以下の内容はhttps://drtaira.hatenablog.com/entry/2025/01/03/201022より取得しました。


ソーシャルメディアはポピュリストの犯罪パートナー

カテゴリー:社会・政治・時事問題

はじめに

昨夜( 1 月 2 日)観た NHK スペシャル「新・トランプの時代」は、予想はしていたものの、あらためて衝撃的な内容でした。なぜなら、政治学専門の大学教授でさえ、トランプ支持に回ってしまうと、従来エリート・知識層が積み上げてきた多様性や平等に根ざす民主主義を全く否定してしまい、「政治民主至上主義」(押し付けの民主主義)と貶していたからです。

反エリート主義は、ポピュリズムの最も典型的な要素の一つですが、米国はすっかりポピュリズムの渦に巻き込まれてしまったようです。専門家でさえ上記のような有様ですから、一般大衆となるとあとは推して知るべしです。トランプ再選の影響が、強く滲み出ていると言えるでしょう。

トランプ政権でのテクノ・リアバタリアンの関わりも懸念されます。政治が新自由主義的経営者の利益や都合で歪められ、従来の民主国家とは異質な国へと変貌していく危険性があります。富豪者がますます儲かり、格差はますます拡大し、マイノリティは隅に追いやられる時代がやってくるかもしれません。

いわゆるテクノ封建制の兆候はすでに現れています。多くの人がスマートフォンを手放せなくなり、生活自体がスマホに支配されるようになっています。そして、スマホが媒介する情報が従来のラジオ、テレビ、新聞などの情報と決定的に異なることは、後述するようにゲートキーピング(gatekeeping)が解除されていることです。

ポピュリズムを強烈に推し進める役割を果たしているのがソーシャルメディアであり、その中心的な存在が SNS(social networking service)です。SNS の下では、もはや従来の民主主義によるルールが通用せず、かと言って、新しいルールがなんなのかもわからない混沌の世界に突入していると、上記の番組で述べられていました。まさしく、これからカオス的政治の時代に突入していくかもしれません。

ポピュリズムに関して、2 年近く前に The Loop に掲載されたものですが、「ソーシャルメディア:ポピュリストの犯罪パートナー(Social media: populists’ partners in crime)」という記事 [1] を思い起こしました(下図)。The Loop は、政治、政策プログラム、社会、政治問題に関する短い記事を掲載しているブログサイトであり、政治学という学問分野の先導的な仕事を紹介しています。 

ここでは、The Loop の当該記事を紹介しながら、ポピュリズム社会の形成に果たすソーシャルメディア(特に SNS)の役割を述べたいと思います。日本国内では、国政選挙や知事選挙でいわゆる石丸現象、玉木現象、斎藤現象が起きましたが、まさしくポピュリズムが巻き起こした現象と言えるでしょう。一方で、日本人は、SNS によるポピュリズム汚染やその危険性についてほとんど無頓着のように思えます。それがこの記事を書く動機です。

1. ポピュリズムの味方としてのソーシャルメディア・プラットフォーム

日本では、衆院選での国民民主党の躍進や斎藤知事の再選に関して、多くのメディアは  SNS 選挙の勝利だと報道しました。確かにそうですが、単に SNS を駆使しただけでは勝利に導けません。なぜなら、全ての候補者は多かれ少なかれ SNS を利用した選挙をしているからです。

そのなかで、玉木現象や斎藤現象が起こった要因としては、いずれもポピュリズム的選挙運動を展開していたことが挙げられます。逆に言えば、これから SNS 選挙で勝利しようと思えば、ポピュリズムの手法を使う必要があるということなのです。

The Loop の記事は、ポピュリストとソーシャメディアの相性の良さを指摘し、なおかつ新聞、テレビなどの伝統的メディアにはない、ソーシャルメディアの特性を述べています。一方で、日本のメディアには、ポピュリストとソーシャメディアの相性という視点から、SNS 選挙を捉えている論調はほとんど見当たりません。

