「センチメンタル・バリュー」
2026年2月26日(木)TOHOシネマズ 池袋にて。午後3時45分より鑑賞(スクリーン9/D-8)
~疎遠だった映画監督の父と俳優の娘。確執の果てに和解はあるのか?

もうすぐ今年の第98回アカデミー賞。それを前に発表されたノミネート作品で、作品賞をはじめ8部門で計9ノミネートされた「センチメンタル・バリュー」が公開されている。監督は「わたしは最悪。」で世界的に注目を集めたヨアキム・トリアーだ。
ノルウェーのオスロで舞台俳優として活躍する姉ノーラ(レナーテ・レインスヴェ)と、家庭を持ち夫と息子と穏やかに暮らす妹アグネス(インガ・イブスドッテル・リッレオース)。母親の葬儀後の集いに、2人の幼少時に家を出て長らく音信不通だった父のグスタフ(ステラン・スカルスガルド)が姿を現す……。
いわば「父帰る」的なドラマではあるのだが、父親が映画監督だというのがミソ。グスタフは海外で過去作が特集上映されるほど著名な監督だが、この15年間は新作を撮っていない。その15年ぶりの新作の製作を通して、父と娘の葛藤と融和のドラマが展開していく。
グスタフは新作への出演をノーラに依頼する。それは自伝的な作品だったが、ノーラはグスタフが持参した脚本を開くことなく、断固としてそれを拒否する。彼女は父を許すことができなかったのだ。グスタフはノーラの代わりに米国の人気俳優レイチェル(エル・ファニング)を起用する。
本作の中心線はもちろん、グスタフとノーラの関係性にある。グスタフもノーラもその心は迷走する。グスタフは映画にすべてを捧げてきた男だ。家を出たことに対しても正面切って謝ったりはしない。だが、その自信満々の態度の裏に、チラチラと違った顔ものぞかせる。対するノーラも父に対する嫌悪感を抱えるが、同時に俳優としても自信をなくし、個人としても癒し難い孤独を抱えている。そんな2人の心理の微妙な変化を、トリアー監督は繊細に描き出す。
さらに、妹のアグネス、そしてアメリカ人俳優のレイチェルの存在もしっかりとスクリーンに刻み付けている。グスタフに好意的だったアグネスは、父の新作で重要な役割を担う祖母の過去について調べショックを受ける。さらに自分の息子を映画に出そうとする父に猛反発する。また、レイチェルはエンタメ路線に限界を感じて、グスタフの映画に飛び込んできたものの、「私が演じるべきではないのでは?」と次第に違和感を持つようになる。
様々な迷走を重ねるグスタフとノーラの心理。2人の関係に大きな変化をもたらしたのは、やはり妹のアグネスだった。彼女はグスタフの脚本を初めて読む。そして、そこには祖母ではない、別の人物のドラマが投影されていることに気付く。そして、それをノーラに告げる。
ラストシーン。ノーラがアグネスの息子を我が子のように送り出す。あれ?これはどうなっているのだ?と思ったのだが、なるほどそうだったのか。温かで心穏やかになるエンディングだ。最後に映るグスタフとノーラの表情がとても良い。
それも含めてトリアー監督の優しく穏やかな視線が感じられる作品だった。舞台となる古い家の風情あるたたずまいも、それを後押ししている。斬新なショットもあるにはあるのだが、基本は特に変わったことはやっていない。それでもこれほどのドラマにしてしまうのだから見事なものだ。
ノーラ役の「わたしは最悪。」のレナーテ・レインスヴェ、グスタフ役の名優ステラン・スカルスガルド(本作でアカデミー助演男優賞にノミネート)、アグネス役のインガ・イブスドッテル・リッレオース、そしてレイチェル役のエル・ファニング、いずれも素晴らしい演技だった。特に台詞以外の部分で多くを物語る演技が印象的だった。
◆「センチメンタル・バリュー」(AFFEKSJONSVERDI/SENTIMENTAL VALUE)
(2025年 ノルウェー・ドイツ・デンマーク・フランス・スウェーデン・イギリス)(上映時間2時間15分)
監督:ヨアキム・トリアー
出演:レナーテ・レインスヴェ、ステラン・スカルスガルド、インガ・イブスドッテル・リッレオース、エル・ファニング、イェスパー・クリステンセン、アンデルシュ・ダニエルセン・リー、レナ・エンドレ、コーリー・マイケル・スミス、キャサリン・コーエン、ラース・ヴァーリンニェル、アンドレアス・ストルテンベルク・グラネルッド、オイヴィン・ヘシェダル・ローヴェン
* TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
公式ホームページ https://gaga.ne.jp/sentvalue_NOROSHI/
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