カテゴリー:社会・政治・時事問題
はじめに
今朝(1 月 29 日)のテレビ朝日「モーニングショー」で、兵庫県斎藤元彦知事に関わる百条委員会のメンバーに対する誹謗中傷の問題を取り上げていました。自死した元県議の竹内英明氏やゲスト出演していた丸尾まき議員などに対して、SNS を通じた誹謗中傷のみならず、電話、その他の嫌がらせが半端ないくらい起こってきました。
25 日に放送された TBS の報道特集でも「百条委の元委員死去の波紋」として 、SNS 上に拡散された竹内元県議への誹謗中傷とその真偽を検証していました [1]。立花孝志氏による「斎藤を貶めた主犯格」と決めつけた動画はあっという間に拡散し(249万回閲覧)、竹内氏の自死の大きな要因となりました。
もとより、立花氏の YouTube 動画は、閲覧ビジネスという性質柄、情報バイアスの危険性が高いにもかかわらず、それに全く無頓着のまま信じ込み、拡散させる視聴者・支持者のマインドはどういうものでしょうか。情報リテラシーや認知内省力があれば、立花氏の訂正・謝罪 [2] を待つまでもなく真偽について判断できることですが、そうではないということは、ネット活用ができるほど(言い方は悪いが)頭がよくないのかもしれません。
さらに、百条委員会メンバーに対する誹謗中傷が続いているということになると、これは認知内省力の欠落ということだけではなく、陰湿な気質が影響している可能性があります。いわゆる暗黒パーソナリティが関わっている可能性が高いです。
先のブログ記事(暗黒パーソナリティが導く反公衆衛生的態度)で取り上げたように、暗黒気質は、様々な反社会的言動を導きます。ここで、文献を拾いながら、ソーシャルメディア上での反社会的発言と暗黒気質との関係を考えたいと思います。
1. PSMU: 問題あるソーシャルメディア利用
ソーシャルメディアの中心は SNS です。SNS を利用するメリットはたくさんあります。(1) オンライン・コミュニティの形成が容易になる、(2) 共同作業や情報共有が向上する、(3) 新たな職務の創出につながる、(4)友人と常につながることができる、(5)コミュニケーションや情報伝達が容易になる、(6) 社会的境界が取り払われる、などです。
しかし、SNS 利用がもたらす負の影響も深刻になっており、社会問題化しています。SNS 中毒は、そのような負の結果の一例です。このような状況を表すものとして「問題のある SNS 利用(Problematic Social Networking Service Use, PSNSU)」という言葉が生まれています。
Andreassen & Pallesen [3] は、PSNSU を次のように定義しています。すなわち、「SNSに夢中であること」、「SNSを利用する強い動機があること」、「SNSに過剰な時間を費やすことにより、社会生活、個人生活、職業生活、心理的な健康やウェルビーイングが損なわれること」と定義しています。
より包括的なソーシャルメディアの利用に関する言葉もあります。「問題あるソーシャルメディア利用(Problematic Social Media Use, PSMU)」という言葉です。PSMU とは、日常生活の機能において否定的な結果をもたらす、ソーシャルメディア利用の規制の欠如と定義されています。
PSMU も PSNSU も、利用者自身に関する問題だけではなく、対外的な悪影響をもたらす利用の問題も含んでいます。典型的なものとして、SNS などを通じた特定の人物に対する誹謗中傷があります。上記の百条委員会のメンバーに対する誹謗中傷は、まさにこの例と言えましょう。
2. 暗黒気質とPSMUとの関係
PSMU は、利用者の気質と関係があるとされています。特にダーク・テトラッド(暗黒 4重人格特性)の特徴(すなわち、ナルシシズム、マキャベリズム、サイコパシー、サディズム)は、反社会的なオンライン行動と関連していると言われています。しかし、暗黒 4 重気質と PSMU の間にあるこれらの行動の媒介的役割はよくわかっていません。
Kircaburun ら [4] は、761 名のサンプルを用いて、ネットいじめ、ネットストーカー、ネット荒らしを介した PSMU と暗黒 4 重気質の特徴の直接的・間接的関連について調べました(下図)。

その結果、全標本および男性において、ネットいじめとネットストーキングが、マキャベリズムと PSMU の関係を完全に媒介することが示されました。また、ナルシシズムについては、全標本および女性において、ネットストーキングを介して間接的にPSMUと関連しており、サディズムと PSMU の関係は、全標本において、ネットいじめとネットストーキングによって完全に説明することができました。
