以下の内容はhttps://drtaira.hatenablog.com/entry/2024/12/10/111957より取得しました。


SNS 選挙の危険性

カテゴリー:社会・政治・時事問題

はじめに

昨今の国政選挙や地方自治体の選挙で、候補者のソーシャルメディアでの浸透が勝敗を左右するようになっています。特に、コミュニケーションツールである Facebook やLINE、情報発信型の"X"、YouTubeTikTok などの情報の政治的影響力が強くなりつつあります。これは世界的な傾向であり、ソーシャルメディア選挙の時代に突入していると言えるでしょう。

ソーシャルメディアの主流は、上記のような SNS(social networking service)です。SNS は、ウェブサイト上で利用者同士がリアルタイムで情報交流できる会員制(登録制)サービスであり、地域を超えて不特定多数とつながりを持つことができます。しかし、一方では、情報の出入りにほぼ制限がなく、虚偽・デマ情報を許し、ポピュリズムマキャヴェリズム、カルティズムに寛容である SNS ならではの弊害も起きているように思います。

後述するように、右翼ポピュリズムは民主主義と相容れないものです。マキャヴェリズムに至っては、目的のためなら非倫理的、非道徳的なことも許される世界です。カルティズムは熱狂的な集団心酔を生みます。情報に制限がない SNS のはずですが、一方でフィルター機能や単一情報の拡散性があり、インフルエンサーbot による大衆の感情分極を起こしやすい環境にあります。

SNS 選挙の功罪と言えば、今回のルーマニア大統領選挙の第 1 回投票で、衝撃的なことが起こりました。極右ポピュリストであるカリン・ジョルジェスク(Calin Georgescu)氏が、ほとんど無名でありながら トップの票数を獲得したのです [1]。彼は、TikTok を駆使して急激に知名度を広げたことが背景にありました。TikTok のようなショート動画は、政治的関心が低い有権者を瞬時に虜にする効果的な媒体です。

スマートフォンを通じた情報取得という習慣も SNS の悪影響が顕著化しているようです。スマホは現代の(薬物)皮下注射と呼ばれており、中毒性があります(→頭が悪いと差別的、右翼的になる?-SNS による偏見の助長)。

このブログ記事では、ルーマニアの大統領選挙の事例やポピュリズムを受け入れやすい SNS の特性を挙げながら、SNS 選挙の潜在的危険性を考えたいと思います。

1. ポピュリズムとは

ここで、SNS 選挙において重要な意味を持つポピュリズムについて、ウェブ記事の一つ [2] を参照しながら、あらためて簡単に解説したいと思います。

ポピュリズムを明確に定義するのは難しいですが、一般に「民衆の利益のためというより敵対する陰謀を企てている既存体制に対する深い疑念を反映したもの」と捉えられています [2]。ポピュリストは、その定義がどうであれ、「国民こそが国家の魂の真の宝庫 」だと主張します。ドナルド・トランプが自身の支持者を「本物のアメリカ人」だと頻繁に口にするのは、古典的なポピュリストのレトリックです。

ポピュリスト政治家は、大衆の不満を背景に敵対勢力にレッテル貼りをしますが、自分自身のために主張することはほとんどありません(本意の政策が一次メッセージで隠される場合もある)。掲げる政策の実現性は直接関係なく、相手への敵対視の手段として利用されることがほとんどです。そして、大衆の不満を吸い上げるような、わかりやすい単純なメッセージが用いられます。

ポピュリストは、既存エリートに対抗する唯一の民衆が存在するという基本姿勢をとりながら、自らが「民衆の代表」であると主張します。大衆の救世主のような存在を演出するのです。このように、ポピュリストの運動は、エリートの利益のみを支持する既存政治とは対照的に、自らを真の民主主義者であると表現します。

ポピュリズムは必ずしも極端である必要はありませんが、中道であることはほとんどなく、左右にふれます。左翼、右翼ポピュリストはともに、エリートによる自由民主主義の支配に異議を唱えますが、両者は主張の対象が決定的に異なることに留意しなければなりません。左翼ポピュリストは大企業とその利権構造の問題、社会経済体制の改革を追求するのに対し(体制批判が主)、右翼のポピュリストは外部からの脅威や保護主義に焦点を当てています。

