以下の内容はhttps://drtaira.hatenablog.com/entry/2025/01/11/225623より取得しました。


日本人の自己スティグマと弱者切り捨ての精神

カテゴリー:社会・政治・時事問題

はじめに

能登半島地震が起きてから 1 年が経過しました。様々な困難な問題があるにせよ、いまだに進まない復旧・復興にやるせない気持ちが強くなるばかりです。先の参議院本会議で代表質問に立った山本太郎氏が「能登も救えない政治に国が救えるか」と主張していたことが記憶に残ります。私は、れいわ新撰組の支持者ではありませんが、能登半島の復旧・復興に関するこの政党の主張 [1] は正論だと思います。

年が明けて、石川県七尾市に住んでいる知り合いとメールで新年の挨拶を交わしながら、やはり能登復興の話題になりました。彼は県や国の対応に不満を示しながら、日本人全体の関心の薄さも気になると話していました。

そのような中、日本人は「困っている人への同情心が薄い」というネット記事 [2] が目に留まりました。日本人は、弱者への同情心が薄いばかりでなく、自ら困っている場合でも、周囲に助けを求めづらくなっているというものです。そこで引用されていたのは、学術誌 Emotion に掲載された一橋大学名古屋大学の共同研究論文 [3] でした(下図)。

この論文を見ると、筆頭著者は Shaofeng Zheng 氏でした。私は、彼女らが PLoS ONE に発表した論文 [4] を読んだことを思い出しました。

このブログ記事では、日本人が持つ自己スティグマ(セルフスティグマ弱者切り捨ての傾向(弱者に思いやりがない)について、論文を参照しながら考えてみたいと思います。

自分が困っているときに、他者の支援を積極的に求めるかどうか、あるいは逆に他者が自分に関心を向けて支援しようとするか、そこには要因としてスティグマが関わっていることが多くの研究で示されています。

スティグマ(stigma)とは、ギリシャ語の「聖痕」(イエス・キリストが受けた傷が聖者の身体に現れたもの)や「烙印」に由来する単語で、不名誉、汚名、恥辱などを意味します。一般的には、「差別」や「偏見」に対応する言葉として用いられており、「個人の持つ特徴が周囲から否定的な意味付けをされ、不当な扱いを受けること」として、捉えられています。特に精神的疾患の人に対する差別、偏見に対して使われます [5]

これまでの数々の研究によって、スティグマ的態度は人種や国で異なることが示されています。たとえば、Anglinら [6] の研究によると、精神的疾患の患者が他人に暴力をふるうと考える傾向は、アフリカ系米国人が白人よりも強い傾向にありました。ところが、もし、精神疾患患者が暴力的行動を起こした場合、非難され罰せられるべきと考える傾向は、アフリカ系で低くなりました。これらの人種差は、社会人口学的要因に起因するものではありませんでした。

この研究結果は、精神病患者に対するスティグマを抱く態度には人種差があるものの、スティグマ形成過程は複雑であることを示唆しています。そして、人々の態度を改善することを目標とした介入策を開発する際には、人種差を考慮する必要性があるということになります。

自己スティグマは、自らの困窮に鑑みて支援を要するときに、それを要請することにためらいがあるかどうかに関わる感情です。支援には他者のコストや時間が必要ですが、そこから、そこまでして支援を受けるのは悪い、あるいは支援してもらう価値があるのかという、自己をいわば卑下したり、見捨てる感情のことです。

2. 人種で異なる自己スティグマ、自己開示性、共感的関心

Saykeo ら [7] は、アジア人が特に自己スティグマが強いことを示しました。彼らは、メンタルヘルスサービスを求める意図に影響を与える要因を特定するとともに、それらが人種によってどのように異なるかを探ることを目的として、172人の参加者に対する質問で、助けを求めることに関する変数を測定しました。

その結果、アジア人は白人およびアフリカ系アメリカ人に比べ、自己スティグマが有意に高く、自己開示の利点が低く、助けを求める意向が低いことが示されました。重回帰分析によると、自己スティグマは 3 群の人種すべてにおいて意向の有意な予測因子でしたが、自己開示の利点は白人とアジア人のみで有意になりました。

Saykeo らの結果は、日本人は自ら弱い立場にあっても、自己スティグマがある上に、自己開示性が低いため、それによって本来受けられる利益享受の機会が少ないということが言えるでしょう。つまり、自分は困っているということを強く主張すれば支援の手が届くかもしれないのに、容易にそうしないということです。

このような日本人を含む東アジアの文化のどのような側面が、ストレスに対処するための社会的支援への依存度を低くしているのでしょうか。これまでの研究では、社会的関係において支援を求めることの潜在的なコストや資源消費に対する懸念が、支援を求める傾向の異文化間の違いを説明する重要な要因として検討されてきました。

欧米では、人は目標を達成するために自分の考えを表現する志向性が強く、自分の問題を開示して他者と共有することは当然のことと考えられています。しかし、社会的支援は、自分の問題を解消するために他人の資源(お金や時間)を利用するものであり、既存の人間関係の調和を脅かす可能性もあります。

東アジアの文化的背景では、社会的ネットワークと他者への融和が重視されるため、人々はネットワーク内の調和を維持し、この調和関係を乱すような事柄を避けるようになっていると考えられます。したがって、東アジアの文化的背景を持つ人々は、他者の支援や援助を得るために個人的な問題を開示することに、より慎重になるというのが、有力な仮説です [8]

