「To Die For」は「(これのために)死んでもいい=ものすごくいい!」という時に使われる。「A Dish To Die For」は単純に直訳すると「死ぬほど美味しい料理」。でもこれだとちょっと単純すぎる。


エヴァンゲリオンで有名なタイトルよりも、音楽界のマエストロたる大バッハのイメージに寄せたかったので、《甘き死よ、来たれ》ではなく《来たれ、甘美なる死の時よ》BWV161を借りたタイトルとなった。お前らが最後の晩餐になるんだよ!



翻訳時点ではどのような戦闘BGMがつけられるか不明だったのだが、ふたを開けてみたらパイプオルガン全開でものすごく宗教音楽っぽくてちょっとびっくりした。

すべての食材をゲットしてソルトベイカーの店に戻ってくると、ソルトベイカーは不在で代わりに地下室に入れるようになっている。地下は平和なパン屋さんには不釣り合いなおどろおどろしい雰囲気で(あの頭蓋骨何に使うんだ)、地下室と言うより地下牢のようなつくりである。ここで流れるBGMはCaute Cave Mortem《カウテ・カヴェ・モルテム》といい、ラテン語で「死に用心せよ」「死の危険に気をつけろ」というほどの意味。
追記:パッケージ版同梱のサントラにおけるタイトルは《死ノ危険ニ御用心》


"Welcome back, you meddlesome brats!"
「よく帰ってきましたね、おせっかい焼きのガキどもが!」

"I didn't think you'd be back so soon."
「こんなに早く戻ってくるとは思いもしませんでしたよ。」

"No matter, it's too late to stop me now. The Wondertart will be my finest work yet!"
「だがもう手遅れだ…ワタクシの最高傑作、ワンダー・タルトはもうじき完成するのだから!」

"A shame I never told you about the most important secret ingredient..."
「残念ながら、ワタクシ…一番大切な隠し味についてお伝えしておりませんでした…」*1

"...A living soul! While you suckers were out doing my bidding, I nabbed your little friend here."
「…それは新鮮なタマシイ!マヌケなガキどもがワタクシの命令をこなしている間に、大事なお友達を捕まえておいたのさ。」

"When his(her) soul is baked into the Wondertart, the cosmic powers of the astral plane will be mine!"
「こいつ(彼女)のタマシイをワンダー・タルトに焼き込めば…幽界の大いなる力はワタクシのものだ!


"But first, I'll take those ingredients... and then I'll use your heads as serving dishes!"
「まずは材料をいただかなくてはね…その後はお前たちの頭をディナーの食器に使ってやろう!」


*1 「a shame」は「恥ずかしながら」というよりは「遺憾ながら」「申し訳ないが」というときに使う。

ソルトベイカーとの再会の瞬間からアニメーションが始まる。ていねいだった言葉遣いがだんだん荒々しくなっていくのいいよね。良いって言え。
もともとこういう性格だったのか、ワンダー・タルトと幽界の研究をするうちによこしまな支配欲に憑りつかれてしまったのかは不明。

朗報:ソルトベイカー、ほんとはいい人だった。
2023年4月20日発売の日本語パッケージ限定版に封入されたCD解説によれば、「根っからの悪党ではなく道を誤っただけ」とのこと。みんなも限定版ゲットじゃぞ。




ソルトベイカーの邪悪な表情は、ディズニー長編アニメ『ピノキオ』の悪名高きヴィラン「コーチマン(馬車屋の旦那)」が狐と猫に悪事を持ちかけているときの表情がモデル。キングダイス戦のキングダイスの顔もそうだよ。




ここのBGMはThe Finishing Touch《一番大切な隠し味》という曲。「フィニッシング・タッチ(最後のひと触れ)=最後の仕上げ」は、「これがないと完成しない」という重要な仕上げや肝心な手順という意味を含めることもある。


関連があるかどうか不明だが、サイレント~トーキー時代にかけて活躍したお笑いコンビ「ローレル&ハーディ(日本では「極楽コンビ」と呼ばれた)」のサイレント短編映画に同じタイトルのものがある。


いかにもラスボス直前ですというような不穏な曲調で、合唱が入っている。歌詞は判然としないが多分「Caute Cave Mortem(死の危険にご用心)」と繰り返してるんじゃないかなあ。(最初「カップヘ~ッド」て呼びかけてるのかと思った)

朗らかなコックさんという仮面を脱ぎ捨て、本性を露わにしたソルトベイカーとのバトル開始と共に戦闘BGMBaking the Wondertart《ワンダータルトを作りながら》が流れ出す。ラスボスにふさわしいBGMはパイプオルガン+合唱隊という風潮。わかる。



