「恋愛裁判」
2026年2月4日(水)イオンシネマ板橋にて。午後3時5分より鑑賞(スクリーン3/D-9)
~アイドルとは? 法廷劇ではなく、アイドルという不思議な世界を描いた映画

昔、初期のAKB48関係の仕事をしていたことがあるのだが、その時に感じたのは「彼女たちって体育会みたいだな」ということ。目標に向かって一生懸命に努力して、その他のことはすべて犠牲にする。とにかく遮二無二前に進む。ただし、いつまでもそうはいかないわけで、そこで「卒業」というシステムが有効に機能しているのだろう。
そんなアイドルの世界を描いた映画が深田晃司監督の「恋愛裁判」だ。深田監督が、ファンと交際した元アイドルに対して芸能事務所が損害賠償を求めた訴訟の新聞記事をヒントに描いたオリジナル作品である。
主人公は、人気上昇中のアイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」でセンターを務める山岡真衣(齊藤京子)。中学時代の同級生で大道芸人の間山敬(倉悠貴)と偶然再会して親しくなる。その後もアイドル活動を続けるが、ある事件をきっかけに衝動的に敬のもとへ行く。それから8カ月後、所属事務所は契約書の「恋愛禁止条項」に違反したとして2人に800万円の損害賠償を求めて訴訟を起こす。
「恋愛裁判」というタイトルを見て、法廷劇を想像する人も多いだろうが、法廷場面は後半に登場するもののそれほど長くはない。おそらく深田監督の興味は事件そのものよりも、その背景にあったのではないか。山岡真衣の生き様を描くことによって、アイドルという特異な世界を提示して見せようとしたのだろう。
「ハッピー☆ファンファーレ」のメンバー5人は、ステージで歌い、ファンとの握手会や写真撮影を行う。メンバーはアイドルの世界で輝こうと一生懸命に努力する。その反面、それはファンの疑似恋愛感情をくすぐる危ういビジネスだったりもする。
その一方で、プライベートでは年頃の女の子だ。あるメンバーにはYouTuberの彼氏がいた。もちろん、それは表には絶対に出せないこと。デートの際には、他のメンバーに一緒に来てもらいカムフラージュしたりする。
真衣も偶然再会した中学時代の同級生の間山敬と恋に落ちる。後半の法廷シーンがリアルなのに対して、この2人のラブストーリーはファンタジー調だ。敬が現実とも虚構ともつかないパフォーマンスを披露して、真衣の心をとらえる。
ドラマの転換点は、メンバーの恋愛が発覚して訪れる。彼女は謝罪し、彼氏と別れ、グループに復帰するが、この件をきっかけに、ある熱狂的なファンがイベトン会場で事件を起こす。
真衣はアイドルとして生きることに疑問を抱かず、ひたすら努力してきた。同時に、すべては社長の意思のもとで動かされ、恋愛すらも禁止されてしまう現状に違和感を持っていた。そんな中で起きた事件。真衣は、衝動的に敬の車に乗り込み走り去る。
それから8か月後、所属事務所は2人に800万円の損害賠償を求める。
というわけで、ここに至ってようやく法廷が登場する。リアリズムに徹したシーンで、特に真衣やマネージャーの矢吹早耶らの証言は真に迫っている。だが、スリルに満ちた法廷劇としての魅力には欠ける。
その代わり、真衣の人間ドラマとしては魅力的だ。彼女の生き様を多面的な視点から捉えていく。真衣は敬のもとに走りグループを脱退した後も、アイドルに未練たらたらで配信を行ったりする。また、損害賠償を求められる中で、敬との関係も恋愛中とは異なり変化していく。真衣は大いに苦悩する。敬が真衣に「一体、何と闘っているのか」と問いを投げかけるシーンがあるが、真衣自身もそれがわからなくなっていたのかもしれない。
裁判の結末は意外な形で決着しそうになる。だが、そこで真衣は思いとどまる。彼女にとって、それはやはり敗北を意味していたのだろう。真衣は戦い続ける。
ラストシーンで、真衣がメンバーの梨紗とともに見つめる朝日の美しさが、彼女の未来への希望を感じさせて心地よい。
主演の齊藤京子は「日向坂46」元メンバーということで、その経験を生かして真衣の成長や葛藤を巧みに演じていた。マネージャー役の唐田えりか、事務所社長役の津田健次郎なども存在感ある演技だった。
アイドルの世界は不思議だ。恋愛禁止などというルールは、日本だけのものではないのだろうか。ある種の虚業で、ファンとの疑似恋愛関係が巨額の利益をもたらす以上、事務所としても認めるわけにはいかないのだろう。ほとんどのアイドルは、それを承知の上で活動している。
そんなアイドルの不思議な世界とそこで生きる人間をリアルに描いたドラマだ。法廷劇という先入観を持たずに観れば、なかなか興味深い映画だった。
◆「恋愛裁判」
(2025年 日本)(上映時間2時間4分)
監督:深田晃司
出演:齊藤京子、倉悠貴、仲村悠菜、小川未祐、今村美月、桜ひなの、唐田えりか、津田健次郎
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
公式ホームページ https://renai-saiban.toho.co.jp/
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