
拝啓 ロゴタイプ様
時候の挨拶から始めるべきとはわかっているのですが、実のところこれがいつ文として完成するのかがわかりません。渋谷の一等地に本拠地を構える暗黒巨大パブリッシャーの魔の手において、貴方が美少女の姿を得て、新しい世代にその雄姿、生き様を示さんとする時、これを公開すると決めているからです。
永遠に日の目を見ない可能性も低くはないと、そう感じています。そして卑怯者である私は、解釈違いの貴方に出会わなくて良かったと、ひどく拗れた言い訳と共に胸を撫で下ろすのです。ですから、割愛。レックスファームにおいて、いかがお過ごしでしょうか。
どこから話しましょうか。
貴方を見初めたのはテレビ越しで、この文章を書いている時から数えると、実に10年以上前のことになります。当時私は競馬を見始めてせいぜい2ヶ月、馬券など買えるわけもない年齢ですから、貴方がG1を制したことの意味*1などまだ一つも理解できず、しかしそれゆえに、強さだけをシンプルに受け取ることが出来たと記憶しています。
年は明け、スプリングSと皐月賞を連勝した貴方は間違いなく、「私の最強馬」でした。雛鳥が初めて見たものを親鳥と思うように、初めて見たクラシックホースを最強馬に違いないと思っていたのです。ダービーも当然制することになるのだと思いながら……そうはならなかった。
今でこそ競馬とはそういうものだと思うことが出来ますし、大変失礼ながら、ローエングリン産駒の貴方に2400mで本命を打つなんてことは、今の私はしないでしょう。そんな青いころの皐月賞馬だから、貴方は私の特別であり続けます。
そこからが長かったのは誰しもが知る通りです。
回ってくれば勝つと言われ勝てない。秋は反動で走れない。ジャスタウェイの後塵を拝し、村田一誠はもうこりごり*2。三浦。ルメール。G3。ダート。いずれもハマりきらず、しかし勝ちそうではありました。そしてやはり勝てませんでした。
そんな中でも貴方が集めていた支持は、ネタキャラ的な人気とも、ブロンズコレクター的な判官びいきとも、また少し違う毛色だったように思います。……貴方のファン層について話す上で、匿名掲示板の話を省くのは誠実とは言えないかもしれません。
現代、「ロゴタイプ民」という言葉をシンプルにネットスラング的な「民」の用法として捉える向きもあろうかと思われますが、ここにはそれなりの歴史的背景があります。貴方が皐月賞を制し、そしてダービーで敗れた2013年は、当時まさに全盛期の賑わいを見せていたなんでも実況Jにおいて、「正岡民」ネタが猛威を奮っていた時期にあたります。
つまりロゴタイプ民というのは「ダービー前に大言壮語でロゴタイプの優位性を主張し、キズナやエピファネイアを相対的に低く見て(挙句その二頭を本命にした者を煽ったりして)、結果で痛い目を見た正岡民」というニュアンスを多分に含む、原義は完全な蔑称であったと記憶しています。
そして私は、恥ずかしながらその一員であったわけです。当時G1くらいしか見ていなかった自分は、京都新聞杯からやってきたアイツなど文字通り眼中にありませんでした。本当にケツが青い。
そこからの長い低迷を経るうちに、「何度痛い目を見ても懲りずにレース前になるとロゴタイプ本命を主張する連中」という属性を帯び始めます。ダービーでの敗戦を境に連敗に入るも、走るたびに半ばネタの期待を一身に背負う、という属性の先達にはペルーサが。復活勝利を望まれ続けるクラシックホース、という属性の後進はマカヒキ、キセキがおり、それらが混然一体となって、競馬における「○○民」という語句が自然と波及していったのではないかと思います。
