評判だった本を読んでみた。考えてみれば当たり前なんだけど、こころのケアを必要とする人であっても、専門家に頼ることができる時間はきわめて限られていて、家庭でも職場でも、自分のような素人がなんとか一緒にやっていかないといけない。その手引きとして、さまざまな理論と実践を紹介してくれている。
こころのケアに関する理論というのがどれくらい科学的なものかはわからないけれど、こういう切り口でみると現象を説明できる、というようなものなんだろう、と受け止めました。 たとえば、これまで、怒っている人と接すると、自然とこちらも引っ張られて嫌味をいったり挑発してしまいがちだったのだけど、これを、「転移」という理路で説明し、そういうものだということと、PSポジション(paranoid-schizoidの略で、日本語にすると「妄想─分裂」)で人の感情が極端になることがある、ということを知って、ちょっと冷静に受け止めることができるような気がしてきています。
「雨の日」が、精神科医にかかるべき状態なのかどうかの判断はできないままでよいのか、とは気になった。ただ、晴らす方法を書いた本ではなく、身近な人が雨の日に入ってしまいうる現代社会で、それに向き合い続けるための心構えとして有意義なようには思えます。
いくつかメモ
ケアとは何か。一言でズバリ答えましょう。 ケアとは傷つけないことである。 (中略) ケアとはニーズを満たすことである。(中略) ニーズを満たすとはそういうことだと思います。相手が必要としていること、相手の負担になっていることを肩代わりする。 肩代わり。これを次のように言い換えることができます。 ケアとは依存を引き受けることである。
はい。
セラピーとは傷つきと向き合うことである。(中略) ケアがニーズを満たすことだとすると、セラピーではニーズを保留にすることで、変化を狙っています。 セラピーとはニーズを変更することである。(中略) ケアなしでのセラピーは暴力になる 仮病を使う時点で、こころの具合が悪いんですよ。 学校が楽しくて、健やかな気分で過ごしていたら、仮病なんか使わないじゃないですか。うつっぽくなっていて、元気が出ないから、仮病を使うわけです。
ここの加減はむずかしい。
ひきこもるって、一見おとなしく見えるし、あまり破壊的じゃないように思われるかもしれないのだけど、実は非常に攻撃的です。というのも、周りとのつながりを遮断しているからです。(中略) ケアが難しくなるのはこういうときです。なんとかつながろうとしているのに、相手はひきこもってしまっている。関係性がどんどん遮断されていき、こちらのケアしようとする気持ちも冷たく死んでいく。 孤独に触れると、こちらも孤独になります。孤独は連鎖する。そういうとき、ケアは危機に 瀕するし、ケアする人をケアすることが必要になる。 だけどね、タナトスとの出会いは不可避だと思うんです。 孤独になっている人とつながりを作っていくのが雨の日のケアだからです。
しかし遮断していくひとをケアしつづけていくのはむずかしい・・・。これについて本書では、聞く技術として触れられている。徒労感が積もってきて難しいんだけど・・・
「気まずい」と感じていること自体がコミュニケーションです。話しにくいことがある、言葉になりにくいことがある、という不安を伝えているわけです。だから、その不安をぐっと我慢する。何がそんなに不安なんだろうって考えておく。その間に、こころが少しずつ消化されて、言葉になっていく。 沈黙は金。でも、そんなに難しくないから、安い金です。ただしゃべらなきゃいいだけ。それだけで相手の話を、今よりもずっと聞けるようになりますよ。 でも、五分くらい沈黙が続いたら、ちゃんとしゃべりましょうね(笑)。 それはそれでケアです。相手としてはしゃべってもらった方が気が楽なときもありますから。「気まずい沈黙だったね」とか言ってみたりしてもいいかもね。ケース・バイ・ケースなんですよ。雰囲気を見て考えましょう。
はい。
転移とは話をきいてもらっているうちに、相手との人間関係にもともとあった困りごとが再現されてしまう現象のことです。 たとえば、誰かに恋愛相談をしているうちに、その人のことを好きになってしまう。 あるいは、「上司からひどいことされている」と相談をしているうちに、目の前の相談相手からもひどいことをされているような気持ちになる。 僕らの人間関係というものが、過去の繰り返しであるということです。(中略) ちなみに、これの逆バージョンが逆転移です。 患者が治療者に対して抱く感情を転移だとすると、逆転移というのは治療者の側に起きてくる感情の変化です。つまり、ケアする側がいろいろな気持ちになってしまうのが逆転移。 たとえば、冷たいお父さんの話を後輩がしている。そういう話をきいてるうちに、「こいつ勝手なことを言うなぁ」とか「子どもっぽいよなぁ」と、友達に対して冷たい気持ちになってくることがある。あなた自身が冷たいお父さんのようになってしまうわけです。
これはかなりある・・・。
聞く技術と聴く技術の高難易度テク、参考になります。
最後に、聞く技術の中では一番難しいやつを紹介しようと思います。 スルーしたい話ほど勇気を出す。これです。 どういうことかというと、会話してて、「ん?」って思うような一言が挟まることってあるじゃないですか? 話の本筋には影響ないから、そのまま流れていっちゃうんだけど、でも違和感のある言葉がぼそっとつぶやかれることがある。
これはある程度できそうかなあ。
最後に、聴く技術の一番難しいやつを紹介しましょう。 自分たちの関係性について話してみよう。これは最高難易度のプロの技です。 たとえばですよ、恋愛相談を受けているうちに徐々に相手が自分に対して恋愛的な好意を向けていることを感じるようになったら尋ねてみる。 「私のことを好きになってて、困っていない?」 破壊力あるでしょ? 関係が一気に緊迫します。(中略) あるいは、母親の介護をしていて、相手がイライラし始めているのがわかったときに、「俺に怒ってるんだと思うけど、どんなこと考えてるの?」と尋ねてみる。これも緊迫しますね。 なんでもいいんです。好きでも嫌いでも、尊敬でも軽蔑でも、目の前の関係性に宿っている気持ちについて話してみる。
これは勇気がいるけれど使えそう。
あと、語りがうますぎる。 笑ったのは、著者が心理学を学んでいることに対して、
「こころ読めるの?」って聞かれたら、「読めるよ、当たり前じゃん」が正解です。 すると、相手は「じゃあ俺が今考えてること読んでみてよ」みたいな感じでニヤニヤしながら言ってくる。 そこで「今俺がこころ読めないと思って、若干馬鹿にしてるよね」って言ってあげると、「ほんまやん! 心理学やばいわ!」となって、飲み会が盛り上がってくるわけ。
と書いていること。さすがすぎるけど、これツッコミ側もいい。