重要なことは、右翼ポピュリストが、既存エリートを批判しながら保護すべき集団を特定し、それ以外を排他的に捉えることです。この点が、右翼ポピュリズムが民主主義と相容れないと言われる所以です。すなわち、彼らは保護集団はすべての国民ではなく、民衆の最小連合であり、たいていは属性的特徴で定義される一部です。例えば、内国民 vs 外国人(移民)、白人 vs 有色人種、若年層 vs 高齢層、主要性別者 vs LGBTQ、などという二項対立を煽り、一方だけを保護しようとします。

日本の昨今の選挙でいえば、石丸現象、玉木現象、斎藤現象がありますが、いずれもポピュリズムの手法が使われた選挙でした。玉木国民民主を例にとれば、「手取りを増やす」というわかりやすいメッセージを掲げながら、結果として若者・現役世代 vs 高齢者層という二項対立を作り出し、若者を中心とする票獲得に成功しました。

これは、生活保護主義という一点で現役世代のの不満を吸い上げながら、実質の減税策であるにもかかわらず恒久財源は示さない(責任はとらない)というまさしくポピュリズムの手法です。つまり、減税という言葉を隠しながら、「手取りを増やす」だけを前面に打ち出して大衆の支持を得るというものです。

斎藤現象では、「嘘のオールドメディア」 vs 「真実の SNS という二項対立が用いられ、斎藤氏の白色化(斉藤氏は悪くないとするプロパガンダ)とともに、対立候補の否定・誹謗(時に虚偽情報を含む)が有効に働きました。

ポピュリズムは社会の二極化とも密接な関係があります。「一般庶民とそれを搾取する腐敗したエリート」の間の社会の分断に関する世論は、社会の二極化と高い相関関係を示します。世界的には、日本の二極化は最も低い方の部類に入りますが、米国では深刻な状況にあります。

一方、左翼ポピュリズムの場合、民主主義との一義的な矛盾はありません。エリートに対抗する「民衆」の利益を代表する政党であることを主張しながらも、際立って多様な支持層を形成するのが一般的です。しかし、権威主義に陥った場合には、民主主義との折り合いをつけるのが難しくなる可能性があります。

新自由主義は、しばしばポピュリズムとは反駁するものと理解されることがありますが、右翼ポピュリズムとの親和性があります。先の米大統領選挙における D. トランプとイーロン・マスクの結びつきはそれを体現したものと言えるでしょう。

ピューリンガー(Stephan Pühringer)らは、右翼ポピュリズム新自由主義の概念的な類似点を強調しています [3]。 例えば、両者とも、対立する 2 つの部分だけに分割された世界を想定していることです。右翼ポピュリズムは、社会が 2 つの集団に分裂し、互いに争っていることを示すます。同様に、新自由主義的な市場原理主義者は、経済的・社会的秩序には対抗しうる 2 つのものしかないと主張します。

新自由主義的な市場原理主義と右翼ポピュリズムの間の類似性は、権威主義新自由主義という新たな形態の基礎を提供しうると考えられます。来年からのトランプ政権の米国は、その危険性がある一方で、保護主義との矛盾も抱えています。

学説では、保守的な人や普段から政治的関心度の低い人ほど既存体制に従順で、変化や異質なものに恐怖や不安感を抱くということが説明されています(⇨イデオロギーと認知・生物学的特性との関係)。したがって、ポピュリズムと言えば、右翼ポピュリズムになることがほとんどであり、時に新自由主義立場のポピュリストも見られます。

2. ルーマニアの大統領選挙

ルーマニアでは、先月、大統領選挙の予備投票が行われました。11 月 24 日に行われた第 1 回投票では、ほとんど無名のカリン・ジョルジェスク氏が勝利しました。すなわち、ジョルジェスク氏は 23% の票を獲得してトップに立ち、次点は野党「ルーマニア救国同盟(USR)」のエレナ・ラスコーニ氏(得票率 19%)、3 位は与党・社会民主党のチョラク首相でした [4]

ジョルジェスク氏は極右思想の持ち主で、北大西洋条約機構NATO懐疑派であり、ロシアのプーチン大統領を称賛しています。この極右ポピュリストが大統領選の決選投票に進出したことは、ルーマニア国民に衝撃を与えました。彼は、主に TikTok で選挙活動を行っていて、若者を中心とする大衆に「真の民主主義者である」、あるいは「救世主」であるというイメージを植え付けるのに成功したと言えます [1]下図参照)。

