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免疫崩壊と認知機能低下のパンデミック

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2025年)

はじめにーCOVIDによる免疫崩壊

COVID-19 が長期的に(悪い意味での)免疫系の変化を起こすことは、最近の研究で明らかになってきました。先のブログ記事(⇨新型コロナ感染は免疫系に長期的悪影響をもたらす)で述べたように、「免疫崩壊のパンデミック」に突入した感があります。

昨日気がついたのですが、"We have now entered the pandemic of broken immune systems" という "X" への投稿を見つけました。1 ヶ月前に上記のブログ記事を書いたすぐ後のことで、誰もが同じように考えているという感を強くしました

現在、私たちは様々な感染症に罹りやすくなっているのは、いわゆる免疫負債というものではなく、全く逆で、COVID に感染し続けてきた結果によるものである、ということがより説得力を持ち始めています。この意味で、盛んに免疫負債論を展開する日本の専門家や医師の皆さんには、慎重な物言いをお願いしたいものです。免疫負債論は「罹って免疫を鍛える」という誤った認識を一般人に植え付けてしまう危険性があるからです。

免疫破壊のパンデミックと同時に懸念されることは、長期コロナ症(long COVID)による認知機能の低下です。もとより、免疫の変化も長期コロナ症の一つの影響と考えられますが、ブレイン・フォグ(脳霧)などの神経学的症状も深刻な問題です。社会・経済活動における人々のパフォーマンスに知らぬ間に大きく影響し、時に重大な事故につながる可能性があるからです。今はまさに、免疫崩壊と認知機能低下のパンデミックの時代と言えるのではないでしょうか。

1. 長期コロナ症と認知機能低下

昨年、ハンプシャー [1] は、長期コロナ症を経験した人は、IQ ポイントで約 6 点の違いに相当する測定可能な記憶・認知障害を持つことを New England Journal of Medicine に報告しました。2022 年に 14 万人以上を対象に行われたこの調査では、COVID感染後に 1 年以上にわたって認知・記憶能力に影響を及ぼす可能性があることが明らかにされ、未解決の症状が 12 週間以上続いている人は、記憶、推論、実行機能を含むタスクのパフォーマンスにおいて、より顕著な低下が見られています。

長期コロナ症研究の第一人者であるアル・アリィーら [2] は、同誌でこの論文を解説しています。長期コロナ症の典型的症状の一つであるブレイン・フォグが、客観的に測定可能な障害と相関する可能性があるということを示した点で、非常に重要な発見と言えるでしょう。

長期コロナ症による認知機能低下は、エッセンシャルワーカーや交通・輸送機関の従事者にとって特に懸念材料です。公共の安全低下につながり、時に重大な事故を起こす可能性があるからです。

最新研究では、長期コロナ症の被検者の多くが、中等度から重度の自律神経機能障害を持つことが示されています [3]。この研究では、COVID-19 が、長期コロナ症に移行しているかどうかにかかわらず、おそらく SARS-CoV-2 による神経学的変化に起因すると思われる交通事故リスクの増加と関連していると示唆されています。

2. 航空安全に関わる COVID の影響

私は、最近、航空輸送関係の事故が多いことが気になっていました。日本航空JAL)と海上保安庁の航空機同士が羽田空港滑走路で衝突した事故は記憶に新しいですが、つい先日も、米首都ワシントン近郊で旅客機と陸軍ヘリが空中衝突し、全員が死亡という痛ましい事故が起こりました。

そして、今日、米空港で地上走行中の日航機の右翼とデルタ航空機の尾翼が接触する事故が起こりました。それを "X" 上で以下のようにコメントしました。

これらの航空関連の事故が COVID-19 と関連があるという証拠はありませんが、そのような疑いを持たせるには十分な事故発生の多さと言えましょう。

COVID-19と航空安全に関わる混乱や重大インシデント発生との関係については、いくつかの論文で報告されています。チョイら [4] は、COVID-19 パンデミック期間中に航空安全報告システムに提出された報告件数が増加していることから、感染症流行と安全問題を評価する必要性を浮き彫りにしていると述べています。

航空運航への混乱は、予約の取り直しや乗務員のスケジュール変更という不便を超えるごくわずかな影響をもたらすだけで、ミクロなレベルでは日々発生しています。しかし、COVID-19 による世界の航空界における前例のない混乱は、緊急の安全問題を迅速に評価する必要性を社会に突きつけています。

チョイらは、因果関係機械学習を用いて、報告された航空機のインカージョン/エクスカージョンに対する COVID-19 の「異質的な影響」を検証しました。分析によると、パンデミック期間中、一等航海士はインカージョン/エクスカージョンの異常事象を経験しやく、人的要因の混乱、注意散漫、疲労に分類される事象がそれらを増加させました。この論文では、長期コロナ症による認知機能の低下とインシデントとの関係については言及していませんが、パンデミック期間中のインカージョン/エクスカージョン発生の増加の可能性に関連する属性を十分に理解する必要があると強調しています。

