カテゴリー:社会・政治・時事問題 、感染症とCOVID-19 (2025)
はじめに
人の性格と個性は、5 つの因子によって決まるとされています。 5 つの因子とは、開放性(openness)、誠実性(conscientiousness)、外向性(extraversion)、協調性(agreeableness)、および神経症的傾向(neuroticism)を指し、ビッグファイブ(Big Five)と呼ばれています。自分の性格の長所、短所に照らし合わせてみると、何となくわかるような気がします。
ここで協調性は、親切、協力的であるとか、思いやりがあるとか「人に認識される」個人の行動パターンに現れる性格特性のことです。日本では、しばしば同調性や従順性と勘違いされやすいです。
これに対して、暗い、陰湿な性格を示すダークトライアッド(Dark Triad)という言葉があります。この言葉で形容されるような性格特性が、今の時代では SNS 上で反社会的な言動として可視化されやすくなりました。そして、政治運動や公衆衛生の上でも大きな影響を及ぼすようになっています。
ここでは、特に感染対策が求められる際に「マスクを着用したがらない」などの反公衆衛生的態度が、ダークトライアッドと関連があるという言説を論文を拾いながら紹介します。さらに、ダークトライアッドは右翼的イデオロギーとも結びつきやすいという傾向があることから、公衆衛生に対する態度とイデオロギーとの関係も考えます。
1. ダーク・トライアッド、ダークテトラッドとは
ダークトライアッドは、カナダの研究者が提唱した性格概念で、反社会的な性格を形成する 3 つの要素が含まれます [1](下図)。具体的には、ナルシシズム(過大な自己愛)、サイコパシー(自己中心性、反省・共感の欠如など)、マキャベリズム(手段を選ばない成功探究・利己的行動・他者操作、極端な虚栄心など)を言います。さらに、これにサディズムを加えたダークテトラッド(Dark Tetrad)という概念も提唱されています [2]。

サディズムは、ナルシシズム、サイコパシー、マキャベリズムと相互に関係し、共感の欠如による他者や動物などへの過度な加虐性、根拠のない攻撃性などの性向を持ちます。上記のダークトライアッドと無関係に、これらの性格を持つ人の反社会性行動を予測すると考えられています。
これらの性格(不顕性人格特性)は、自己報告式のサイコパス測定で把握することができます [3]。このテストによれば、良いことも悪いことも著しく偽ることができるとされています。すなわち、これらの「暗い気質」を持つ人は、状況に応じて簡単にウソをつくことができるということです。
ダークトライアッドについては、最近日本語のウェブ記事が出ていますので、それを参照することができます [4]。ここでは便宜上、特記しない限り、サディズムを含めてダークトライアッドという言葉で話を進めたいと思います、
2. ダークトライアッドとイデオロギー
以前にも紹介しましたが、カナダのブロック大学社会学部の心理学者ゴードン・ホドソン(Gordon Hodson)教授らは、頭が悪いと差別的、右翼的になるという論文を発表しています(⇨頭が悪いと差別的、右翼的になる?-SNS による偏見の助長)。彼らは、ダークトライアッドとイデオロギーとの関係についても論文を出しています [3]。
論文によれば、「暗い性格」と脅威認知や反移民的偏見とは正の相関を持つことが示されています。そして、潜在的な暗黒パーソナリティ因子は、社会的支配志向(権力支配を志向)の性格特性を予測し、経験が少ないなどの低い開放性は右翼権威主義を予測しました。さらに、これらのイデオロギー変数は、それぞれ直接的に、また集団間の脅威の高まりを通じて間接的に偏見が強まることを予測しました。
ホドソンらは、偏見のパーソナリティ・モデルには、イデオロギー的・社会心理学的媒介因子に加えて、正常範囲のパーソナリティ予測因子と潜在的パーソナリティ予測因子の両方を組み込むことを推奨しています。
デゥスパラ(Boris Duspara)らは、左翼または右翼の政治政策を代表する大統領選挙の過程における、人間のパーソナリティのダークサイドと政治志向および過激主義との関係を調べました [5]。その結果、日常的サディズムを含むダークトライアッドの気質は右翼的政治志向と関連し、ナルシシズムとサイコパスは政治的過激主義と関連していることがわかりました。ただし、パーソナリティと右派政治志向および過激主義との関係は、それぞれ互いに比較的独立していました。
暗黒パーソナリティと国家が支援する過激主義(SSE)との関係についても検証されています [6]。この研究によれば、ダークテトラッドと右翼権威主義の度合いが高い人ほど、SSEに対してより共感を示すということが明らかにされています。
社会的・経済的両面からの政治イデオロギーとダーク・テトラッドの特徴との関連も検討されています [7]。この研究では、高い経済的保守主義と高い社会的自由主義の組み合わせは、最高レベルのマキャベリズムと関連していました。また、高い社会的保守主義と高い経済的自由主義の組み合わせは、最高レベルのナルシシズムと関連していました。これらの効果は、ビッグファイブ性格因子を考慮した後でも、また政治的イデオロギーの各次元について複数の項目からなる政治的イデオロギーの尺度を用いた場合でも有意でした。