しかしまあ、匿名掲示板というのは良くも悪くもノリと勢いの集団ですから、そのうちどれほどが真に馬券で貴方を軸にしていたのかまではわかりません。……だからこそ、そういった吹けば飛んでしまうような匿名の熱量が数年間に渡って持続したのは特筆すべきことで、それを繋ぎ止めたのは貴方の走りに他なりません。
ソリッドな先行抜け出しのスタイルは、どんな格のレースでも直線半ばまで「今度こそは!」という期待を抱かせ、ライバルの強烈な差し脚にこそ屈するものの、見せ場を作って大崩れはしない。地味に見えて容易ではないレースぶりは、30戦ものキャリアを積みながら一度たりとも2桁着順が無いという、大変に稀有な記録に現れています。
そして……そんなフワついた期待を一身に担って走り続けた貴方が、16連敗の果てに、G1・安田記念の舞台で当時のアジア最強マイラー・モーリスを抑え込んで逃げ切り、完全復活を遂げたのですから、その時の「ロゴタイプ民」の狂喜も想像していただくことも出来るかと思います。当時のスレッドに多数アップロードされた、単勝36.9倍とは思えない量の的中報告。私がWINS後楽園で仕込み、その日東京ドームで大谷翔平が投げる姿に目もくれず、イヤホンを耳に刺して握りしめた単複。貴方への支持が決して悪ノリだけではなかったことの証左に他ならない。そう思っています。
その後も、その年の天皇賞(秋)、香港カップでの善戦。翌年の安田記念で見せた7歳馬らしからぬハイペースでの逃げと、驚異の粘り。現地で止まらなくなった膝の震えを、昨日のことのように思い出すことができます。ああ、我々が応援してきたロゴタイプは、本当は、本当に、強かったんだ。貴方が走るたびに私は確信を深め、文字通りの意味で報われていたのです。
貴方が競走馬としてのキャリアを終えても、この熱が冷めたことはありません。言うに及ばず、競馬は血を繋ぐスポーツだからです。
ラブリイユアアイズさんの鮮烈な登場と、ノド鳴りでの惜しまれる早期引退。ケイティマジックさんが繋ぐしかなかった長い長いトンネルの時期。ミトノオーさん・オメガギネスさん・ベラジオソノダラブさんが切り拓いたダート種牡馬としての道。ブルーミンデザインさん・ポワンキュルミナンさん・テクノデザインさんといった貴方と同じ勝負服が見せる活躍……
本当にここには書ききれないほどの沢山のワクワクを、そしてたまに払い戻しを、貴方の産駒たちの走りから受け取り続けています。勇往邁進。終わらない夢。このフレーズの通りの貴方の生き様に、勇気づけられる日々を送っているのです。
大変長くなりました。貴方に見惚れて10年以上経ちます、と書けば済むだけの話でした。しかし、この愛の形がみょうちきりんなことを誰かに見せつけたくて、貴方に知ってほしくて、大層早口でブツブツと書き連ねてしまいました。
これを書いている最中の私は、ウマ娘での貴方に正直怯えています。解釈違いが怖いからです。ビジュアルや声帯がブッ刺さりでなかっただけでも、ブツクサ文句を垂れてしまうかもしれません。あれだけ匿名掲示板の話に字数を割いておいて、貴方が猛虎弁なんかで喋ろうものならば、血管という血管をブチ切りながら奇声を上げ、渋谷の一等地に武装して突入してしまうでしょう。我ながら最悪ですね。
しかしきっと、貴方の走りの軌跡は、どのように味付けされたとしても、受け取る誰かの心を震わせる物語であると確信もしています。だから、どんな輪郭で貴方が貴女になろうとも、今日この日を心から祝福したいのです。
これまで貴方に貰った、両の手のひらなどには決して収まらないほどの私の感動が、このラブレターを覗き見している皆さんが貴女をお迎えすることで、一つでも多く共有できますように。貴方がこれからも、これまで以上に愛されますように。
そんな自分勝手な祈りをもって、一度筆を置きます。
敬具 ブログ『Singspiel』執筆 Crane.