これらの結果は、反社会的オンライン言動が、男女で異なる行動を媒介として、暗黒 4 重気質と PSMU の関係を説明する可能性を示唆しています。まとめると以下のようになります。
・ナルシシズムは、サイバーストーキングを通じて間接的に PSMU と関連
・サディズムは、ネットいじめ・ストーキングを通じて間接的に PSMU と関連
・マキャベリズムは、ネットいじめ・ストーキングを通じて間接的に PSMU と関連
・男性と女性で反社会的オンライン行動に有意差がある
ソーシャルメディア中毒(SNS中毒)については、暗黒気質のうち、特にサイコパスと関係があるという報告もあります。Chung ら [5] は、ソーシャルメディアに費やす時間が長く、中毒性の強い人は、サイコパス尺度の得点が高いことを明らかにしました。一方、衝動性は、利用者が持っているソーシャルメディア・アプリケーションの数と正の相関があったほかは、どの変数とも関連していませんでした。
3. 暗黒気質性は暗黒気質を認識できない?
暗黒気質の人は、SNS 上でなぜ誹謗中傷のような反社会性を示すのでしょうか。もちろん、そのような気質に負うところが大きいのですが、それはそもそも自分の言動を反社会的だと認識していない、何が反社会的なのか認識していない、あるいは衝動的にやってしまうという可能性もあります。そこから、合理的に物事を判断できていない可能性もあるでしょう。
Hussain ら [6] は、PSNSU を生じる理由として情動調節障害を挙げています。それに加えて、暗黒気質とも有意に関連していたと報告しています。すなわち、PSNSU に対する暗黒気質の効果は、情動調節障害によって媒介され、PSNSU の分散の 33.5% がマキャヴェリズム、サイコパス、ナルシシズムによって説明される、としています。
暗黒気質の人が同様な人を認識できない可能性を示唆するものとして、Pulsik [7] の研究があります。この研究では、米国の民主党支持者と共和党支持者を対象として、バイデンとトランプは「どちらが暗黒的であると考えるか」という問いがなされました。
その結果、民主党支持者は、バイデンよりもトランプに対して、特にナルシシズム、サイコパス、サディズムといった暗黒気質の特徴をより多く帰属させました。ところが、共和党支持者は、両者をより同質に捉えました。つまり、共和党支持者は、暗黒性についてバイデンとトランプとを区別できないというわけです。
共和党支持者によるトランプの特性評価は、世界や科学界の常識とは大きなズレがあり、どうやら暗黒気質を識別する能力のなさ(あるいをそれを気にしない特性)が、暗黒性リーダーを選んでしまうことのようです。
ナルシシズムは特に重要であり、より軽いナルシシズムとマキャヴェリズムは、より暗いサイコパスとサディズムよりも受け入れられやすいと Pulsik は述べています。トランプのナルシシズムは、暗黒気質を嫌う民主党支持者の否定感を生みますが、共和党支持者に対してはトランプへの投票意向を高めるということになります。
米国を代表する医療政策機関である KFF が実施した最新の「健康情報と信頼に関する世論調査」によると、政府の保健機関に対する国民の信頼は過去 1 年半の間に低下し、COVID-19 のパンデミック時に始まった低下が続いています。そして、民主党支持者か共和党支持者かで大きく異なる傾向が出ています(下図)[8]。

かかりつけの医師に対する信頼性はパンデミック後下がっていますが、図に示すように、依然として党派でそれほど差はないほどに高い数字を維持しています。一方、公的機関である NIH、CDC、FDAなどに対する信頼度は、民主党支持者で同様に高いものの、共和党支持者では大きく低下しています。逆に民主党支持者では全くと言っていいほど信頼性がないロバート F. ケネディ Jr.、Dr. Oz、トランプに対して、共和党支持者は高い信頼を寄せています。
ちなみに、Dr. Ozは、トランプ大統領にメディケア・メディケイド・サービスセンターの長官に指名された人物です。
もちろん、共和党支持者全てが暗黒気質であるということではありませんが、上記の結果は、暗黒気質を認識できない特性が、科学をベースにした合理的判断を妨げていると言ってもよいかもしれません。
おわりに
これまでの関連研究によって、ソーシャルメディア上における誹謗中傷、差別、偏見というものが、どうやら暗黒4重気質に関連するものだということがわかってきました。しかも、暗黒気質の人は暗黒性を認識できない可能性、科学をベースにして合理的判断ができない可能性があります。
