原作は筒井康隆の1988年に発表した小説「敵」で、それを吉田大八監督が映画化したものだという。2024年の東京国際映画祭コンペで、東京グランプリ3冠だかを獲得した映画らしい。新聞の評を見て、いつも行く宝塚の映画館に見に行った。
映画の主人公は既に退職し、妻にも死に別れ、一人で暮らすフランス近代演劇史専門の77歳の元大学教授、渡辺儀助で、その生活を描いた映画であるが、長塚京三という俳優がどんぴしゃりのハマり役で成功している。
料理が好きなのか、私にはとても無理だが、こまめに一人で色々な料理を作り、時には元の教え子などにも自宅で振る舞っている。古い和風の広い家に住み、掃除や洗濯その他の家事もきっちりこなし、頼まれ原稿などもうまくこなしている日常である。
わずかな原稿料などもあるが、お金がなくなった時が死に時だと達観もしている。静謐で几帳面な老人だが、体は衰えても、枯れることもなく、老いのためか幻想が出没するようになってくる。
映画では現実と種々の幻想がいくつも組み込まれ、家に訪れてくる教え子や、バーに勤める文学好きの女性などとの関係や、別れた女房が突然家へ来たり、家へ訪ねてきた若い編集者と教え子のトラブルで殺された編集者を井戸に投げ捨てるのを手伝ったり、自殺も試みるが失敗する。夜間に忍び込んだ人物に刃物で立ち向かおうとしたり、遂には、パソコンに何か分からぬ攻撃の文章が現れていつまでも消えず、何か分からぬ大掛かりな攻撃、爆発などが起こり慌てふためくなど、分からぬ幻想、幻影に脅かされ、ついには命を落とすというストーリーになっている。
老いと死の間を生きる自意識過剰の老人を襲う幻覚、幻影の物語となっている。そのため、わざわざ白黒映画にして、現実と幻想が同じ流れで表現されていりこになっており、俳優たちの演技もよく、なるほどグランプリを獲得した映画だなと納得させられた作品である。