世界的な傾向ですが、ポピュリスト政治家・政党は、ソーシャルメディアの力を素早く利用し、政治的コミュニケーションのツールキットに完全に組み込んでいます。この点で、ソーシャルメディア・プラットフォームはポピュリストの重要な味方であり、ポピュリストの目的と密接に共鳴する要件を提供しています。

まずは、決定的に重要なこととして、ソーシャルメディアは、伝統的メディアのゲートキーピングの役割を回避していることが挙げられます。ゲートキーピングとは、情報の統制、規制、アクセスへの権限の設定などを言います。伝統マスメディアは組織ジャーナリズムが基盤になっていますので、組織による編集方針、査読、さらには法律などの規制を受けます。

アカデミズムに関わった人ならわかりますが、論文などの科学的情報も全て査読を通して出版されます。同じ専門家である第三者の評価を経て、はじめて世に出るわけです。ゲートキーピングや査読は、情報のその時点における正当性や客観性を担保するための最低条件であるわけです。

一方、ソーシャルメディアはほとんど制約がなく、幅広い聴衆への仲介のないアクセスを提供します。その結果、多くの支持者を動員し、支持者と直接交流し、従来にない世論を形成する機会を提供します。組織も法律も関係ありませんので、個人化された言説、主観的あるいは裏付けのない一方的な主張、さらには感情的なアピールをも容易にします。

もう一つ重要なことは、ソーシャルメディアは、マイクロターゲティング(microtargeting)を可能にすることです。マイクロターゲティングとは、対象を個人レベルで定め、その個人に関する情報を詳細に分析し、脆弱性を特定化し、嗜好や行動パターンを把握することによって、より効果的な広告メッセージを構築することです。

ソーシャルメディアにおいては、利用者は自分で情報を取りに行っているつもりでも、いつの間にか誘導されて情報バイアス下に置かれることになります。マイクロターゲティングは、製品や政治候補者の宣伝には特に有効に働きます。

ポピュリスト政党は、この新しいデジタル環境にうまく適応し、それがもたらす機会を十分に活用しています。ポピュリストのコミュニケーションは、ポピュリズムの主要なコンテンツ要素(大衆迎合主義、反エリート主義、二項対立、ハード・スタンス志向など)と特徴的なスタイル要素を組み合わせています。純化されたメッセージ個人化された言説感情的なアピールはすべて共通の要素です。

例として挙げるなら、国民民主党「手取りを増やす」という純化されたメッセージは、まさにポピュリストの主張です。103 万円の壁引き上げは、実際は税制全体の複雑な問題かつ低賃金労働の拡大でありながら、国民民主はそれに対する合理的、恒久的税制対策や低賃金労働からの脱却案を示すことなく、「手取りを増やす」という単純な言葉で言い換えました

そして、103 万円の壁の 178 万円への引き上げを強弁するハード・スタンスを示していること、生活保護主義に傾く国民の味方を演じること(大衆迎合主義)は、まさにポピュリスト政党そのものです。同時に、若者 vs 高齢者、現役世代 vs 高齢者という二項対立も招いています。

2. メディアはなぜポピュリズムを主流にしてしまうのか

ポピュリズムがどのように主流になるかを理解するためには、ポピュリストのイデオロギーが広まるメカニズムを考えなければいけません。まず、ポピュリストはソーシャルメディアを通じて幅広い読者に呼びかけ、そこでメッセージを増幅させます。

バイラル化したメッセージは、まもなく伝統的なニュースメディアに取り上げられ、さらに広まる傾向があります。ポピュリストたちのメッセージの内容やスタイルはセンセーショナルになりがちなので、それだけでニュース価値があるとみなされ、SNS と伝統メディアでの共有が促進されます。このようにして、ポピュリストの行動主体や彼らが好む問題・主張は、しばしば世間やメディアの検討課題の中で非常に注目される傾向があります。

