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問い合わせに答えても困りごとは消えない - CRE の課題整理の考え方と Agent Skills への展開

こんにちは、クラウドサインで CRE(Customer Reliability Engineer)をしている藤谷です。

顧客から問い合わせが来るとき、その文面には本当の困りごとが書かれていないことが多いです。対応して答えを返す。でも同じような問い合わせが繰り返される。

問い合わせに答えることと、困りごとを解決することは別の話だからです。

CRE の仕事では、目の前の質問に答えるだけでなく「なぜその問い合わせが生まれたか」まで追いかけます。その起点となるのが、課題整理です。

課題整理の質はばらつきがちです。「WHAT は言えるが WHO が曖昧」「問題は見えていても言語化できない」など、詰まりやすいポイントは人によって異なります。個人の感覚に任せていると、同じ困りごとを前にしても、チームの見立てがばらけます。

今回は、私が CRE として課題整理に使っている考え方と、それを社内ガイドや Agent Skills に展開した話を紹介します。私自身、課題整理が難しいと感じる場面も多いので、あらためて整理してみました。

なおクラウドサインの CRE が Agent Skills を活用している背景については、以下の記事も参照してください。


課題整理の難しさ

例えば、問い合わせ対応完了後の振り返りを考えてみます。

今月、申込画面に関する同種の問い合わせが 5 件来た。対応はすべて完了している。でも「これを改善につなげたい」と思って Jira に起票しようとしたとき、手が止まります。

「問い合わせが多い」とだけ書いても課題にはなりません。この時点では、次のような情報が整理されていないことが多いからです。

  • 誰が困っているのか
  • 何が起きているのか
  • どんな条件で起きるのか
  • 放置すると何が困るのか
  • その主張を裏づける証拠はあるのか

これが整理されないまま「では画面の文言を直しましょう」と話を進めると、解決策が先行してしまいます。CRE として本当に見たいのは「何を直すか」ではなく「どのギャップが、誰に、どんな影響を与えているか」です。

整理の観点が人によって違うと、同じ問い合わせをもとにしても「文言の問題」と整理するメンバーと「フロー設計の問題」と整理するメンバーが出てきます。どちらも完全な誤りではありませんが、観点を揃えておくと議論がしやすくなります。


課題整理で起きやすい3つの混線

課題整理でハマる3つの混線
課題整理でハマる3つの混線

実際に整理していく中で、特に混線しやすいポイントは 3 つありました。

「困りごと」と「解決策」が混ざる

問い合わせの内容をそのまま課題にしてしまうケースがよくあります。

「CSV 一括登録を作ってほしい」という問い合わせが完了した後、Jira に起票するとします。タイトルは「CSV 一括登録を実装する」。やることは明確に見えます。ただ、本当に見たいのは、その手前です。

  • 誰が
  • どの業務フローで
  • どの作業に時間がかかっていて
  • 何がつらいのか

解決策から入ると、課題のスコープを狭めてしまいます。「反復的な登録作業が月初業務を圧迫している」ことも「入力ミスが多くて手戻りが発生している」ことも考えられます。

事実と仮説が混ざる

もう 1 つ多いのが「問い合わせが多いのは文言がわかりづらいからだ」といった整理です。

これは、途中までは正しいです。ただし厳密には、次のとおりです。

  • 「問い合わせが多い」は事実
  • 「文言がわかりづらい」は仮説

この 2 つを混ぜると、議論がぶれます。対策の優先度も、根拠の強さも、曖昧になってしまうからです。

強い主張ほど、強い証拠が必要です。この原則を守るだけでも、課題整理の精度はかなり変わります。

例えば次のように整理できます。

  • 事実:「今月、同種問い合わせが 5 件あった」
  • 仮説:「文言の曖昧さが誤認を招いている」

このように分けて書くだけで、次に何を確かめるべきかが明確になります。この場合、次に見るべきなのは、問い合わせ原文や該当画面の文言です。

問題と影響が切り離される

「手順が曖昧」「説明が不足」「仕様が複雑」といった表現は、現象としてはわかります。ただ、それだけでは「なぜ重要なのか」が伝わりません。

だから私は、課題タイトルも含めて 「現象 + 影響」 で書くことを重視しています。

例えば次のような違いがあります。

  • 悪い例:「エラー通知の不明確さ」
  • 良い例:「不明確なエラー通知が原因特定を阻み対応に時間がかかっている」

課題整理は、単に文章を整える作業ではありません。その課題に今向き合う価値があるのかを、チーム全員が瞬時に判断できるよう整える作業だと考えています。


課題整理の考え方

私が課題整理をするときに使っている観点です。

最低限そろえる4つの観点

まず、課題整理の入口では次の 4 つをそろえます。

  • WHO:誰が困っているのか
  • WHAT:何が起きているのか
  • 影響:放置すると何が困るのか
  • 発生条件:どこで、いつ、どんな条件で起きるのか

