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八月二十三日金曜日、高島屋史料館TOKYOという、高島屋日本橋店の一室で展示されている企画展「ジャッカ・ドフニ 大切なものを収める家ーサハリン少数民族ウイルタと「出会う」」に行くことにした。他の日にしたかったけれどももうそろそろ終わるらしく、ならこの日しかないな、と。「女神のカフェテラス」を見ながらカップ麺を食べて昼前に出発。電車で向かう車中では『精選女性随筆集 石井桃子・高峰秀子』の文庫を読んでいた。明治生まれの女性の幼い頃のことが描かれていて面白い。イヤホンでヴァレンタイン組曲が有名なプログレバンドCOLOSSEUMの2003年のライブアルバムを聴いていたけど、70年代のバンドの再結成ものとはいえ案外に聴き応えがあって良い。スマホのイヤホンジャックにいつからかプラグがちゃんとはまらなくて少し引っ張るとすぐ抜けてしまうのに悩んでいる。

高島屋日本橋店の高島屋史料館TOKYOで開催されている企画展「ジャッカ・ドフニ 大切なものを収める家ーサハリン少数民族ウイルタと「出会う」」に行ってきた。デパートの四階の一室で開かれた小さな展示だけれど、日用品や儀礼用品を間近に見られる希有な機会だった。 https://t.co/Di6qoAwxeI
— 東條慎生@後藤論刊行 (@inthewall81) 2024年8月23日
展示を見て、上階貴賓室でのサハリンに生きる女性の写真展も見て、だいたい一時間ほどが経っただろうか。下階に降りて外に出ようとうろついていると、こういう建物で通路が絨毯になっているのは珍しくて、掃除も大変だろうに金のある建物だと思った。一階まで下りてみると吹き抜けになっている部分もデザインの古い雰囲気が面白くて写真を撮ったりした。

一回外に出て、向かいの丸善に行こうと思ったところでそういやATMでお金をおろさないといけない、と思ってスマホで探すと高島屋のなかにあるのが一番近かったので店内に戻った。一階にあるかと思って歩き回ってもなくて、もう一回グーグルマップの情報をよく見ると地下二階のほうらしく、行きつくまでに妙に時間をかけてしまった。
ジャッカ・ドフニの係員さんに置いてある展示の図録がどこで買えるのか尋ねたら、向かいの丸善のコーナーにあると言われて、高島屋には書店が入ってないのか、と思った。日本橋で行こうと思っていた本屋が別にあり、在庫検索であるのを確認していた目当ての本はそっちで買おうと思っていたけれど、丸善はさすがの品揃えだった。丸善はhonto亡き今、ネットから在庫検索ができなくてどれくらいの品揃えかがわからなかった。まずはジャッカ・ドフニ関連の特設コーナーを見つけ、ほかに気になる本もあったけれど展示の図録が置いてあったので手に取る。
目当てだったのは幻戯書房のルリユール叢書で、これは普段行く範囲の本屋にはまったく入荷しなくなってしまったので現物を目にする機会がほぼなくなってしまった。これと水声社のフィクションのエル・ドラードが結構置いてある本屋は良い本屋だという説がある。自分のなかで。リョサのマルケス論も手に入らなくなる前に買っておこうと思ったけれど丸善の棚刺しは帯がなかったのでやめた。水声社の本は結構帯がないことがあるのは謎だ。以前通販で『時との戦い』を買ったら帯がついてなかった。古書はともかく通販を基本しないのはこういうことがあるからでもある。まあでもそれがなくても現物を手にとって買うのが何故か原則なんだよな自分の。
岡和田さんが解説を書いてる『村田正夫詩集』も見つけ、諏訪哲史が「文學界」の幻想文学特集に寄せていて一際精彩を放っていた短篇を加筆したという作品集も初めて現物を見て買うリストに挙げてなかったけれどもここで買うしかないなと手に取る。気になってたものをポンポン手に取るうちに合計金額が気になり、本の値段を確認するために一度平台の上に置いて数えることを何度かしたのが後の伏線になる。まだ買うものが残ってるのにほぼ予算上限の三万近くになってしまった。これだけ買うとカバンに入りきらなくなってくる。レジで宅配にできます、と言われたけれど断る。別にその日読むわけでもないのに自分で持ち帰りたいという謎のこだわりがある。二十年近く前になるか、池袋のジュンク堂に初めて行ったときは数万円の本を買ってこれはさすがに宅配にしてもらったことを思い出した。あの時買った本って全部読んだんだろうか。
丸善を出て三越のほうに向かう。北上しているのかな。曇りがちだけれどやはり炎天下、この夏真っ白のTシャツを初めて?着るようになってやはり体感温度が全然変わるなということを実感した。オタクなので黒かったり灰色だったりのTシャツばかりだったけれども、白はじわじわ暑くなる感じがないので全然違ってくる。カバンに入れるのにちょうどいい350mlのペットボトルのお茶を凍らせて持ってきていたのがいい感じに少しずつ融けている。
ある程度歩いていくと日本橋と書いてある橋があり、これが日本橋かあと近づいていったら結構な川の生臭さが漂っており、これは、なかなか……と思った。川の水が緑に近い。横長で撮った写真には親指が映り込んでしまった。





