は受け入れられやすく、あるいは有益でさえありますが、暗い特性(サイコパスとサディズム)は許容されないということになります。ナルシシズムは、党派を超えて支持意欲を高める効果がありますが、政治信条や倫理規範からずれてくると反発を買うということになりそうです。
おわりに
プルシックの研究 [3] で注目すべきは、この研究が、メディアの描写や政治的バイアスに影響される可能性のある客観的な尺度ではなく、候補者に対する有権者の主観的認識に依拠していることです。メディアが政治家をどう見ているかよりも、有権者が政治家の暗黒気質をどのように評価しているか(どのように映っているか)が、投票行動においてより重要であることを示唆しています。
今の時代の民主国家の政治は、従来の民主主義からポピュリズム型サイバー・デモクラシーに移行しつつあります(⇨ソーシャルメディアはポピュリストの犯罪パートナー)。ポピュリストに共通して見られるのが、ナルシシズムとマキャヴェリズムです。考えてみれば、日本においても石丸現象、玉木現象、斎藤現象を起こした要因の一つとしても、ナルシシズムとマキャヴェリズムがあったのではないかと思われます。
選挙に勝つには SNS をいかに活用できるかということがよく言われますが、SNS を利用するだけではダメで、候補者の特にポピュリズムとナルシシズムが有権者に強く影響を及ぼすということが言えそうです。今の国民民主党現象と玉木雄一郎代表は、その典型ではないでしょうか。逆に、これらの要素が薄い政党は埋没、衰退していくということになりそうです。
「対決より解決」というスローガンを掲げながら、ハード・スタンスを崩さない国民民主の姿勢は矛盾していますが、ポピュリズム戦略ならではということがありますし、ナルシシズムに覆われた主張が今のところ、ネット民(支持者)に好意的に受け入れられる面があります。しかし、有権者の政治心情や倫理観から大きくずれてくると、今度は大きな批判や反発を生むということになります。
引用文献・記事
[1] Buckels, E. E. et al.: Behavioral confirmation of everyday sadism. Psychol. Sci. 24, 2201–2209 (2013). https://www2.psych.ubc.ca/~dpaulhus/research/DARK_TRAITS/ARTICLES/PS.2013.Buckels-Jones-Paulhus.pdf
[2] MacArthur, J. R.: Trump isn’t a narcissist – he’s a solipsist. And it means a few simple things. The Guardian February 8, 2025. https://www.theguardian.com/commentisfree/2025/feb/08/donald-trump-media-coverage
[3] Prusik, M.: Dark tetrad traits in politicians and voter behavior: Joe Biden and Donald Trump in the 2020 presidential election. J. Res. Person. 115, 104568 (2025). https://doi.org/10.1016/j.jrp.2024.104568
[4] Kara-Yakoubian, M: Donald Trump viewed as higher in Dark Tetrad traits than Joe Biden, study finds. PsyPost February 5, 2025. https://www.psypost.org/donald-trump-viewed-as-higher-in-dark-tetrad-traits-than-joe-biden-study-finds/
引用したブログ記事
2025.01.29. 暗黒気質と「問題あるソーシャルメディア利用」
2025.01.03. ソーシャルメディアはポピュリストの犯罪パートナー
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