一見すると当たり前ですが、実際にはこれだけでもかなり強いです。特に「発生条件」を入れることで「全ユーザーが常に経験する問題」なのか「特定条件でのみ起きる問題」なのかを切り分けやすくなります。

事実・証拠・仮説・未確認事項を分ける

そのうえで、記述を次の 4 つに分けます。

  • 事実
  • 証拠
  • 仮説
  • 未確認事項

優先度も「証拠込み」で判断する

さらに、優先度を決めるときも、感覚ではなく観点をそろえました。

  • 影響度
  • 頻度
  • 回避可能性
  • 根拠

例えば、問い合わせ件数が少なくても、業務停止や信頼低下につながるなら優先度は上がります。逆に件数が多くても、軽微で運用回避が容易なら、必ずしも最優先とは限りません。

ここで重要なのは「根拠」も優先度判断に含めることです。証拠が弱いなら、優先度の置き方も慎重であるべきだからです。


例えば、こう整理すると見え方が変わる

先ほどの問い合わせ対応後の振り返りに戻ります。

「CSV 一括登録を作ってほしい」という問い合わせが完了した後、この状況を起票するとします。

入力(問い合わせ原文)

「CSV 一括登録を作ってほしい」

この一文だけでは整理になりません。ここからヒアリングで情報を補います。

ヒアリングで確認した情報

  • WHO:ユーザー管理を担当する管理者
  • WHAT:月初に新規ユーザーを 1 件ずつ手入力している
  • 発生条件:月初のユーザー登録作業時のみ
  • 影響:毎月月初の業務が 2 時間程度圧迫されている
  • 証拠:担当者ヒアリング(件数・ログは未確認)

整理後

  • 問題定義:管理者が月初に新規ユーザーを 1 件ずつ手入力しており、毎月 2 時間程度の定常コストが発生している
  • 課題:手作業を前提とした登録フローが管理者の月初業務を恒常的に圧迫している

「問題定義」は起きている事象の記述で「課題」はその構造をテーマ化したものです。問題定義が事実ベースであるのに対し、課題は「なぜ繰り返されるか」という構造的な視点を含みます。

「困りごと」から「問題定義」への変換プロセス
「困りごと」から「問題定義」への変換プロセス

ここまで整理できると、議論の幅が変わります。

  • 本当に必要なのは CSV なのか
  • 既存機能の組み合わせで回避できないか
  • そもそも入力作業そのものを減らせないか

といった話ができるからです。

CRE が見たいのは「ほしい機能」ではなく「解決すべきギャップ」です。


課題整理から改善検討・タスク化まで一貫してつなぐ

課題整理の考え方を整理していくと、課題整理の出力を使い捨てにしないことが大事だと気づきました。課題整理・改善検討・タスク化のそれぞれで書き方が変わっていては、せっかく整理した内容が途中で崩れます。

私は最終的に、課題整理の出力を起点にして、次のような流れでつなげています。

  1. まず問題定義を作る
  2. その出力をもとに、改善候補の検討につなげる
  3. さらにそのまま、必要なタスク化につなげる

つまり「課題整理」と「改善検討」と「タスク化」を別々に文章化しないようにしました。

これをやる前は、同じ内容でも次のように書き方が変わりがちでした。

  • 課題整理の場では別の言い方
  • 改善を検討するときは別の切り口
  • タスク化するときはまた別の書き方

AI に渡すときも同じです。最初に問題定義へ整理してから AI に渡すと、AI は「自由に作文する」のではなく「この枠の中で考える」状態になります。これにより、AI の出力も以前より安定しやすくなりました。

例えば、同じ問い合わせに対して「機能不足」と書く回と「運用の迷い」と書く回が混在していた場面でも、問題定義を通したあとは「誰が」「何に困っているか」を起点に整理されやすくなりました。

そうすると、途中で余計な解釈が増えにくくなり、真因から遠ざかりにくくなります。

これは AI 活用の話であると同時に、チームの認識コストを下げる設計の話でもあります。


Agent Skills として実装した problem-framing

課題整理の考え方を整理した後、私はこれを Agent Skills として実装しました。スキルの名前は problem-framing です。

なぜスキル化したか

課題整理は、慣れている人とそうでない人で質が大きくばらつきます。「WHAT は言えるが WHO が曖昧」「問題は見えていても言語化できない」など、詰まりやすいポイントは人によって異なります。