上記のように、暗黒パーソナリティーと右翼イデオロギーとの関連性を示す研究論文は枚挙にいとまがありません。ダークトライアッド的気質が、体制寄りで、権力志向、権力による社会支配、差別・偏見を好むというのも理解できます。
注意しなければならないのは、これらの研究は、保守派や右翼思想の人がすべて暗黒的気質を持つということを言っているわけではありません。あくまでも暗黒的気質の人が、自ずから右翼的、差別的になるということなのです。
社会、経済の両側面からのイデオロギーとダークトライアッドとの関係は、非常に興味深いものです。なぜなら、社会的保守主義と経済的自由主義の組み合わせは、今日、大富豪の経営者、ポピュリスト政治家、インフルエンサーによく見られる傾向があるからであり、テレビや SNS を通じて度々お目にかかる機会があるからです。彼らがナルシシズム気質であると考えれば、なるほどと納得いく部分があります。
3. ダークトライアッド、イデオロギーと公衆衛生の考え方
COVID-19 パンデミック時において、先進諸国では、特にワクチン接種が始まる前に蔓延防止のための非薬理学的介入(NPI)が実施されました。たとえば、米国疾病予防管理センター(CDC)は、フィット感の良いマスクやレスピレーターの使用を推奨し、また多くの国ではマスク着用は法的に義務化されました。
しかし、一般に西側諸国の国民はこのような NPI に大きな抵抗を示し、その結果、パンデミック初期には多数の犠牲者を生みました。この抵抗には、文化習慣や人権などに関する複雑な要因がありますが、COVID-19 に対するマスクやワクチン接種の有効性を考えると、感染対策に関連するさまざまな規範的要因、個人的価値観、イデオロギーを理解することはきわめて重要です。
マグナス(Kathleen D. Magnus)は、マスク着用やワクチン接種に対する大衆の抵抗性には、右派ポピュリストの支持と強い相関関係があり、結果として、このような支持者は罹患しやすく、死亡する可能性が高かったとしました [8]。自らの健康上の利益を公然と損なうこうした運動をなぜ支持するかという疑問に対しては、社会心理学の観点から、右派ポピュリズムの急進的な反健康アジェンダの影響があると述べています。
ホルツ(Adrienne Holz)は、COVID パンデミック時における大学生を対象としたオンライン横断調査を行い、政治イデオロギーとマスク着用との関係について検討しました [9]。その結果、イデオロギーの一貫性、認知を高めるためのニュースの共有、検証されていないニュースの共有がマスキング行動と有意に関係することが予測されました。すなわち、よりリベラルなイデオロギーを持つ参加者は、マスク着用方針を遵守しやすく、より保守的なイデオロギーを持つ参加者は、より少ないマスク着用行動を示すことが明らかになりました。
この研究は、マスク着用行動の予測因子として、特に政治的イデオロギーが公衆衛生上重要であることを示すものです。この関係をよりよく理解することは、疾病の蔓延を抑制するためのより効果的なコミュニケーション戦略の立案や、将来のアウトブレイクに対する戦略にとって不可欠であると同時に、時の政権がどのようなイデオロギーを持つかによって公衆衛生の方針が変わる危険性も示唆しています。
ユニセフは、「マスクをしない人」についての特徴をまとめており、やはり保守的・右翼的気質のある人が該当するとしています [10]。これを含めて、私は以下のように X 上でコメントしました。
例えばユニセフの報告(事例は少ないが)。https://t.co/aohbOrO2t3
— Akira HIRAISHI (@orientis312) 2025年1月15日
一般的傾向:
男性は女性よりもマスクを着用しない
教育の程度が低いほどマスクをしない
右翼的・保守的有権者はよりマスクをしない
パーソナリティと公衆衛生的態度との関係についても、いくつかの研究があります。たとえば、ハン(Han)[11] は、外向性を除くすべてのビッグファイブの特性値が高いほど(つまり反ダークトライアッドであるほど)、パンデミック時に社会的距離を置いた行動をとり、一般的な予防策を遵守する傾向が高いことを予測することを明らかにしました。
同様に、クルピック(Krupić)ら [12] は、同意性と良心性のレベルが高いほど、社会的距離の取り方やマスクの着用といった予防策の遵守率が高いことを予測していますし、アイラクシネン(Airaksinen)ら [13] は、開放性/知性/文化、良心性、神経症性/情緒安定性のレベルが高い人ほど、高齢者におけるマスク着用や社会的距離の取り方に一貫性があることを明らかにしました。さらに、シェ(Xie)ら [14] は、同意性などの因子が、マスク着用や社会的距離感に影響を与えることを見出しました。
ウイリアムソン(Jessica Williamson)は、マスク着用や社会的距離を取る態度が、ホーディング(不要不急の情報、物を溜め込む)の性格やサディズムという観点から、どのような関係にあるかを調べました [15](下図)。

