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ワクチン導入が COVID 流行の波を小さくした?

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2025)

はじめに

昨日(1 月 14 日)、日本における COVID-19 の累計感染者数が 7 千万人、累計死者数が 13 万人とする共同通信の記事が出ました [1]讀賣新聞も累計死者数を伝えています [2]。今さらながら、COVID パンデミックの被害と犠牲の大きさに驚愕します。

共同通信の記事を読むと、古瀬祐気氏(東京大学 新世代感染症センター 感染症基礎研究グループ 教授)のコメントが出てきます(以下引用)。

古瀬祐気・東京大教授(感染症学)は「人口の大半が感染するであろうことは分かっていた。ただ、有効なワクチンが短期間で開発され、他の対策と併せ流行の波を小さくできた」と評価。一方で「コロナの流行は今後も社会に負荷をかけるだろう。基本的な感染対策といった負荷を減らす努力や仕組み作りを続けてほしい」と呼びかける。

私は、あたかも「ワクチンの導入が流行の波を小さくできた」と解釈できるようなこのコメントに違和感を持ちました。一応、「他の対策と併せ」とありますが、「有効なワクチン」という枕詞があることにより、読者にはワクチンが流行を小さくしたと感じるのではないか、と思った次第です。 

共同通信の記事にもあるように、日本では 2022 年に COVID-19 の死者数が急増していますが(図1)、その前年に 日本を含めた”High income“の国々では mRNA ワクチン接種率 50% を達成しています。それにもかかわらず、日本では 2022 年のオミクロン波(第 6 波以降)で感染者と死者数の急増を招いたのです。特に 2024 年の死者数は、 8月までに 2 万 6 千人に達しており、ワクチン接種後でありながら、最大の年間死者数になろうとしています。

図1. 日本における COVID-19 死者数の推移.  厚労省人口動態統計月報(令和6年8月分まで)に基づいて筆者作図.

この被害拡大には、「オミクロンは軽症」という専門家やマスコミが流した言説が大きく影響したことは間違いないでしょう(⇨「オミクロンは重症化率が低い」に隠れた被害の実態)。同じ東大新世代感染症センターの研究グループですが、依然としてリスクはあると断りながらもオミクロンの病原性が弱まっていることは人類社会にとって朗報と考えられるかもしれない」と、影響力のあるネイチャー誌に報告したのは、少し軽はずみだった印象は否めません [3]

1. COVID 流行の推移

では、あらためて COVID 流行の推移を見てみましょう。残念ながら、日本では COVID は 5 類に移行され、基本的に定点のみの分析に変わりましたので、廃水サーベイランスが不備な状況では、正確に流行を追うことができなくなりました。

と言うのも、そもそも定点把握に指定されている医療機関は小児科が半数を超えているため、患者年齢層の受診バイアスがあります。これに加え、発熱がない、あるいは軽症の人は受診控えをする可能性があること、検査に使われる迅速抗原検査では PCR 比較で 6 割程度の感度しかないこと [4] などから、COVID 患者数については、相当の過小評価になることが推測されます。

さらに、この感染症については、定点把握の流行基準がいまだにないことも問題点として挙げられます。流行の基準設定がないのに、定点把握を導入しているわけです。そういうわけで、公式統計ではないモデルナの「リアルタイム流行・疫学情報」を参考にせざるを得ない状況になっています。

COVID-19 感染者数の統計を取らなくなったのは世界的傾向ですが、廃水サーベイランスは主要国で行われています。ここで、米 CDC が公表している COVID 死者数、PCR 検査陽性率、および廃水サーベイランスによるウイルス濃度の推移を図2 に示します。

図2 上にみられるように、米国では、ワクチン導入後(2022 年以降)死者数(青色)が激減しており、ワクチン接種が重症化や脂肪の抑制に大きく貢献したことがわかります。これは欧州諸国でも同じことです。一方で、流行を反映すると考えられている検査陽性率(オレンジ色)は、基本的にほとんど変わらず、上下を繰り返しています。つまり、ワクチン接種が進んでも、流行自体にはそれほど影響していないと考えられるのです。廃水サーベイランスによるウイルス濃度の推移(図2 下)は、検査陽性率とほぼ対応しており、やはり従来どおりの流行の繰り返しを示しています。

図2. 米国における COVID-19 死者数(上、青色ヒストグラム)、PCR 検査用陽性率(上、オレンジ色の線)と下水サーベイランスによるウイルス濃度(下)の推移. 米 CDC Data Tracker より転載.

