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息子の小脳


2005年12月16日

息子(7歳・重度自閉症)が、体の動きをうまくコントロールできない理由の一つは、小脳の未発達によるものなのだろうと想像している。

 

二歳の終わり頃、息子は何日もかけて、脳の検査をたくさんうけた。

 

お医者さんは、息子の頭蓋骨を開いて中の様子を調べたがっていたのだけれど、そのためには家から遠いところにある病院に一ヶ月も入院しなければならず、その間、ほとんど会うこともできなくなってしまうというので、悩んだ末に断った(悩んだ時間は三十秒ほどだけど、日本海溝の底まで自力で沈んだようなクオリアのある苦悩であった)。


だから行われた検査は、脳を開かずに済むものばかりだったのだけれど、それでも、息子の脳にはかなりの「異常」がみつかった。

 

その中の一つが、小脳のサイズが通常の半分ほどしかない、というものだった。

 

小脳は、運動を制御する働きをしていると言われる。体のバランスを整え、あらゆる動きをスムーズにすることに、小脳は深く関わっている。また、自分の体と、触ろうとする物の位置や距離関係を把握したり、発音や排尿などをコントロールする役割も持っている。

 

脊髄小脳変性症という病気のために小脳がひどく壊れると、言葉のろれつが回らなくなり、立って歩くことすら難しくなるという。


自閉症の人の脳を調べると、なぜか小脳に萎縮が見られる場合が多いらしい。自閉の子は、歩き方にどこか奇妙なくせをもっていたり(例えば、映画「レインマン」のレイモンドの歩き方を思い出してみてほしい)、体全体の動きに、なめらかさや優雅さとは対極の、独特の機械的なパターンを感じさせることが多いけれど、もしかしたらそうしたくせやパターンは、小脳の異常に由来するものなのかもしれない。

 

 

レインマン (日本語字幕版)



幼児期の息子が、肩よりも高い位置に腕を上げることをしなかったという話を、以前書いたけれど、腕の運動については、他にもいろいろな奇妙さを抱えていた。

 

たとえば、離れたところからボールを投げられても、受け止めることができないばかりか、全く腕を動かそうともしなかった。ボールは大好きで、手に取りたくてたまらないはずなのに、飛んでくるボールに手を伸ばすことができないのである。

息子は、ボールが地面に落ちて完全に静止するまで待ってから走り寄って、ようやく手を伸ばすのだった。

 

おそらく息子は、動きながら接近してくるものとの位置関係を把握することができなかったのだと思う。そして、ボールの動きを予測して、それに合わせて両腕を伸ばし、キャッチするという一連の行動の組み立てを行うことも、できなかったのだろう。

 

腕の問題だけではない。息子には、動いているものをうまく視野に入れるということも、難しいようだった。物の動きにあわせて、首や眼球を動かすということすら、たいへんな難行だったのである。

 

末っ子(乳児)成長を見ていると、息子の抱えていた問題の深刻さが改めて感じられる。現在生後十一ヶ月の末っ子は、ボールが床をころがってくれば、すばやく腕をのばし、ハイハイで体を移動しながら、上手にさわろうとする。目の動きと腕の動きの連携は非常になめらかで、迷いなどどこにも感じさせない。


乳児でも簡単にできるようなことが、息子には、三歳になっても四歳になっても、満足にできなかったのである。

 

それでも、私は「きっとなんとかなる」と思っていた。インターネットだったか養老孟司の本だったか忘れたが、病気で小脳をほとんど全部摘出しちゃった人が、日本舞踊の師範として活躍しているという話を読んだからである。その人は、小脳が行うべき運動の制御を、大脳に肩代わりさせることによって、生涯優雅に踊り続けたのだという。それと同じように、小脳の小さい息子も、可塑性のある幼児期のうちに、大脳をうまく活用することで、なんとかうまく運動能力を身につけられないかと思ったのだ。


四歳半ごろ、息子は脳のCTを撮った。前回の撮影から二年たち、何か良い変化が生じていないだろうかと期待して受けた検査だった。


けれども、その結果わかったのは、脳の表面にあんまりシワがないということと、前回小さかった小脳が、だいぶ大きくなっているらしいということだった。


このときに私が受けた衝撃のクオリアを何かに例えて言うとするなら、宇宙船の空調設備がぶち壊れて船内がどんどん絶対零度に近づくなか、やむにやまれず百円ライターで暖を取った、というところか。

 

脳の表面にシワがないというのは、大脳白質の著しい発達の遅れがあることを示しているという。医師の話では、そうした異常は胎児期の何らかの事件によって引き起こされた可能性があり、生後の回復はまず不可能とのことだった。


期待をかけていた大脳がダメダメな状態にあると分かったことは、さすがにショックが大きかった。けれども、小脳が大きくなりつつあるというのは、ささやかながらも朗報であり、息子の状態改善の可能性を思い描く手がかりを与えてくれるものでもあった。

 

その後、医師と相談して、息子に「甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン」なる物質を注射する試みをしてみたことがある。

 

早口言葉のネタになりそうなこの薬品は、小脳の働きを一時的に高める効果があるのだそうで、脊髄小脳変性症の患者さんの場合だと、全く動けない状態だったのが、注射してすぐにスタスタ歩いたりする場合もあるという。息子にこれを注射して、三十分から一時間ほど様子を見るということを、数回試みたのだけれど、変化はほとんど見られなかった。

 

それ以来私は、息子の小脳の奇形に強くこだわることをやめた。なぜだか分からないが自然に大きくなっているらしい小脳の力を信じようと思ったのだ。そのかわり、シワの少ない大脳のほうへと治療教育攻撃のターゲットを移すことにしたのだった。

 

 

⭐︎過去日記を転載しています。

⭐︎転載日…2025年1月24日。

 

 

 

 

 




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