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同性愛・LGBTの考え方

2021.03.30更新
はじめに
最近、自民党杉田水脈(みお)衆院議員が月刊誌へ寄稿した LGBTLGBTQLGBTQIAに関する記事が、SNS 上をはじめ多方面から批判を浴びています [1]。すなわち、記事の中で「同性愛者は子供を作らないので生産性がない、そこに税金を投入することが果たしていいのか」と述べたことに対して、人権意識を欠いた記述だと批判されています。
 
彼女の人権を無視したとも思える発言は論外ですが、その言述の根底にはおそらく、 LGBTQ は社会の中での少数の異常な性的嗜好者という差別意識があるのではないかと思います。
 
ここでは、その考え方が人権という立場からはもちろんのこと、生物学的にも正しくないということを指摘したいと思います。
 
1. 動物の同性愛
 
従来の社会的常識では、大多数の異性愛者(ストレート)と少数の同性愛者が存在し、両者を明確に区別できると思われてきました。また、両方を愛することができる両性愛バイセクシャル)になると、ほとんど取り上げられることはないか、やはり異常視され、これらを含めてそれらの個人的欲求・行動は社会的な規範の中で抑えつけられてきたと考えられます。
 
一方で、自然界の動物の暮らしに目を向けると、同性愛はちっとも不自然なことではなく、本能的に普通に行われている行為です [2, 3, 4](図1)。これまで、霊長類も含めて少なくとも 450 種以上の動物で、同性愛が確認されています [3]。むしろ、同性愛があるのが動物界のまともな姿と言っていいでしょう。
 
このような動物の同性愛は、異常行動でも性ホルモンの分泌異常でもない本能的行動の一つであり、進化的帰結として捉えられています。
 
イメージ 1
図1. 動物の同性愛行動に関する学術書の一つ [4]
 
人間に近い種であるチンパンジーボノボは、生殖行為としてだけではなく、練習や好みで性行為を行います。さらに、チンパンジー属の中で最も知能が高いボノボは、純粋なコミュニケーション手段として性行為を行うという、際立った特徴をもちます [5]
 
ボノボはほぼ 100% 両性愛者です。そして、人間だけの性的特性と考えられていた正常位での性行為、オーラルセックス、舌を使うキス、そして乱交を行います。生活は大きな共同体として営み、暇さえあれば望む相手と性行為を行います。
 
ボノボ母権制社会であり、霊長類の中でも最も平和的で、争い事が少ない共同生活を送ります。オス同士は揉め事を解決するときには暴力的手段に訴えるのではなく、平和的に収束させます。すなわち、ペニスや陰嚢、お尻同士をこすりつけるようなホモセクシャル的擬似性行動による解決策です。競争がなく、食料が自由に手に入る環境においては、他の霊長類に見られるような攻撃という行動がもはや必要ないということなのでしょう。
 
2. 人間の同性愛的指向
 
このような同性愛的指向は、実は一般のストレートと思われる人間にもあることが論文で報告されています。2016 年、米国コーネル大学発達心理学/ジェンダー研究所のR. サビン-ウィリアムズ博士の研究グループは、異性愛者として自覚がある女性被験者にいくつかの性的描写の画像を見せ、その際の瞳孔の拡大の有無に基づいて性的指向を評価しました [6]
 
それによると、自分が異性愛者であると固く信じている女性においても、時として、男性に対する反応と同様に、同性に対しても性的反応を起こすということを認めました。この研究結果は、「新知見ー異性愛者など存在しない」という衝撃的なタイトルとともに、ウェブ上でも解説されています [7]
 
このような同性に対する反応は、男性でも確認されています。すなわち、相手が女性である場合と同様に、男性が自分自身に性的な行為をする画像を見せた時も反応することが認められています。同性愛の傾向は女性特有の "female-female alliance"と思われてきましたが、男性同士の関係においても、生き残りの戦略や種の維持という意味において、人類の進化とともに強化されてきたようです [8]
 
このように、とくにこの 10 年間における性的指向に関する実験心理学の研究は、男女とも、自分の心理とは無関係に、同性愛の指向をもつ潜在性があるということを示唆しています。
 
上述したように、動物の世界では同性愛は当たり前の行動です。一方、人間は極度の脳の進化によって社会通念や規範を生み出し、それに従って表面上は「理性として慣習化された行動」をとっています。しかしながら、その古びた規範・固定観念なるものが、実は生物としてのヒトの本能を抑圧してきただけのことなのです。つまり、同性愛やトランスジェンダーを含めた LGBTQ の社会的認知は、誰もが共有しているヒトという生物の表現型の一つを具現化した状態にしたにすぎません。
 
3. 生物学的な性とトランスジェンダー
 
さらに重要なこととして、LGBTQ とは別に、性別の生物学的定義の問題が挙げられます。いわゆるジェンダー(gender)と性(sex)の区別の問題です。最近の研究では、男性にも女性にも表現型上相当大きな多様性があり、男女という二元的な性別では容易に定義できないオーバーラップ領域が確実に存在することが指摘されています [9]
 
これまで染色体レベルで、男性は XY、女性は XX として区別できることが常識でした。しかし、XY型の中にも男性器の形成不全が見られたり、一方で、XX型の中に精巣や男性器が見られる場合がまれに知られています。さらにXY、XX染色体が混合(卵巣と精巣が存在)する場合もあります。Sex は、あくまでも表現型上は、男性と女性だけで捉えることが難しくなり、性スペクトルとしてみる必要があると論文 [9] は指摘しています。
 