ところが、ルーマニア憲法裁判所は 12 月 6 日、大統領選挙の第 1 回投票の結果を無効としました。8 日にも第2回投票が行われる予定でしたが、選挙は最初からやり直されることになりました。ジョルジェスク氏の TikTok 動画の拡散において、外的な恣意的操作があったというのがその理由です。海外メディアはいち早くこれを伝え [4, 5]、日本のメディアも報じました [6, 7]

今回の大統領選におけるジョルジェスク氏をめぐっては、国外(ロシア)からの大規模な工作が投票結果に影響していたとする機密情報文書がありました。憲法裁の判断は、TikTok が、ジョルジェスク氏に「優遇措置」を与えた疑惑があることに基づくものです。

一方、ジョルジェスク氏はこの判決を「形式化されたクーデター」と批判し、「民主主義が脅かされている」として、大統領選に再び立候補する意向を示しました。TikTok 側もこの疑惑を断固として否定しています。

機密解除された国家防衛最高評議会の情報文書によれば、2016年に「外国国家」によって作成された約 800 件の TikTok アカウントが本年 11 月、突然フル稼働し、ジョルジェスク氏を支持していたことが明らかとなっています。さらに、第 1 回投票の 2 週間前には、別の 2 万 5 千件の TikTok アカウントが活発化していたことが示されています。

ルーマニアの対外情報機関は、このアカウントの活動に関して、数万件のサイバー攻撃やその他の妨害行為を含むハイブリッド攻撃を行っていた「敵対国家」があり、それはロシアだと指摘しました。そして、ジョルジェスク氏の突然の人気急上昇について、同一のメッセージやインフルエンサーを含む「高度に組織化された」ゲリラ的な SNS キャンペーンに起因するとしました。

ジョルジェスク氏を宣伝する TikTok 動画には選挙コンテンツとしての表示がなく、ルーマニアの法律に違反していたとされます。アカウント(インフルエンサー)の中には、ジョルジェスク氏の宣伝で 1 カ月で 38 万 1000 ドル(約 570 万円)の報酬を得たものもあるようです。

ジョルジェスク氏は今週、BBCの取材の中で、自分はロシア政府の手先などではないと主張しています [4]ルーマニアの政治体制が自分の成功に対応できず、妨害しようとしていると主張しました。

おわりに

今回のルーマニアの大統領選挙の予備投票結果は、SNS 選挙の危険性を暗示しています。外的圧力によるアカウントの操作、意図を持ったインフルエンサーbotによる情報拡散が容易に行われ、それが大衆の情報汚染につながることがわかったからです。

そして、意図的なアカウント作成と特定情報の拡散、閲覧数・視聴回数がビジネスがつながるという SNS の特性は、情報を偏向させることをきわめて容易にしています。お金のためなら虚偽・デマ・炎上や法律違反もいとわないという、マキャヴェリズム的思考も通用する世界です。このような例は、今回の兵庫県知事選でも表面化しました。

もとより SNS は、フィルターバブル反響効果によって、情報の偏狭化を起こしやすい特性があります。膨大な量の多様な情報を自由に見ているようで、実は非常に狭い範囲の情報しか見ていないということが起こっているのです。

特に、TikTok のような動画は、思考の時間が必要なく、刺激的な単純メッセージで視聴者に訴える効果があります。もとより政治的に関心が薄く、深く考えることがない有権者にとっては、ショート動画はピッタリの情報媒体で、一瞬の共感さえあればいいのです。

ネット+スマートフォン利用が情報取得のデフォルトになっている世代は、この危険性を常に抱えていると考えられます。しかし、その危険性に気づいている人、玉石混合の情報の中から真実を見分けられる人がどのくらいいるでしょうか。ディープフェイクともなれば、実際見分けることは困難でしょう。海外からの認知戦にも簡単に引っ掛かるでしょう。

学説にあるように、政治的関心が低い人ほど、認知内省能力の欠ける人ほど一つの情報に感情分極を起こしやすく、感化された情報への一貫性を取りやすい傾向があります(⇨石丸、玉木、そして斎藤現象ーなぜ大衆に受けたかイデオロギーと認知・生物学的特性との関係)。事実を見極めるのではなく、自分の考えに合致したものを事実として認識してしまう危険性があります。