国民民主党の「手取りを増やす」、「103万円の壁」は刺激的であり、一気にニュース価値があるとして共有化され、あっという間に広がりました。そして政党支持率を上げ続けています。

3. 今後の課題

これからは、ソーシャルメディアを通じたサイバー・デモクラシーが社会を席巻していくことになるでしょう。しかし、この新しい民主主義の質には、いくつかの課題が横たわっています。

第一に、ソーシャルメディアは、政治主体による偽情報(意図的、非意図的に関わらず誤解を招く内容)の拡散を助長します。ソーシャルメディア・プラットフォームは、陰謀論やその他の誤った情報の温床となりうるのです。虚偽のメッセージが氾濫すれば、メディアの信頼が損なわれ、市民が十分な情報に基づいた意思決定をする能力が損なわれる危険性があります。

伝統的なニュースに対する信頼は、以前と比べると確かに低下しています。多くの市民がソーシャルメディアを通じて日々のニュースを消費していますが、これはオルタナティブ・ニュース・メディアの台頭と相関しています。

オルタナティヴ・メディアにおいては、独自の情報生態系が形成されます。それによって、ポピュリストは自分たちの物語を完全にコントロールできるようになり、新たな世論を形成することが可能ですYouTubeTikTok は、ポピュリストが蔓延るオルタナティヴ・メディアの例です。

ポピュリストが支配するオルタナティヴ・メディアでは、情報の客観性や信憑性が問題になります。ファクトチェックやデバッキング(誤りの抽出と修正)のメッセージは、助長的な条件下でのみ機能するかもしれませんが、ほぼ野放しのまま視聴者・読者に届くことになるでしょう。イーロン・マスクの X は、規制を一切取り払いましたが、ソーシャルメディア大手はこれに続くかもしれません。

第二に、SNSアルゴリズムは通常、人々が交流しそうなコンテンツを優先します。このような SNS の特性は、ユーザーが思い込んだことに対する信念を反映するように、それを強化するメッセージのみを受け取るエコーチェンバーを生み出す危険性があります。つまり、利用者を偏狭化した情報空間に閉じ込めてしまう危険性があるのです。

ポピュリストのメッセージは、上記したように刺激的になりがちなので、読者の目とアルゴリズムの相互作用によって選択圧がかかり、拡散されやすいでしょう。さらに、マイクロターゲティングは、政治主体がその効果を最大化するために、メッセージを特定のグループに合わせて調整することが可能です。このような人々の既存の信念の強化は、政治をさらに分極化させ、本来の民主主義を脅かす恐れがあります。

第三に、政治主体によるソーシャルメディア上のヘイトスピーチの問題が挙げられます。これにどう対抗するかは、いまだ激しい議論の対象です。ソーシャルメディアは、自由な表現や意見交換を容易にしますが、言論の自由ヘイトスピーチの境界線を引くことはきわめて難しいのです。

ソーシャルメディアの自主規制や法的規制は難しい問題です。イーロン・マスクの"X"は、自主規制を完全に取り払ってしまいました。ヘイトスピーチや侮辱的なコンテンツの規制は、プラットフォーム側、政府の両方にとって難しい課題であるため、実際は規制が進むことはないと思われます。

一般的に、ポピュリストは(新自由主義者やテクノ・リバタリアンもそうですが)、自分たちのレトリックを正当化するために言論の自由に頼る傾向があります。とはいえ、ヘイトスピーチや(時にデマを伴う)誹謗中傷は社会的結束を損ない、民主的規範を弱体化させ、マイノリティの権利を危険にさらす可能性が高いです。しかし、ソーシャルメディア運営者は、規制を解く方向に流れています。