上記した Zeng ら [4] の研究では、さらに、共感的関心(弱者や困窮している人々への共感や配慮)における個人差が、社会的支援を求める文化的差異の代替的説明になるかどうかが検討されました。また、共感的関心と社会的支援を求めることとの関連が、孤独感における文化的差異にさらに寄与しているかどうかについても検討されました。

その結果、ヨーロッパ系カナダ人は日本人と比較して、共感的関心が高く、支援を求める頻度も高いものでした。そして、予測通り、社会的支援希求の文化差は共感的関心に影響されました。また、共感的関心と相互関心(関係を持っていたいとする関心)の両方が、支援を求める文化的差異に影響しました。

一方、共感的関心は低いけれども相互関心が高い日本人は、ヨーロッパ系アメリカ人よりも、ストレスの多い時に社会的支援を求めることに消極的であることがわかりました。孤独感は、ヨーロッパ系アメリカ人よりも日本人に多くみられ、社会的支援を求めるかどうかの程度を部分的に説明することができました。

そして、冒頭のナゾロジーで引用された Zeng ら [3] の研究ですが、前記の PLoS ONEの論文を拡張する結果が示されています。すなわち、特性共感的配慮が、他者の自発性に関する信念を高めることによって、支援を求めようとする文化的差異を生じることが明らかになりました。つまり、個人の特質から出てくる共感の程度が高ければ他者の自発性を促し、支援を求める力になるということであり、この「思いやり」の程度が文化的差異を生じているということです。

この点で、日本人は、ヨーロッパ系アメリカ人よりも原因抑圧的に難しく考える傾向があり、特性的共感的関心を持ちにくいという、欧米人との文化的差異を部分的に説明することができました。さらに、プライムされた共感的配慮は、文化の違いを超えて、ストレスに対処する際の支援を求める行動を増加させることが示されました。

おわりに

日本人はよく親切だと言われます。また、いわゆる「おもてなしの心」もありますし、財布を落として戻ってくるのも日本だけだとも言われます。しかし、これらの多くは社会規範や慣習に基づくもので、弱者への配慮とか共感とはまた異なるものでしょう。

例を挙げるなら、ヘルプマークをつけた人や妊婦が車内の優先席の前に立っていても、優先席に座っている健常者は割と無頓着で、すぐに立ち上がって席を譲る光景を見かけることはそう多くはありません。また、SNS 上での弱者や少数派に対する偏見、差別は枚挙にいとまがありません。海外に比べてボランティアが少ないのも日本の特徴です。

個人的に感情を表に出さない性質、引っ込み思案の性質、集団行動、従順性などの日本人に多い特性が、個人による弱者への共感性を積極的に生みにくいベースになっていることは考えられます。

今日(1 月 11 日)の TBS の報道特集で、日本は受忍(耐え忍ぶこと)を求める社会だというというキャスターの発言がありました。能登の地元民の「復旧、復興など夢のまた夢」「涙が出てくる」という言葉もありました。

日本人の自己スティグマ、自己開示性と共感的配慮のなさが、支援を受けるべき側からも支援をする側からもそれを難しくしている状況が浮かびます。社会における他者への共感性の薄さの延長上に、他者から見た場合の行政や政治のやる気のなさ(ほったらかしの状況)があるのかもしれません。

引用文献・記事

[1] 長周新聞:「能登自衛隊投入し土砂撤去の加速を」 山本太郎、首相に直談判 このまま年を越させる気か? 補正予算案めぐり声明も. 2024.12.19. https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/33177

[2] 大石航樹:【弱者救済やめろ】日本人は「困っている人への同情心が薄い」と判明. ナゾロジー. 2025.01.10. https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/168498

[3] Zheng, S. et al.: Empathic concern promotes social support-seeking: A cross-cultural study. Emotion. October 2024. https://doi.org/10.1037/emo0001451

[4] Zeng S. et al.: Cultural differences in social support seeking: The mediating role of empathic concern. PLoS ONE 16, e0262001. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0262001

[5] 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域精神保健・法制度研究部: スティグマについて. 2021.11.29更新. https://www.ncnp.go.jp/nimh/chiiki/about/stigma.html

[6] Anglin, D. M.: Racial differences in stigmatizing attitudes toward people with mental illness. Psychiatr. Serv. 57, 857-862 (2006). https://doi.org/10.1176/ps.2006.57.6.857

[7] Saykeo, S. P. and Lawrence, E.: Factors that affect help-seeking: Examining racial differences between Whites, Asians, and African Americans. Modern Psychol. Studies 24(1), Article 8 (2018). https://scholar.utc.edu/mps/vol24/iss1/8

[8] Taylor, S. E. et al.: Culture and social support: Who seeks it and why? J. Personal. Soc. Psychol. 87, 354–362. https://doi.org/10.1037/0022-3514.87.3.354

        

カテゴリー:社会・政治・時事問題




以上の内容はhttps://drtaira.hatenablog.com/entry/2025/01/11/225623より取得しました。
このページはhttp://font.textar.tv/のウェブフォントを使用してます

不具合報告/要望等はこちらへお願いします。
モバイルやる夫Viewer Ver0.14