建設業全体の中長期的な方向性を俯瞰する長期ビジョン「建設業の長期ビジョン2・0」が2025年7月、日本建設業連合会から発表された。長期ビジョンとしては2015年以来10年ぶり。人口減少下の業界の生き残りに向け、新4K(給料が良い、休暇が取れる、かっこいい、希望が持てる)を目指すという戦略的な目標が掲げられた。また、10年後に技能労働者129万人不足という警告も盛り込まれている(2025/08/03)

長期ビジョンの概要
・全51ページ。3部構成で、第1部では2050年までに建設業の発展していく道筋や未来予想図を提示する。第2部では2030年までの推計、2050年に向けた具体的な方策
を提示。第3部では建設業が継続して取り組むべき課題を示す。
・前回の長期ビジョンは2015年に発表。
第1部 2050年に向けた進化の道筋と未来予想図を示す
2050年の時代の俯瞰

1 人口減少と高齢化の進行。生産年齢人口は7599万人(2020年)から5540万人(2050年)と、約2000万人減少する=社人研推計
2 新技術普及により、採算面や技術面で実現が困難だった社会的課題が解決される
3 国とは違う括りでの共同体・経済圏経済圏が誕生
4 働く時間や場所が多様化する。ボーダーレスな国境、人種や言語を超えた労働の一般化
5 災害激甚化。南海トラフ巨大地震、富士山噴火等が発生する確率上昇。すでに発生も。熱波、寒波、風水害の激甚化の一方、自然災害の予測が可能に
=巨大災害時、公共・民間を問わず、既存工事を一時止めて応急復旧に建設リソースを駐中できるような政府緊急措置(「建設モラトリアム」)の必要性を指摘
6 インフラは人口減少、災害激甚化を踏まえた規模・機能に更新される。技術革新による長寿命化はメンテナンスの簡素化・自律化が進む
7 カーボンニュートラルな社会が実現している
など
2050年の建設業の役割
普遍的使命:人類の文明文化を支える/国民の暮らしや生業を守る/地域によりそう
さらなる使命:国民の安全・安心を守る/豊かな地域・国・世界づくりへの貢献/持続可能な地域、国、世界作りへの貢献/人類の未踏領域進出の貢献
2050年の建設業の姿
AIやロボットの活用によるデジタル化が進展することにより、建設業従事者の役割・作業環境・労働条件、生産体制が抜本的に変革するとともに、新しい時代に対応した社会的要請に応える建設業が構築される
未来予想図

・仮想空間を介したボーダーレスな事業展開
国境や人種、言語を超えたボーダーレスなデジタル空間で、3Dホログラムによりまちづくりが検討されている
・先進的かつ安全(死傷病者ゼロ)な職場環境の実現
危険作業を全てロボットが担い、建設現場での死傷病災害ゼロが実現する。
・リモート管理、マルチタスク化
ロボットマネージャーの指揮のもと、現場作業はロボットが行う。オフィスではディレクターが様々な建設現場をリモート管理している。
・未踏領域への挑戦
技術の発展により宇宙開発が進み、月面でも様々な建設物が整備されている。宇宙空間における建設プロジェクトで大きな役割を果たしている。
・ドローン、AI等の活用による快適・安全社会の実現
未来都市の上空にはドローンが飛び、都市全体をモニタリングしている。災害発生時には住民の最適な避難ルートを通知する等、安全・安心な生活を支えている。
第2部 現状・課題と対策
2035年の建設市場の見通し
2025年度 58・4兆円(実績値:2015年の物価水準に変換して算出)
2035年度 67・6兆円(実績値:同上)
2035年の担い手の見通し 129万人の技能労働者不足
・技能労働者数と必要数、不足数


2025年度 299万人/必要数 321万人
2035年度 264万人/必要数 393万人/不足数 129万人
・生産性向上による不足解消と入植者増加による不足解消可能数
31万人〜68万人:日本人のみでの解消は困難
・新成人数が100万人を上回る今後10年が若者が建設業に流入する最後のチャンス
・外国人労働者も重要な担い手を捉え、選ばれる建設業となる環境を整備すべき
技術者の確保の必要性
技能労働者と技術者は両輪。大学工学部や高等専門学校への進学者確保と外国人技術者の確保。育成施策を早急に講じる必要がある
目標(抜粋)
・2025年比で生産性を25%向上
・2050年カーボンニュートラル実現に向け、施工段階の二酸化炭素排出量を2013年度比で60%削減
・選ばれる建設業となるための処遇改善
全産業平均を圧倒的に上回る水準とするため、年平均7%以上の持続的賃上げにより、技能労働者の所得倍増を目指す。40代での平均年収1000万円超を目指す
技能と経験に応じた賃金が技能労働者に確実に行き渡るようにする。
適切な価格転嫁を徹底する
・働き方.休み方改革
建設現場ではすべての現場を土日祝日、夏季、年末年始休暇を含め一斉閉所、技能労働者個人に対しては多様な働き方、休み方を選択可能に
・女性活躍の加速

2035年に建設業の女性就業者数100万人、うち技能労働者数20万人を目指す
2035年度 女性技術者と管理職比率について2023年度から倍増を目指す
女性技術者比率16%目標(2023年度 8%)
女性管理職比率 7%目標(2023年度3・5%)
第3部 常に推進すべきこと(抜粋)
コンプライアンスの徹底
各主体による徹底/ダンピングの排除/社会的信頼の獲得
安全対策の徹底
次世代に向けた安全対策の深化/外国人労働者増加に伴う安全確保/健康管理推進/契約適正化の推進

※全産業に占める建設業の労働災害の死亡者数はかなり多い。長期的に減少傾向は続いている。グラフは比率ではなく実数。
建設業の魅力発信 新4K(給料が良い、休暇が取れる、かっこいい、希望が持てる)
新3K(給料が良い、休暇が取れる、希望が持てる)に「かっこいい」を加えた、新4K(給料が良い、休暇が取れる、かっこいい、希望が持てる)の効果的訴求

感想・まとめ
将来展望と建設業で働く人材確保に向けたロードマップを示したもの。新4Kは意欲的だが、業界の生き残りに向けた危機感の表れとも言えそう。また建設業の危機感は、程度の差はあっても多くの産業に当てはまるものとして、参考になりそう。
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こんなコラムがあった。
当面施工体制の確保に問題はない
・一部の開発案件で技能労働者確保困難のため契約に至らない声はあるが、実情は工期や請負代金などの発注条件が市場の実勢に即していないために契約に至らないということ
・建設投資額は1992年がピーク。技能労働者は408万人だった。現在は304万人で25%減少し、建設投資額は実質40%減少している。施工余力が厳しくなっているということはない。
技能労働者の減少を上回る建設投資額の減少で、施工余力が厳しくなっているということはないという主張だが、比較対象がバブル期の1992年で、現状を反映したものとは言い難い気がする。
一方で、工期や請負代金などの発注条件が市場の実勢に即していないために契約に至らないケースがあるというのも事実だろう。
こういう視点があることは覚えておきたい。