ただし、注意すべきことは、ヒトを含めた哺乳類においては卵子精子を形成するのはそれぞれメス、オスであり、その受精卵が成長して子が生まれるという生殖の意味では、sexはメス(女性)とオス(男性)しか存在しません。そして、表現型上の形成不全があったとして、男性か女性を自認することは権利として当然であり、何ら差別を受ける理由がないことは言うまでもありません。
 
一方で、トランスジェンダー性自認の場合は複雑です。表現型は完全に男性なのに脳構造は女性という例は多く知られていますし、その逆も然りです。Sex は生物学的であるなら、トランスジェンダー(脳構造)も生物学的なわけであり、その組み合わせは数多く存在します。さらに表現型とは別に、自分が女性か男性かわからないという人もまれに存在します。
 
おわりに
 
ヒトを含む哺乳類における生殖上の性の定義では、メスとオスという二元論でしかありません。哺乳類と限定したのは、例えばノドジロシドには四つの性が知られており [10]、単為生殖の生物種もたくさん存在し、細胞分裂で増殖する微生物においては、そもそも生殖上のメスとオスの概念が通用しないからです。科学の立場からは、性は単純ではないのです。
 
その上で、「生物学的」という言葉や「生物学上の性の定義」が過度に強調されると、さまざまな状況で個人の人権を抑圧し、時には政治利用される危険性があることを考えなければいけないでしょう。より重要なのは、性的嗜好トランスジェンダー、生物学的表現型にかかわらず、正当な性自認と人権が守られるべきということではないでしょうか。
 
上記の性スペクトルという言葉は、人間のさまざまな生物学的表現型の現れに対する性差別、人権侵害になるでしょう。逆に、社会面での「生物学的定義では男と女しかいない」という表現は、トランスジェンダーやマイノリティの抑圧に利用されかねません。トランスジェンダーの人の性別変更の法的要件として、生殖能力を失わせる手術を求めるというのはその一例であり、戸籍上の性別へ違和感や異なる性自認を持つ人たちが、職場や学校でどれほど困難を強いられているかが問題にされたりします。
 
ジェンダーの問題であるにもかかわらず、そこに生物学的二元論を強調することは、冒頭の杉田水脈氏の発言に見られるような同性愛者の差別にもつながります。政治家でも巷の意見でも「男女間で子どもが生まれて家庭を形成するのが生物学的に自然な姿」という声がよく聞かれますが、生物学的にというなら、むしろ逆でしょう。生物学的にはもっと自由で多様性があり、繰り返しますが、人間社会の規範や固定観念がそれを抑圧しているにすぎないのです。
 
2021.03.30更新
 
上記のブログ記事をアップロードしてから、2 年以上経ちましたが、米国内分泌学会が基礎研究(動物モデルを用いた研究)と臨床研究(ヒトを対象とした研究)における性の取り扱いについて声明を出しました [11]。背景としてジェンダーと性がしばしば混同して用いられていることがあり、性と性別に影響を与える要因について議論しています。
 
ここでは、シスジェンダートランスジェンダーも、ヘテロ、ホモ、バイセクシャルの可能性があるとしています。さらに、トランスジェンダー女性やトランスジェンダー男性の線条体終末床核などの特定の脳構造の表現型は、シスジェンダー男性や女性とは異なっており、性二型構造の部分的な、しかし不完全な性反転が見られたとしています。
 
引用文献
 
[1] 二階堂友紀: 同性カップルは「生産性なし」杉田水脈氏の寄稿に批判. 朝日新聞DIGITAL 2018年7月23日. https://digital.asahi.com/articles/ASL7R4SB9L7RUTFK00L.html
 
[2] Casey, P. L.: Homosexual behavior in primates: A review of evidence and theory. Int. J. Primatol. 16, 173–204 (1995). https://link.springer.com/article/10.1007/BF02735477
 
[3] Bagemihl, B. Biological Exuberance. Animal Homosexuality and Natural Diversity. Stonewall Inn Editions; Reprint版, 2000. ISBN-13: 978-0312253776
 
[4] Sommer, E. & Casey, P. L.(eds): Homosexual Behavior in Animals. An Evolutionary Perspective. Cambridge University Press, July 2006. ISBN: 9780521864466
 
[5] Wrangham, R. W.: The evolution of sexuality in chimpanzees and bonobos. Human Nature 4, 47-79 (1993). https://link.springer.com/article/10.1007/BF02734089
 
[6] Geruf, R. et al.: Sexual arousal and masculinity-femininity of women. J. Personal. Soc. Psychol. 111, 265-283 (2016). http://dx.doi.org/10.1037/pspp0000077
 
[7] Tourjée, D.:  Straight People Don't Exist, New Research Says. Broadly, Nov. 7, 2015. https://broadly.vice.com/en_us/article/ypa7vk/straight-people-dont-exist-new-research-says
 
[8] Muscarella, F.: The evolution of male-male sexual behavior in humans. J. Psychol. Human Sexual. 18, 275-311 (2007). https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1300/J056v18n04_02 
 
[9] Ainsworth, C. Sex redefined. Nature 518, 288–291 (2015). https://doi.org/10.1038/518288a 揺れる性別の境界
 
[10] 船田晶子(訳): Nature ダイジェスト 14(2) (2017). https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v14/n2/4%E3%81%A4%E3%81%AE%E6%80%A7%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8B%E5%B0%8F%E9%B3%A5/82488
 
[11] Bhargava, A.: Considering sex as a biological variable in basic and clinical studies: An endocrine society scientific statement. Endocrine Rev. 42, 219–258 (2021). https://doi.org/10.1210/endrev/bnaa034
            
カテゴリー:社会・時事問題



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