
僕は食品会社の営業部長だ。長年、営業をしかける側にいたけれども、管理職になってから営業を受ける側になる機会が増えている。僕が勤めている会社は業務用食材事業と給食事業の二つを柱にしている。食材商社や衛生機器やオフィス機器を扱う業者から営業を受けることが多いが、最近はコンサルの営業が増えている。ほとんど金融機関出身の会社上層部からの紹介である。つまり業務命令だ。
先日、とあるコンサル事務所から革命的な提案をしていただいたので、人類の資産とするため、ここで共有したい。当該コンサルの詳細については差し控えるけれども、金融機関出身の代表者、つまり当社上層部の後輩が設立した事務所で、特に強みや特徴はないが、業績は上々でさらに事業の拡大を図っているらしい。面談前に当社の業績をあげるための簡単な提案を求めておいた。テーマがあるほうが話を進めやすいからだ。
やってきたのは若いスタッフだった。年齢は30歳前後。20代後半かもしれない。僕が聞きたかったのはウチの会社をどうサポートして業績を伸ばしてくれるのかという当たり前の話である。コンサル君は「ではいくつか確認させてください」といって会社名、社歴、事業内容といった事前にホームページで確認できる項目を僕に質問した。先端のコンサルなので、先入観をもたないアプローチなのだろうと好意的に解釈した。それから、課題を教えてください、というので、すでに伝えてあるはずの要望を伝えると「事業拡大に苦労……中小企業ではよくある問題なので特に難しくありません」と言い切った。なんかムカついた。
コンサル君は、現在事業展開していないエリアで、これまでアプローチしてなかった対象にコンタクトしましょう、と当たり前のことを口にした。まさかそれで金を得られると思ってはいないよな…僕が真顔になっているのを、良い感触と受け取ったのだろうね、コンサル君は話を続けた。成約率を高めるためにあらゆる施策を実施します、というのでその内容についてたずねると「機密事項なのでご契約後に開示します」とコンサル君は答えた。先端のコンサルは秘密主義なのだね…好意的に解釈した。当社の規模では全国展開は困難であること、給食を一般家庭に持ち込むのは現実的ではないこと、を指摘すると「固定概念を破壊しましょう。私たちの若い発想力とイマジネーションをリソースにしたソリューションで解決します」とコンサル君は頭痛が痛い的な日本語で答えた。具体的な話が皆無なので、すでに僕の気持ちはアリューシャン列島あたりに飛んでいた。コンサル君は「圧倒的なスピード感」「劇的な変化」「キャスティング・ボートを離さない政治力」「革命的なソリューション」「AIと人間の共鳴による未来創造」「目標達成を続けることでしか得られない継続的達成感の獲得」「驚異的な成長」などなどのカッコいい言葉を混ぜてトークを続けて最後に「私たちは『共創』を再定義した、共に奏でる『共奏』を掲げています」といって演説を終えた。きっつー。来客スペースは沈黙が訪れた。しんとして耳が痛いほどでした。
要するに任せてくれれば成果を出しますということらしいが、よくわからない。「数字で定量的に示してください」と依頼すると、コンサル君は「圧倒的なので数字で表せません。数字で示したら、それを上限に成長が止まってしまいます。部長、可能性に限界の壁をつくるのはやめましょう。御社には無限大の可能性があります」などとワンダー理論を持ち出してきたので、僕も超人的決断力を発揮して交渉を打ち切った。最後に「営業は話をする仕事ではなく、相手の話を聞く仕事だよ。話を聞いて相手が求めるものを判断して最適解を出していく仕事だよ」とだけ言わせてもらった。
コンサル君からは「部長との面談でさらに成長することができました。この成功体験を還元して御社との圧倒的な喜びに繋げたいと思いますので改めてお伺いしたいと思っております」というメールが届いた。返事は出していない。いうまでもないがコンサルはピンキリである。競争が厳しく、経営をサポートして顧客の倒産を回避するはずのコンサルが倒産している。中小企業は余力がない。契約するためには、金を払う価値のある提案とそれを支える理屈を示して、かつ実績が伴わないと難しい。中小だからといっていいかげんな営業をかましているようなところは淘汰されていくだろう。コンサルの皆さんには、イノベーションで革新した革命的でレボリューションなソリューションで諸問題を解決して、厳しい時代をサバイブして生き残ってもらいたいものである。(所要時間25分)
