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読書メモ「自閉症という知性」

池上英子「自閉症という知性」

第三章「自閉症こそが私の個性」より。

 

自閉症という知性 (NHK出版新書 580)

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二十代後半でアスペルガー症候群と診断された、コラという女性のエピソードについて。

 

彼女は、ABA(応用行動分析)に基づくセラピーを、自閉症児に強制することを、強く批判している。

 

アメリカでは、ABAセラピーは保険がきくため、セラピストの多くがABAの看板をあげているけれども、セラピストによって、取り組みに温度差がある状況のようだ。

 

子どもの気持ちや人権を尊重するセラピストもいれば、子ども自身の特性の違いに目を向けず、週40時間の画一的なプログラムを押し付けるセラピストもいるのだろう。

 

うちの息子(26歳・重度自閉症)も、二歳のときからABAの療育教室に通い始め、特別支援学校の高等部卒業後も、しばらくお世話になっていた。

 

途中、私が大病で入院したときと、末っ子を出産するので数ヶ月間お休みした以外は、週一回から二回、セラピーを受け続けた。

 

その効果がどれほどのものだったかを、客観的に語ることは難しい。

 

全く効果がなかったとは言えない。

けれども、明確にABAのカリキュラムによって改善し、効果的に習得したといえるスキルは、残念ながら、あまりなかった。

 

たとえば、目の前に、りんごとみかんの模型を置いて、「みかん取って」という指示に従い、みかんを手に取りセラピストに手渡すという練習。

 

幼児期の息子は、「〜を取って」と声をかけられると、自分の右側に置かれたものだけを手に取った。

 

数年に渡って練習しても、指示されたものを取ることのできない状態が続いた。

 

左側のものが目に入らないのか。

あるいは左側に腕を伸ばそうとしても、意志に反して右側に腕が伸びてしまうのか。

 

その両方だったのかもしれないと、後になって思った。

 

脳梗塞の方が、病後に高次脳機能障害となった場合、幼少期の息子のような症状が出ることがあるという。

 

目の前にあるものを手に取ろうとしても、全く違うものを掴んでしまうのだと、実際にその障害を持ってしまった友人に聞いた。

 

目と手の動きの供応。

あるいは、視覚情報を元に行動を組み立て、実行する機能。

 

幼少期の息子が、そのいずれかに障害を受けていたとするなら、目の前にある果物の模型のなかから、みかんを選んで手に取り、セラピストに手渡すという行動は、ラクダを針の穴に通すレベルで困難だったことだろう。

 

当時息子を見て下さっていたセラピストさんは、高次脳機能障害の詳しい専門知識を持っておられなかったと思う。

 

もし、そちら方面の知識をお持ちのセラピストであったなら、捗々しい効果の見えないレッスンを早々に切り上げて、損傷している可能性のある脳の部位を推定した上で、より効果的なリハビリや、行動の不具合を回避するための方策を考案してくださったかもしれない。

 

26歳になった息子は、スーパーの買い物に付き合ってくれた時に、「牛乳取って」と頼むと、「おしまい!」と断ってくる。

 

断る理由は、肥満していた頃に、牛乳を大量に飲んでいたから。過食を絶って痩せることを自分で決意した息子は、かつて、見ただけで飲みたい、食べたい衝動にかられる飲食物の購入を、親にも許したくないらしい。

 

それでも、「お料理に使うから」「他の家族が飲みたがっているから」と丁寧にお願いすれば、息子はしぶしぶ牛乳を手に取ってカートに入れてくれる。

 

机上の訓練では、目の前の物を思うように手に取れなかったけれども、生活の中で、右腕だけでなく、身体を大きく動かし、あるいは物から距離をとって視野を大きく広げることで、指示された物に焦点を当てて把握し、きちんと手に取って渡すことが出来るようになったのだ。

 

ABAのレッスンによって、長年に渡って与えられ続けた、膨大な失敗の経験は、「そのやり方じゃダメだ」と自力で悟るきっかけになったという意味で、おそらく息子の糧にはなったと思う。

 

息子のなかの自閉症の知性が、応用行動分析に勝利したのだと、私は思っている。

 

 

 

 

 




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