最後に(これが最も大きな問題かもしれませんが)、利用者の認知特性の問題があります(⇨イデオロギーと認知・生物学的特性との関係)。情報リテラシーに長けた人はいいのですが、それでも玉石混合の情報の見分けは容易ではありません。少なくとも、大衆の半分は他の半分よりも認知内省力(cognitive reflection)に劣り、最初に刺激を受けた情報への偏向性と分極・一貫性を取り続ける可能性があります。だから分断が起こるのです。

4. 現実に起こるポピュリズムのメディア主流化

The Loop の記事は、「ソーシャルメディア潜在的な悪影響は明らかだ」と主張しています。上記したソーシャルメディアの 4 つの特性は、SNSポピュリズムの肥沃な温床となることを示唆しています。デジタル環境でのポピュリズムの主流化は神話ではなく、現実に起こることです。学者や政府は、ソーシャルメディア潜在的な悪影響を認識しています。しかし、短期的な解決策は見えていません。

政府の規制や自己検閲は倫理的な問題を提起します。イーロン・マスクの X に代表されるように、全ての規制緩和は不確実性を高めることになるでしょう。上述したように、新しいルールが何なのかさえ、わからない時代に突入しているのです。

こうした困難にもかかわらず、ソーシャルメディアポピュリズムが主流になるメカニズムを検証しなければなりません。政治学者はポピュリズムの広がりを促進する具体的要因を特定しなければならないのです。従来の民主主義が崩壊する前に。

おわりに

以上のように、The Loop の記事を翻訳しながら、逐次自己解釈を加えて、ソーシャルメディアポピュリズムの関係について述べてきました。結論から言えば、SNSポピュリズムの温床になることは間違いなく、それをポピュリズムとも気がつかないまま、原始的な生活保護主義、自己保護主義、排外主義に傾倒した大衆によって受け入れられていくことになるでしょう。

組織ジャーナリズムやアカデミズムの情報は、査読と編集を経ていますので、その理解にある程度の学習と予備知識を要します。一方、SNS 上では自分に合致する情報を選択するだけでよいので、それ以上の学習と知識は必要ないのです。SNS  はジャーナリズムやアカデミズムと無縁の人々に情報空間を解放し、そこから偏向・捏造報道ばかりの伝統メディアというフレーズとともに彼らの社会的優位性を維持するサロンになっています。

このような場は、特に右翼的ポピュリストにとっては誠に都合がよく、自己保護主義、排外主義に回帰した大衆を簡単に洗脳することができます。そして、リベラル派との対立はますます顕著になり、分断を深めていきます。

これからの国政選挙や地方選挙は、ポピュリストが席巻する SNS によって多大な影響を受けることになります。まさに SNS 選挙=ポピュリスト選挙の時代に突入していくのです。以前は投票率が上がると野党に有利と言われていましたが、これからはポピュリスト政党に有利ということになるでしょう。従来、伝統的メディアによって先導されていた世論ですが、これからは、政治的関心が薄かった認知内省力により乏しい半分の有権者の、SNS 依存の投票行動が顕著になってくるのです。

冒頭の「新・トランプ時代」で米国はそれを先取りしています。保護主義保守主義復古主義に傾いた国民は、再選された大統領が生活や幸せを取り戻してくれると思っているようですが、ポピュリストに支配された国がどうなるかは時が証明してくれるでしょう。地球よりも自国が偉大、経済が大事と考えているような国では、民主主義社会がガタガタと崩れてしていくのは自明です。

引用記事

[1] Jacobs, L.: Social media: populists’ partners in crime. The Loop. March 29, 2023. https://theloop.ecpr.eu/social-media-populists-partners-in-crime/

引用したブログ記事

2024.11.23.  イデオロギーと認知・生物学的特性との関係

                  

カテゴリー:社会・政治・時事問題




以上の内容はhttps://drtaira.hatenablog.com/entry/2025/01/03/201022より取得しました。
このページはhttp://font.textar.tv/のウェブフォントを使用してます

不具合報告/要望等はこちらへお願いします。
モバイルやる夫Viewer Ver0.14