3. パンデミック後の交通事故

COVID パンデミック当初は、ロックダウンや移動制限などで物理的な接触が極端に減少し、交通事故の数にも影響があったと思われます。日本を含めた世界各国でのパンデミック直後の交通事故件数の減少を報告しています [5, 6, 7]

一方で、交通量が少なくなっても、交通事故死者数が大幅には減少しなかったというルーマニアにおける報告があります [8]。COVID 流行を抑制するために実施された対策が、交通事故の減少にプラスの効果をもたらした可能性があることを示しているものの、その他の危険因子にはもっと注意を向ける必要があると強調されています。

ワクチン接種と交通事故との関連の報告もあります。レデルメイアーら [9] は、AI 技術を用いた解析で、COVID ワクチン未接種者は、COVID ワクチン接種者より 58% リスクが高く、ワクチン未接種によるリスクの増加は、ワクチン接種接種後の有害事象のリスクよりも大きかったと報告しました。

他方で、エリックら [10] は、事故リスクの増加に対するワクチン接種の予防効果は認められなかったと報告しています。そして、長期コロナ症の状態にかかわらず、おそらくSARS-CoV-2 感染による神経学的変化に起因すると思われる交通事故リスクの増加と関連していることを示唆していると述べました。この点は、文献 [3] に述べられている見解と同じです。

清水ら [5] は、パンデミックが始まって交通事故が減ったと報告しましたが、緊急事態宣言や移動制限による一時的な現象かもしれません。なぜなら、国土交通省が報告した統計データを見ると、パンデミック以前に順調に減り続けてきた交通事故件数が、2020年以降下げ止まりになり、事業用自動車においてはむしろ事故が増えているように見えるからです(図1、2)。

図1. 自動車事故件数の推移. 文献 [11] より転載.

図2. 事業用自動車の業態別交通事故件数の推移. 文献 [11] より転載(R7のプロットは目標値).

上の図のデータは、交通事故件数の増加に及ぼすCOVID罹患や長期コロナ症の影響の可能性を示唆するものではないでしょうか。

おわりに

冒頭で、免疫崩壊と認知機能低下のパンデミックに移行していると述べました。この影響は、労働力不足や労働生産性の低下につながるのみならず、公共の安全や交通・輸送の安全をも脅かす危険性をはらんでいます。国は、至急、長期コロナ症に関わる認知機能の低下に関する調査を行うべきではないでしょうか。

引用文献

[1] Hampshire, A. et al.: Cognition and memory after Covid-19 in a large community sample. N. Engl. J. Med. 390, 806-818 (2024). https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2311330

[2] Al-Aly, Z.and Rosen, C. J.: Long Covid and impaired Cognition — More evidence and more work to do. N. Eng. J. Med. 390, 858-860 (2024). https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMe2400189

[3] Eastin, E. F. et al.: Chronic autonomic symptom burden in long-COVID: a follow-up cohort study. Clin. Auton. Res. Published: February 5, 2025. https://doi.org/10.1007/s10286-025-01111-1

[4] Choi, Y. and Gibson, J. R.: The effect of COVID-19 on self-reported safety incidents in aviation: An examination of the heterogeneous effects using causal machine learning. J. Safe. Res. 84, 393-403 (2023). https://doi.org/10.1016/j.jsr.2022.12.002

[5] Shimizu, K. et al.: Assessment of traffic accidents in Japan during the COVID-19 pandemic vs. previous years: A Preliminary report .  Healthcare 10, 860 (2022). https://doi.org/10.3390/healthcare10050860

[6] Barnes, S. R. et al.: COVID-19 lockdown and traffic accidents: Lessons from the pandemic. Contem. Eco. Policy. First published: December 20, 2021
https://doi.org/10.1111/coep.12562 

[7] Supramaniam, P. et al.: Lost years, mortality burden: the impact of COVID-19 pandemic on premature death due to road traffic accidents in a northern state in Malaysia. BMC Public Health 24, 1520 (2024). https://doi.org/10.1186/s12889-024-19027-2

[8] Ungureanu, S. et al.: The Impact of the COVID-19 Pandemic on Fatal Road-Traffic Accidents: A Five-Year Study on Medicolegal Autopsies in Timis County, Romania. Safty 10, 86; https://doi.org/10.3390/safety10040086

[9] Redelmeier, D. A. Et al.: COVID vaccine hesitancy and long-term traffic risks.
Am. J. Med. 137, 227–235 (2024). https://www.amjmed.com/article/S0002-9343(23)00660-5/fulltext

[10] Erik, B. and Homeric, D.: Driving under the cognitive influence of COVID-19: Exploring the impact of acute SARS-CoV-2 infection on road safety. Neurology 103 (7_Supplement_1), S46-S47 (2024). https://doi.org/10.1212/01.wnl.0001051276.37012.c2

[11] 国土交通省物流・自動車局: 事業用自動車の交通事故統計(令和4年版)[第1分冊]. 2024年3月. https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001745239.pdf

       

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