わが冬の細雪さえ遠ざかる二月の真午手のひらに落つ
だれもないひざかりにただ忘れられ真っ赤な靴のヒールが黒い
夜露照らされて窓いっぱいに光りの粒ばかりある夜半すぎれば
大鳥の来る日来たらず一壜のインクぶちまけたような夜が訪れ
帽子という一語は比喩だ、こうやって追い放たれた顔を匿う
腕長き男のなかに抱かれてわたしのいまを葬り去りぬ
夢に視た、塚本邦雄その貌は決して眼鏡をかけてなかった
どうしてだろう?──花壜の埃ばかりが眼に留まる週末の夜
牛になりたい石になりたい願うなら黙って茎を握るがいいさ
とどまってばかりいるかないつのまにきみへの手紙棄ててしまった
求人を手漁るばかり夜越えていつか軛にありつくまでは
摘みゆきて花のなまえを忘れたる男のひとりかくれんぼする
大父の死を待つ真昼叢に片足のない人形がある
凪はるか地平にあふれしたたかに奪い去るのかこのおれでさえ
荒れ野にて、映画館にて、西部にて、冬の潮音を追いかけてゆく
おもかげをかぜに与えて去ることのうれしいような寂しさばっかり
苦笑うぼくの愁いはやがて飛び展開図面のようにひろがる
それでなお消えてゆくしかないという声が聞えて来る桟橋へ
からたちの花の雌蕊のなかに埋もれたくおもえばかつて逢えたひと
雲沈むゆくままにしてぼくはぼくの愁いを日給袋にしたためるのみ
だれがまたぼくを呼ぶだろうか意識する脳髄のなかのかたむきなど
夜の蛇 わたしの首を絞めに来る殺意を超えたやさしさなどと