「私たちの一日」
2026年2月23日(月・祝)ユーロスペースにて。午後12時35分より鑑賞(ユーロスペース1/B-8)
~交わりそうで交わらない2つの会話劇。安定のホン・サンス映画

ハマる人はハマるけれど、そうでない人は見向きもしない。韓国のホン・サンス監督の映画はそういう映画。
ホン・サンス監督のデビュー30周年を記念して5カ月連続で新作を上映する企画「月刊ホン・サンス」の第4弾作品は「私たちの一日」。
オープニングにはホン・サンス作品ではおなじみの、心地よい音楽が流れてくる。そして、まず1つ目のドラマが始まる。
猫を飼う友人宅に居候中の休業中の俳優サンウォン(キム・ミニ)。起き出して友人と会話をする。サンウォンは猫のウリにおやつをあげる。友人はウリが太り過ぎなのを気にしている。可愛いからと、つい餌をたくさんやってしまうのだという。ウリはサンウォンにとてもなついている。
続いて2つめのドラマが始まる。アパートで一人暮らしをする初老の詩人ホン・ウィジュ(キ・ジュボン)。若者たちが頻繁に訪ねてくる。今も卒業制作で彼を素材にしたドキュメンタリー映画を撮っている女子学生が訪れて、ウィジュがラーメンを食べているところを撮影している。ウィジュは医師から飲酒と喫煙を止められている。
こうして交互に2つのドラマが展開する。ただし、2つのドラマが交わることはない。わずかにサンウォンとウィジュがラーメンにコチュジャンを入れて食べたり、それぞれの家にアコースティックギターが置かれているといった共通点があるのみだ。
サンウォンのところには、俳優志望の女性が訪れてサンウォンに対してどうすれば俳優になれるのか。演技とはどういうものかなどと質問をする。それに答えるサンウォン。話すうちに、自身のことに思い至る。ある人物との出会いをきっかけに俳優業をやめようと思ったこと。そして、建築美学の勉強をしたことなどを打ち明ける。
また、詩人のウィジュのところには、こちらも俳優志望だという青年が訪れる。彼はためらいながらもウィジュに生硬な質問を繰り返す。どういうきっかけで詩人になったのか。真理とはどんなものか。愛とは何か。それに対して、ノンアルコールビールを飲みながらウィジュは答える。「君は正解を求めている。正解を求めてはダメだ」。
画面はいつも通りのホン・サンス節。固定カメラを中心に長回しで会話を捉える。その分俳優たちは長台詞を喋ることになる。唐突なズーム・インやズーム・アウトを繰り出すのもいつも通り。
大事件が起こらないのもホン・サンス映画。終盤でサンウォンの友人が飼っていた猫ウリが姿を消して、我が子のように可愛がっていた友人が大ショックを受ける騒ぎがある程度。それも意外に早く決着してしまう。
それでも2つのドラマそれぞれの会話が抜群に面白い。どちらも食卓を囲んで、穏やかでとりとめのない会話を繰り返す。その日常的な会話から、チラチラと人生の真理が見えてくることがある。何気ない会話がサンウォンとウィジュの生き様を物語ったりもする。
また、言葉とは裏腹の心理がうかがえるのも面白い。サンウォンは俳優志望の女性に丁寧に対応するが、彼女の優柔不断な態度にちょっとイラついていたりする。ウィジュも、若者の真っすぐではあるが融通の利かない態度が気に入らないようだ。
そんな会話を観ているだけで楽しいのである。これこそがホン・サンス映画の真骨頂だろう。
サンウォン役のキム・ミニ、ホン・ウィジュ役のキ・ジュボンともにホン・サンス作品ではおなじみ。それも含めて安定のホン・サンス映画だ。ファンにとっては実に心地よい世界が展開する。
◆「私たちの一日」(IN OUR DAY)
(2023年 韓国)(上映時間1時間24分)
監督・脚本・製作・撮影・編集・音楽:ホン・サンス
出演:キム・ミニ、キ・ジュボン、ソン・ソンミ、パク・ミソ、ハ・ソングク、キム・スンユン
*ユーロスペースほかにて公開中
公式ホームページ https://mimosafilms.com/gekkan-hongsangsoo/
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