その結果、マスクを常時着用している人は、そうでない人に比べ、他者への思いやりが有意に高く、サディズムが有意に低いことがわかりました。いつも社会的距離を置いている人は、そうでない人に比べて、開放性、他者への思いやり、良心性において有意に高いものでした。ホーディング気質のある人は、そうでない人に比べて、同意性が有意に低いものでした。
つまり、協調性や他人への思いやりのような向社会的特性は、予防行動をより遵守することにつながる一方、協調性のなさやサディズムなどの暗黒パーソナリティは、遵守率が低く、反公衆衛生的なることが示唆されたわけです。まあ、暗黒パーソナリティは自分勝手、反社会的な気質ですから、当然と言えば当然ですが。
おわりに
上記のように、既出論文を参考にすると、マスクをしたがらないという感情を含む反公衆衛生的態度は、ダークトライアッドと称される暗黒パーソナリティと関係がありそうです。さらに、右翼的イデオロギーとも結びついている可能性も高いです。
ソーシャルメディアは情報の自由化を促しましたが、逆に社会的暗黒パーソナリティから発せられる虚偽、誹謗中傷、差別、偏見といったあらゆる反社会的言動を可視化させるようになりました。それが大きな力となって、社会、政治や公衆衛生にも深刻な負の影響を及ぼすようになっています。その意味で、SNS の功罪で言えば、はるかに罪の方が大きいと個人的に思っています。
ところで、米バイデン大統領は退任演説の中で、「アメリカでは現在、極端な富、権力、影響力を持つ寡頭制が形成されつつあり、私たちの民主主義、基本的な権利と自由を脅かしている」と述べました [16]。米国民に対して無制限に権力を行使できるとして、政治と超富裕テクノリバタリアンとの複合体を批判しました。
私はここに、ナルシシズムなどの暗黒パーソナリティが密かに浸透しつつあることを危惧します。人類の集団的、持続的生存に欠かせない科学、環境、公衆衛生、いわゆる DEI(diversity, equality, inclusion)などに関するリベラル思考が、隅に追いやられてしまう危険性を感じます。
引用文献・記事
[1] Paulhus, D. L. and Williams, K. M.: The Dark Triad of personality: Narcissism, Machiavellianism, and psychopathy" J. Res. Personal. 36, 556-563 (2002). https://doi.org/10.1016/S0092-6566(02)00505-6
[2] Buckels, E. E. et al.: Behavioral confirmation of everyday sadism. Psychol. Sci. 24, 2201–2209 (2013). https://www2.psych.ubc.ca/~dpaulhus/research/DARK_TRAITS/ARTICLES/PS.2013.Buckels-Jones-Paulhus.pdf
[3] Hodson, G. et al.: The role of “dark personalities” (narcissism, Machiavellianism, psychopathy), Big Five personality factors, and ideology in explaining prejudice. J. Res. Personal. 43, 686-690 (2009). https://doi.org/10.1016/j.jrp.2009.02.005
[4] 石田雅彦「ネットで誹謗中傷」を繰り返す邪悪な三角形「ダークトライアド」な人たちを考える. Yahoo Japanニュース. 2024.12.22. https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/1c44f195de2384ecb131aa4978bccb804b0fcdee
[5] Dsupara, B. and Greitemeyer, T.: The impact of dark tetrad traits on political orientation and extremism: an analysis in the course of a presidential election. Hliyon 3, e00425 (2017). https://doi.org/10.1016/j.heliyon.2017.e00425
[6] Tetreault, C. and Sarma, K. M.: Dark personalities and their sympathies towards state-sponsored extremism. Behav. Sci. Terr. Polit. Aggres. 16(1), 1–20 (2021). https://doi.org/10.1080/19434472.2021.2004197