また、右翼的思考を持つ人は、根底に、既存体制とは異なる物象に対する強い不安や恐れがあるため、その性質の情報を拒否し、しばしば差別、偏見という形で現れる特徴があります。

このような大衆の認知力に依存した情報の取り方と今回のルーマニアでの選挙結果に鑑みて、私は以下のように"ツイート"しました。

伝統的マスメディアの情報は、法律、既成概念、編集方針、査読などによって規制を受けており(ゲートキーピングが機能)、一方通行であるけれども一旦発信されたものは変更が効かないため、抑制的になりがちです(情報過少の傾向)。時には情報隠蔽や偏向も起こることがありますが、職業・組織ジャーナリズムに基づいて発信されるニュース・記事には虚偽・デマ情報はきわめて少ないのです。

SNS 情報はこれとは全く逆です。知らなかったことが SNS にあったと言うのは、その実、虚偽・デマであったり、不確かな見切り発車情報であることは多々あるのです。ツィッター("X")上では、嘘は事実より100倍の拡散力があることがすでに報告されています [8]。そこでは、ユーザー自身が拡散の原動力になるのです。

嘘のオールドメディア、真実の SNS というプロパガンダに感化された SNS 世代は、伝統的メディアのニュースに触れることが益々少なくなっていくことでしょう。これがSNS 選挙の危険性を余計に増長させていくと言えます。

韓国での戒厳令事件は、別に意味で SNS 情報の恐さを感じました。尹錫悦大統領を突き動かしたのが陰謀論好きの政治系 YouTuber だったとするなら [9]SNS 依存が如何に恐ろしいかを物語っています。

SNS で語られる陰謀論が政治家や有権者や社会及ぼす影響は、以前にも増して大きくなっていると考えられます。この兆候は、すでに COVID-19 パンデミックで露呈しています(医者が拡散するCOVID-19の誤情報)。

引用文献・記事

[1] McGrath, S.: Who is Calin Georgescu, the far-right populist who won the 1st round of Romania’s presidential race? AP News November 25, 2024. https://apnews.com/article/romania-election-president-europe-georgescu-90bebd251cb1376ee654c58d90afa956 

[2] Hudson, A. and Seema Shah, S.: Explainer: Populism - Left and right, progressive and regressive. International IDEA. November 21, 2022. https://www.idea.int/blog/explainer-populism-left-and-right-progressive-and-regressive

[3] Pühringer, S. and Ötsch, W.: Neoliberalism and right-wing
populism: Conceptual analogies. Working Paper Serie, No. Ök-36, Cusanus Hochschule, Institut für Ökonomie und Institut für Philosophie, Bernkastel-Kues, 2017. https://www.econstor.eu/bitstream/10419/196158/1/oek36.pdf

[4[ Rainsford, S.: Romanian court annuls result of presidential election first round BBC News December 6, 2024. https://www.bbc.com/news/articles/cn4x2epppego

[5] McGrath, S.: Romania’s top court annuls first round of presidential vote won by far-right candidate. AP News December. 7, 2024. https://apnews.com/article/romania-election-president-georgescu-court-585e8f8f3ce7013951f5c7cf4054179b

[6] 共同通信: ルーマニア大統領選やり直し 選挙戦にロシア介入指摘も. Yahoo Japanニュース 2024.12.07. https://news.yahoo.co.jp/articles/3c1c913c148ff5abd9779a0db52fcc1f310be49e

[7] NHK News Web: ルーマニア大統領選 憲法裁判所が無効判断 異例の判断に批判も.  2024.12.08. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241208/k10014661911000.html

[8] Vosoughi, S. et al.: The spread of true and false news online. Science 359, 1146–1151 (2018). https://www.science.org/doi/10.1126/science.aap9559

[9] 李正宣: 明らかになりはじめた戒厳令の裏側、尹錫悦大統領を突き動かしたのは陰謀論好きの政治系YouTuberだった可能性. JP Press 2024.12.07. https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/85336

引用したブログ記事

2024.11.23 イデオロギーと認知・生物学的特性との関係

2024.11.18 石丸、玉木、そして斎藤現象ーなぜ大衆に受けたか

2023.08.22 医者が拡散するCOVID-19の誤情報

           

カテゴリー:社会・政治・時事問題




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