ガノンの塔
Materia Collective
2017-03-27






ちなみに、この曲はDLCのプロローグでソルトベイカーと初対面時にかかっていた《シェフ・ソルトベイカー》という曲のアレンジでもあるよ。


追記:前述の限定パッケージ版に封入されたCD解説により、初めて全歌詞が明らかになった。おどろおどろしく繰り返されるラテン語の合唱「Cave Mortem(死ニ御用心)」に、カップヘッド・マグマン・チャリスのラテン語形がサンドイッチされるというもの。

Cave Mortem
死ニ御用心
Calix
チャリス
Poculum Caput
カップヘッド
Olla Homo
マグマン
Cave Mortem
死ニ御用心


余談だが、古代ローマのポンペイではラテン語で「Cave canem」と書かれた看板が残されているが、これは「犬に注意」の意。


"Marinate in your defeat while I complete this astral treat!"
「ワタクシが下ごしらえをしているあいだに、敗北の味がたっぷり染みこんだようだね!」


原文をそのまま翻訳すると、「ワタクシが幽冥なご馳走を仕上げているあいだ、敗北でマリネ漬けにされるがいい!」あたりかな? マリネは肉や魚や野菜を酢漬けにする料理法。

これまで集めてきた食材を使って攻撃してくるわけだが、酒蔵から持ってきたタルト生地がどうぶつクッキーに転用されている。



追い詰められたシェフが次のフェーズに移行する直前、頭にどっかで見たような柄のキノコを放り込んでいる。



"My power grows with much aplomb! Your end is here, upon my palm!"
「ワタクシの火力は増すばかり!お前たちはこんがり焼かれるのを待つばかり!」


「aplomb」はフランス語に由来する言葉で、困難な状況でも自信満々、あるいは冷静沈着なこと。「palm(手のひら)」と韻を踏んでもいる。
原文での大意は「いかなる状況でもワタクシの力は増していく!お前たちはここで終わりだ、ワタクシの手のひらの上でな!」
実際巨大化したシェフの手のひらの上で戦っているので、初めてアニメーションを見た時に「手」を強調する文章にすれば良かったなとちょっと思ったが、「火」を使う攻撃も出てくるのでまあ間違いでもないか。
なお、第1フェーズと第2フェーズの踊る人型の炎は、『ビン坊の秘密結社』(1932年)に出てきた炎がモデルだよ。


ひらひらと舞い落ちるミントは、あからさまにロックマン2におけるウッドマン戦のパロディ。


エアーマンが倒せない懐かC。



"Your futile efforts were in vain, this world will be my salt domain."
「さんざん骨身を削ったところで無駄なこと…ワタクシがこの世界を塩漬けにするのだ!」


ついにガラスの身体が割れて、本体らしき塩が一面を埋め尽くしている。ついでに遠景にはガラス瓶に閉じ込められた仲間の姿も見える。
マシュマロマン似の塩人形がタッグで踊り狂いながらプレイヤーを襲ってくる。怖い。
あんまり目立たないが地面ではピザカッターも動き回って妨害してきている。



ちなみに塩人形の動きは、ハンサムスライムことプルプ・ル・グランの動きと同じだったりする。


"The mark of my salinity shall scar thy fired glaze!"
「そのカップの底に我が刻印を打ち付けてやろう!」


このセリフは『ストリートファイターⅢ』に登場するラスボス、ギルの対戦前のセリフにもとづいている。


あとほら、よく有名ブランドの食器ってなんか刻印が裏にありますよね?


シェフの顔が無数に現れるおぞましい左右の塩の柱につい目が行きがちだが、本体は中央に浮かぶピンク色のガラスハート。本当はガラスのように繊細な心なんですってやかましいわ。
この塩の柱のモデルはイギリスのアニメ作家スィリアック・ハリスの『something』じゃないかってファンダムWikiに書かれてたけどほんとかなあ。


空中にある不揃いなプラットフォームをひたすら駆け上っていくというシステムは、2001年に公開されたインディーゲーム『Icy Tower』に似ている。


ソルトベイカーを倒すと、実績『至高の料理人(Compliments To The Chef)』が解除される。
これは元来「大変美味しかったとシェフにお伝えください(My compliments to the chef.)」という決まり文句。
解除条件は「Complete your quest on Inkwell Isle IV(インクウェル島4でクエストを完了した)」となっている。

これまでの食材を集める過程で5つのステージをクリアすることで実績『大自然を満喫(A Vacation In The Wilds)』が解除されるが、こちらは「インクウェル島4のボス全てを倒す(Defeat every boss in Inkwell Isle IV)」ことが解除条件になっている。ソルトベイカーはボスじゃないのか…?



Kristofer Maddigan
収録アルバム: Cuphead - The Delicious Last Course (Original Soundtrack)

Caute Cave Mortem
Kristofer Maddigan
2022-06-30


The Finishing Touch
Kristofer Maddigan
2022-06-30


Baking the Wondertart
Kristofer Maddigan
2022-06-30


Cuphead in The Delicious Last Course Index《カップヘッドDLC 目次》




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