[7] Bardeen, J. R. and Michela, J. S.: Associations among dimensions of political ideology and dark tetrad personality features. J. Soc. Polit. Psychol. 7, 290–309 (2019). https://doi.org/10.5964/jspp.v7i1.1071
[8] Magnus, K. D.: Right-Wing Populism, Social Identity Theory, and Resistance to Public Health Measures During the COVID-19 Pandemic. Int. J. Public Health 67, 1604812 (2022). https://doi.org/10.3389/ijph.2022.1604812
[9] Adrienne Holz: Ideological Consistency and News Sharing as Predictors of Masking Among College Students. Int. J. Environ. Res. Public Health 21, 1652 (2024). https://doi.org/10.3390/ijerph21121652
[10] United Nations Children’s Fund (UNICEF): Predictors of mask wearing to prevent the community spread of SArS- CoV-2. April 2023. https://www.unicef.org/innocenti/media/3961/file/UNICEF-Predictors-Mask-Wearing-Adherence-2023.pdf
[11] Han, H.: Exploring the association between compliance with measures to prevent the spread of COVID-19 and big five traits with Bayesian generalized linear model. Personal. Individ. Differ. 176, 110787 (2021). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7901385/
[12] Krupić, D. et al.: Big five traits, approach-avoidance motivation, concerns and adherence with COVID-19 prevention guidelines during the peak of pandemic in Croatia. Personal. Individ. Differ. 179, 110913 (2021). https://doi.org/10.1016/j.paid.2021.110913
[13] Airaksinen, J. et al.: Big five personality traits and COVID-19 precautionary behaviors among older adults in Europe. Aging Health Res. 1, 100038 (2021). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8450054/
[14] Xie, W.: Working memory capacity predicts individual differences in social-distancing compliance during the COVID-19 pandemic in the United States. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 117, 17667–17674 (2020). https://doi.org/10.1073/pnas.2008868117
[15] Williamson, J: Personality factors and pandemic-related behaviors. Front. Psychol. 15, 1389672 (2024). https://doi.org/10.3389/fpsyg.2024.1389672
[16] CNN: バイデン大統領、退任演説 国民が米国の理念の「守り手」に. 2025.01.16. https://www.cnn.co.jp/usa/35228327.html
引用したブログ記事
2024.08.06. 頭が悪いと差別的、右翼的になる?-SNS による偏見の助長
カテゴリー:社会・政治・時事問題 、感染症とCOVID-19 (2025)