暗黒パーソナリティの政治リーダーが選ばれる要素として、特にナルシシズムが重要であるということも言えそうです。トランプ大統領や斉藤兵庫県知事が有権者に選ばれた理由、石丸伸二氏が都知事選で票を伸ばした理由がわかるような気がします。
SNS 上の誹謗中傷が暗黒気質を備えた人々によるものであり、かつ当人たちには、あまり自覚がないとすれば、それを止めさせる効果的な手段はあるのでしょうか。法的に訴えられて賠償金を払うハメになったり、あるいは刑事事件として捕まるなどの当人にとって実害が生じるなどの機会がない限り、それはなかなか収まらないかもしれません。
もとより、SNS をプラットフォーム側が自主規制することも、法的に規制することもきわめて困難です。難しい時代になりました。
引用文献・記事
[1] TBS NEWS DIG: 追い詰められていた元兵庫県議の竹内英明さん 「でっち上げ」と発言した立花孝志氏は【報道特集】. 2025.01.25. https://news.yahoo.co.jp/articles/f4d7da15473d684cf78cc748b0d6f0ab66ee2cbe?page=1
[2] 産經新聞:「間違いでございました」元兵庫県議を巡る発信 立花氏が訂正、謝罪. Yahoo Japan ニュース. 2025.01.20. https://news.yahoo.co.jp/articles/b6674eff9a90ce5f6b7f002ef174970c1196bd08
[3] Andreassen, C. S. and Pallesen, S.: Social network site addiction—an overview. Curr. Pharm. Des. 20, 4053–4061 (2014). https://www.eurekaselect.com/article/55630
[4] Kircaburun, K. et al.: The Dark Tetrad traits and problematic social media use: The mediating role of cyberbullying and cyberstalking. Person. Indi. Dif. 135, 264–269 (2018). https://doi.org/10.1016/j.paid.2018.07.034
[5] Chung, K. L. et al: The role of the dark tetrad and impulsivity in social media addiction: Findings from Malaysia. Person. Indi. Dif. 143, 62–67 (2019). https://doi.org/10.1016/j.paid.2019.02.016
[6] Hussain, Z., Wegmann, E. & Griffiths, M.D. The association between problematic social networking site use, dark triad traits, and emotion dysregulation. BMC Psychol. 9, 160 (2021). https://doi.org/10.1186/s40359-021-00668-6
[7] Pulsik, M: Dark tetrad traits in politicians and voter behavior: Joe Biden and Donald Trump in the 2020 presidential election. J. Res. Person. 115, 104568 (2025). https://doi.org/10.1016/j.jrp.2024.104568
[8] Kearney, A. et al: KFF Tracking Poll on Health Information and Trust. KFF. Published: January 28, 2025. https://www.kff.org/health-information-and-trust/poll-finding/kff-tracking-poll-on-health-information-and-trust-january-2025/
引用したブログ記事
2025.01.15. 暗黒パーソナリティが導く反公衆衛生的態度
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