スキルがやっていることは、このガイドに書いてある「聞くべき問い」を順番に投げて整理を手伝うことに過ぎません。事実を知っているのも、現場の文脈を持っているのも自分自身で、AI が代わりに考えることはできません。ただ「何から聞けばいいかわからない」「整理しようとしたが散らかった」というときに、壁打ち相手として使うのが一番効果的です。

ワークフロー

スキルは次のような流れで動きます。

  1. 断片的な「困りごと」を受け取る
  2. 論点を分類(顧客影響 / 社内運用 / 障害再発 / 要望整理)
  3. WHO / WHAT / 影響 / 発生条件の 4 点が揃うまでヒアリング
  4. 事実・証拠・仮説・未確認事項を整理
  5. 浅い点があれば深掘り技法で掘り下げ
  6. 1 文の Problem Statement を生成
  7. 課題タイトルを導出
  8. 構成テンプレートに出力

スキルの動き方
スキルの動き方

深掘り技法

4 点が揃っていても、内容が浅い場合はそのまま先に進みません。状況に応じた技法で掘り下げます。

Critical Incident —「いつも〜」「よく〜」という一般化に対して、最後に困った具体例を引き出す。

「最近これで実際に困ったのはいつ?そのとき何が起きた?」

JTBD(Jobs To Be Done) —「〜がほしい」という解決策要求から、本当の目的を引き上げる。

「この問題が解決されると、最終的に何が達成できる?」

5 Whys — 原因仮説が表面的なとき、根本原因を見極めるために「なぜ」を繰り返す。

例:「メールが届かない」→「送信元設定が誤っている」→「設定変更時の確認手順がない」

深掘りは最大 2 往復まで。それ以上は「〔仮説〕」と明記して先に進みます。

出力フォーマット

スキルが生成する出力は次の形式です。

## 問題定義

{1文の Problem Statement}

- WHO: {誰が}
- WHAT: {何が起きているか}
- 発生条件: {どこで・いつ・どんな条件で起きるか}
- 影響: {放置するとどうなるか}
- 証拠: {問い合わせ件数 / ログ / 具体例}
- 仮説: {現時点の見立て。断定しない}

---

## 課題

**{課題タイトル}**

- 優先度: {高 / 中 / 低}
- 優先度の理由: {影響度・頻度・回避可能性・根拠}

### 背景(事実)
{今どんな状態か。誰が・いつから・何が起きているか}

### 問題(影響)
{その事実によって何が困るか}

### 課題(取り組むべきこと)
{この問題に対して何に取り組むか。ゴールのイメージ}

### 未確認事項
{追加調査が必要な点。なければ省略}

使い方

「課題をまとめて」「何が問題かわからない」「モヤモヤしている」と話しかけるだけで起動します。断片的な情報でよく、AI が足りない部分を聞いてきます。


課題整理の責任は CRE が持つ

前の記事で書いたとおり、クラウドサインの CRE では問い合わせ対応で AI を活用しており、AI は関連するコンテキストをすべて持っています。AI に任せることは前提です。

ただ、AI に任せているからこそ、CRE 自身が課題を把握していることが重要になります。AI が出した問題定義や課題整理の結果に責任を持つのは CRE 自身だからです。

  • どのような問いを立てるか
  • どこまでを事実とみなすか
  • 仮説をどの粒度で置くか
  • 何をもって優先度を上げるか

こういった判断基準を自分が持っているからこそ、AI の出力をジャッジできます。基準がなければ、AI が出した整理がずれていても気づけません。

AI に任せる範囲が広がるほど、CRE 自身の課題把握の質が問われる。私は今回、そのことをあらためて実感しました。


まとめ

最後に、今回の話を 4 つにまとめます。

  1. 課題整理では「解決策」ではなく「困りごとの構造」から見る
  2. WHO / WHAT / 影響 / 発生条件に加え、証拠と仮説を分けて書く
  3. 課題整理からタスク化まで同じ出力でつなぐ
  4. その考え方を Agent Skills に実装し、AI との壁打ちで誰でも整理できるようにした

問い合わせ対応が完了したとき、それで終わりにするのか、改善につなげるかは、課題を正しく整理できるかどうかにかかっています。CRE として追いかけたいのは「今回の回答」ではなく「次に同じ困りごとが生まれにくい世界」です。

そのために、これからも課題の真因特定と整理の質を磨き続けていきます。




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