大阪で大規模なノロウイルスの食中毒事案が起きた。
事件の詳細はリンク先その他を確認してもらいたい。被害数百人という規模の大きさと、感染ルートがパンの配送時らしいということで話題になっている。詳細はわからないが、よく特定できたなというのが僕の率直な感想。僕は給食業界で働いている。過去に一度、ノロウイルス食中毒事故の処理に関わったことがある。苦い思い出だ。だからノロウイルスのニュースに触れるたびに当時を思い出してやりきれなくなる。
給食業において感染力の強いノロウイルスは厄介な相手だ。相性は最低だ。なぜかというと給食は大量調理だから。調理・盛付・提供といった各工程を一度に大量かつ集中的に行うため、各工程のどこかに感染者が関わっていたら一気に感染が拡大してしまう可能性がある。今回の事案のパンの配送工程のように。ノロウイルス対策は衛生管理(食品の保管や調理工程の管理)というよりは、給食に関わるスタッフの健康管理の問題だ。そのため、厳密にノロウイルス対策をするなら、厨房スタッフ全員、納品業者から配送業者まで給食に関わる人間の健康管理はもちろん毎日ノロウイルスの検査をしなければならない。症状の有無で検査の有無を判断できない。なぜなら保菌していても発症しない人もいるため。対象者は全員にならざるをえない。コスト的にも実務的にも関係者全員検査は難しい。また、感染が判明したときの欠員の補充の問題もある。残念ながらノロウイルスに対して給食は脆弱だ。運まかせになってしまう。今回の事案の業者も避けられなかったのではないだろうか(体調不良を隠していたら問題外だけれど)。とにかくノロウイルスは給食との相性が悪い。厄介だ。
給食業者側に責任があるという前提で話をしている。通常の食中毒ならそれでいいが相手は強力な感染力とややこしい感染経路のノロウイルスだ。そうはいかない。提供される側、つまり客に感染者がいても一気に蔓延してしまう。たとえば、社員食堂ならトレイを持って並ぶ列のなかに、学校給食なら配膳当番のなかに、誰かひとりでもノロウイルスに感染したら関係者全員が感染するかもしれない。会社や学校にいる何百人を、全員を対象に毎日ノロ検査は現実的ではない。体調不良者を休ませるくらいしか防衛手段がない。
問題は給食提供される側に責任があったとしても、ノロウイルス感染事案が起きると、まず給食を提供する側が疑われる点にある。感染ルートが不明の段階でもニュースになれば給食業者が疑われる。特に学校給食はニュースになりやすい。原因不明の段階で会社名が出てしまったらイメージが最悪で、のちに食中毒でないという判断が出ても、取り返しがつかない。リスクが高すぎて薄利に見合わないとして撤退する業者が出てきてもおかしくない。厄介だ。
以前勤めていた給食会社で、ノロウイルスの対応をしたことがある。給食を受託していたとある老人ホームでノロウイルスの感染が発生したのだ。そこは利用者が食堂に集まって食事をする方式だったこともあって一気に感染が広がってしまった。施設利用者、施設スタッフ、それから僕の会社の厨房スタッフ、施設全体で感染者が出た。保健所の指導で厨房スタッフが隔離されて、本社からスタッフが派遣された。僕もその一人だった。
まず、厨房と食堂を消毒した。入居者の食事提供は止められないので、別の事業所で調理した食事を使い捨て容器に盛り付けて、施設スタッフ、施設利用者と接触しないように食事提供を行った。一週間弱これを続けた。どこで感染したのかわからないが、途中で感染して離脱する者も出た。僕も最終日に離脱した。ノロはどこからやってくるかわからない。ちょっとした地獄だ。結局、感染源は特定されずに不明となり食中毒事故ではないという判断が出た。しかし世の中に知られてしまったのでノロウイルス食中毒事故を起こした業者というレッテルを貼られてしまった。かなり後になって問題発生前に、老人ホーム側に体調不良者が数名いてその人たちが食堂を利用していたことが後からわかったけど後の祭りである。
なお、ノロウイルスの感染力や感染ルートが大きく取り上げられたのは、2006年12月に、東京都豊島区内のMホテルでおきた集団感染事案だろう。IASR 28-3 ノロウイルス, 胃腸炎集団発生ホテルの宴会場が現場ということもあり当初は食中毒として報じられたけれども、実際には外部から持ちこまれたものされた事案だった。利用客の嘔吐からの空気感染が話題になったので覚えている人もいるのでは?
ノロウイルスは、衛生管理が完璧であっても、提供までの過程でノロウイルスに触れてしまえば感染して事故につながる。飛沫感染にくわえて空気感染もするのだからどれだけ徹底しても守りきれない。ノロウイルスを持ち込んだものが給食提供する側なら食中毒事故とされ、そうでなければ食中毒事故にならない。それだけだ。たとえ食中毒扱いされなくても、給食業者側のグレーなイメージは払拭できない。
結局、先ほどの老人ホームは感染ルートが特定されず食中毒事故ではなかったけれども、それが原因で契約更新はされなかった。施設側は給食会社に責任を取らせて体面を保ったのである。まあ、それも給食を委託に出すメリットだから仕方ない、リスクマネジメントだよね、と理屈では分かっているけど釈然としないものがあった。だから僕はノロウイルス食中毒のニュースを聞くたびにやりきれないのだ。

というわけでノロウイルス関係のニュースに対して「食中毒!」と条件反射するのではなく、続報を待っていただきたい。ノロウイルスに感染すると本当にきつい。離脱した僕はトイレに籠りきりになったよ。ロケットのような勢いの下痢っぴーで月まで飛べるかと思ったくらいだよ。気を付けようね。(所要時間28分)給食業界についてはこの本で詳しく書きました。