I’m lonesome since I cross’d the hill,
And o’er the moor and valley
Such heavy thoughts my heart do fill
Since parting from my Sally;
僕はずっとひとりぼっち、あの丘と
荒れ野と谷を越えて以来ずっと
重苦しい気持ちで僕の心は締め付けられてる
僕のサリーと別れて以来。

I seek no more the fine and gay,
For each doth but remind me
How swiftly passed the hours away
With the girl I left behind me.
きれいなものも愉快なものももう欲しくない
どちらも僕に思い出させてしまうから
時間はなんて早く過ぎ去ってしまうのだろう
僕が残してきたあの娘と一緒にいた頃は。

O ne’er shall I forget that night
The stars were bright above me,
And gently lent their silv’ry light
When first she vow’d to love me.
ああ、あの夜を僕は決して忘れない
星々が僕の頭上に輝き
その銀色の光を快く貸し与えてくれた
あの娘が僕への愛を初めて誓ったあの時を。

But now I’m bound to Brighton camp;
Kind heaven then pray guide me,
And bring me safely back again
To the girl I left behind me.
でも今の僕はブライトンの駐屯地に行く運命なんだ*1
優しき天の神様が、どうか僕を導き
無事に還らせてくださいますように
僕が残してきたあの娘のもとへと。

Her golden hair in ringlets fair,
Her eyes like diamonds shining,
Her slender waist, with carriage chaste,
May leave the swain repining.
彼女の黄金色の美しい巻き毛
ダイヤモンドのように輝く瞳
ほっそりしたウエストに、しとやかな物腰
この不満居士の田舎者などいつか捨られてしまうかもしれない。*2

Ye Gods above! O hear my prayer!
To my beauteous fair to bind me,
And send me safely back again
To the girl I left behind me.
いと高き神々よ、僕の祈りを聞き届けてください!
僕と固く結ばれたうるわしき恋人のもとへ、
僕を無事に送り返してください、
僕が残してきたあの娘のもとへと。

*1 「ブライトン」という地名は、イギリスにもアメリカにもついでにオーストラリアにもある。イギリスのブライトンは風光明媚なビーチが有名で、植民地では似たような地域にこの地名がつけられた。軍隊用語における「キャンプ」は、新兵の訓練所を指すこともある。
*2 swainは田舎の若者、repineは愚痴をこぼす、forがつけば何かを切望する。

text: 文献初出は1791年だが、一説にはエリザベス朝にまでさかのぼることが出来るとされる、非常に古いテキスト。ただし、さまざまなバリエーションがある。
tune: 元来は《An Spailpín Fánach(さすらいの労働者)》というタイトルのアイルランド民謡。 文献初出は1840年、Edward Bunting (1773– 1843) により採集された『The Ancient Music of Ireland(アイルランド古謡集)』に収録。動画はラッターによるアレンジ。

兵士の出征時に好んで演奏された曲。早い時期にアメリカにも伝播したと考えられている。Brighton Camp《ブライトン・キャンプ》というタイトルもある。
英米ではとても良く知られており、様々な美術で引用されている。

イーストマン・ジョンソン(1824-1906)『僕が残してきたあの娘』(1875年制作)
アメリカ南北戦争の直後に描かれた作品。この民謡に基づいたタイトルとなっている。
746px-Eastman_Johnson_-_The_Girl_I_Left_Behind_Me



収録アルバム:Rutter: The Sprig of Thyme / Vaughan Williams: 5 English Folk Songs


おまけ:ワーナー・ブラザーズのアニメ『バッグズの独立戦争』(1950)で、劇終直前にヨセミテ・サムを伴ったバッグズが横笛で演奏しているのがこの曲。


このシーンの元ネタと考えられている絵画『76年の精神』(アーチボルド・ウィラード画)も、《僕が残してきたあの娘》もしくは《ヤンキー・ドゥードゥル》を演奏していると考えられている。どちらも横笛(ファイフ)で演奏しやすい曲であるため。


おまけのおかわり:アメリカで1920~40年代にかけて活躍した、スキレット・リッカーズによるバージョン。フィドルだと印象が変わる。


The Girl I Left Behind Me (Remastered)
Master Tape Records
2020-07-17



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