「災 劇場版」
2026年2月24日(火)新宿武蔵野館にて。午後12時20分より鑑賞(スクリーン1/C-7)
~全国各地で起きる死の背後にいる男。香川照之の破格の怖さよ

歌舞伎役者・市川中車としても活躍する香川照之。幅広い役をこなすが、特に「クリーピー 偽りの隣人」をなどで見せた凄味のある悪役が印象深い。その悪役の集大成ともいうべき演技を披露しているのが「災 劇場版」。WOWOWの「連続ドラマW 災」の劇場版だ。
監督・脚本・編集を担当している関友太郎と平瀬謙太朗は、監督集団「5月」のメンバー。この2人の2022年の長編デビュー作「宮松と山下」は、同じく香川照之を主役に迎え国内外で大きな反響を呼んだ。
映画の序盤は、千葉、横浜、福岡、金沢、宮城など各地の市井の人々の姿が描かれる。彼らはみな悩みや問題を抱えていた。
女子高生の北川祐里(中島セナ)は、両親が離婚し、2人とも娘に無関心で進路の相談にも乗らない。運送会社の社員の倉本慎一郎(松田龍平)は、かつて飲酒をして死亡事故を起こし、妻とも別居していた。ショッピングモールの清掃員の崎山伊織(内田慈)は、理容師の皆川慎(藤原季節)のゴミの出し方にクレームをつけていた。旅館経営者の岸文也(じろう)は、多額の借金を抱え、妻は男と出て行った。
映画の冒頭近くから不穏さが漂う。赤い服を着た女性の遺体が海面を漂う。重低音が鳴り響く音楽も不穏さを煽る。そして、さらに不穏な空気を醸し出すのが映画の構成。WOWWOWのドラマ版は6話完結で時系列に沿って話を展開していたが、映画版ではなんとそれらの話を並列化しているのだ。それによって、より不穏で謎めいた映画になっている。
やがて、序盤で描かれた人々の周囲に、ある一人の男(香川照之)の影が現れる。それは、顔こそ似ているが姿かたちも違えば言動も異なる。職業も違う。北川祐里の前では塾の講師、倉本慎一郎の前ではトラックドライバー、崎山伊織の前では皆川の同僚の理容師、岸文也の前では旅館の出入り業者。気味の悪さもそれぞれだ。彼らは別人なのか?それとも同一人物か?
やがて次々に人が死ぬ。警察は自殺や事故として処理するが、刑事の堂本翠(中村アン)は死体の髪が不自然に切られているのが気になり、連続殺人を疑う。堂本の同僚の2人の刑事(竹原ピストル、宮近海斗)も彼女の捜査に協力する。
怪しいのはどう見ても例の男。だが、直接手を下す場面は映らない。殺人を示す証拠も残っていない。だいいち彼が殺人犯だとしたら動機は何だろう。殺されたかもしれない人々が恨みを買うような場面もない。そもそも彼が、ほぼ同時期に犯行を行うのは不可能だろう。
謎めいた展開の先に驚きが訪れる。同時多発的に起きたように見えた様々な死は、実はそれぞれ時間差があったのだ。あの男が犯行を行おうとすれば、それも可能なのである。
終盤には、事件を追う刑事にも死が訪れて、そこにもまた例の男が現れる。
はたして彼は犯人なのか。それとも違うのか。その答えは明確に示さない。観客それぞれが考えるのみだ。
普通に描いたら、ただのサイコパスを追う刑事ドラマになってもおかしくないのに、ドラマを再構成した手法をはじめ数々の手法によって斬新なスリラー映画になっている。「新しい手法が生む新しい映像体験」が5月のテーマらしいが、まさにそれを体現した映画と言えるだろう。
そして何よりも香川照之の恐ろしさよ。七変化ともいうべき役柄を、それぞれ丁寧に演じ分け、まるで別人のように感じさせる。そして、底知れぬ不気味さをそこに潜ませている。ポスタービジュアルにも使われているラストシーンの顔が怖すぎる。夢に出てきそう……。
劇中で、死んだ主婦の夫が刑事に対して、「妻の死は災害と同じだと思うことにした」という趣旨の発言をする。動機も不明なら、殺人か事故かも不明。地震などの災害と同じ災いとしての死。そこに悪意がない死。そう思わなければやっていられないということかもしれない。タイトルの「災」もそこから来ているのだろう。まるで災害のように同時多発的に死が訪れる構成にした劇場版には、なおさらふさわしいタイトルである。
◆「災 劇場版」
(2025年 日本)(上映時間2時間8分)
監督・脚本・編集:関友太郎、平瀬謙太朗
出演:香川照之、中村アン、竹原ピストル、宮近海斗、中島セナ、松田龍平、内田慈、藤原季節、じろう、坂井真紀、安達祐実、井之脇海
*新宿武蔵野館ほかにて公開中
公式ホームページ https://www.bitters.co.jp/SAIdisaster/
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