橋を越えて歩いていくと日本橋三越があるし、窓に鉄格子がはまって警備員が立っている銀行があるし、建物はいずれも重厚な雰囲気を持っていて歴史を感じさせる。金持ちが多そうな街だ。銀行は後で調べたら三井住友信託銀行だった。大通りの街路には植え込みはあっても樹木はなく、ビルが代わりに日陰になる感じ。横道を見ると街路樹が並ぶゆったりとした道があって、街に金があるなあと思う。標識に室町とあり、室町時代の室町殿は京都だったと思うけど、ここも室町という地名があるのか。

こっちまで歩いてきたのは誠品生活日本橋という店が目当てだった。この店、有隣堂のネット在庫検索で調べるとほかの店にないマイナーな本もかなり置いてあって、その充実度がいつも気になっていた店舗だった。台湾系の雑貨ショップでもあるらしく、本屋の雰囲気も丸善とはかなり違う。壁際の本棚を眺めながら歩いていると本棚と窓のあいだにベンチがあり人が座っていてビックリした。そこに人がいるとは思わなかった。店内には椅子もあったりして座って本を読んでいる人がいる。ここにはリョサのマルケス論があるのがわかっていたのでまあそれだけ買えればと思っていたけれど、数日先に発売するらしいルリユール叢書の新刊がすでに並んでいて驚いた。ダニロ・キシュを訳している人が担当している本はいつか買うつもりだったけれど、ここで出くわすとは思っていなかった。予算からかなりオーバーするけれどここで買わないと通販無精の自分のことだからいつになるかわからないのでえいやとここで買う。これとあとリョサだけを手に取った。帯がついてる! でもちょっと破れがある。まあいい。ここはルリユール叢書はだいたい置いてあるっぽくて丸善より充実している。『フィネガンズ・ウェイク』の復刊分も既に並んでいて、これは相当早いのではないか。そしてこの店には丸善にもなかった拙著『後藤明生の夢』が置いてあったのでいよいよ良い店だ。
店から出て、最寄りの三越前の駅から帰る。帰りで印象的だったのは、電車で目の前の席に座った大学生くらい?の男子二人で、片方がスマホゲーをしてるあいだ、もう一人が相方の髪にジェルかなにかを付けて櫛で髪をとかし始めたことだった。なんだ付き合ってるのか?みたいに思ったけれど、それもまた古い考え方な気がする。今こんな感じなのかな。

家に帰って買った本をスマホの蔵書アプリに登録する。バカスカ買ったけどここで買った本を全部読むのはいつになるんだろう。十年以内なら頑張ったな、くらいだと思う。
ここで気づいた。展示の図録を買っていないことに。もしかして買った本をカバンに詰めるときに店内に置き忘れた?と思ってレシートを確認すると、その値段の本がないのでそもそも買ってないことに気づいた。つまり、本をたくさん抱えて合計金額を確認するためにいったん置いた時に、どこかのタイミングで判型が大きい図録から上だけの本を持ち上げてそのままになってしまったんだろう。本が重いので途中からカゴを使った覚えがあるけれど、その時には既に持ってなかった。すみません、この日丸善日本橋店の二階のどこかに平積みの本の上に図録が放置されてたと思います……。なんたる失敗!と思って、図録は出版社のサイトから直接通販した。
ジャッカ・ドフニ 大切なものを収める家 サハリン少数民族ウイルタと「出会う」 | みぎわ丸書店
送料無料。図書出版みぎわの本では図録にも参加している黒川創『世界を文学でどう描けるか』が関連文献として面白い。サハリン紀行と文学論がミックスされた一冊。
世界を文学でどう描けるか/黒川創 | みぎわ丸書店
「リベラシオン」190号に鶴田知也についての記事を寄稿 - Close To The Wall
御覧のように特に面白いことがあったわけでもないけど、なんとなくこの日のことが印象に残っているうちに文章にまとめておきたくなって書いた。日記みたいな文章を書くことは普段まずない自分にしては珍しく。二年前の夏、後藤明生オリエンテーリングで草加団地や蕨や上野などを回った日のことを思い出す。これくらいの外出でも何か自分にとって小旅行みたいな印象があって、オリエンテーリングみたいに後々思い出す気がしている。ちょっとした旅行や移動をエッセイで面白く書いてる人はやはりすごいものだなと思わされる。