それでは、日本の流行状況はどうでしょうか。廃水サーベイランスは局所的にしか行われていないので、全国的な傾向を把握するのが難しいですが、それでもいくつか参考にすることができます。

図3 および図4 に、それぞれ札幌市と山梨県の廃水サーベイランスのデータを示します。2022 年 1 月のオミクロン流行から(第 6 波)から現在(第 12 波)までをカバーしていますが、図1 の死者数と照らし合わせると、流行が小さくなっているような印象は受けません。むしろ、札幌市では流行を繰り返す度にウイルス濃度が高くなっています。つまり、特に日本の場合は、ワクチンを導入したから、流行波が小さくなったとは言えないのです。

図3. 札幌市における下水中 SARS-CoV-2 濃度(PCR検出によるコピー数)の推移. 札幌市下水サーベイランスより転載.

図4. 山梨県における下水中 SARS-CoV-2 濃度(PCR検出によるコピー数)の推移. 山梨県下水サーベイランスより転載.

2. 専門家の主張のあやふやさ

上述した東大新世代感染症センターの専門家によるオミクロンに関する論文 [3] やインタビューコメント [1] は、素人向けには、ややもすると誤解されかねない、あるいは軽はずみな印象を受けます。「ワクチン導入で流行が小さくなった」とはとても言えそうにもありません。

COVID ワクチンについては、図2 にも現れているように、死亡減少に貢献したことは間違いないですが、いろいろな意味での有効性が過大評価される嫌いがあります。「ワクチンが 2 千万人の命を救った」という論文 [5] は、その一例だと思います(⇨「COVID-19 ワクチンが2千万人の命を救った」は妥当か?)。そこから「流行波も小さくした」と述べるのは、単なる勢いに任せた、想像に任せた発言と言えるのではないでしょうか。

COVID-19 に関するこれまでの専門家による曖昧な発言、誤謬については、枚挙にいとまがありません。PCR 検査の精度SARS-CoV-2 の感染様式に関する誤謬は、その典型例です。その風潮があるせいか、最近テレビなどで発言する医師の感染対策も首を傾げるようなものが多いです。「コロナ禍での感染対策が免疫低下を招いた」とか、インフルエンザ予防策として、入浴や歯磨きを勧めるなどがそれです(以下 X への投稿を引用)。

尾身茂氏は、政府の COVID-19 対策について「検証が十分でない」と発言しました(以下引用)。これはまさにその通りですが、他方で、これまで感染対策に関わってきた専門家自身や、テレビなどで発言する専門家の自己検証も必要ではないかと思われます。

政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会長を務めた尾身茂・結核予防会理事長が読売新聞のインタビューに応じ、日本の新型コロナ対応について「政府の検証が十分とは言えない」と述べ、徹底的な検証を求めた。

おわりに

専門家の発言は、ちょっとしたことでもそれがメディア、テレビに取り上げられ、視聴者に大きな影響を及ぼします。発言に曖昧さ、誤謬があれば、それが国民の感染症に対する理解や公衆衛生維持にとって重大な間違いを生じることもあります。その意味で、専門家のみなさんには、正確かつ慎重な発言をお願いしたいものです。

COVID ワクチンが、世界的な犠牲者減少に貢献をしたことは間違いないと思われますが、一方で、日本では、ワクチン接種が始まってから死者数が増大していること、そして流行の波も続いている事実も直視しなければなりません。その状況下で、ワクチン導入が COVID 流行の波を小さくしたとか、何人の命を救ったとか安易に言えないはずです。

もとより政府の「感染対策を国民に委ねる」とか「マスク着用を求めない」などの方針は、憲法第二十五条第二項に定める「国は公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」や、感染症法の目的に背くものです。この国における、専門家の発言のあやふやさを生じる下地になっている感がします。

引用記事

[1] 共同通信: 感染7千万人以上、死者13万人 コロナ国内初確認から5年. 2025.01.14. https://nordot.app/1251825609569730838?c=39550187727945729

[2] 森井雄一: 新型コロナ国内初確認から5年、死者13万人・高齢者が96%…尾身氏「政府の検証十分ではない」. 讀賣新聞オンライン 2025.01.14. https://www.yomiuri.co.jp/medical/20250114-OYT1T50132/

[3] Suzuki, R. et al. Attenuated fusogenicity and pathogenicity of SARS-CoV-2 Omicron variant. Nature 603, 700–705 (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-022-04462-1

[4] Murakami, J. et al.: Sensitivity of rapid antigen tests for COVID-19 during the Omicron variant outbreak among players and staff members of the Japan Professional Football League and clubs: a retrospective observational study. BMJ Open 13, e06759 (2023). https://bmjopen.bmj.com/content/13/1/e067591

[5] Watson, O. J. et al.: Global impact of the first year of COVID-19 vaccination: a mathematical modelling study. Lancet Infec. Dis. 22, 1293–1302 (2022). https://doi.org/10.1016/S1473-3099(22)00320-6

引用したブログ記事

2024.10.07. 「COVID-19 ワクチンが2千万人の命を救った」は妥当か?

        

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2025)




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