「水の中で」
2026年1月13日(火)ユーロスペースにて。午後12時50分より鑑賞(ユーロスペース1/C-7)
~ピンボケ映画は何を語るのか。ホン・サンス監督の実験的作品

ピンボケの写真や映像は失敗作に決まっている。映画館でピンボケの映像が出てきたら、誰でも上映トラブルだと思うだろう。
だが、ホン・サンス監督の「水の中で」の冒頭には、こんな断り書きが映される。「この映画は全編ピンボケです。けっして映写トラブルではありません」。
全編ピンボケの映画! なんという実験的作品だろうか。それを大ベテランのホン・サンス監督がやってしまうのだから……。
話の中身は青春ドラマだ。俳優のソンモ(シン・ソクホ)は自主制作で短編映画を監督しようと決意し、大学で一緒に映画を学んだ同級生サングク(ハ・ソングク)と後輩のナミ(キム・スンユン)を伴って、リゾート地として知られる済州島へやってくる。だが、思うようにシナリオが書けず苦悩する。そんな中、海辺を散策していると、一人の女性がゴミを拾っている場面に遭遇する。それをきっかけにソンモは自分が撮るべき映画が見えてくる。やがて海辺での撮影が始まるが……。
いつも通り、ホン・サンス監督自身が監督、製作、脚本、撮影、編集、音楽をこなすミニマムな映画。自主映画撮影のため済州島にやって来た3人の若者の日常を淡々とユーモラスに映す。
映画を撮ろうと決めたソンモだがシナリオが思うように書けない。そのため撮影がなかなかできない。3人は海岸を散策したり、酒を飲んで語り合うなどして時を過ごす。
酒を飲んで語り合うシーンは、ホン・サンス監督の映画の真骨頂。本音と建前が交錯して、登場人物の複雑な心理が見えてくる。今回はナミが夜中に幽霊らしき声を聞いたという話で盛り上がる。その声は「しっかりしろ!!」と大声で言ったという。それは、シナリオが書けずグズグスしているソンモへの叱咤だったのだろうか。
ここで全編ピンボケの映像が思わぬ効果を発揮する。セリフ以外の登場人物の表情やしぐさから多くのことが読み取れるのがホン・サンス映画の特徴。しかし、ピンボケ映像ゆえ本作は一筋縄ではいかない。よくよく注意して観ないと登場人物の表情やしぐさがよくわからない。その分、観客の想像力が余計に試されるのである。
また、全編ピンボケ映像は美的効果も生んでいる。まるで映像が印象派の絵画のようで美しいのだ。特に海辺の光を取り入れた映像の美しさは、筆舌に尽くしがたい。
ソンモは、海岸でゴミを拾っている女性に出会う。さらに、元恋人らしい女性に電話をする。そのあたりもピンボケ映像を通して、彼の揺れ動く心理がおぼろげながら見えてくる。
心乱れながらも、なんとか前向きになったソンモは、いよいよ映画の撮影に入る。そして、ラストシーン。かつて恋人に捧げたという音楽をバックにソンモの姿が映る。あら? それってもしかして……。色々と考えさせられるオチである。
本作は61分とコンパクトな映画。実験的な映画なので誰にでもお勧めはしないが、ホン・サンス映画が好きな人だったら興味深く観られるはず。自由かつ大胆に挑戦を続ける名匠なのであった。
◆「水の中で」(IN WATER)
(2023年 韓国)(上映時間1時間1分)
監督・製作・脚本・撮影・編集・音楽:ホン・サンス
出演:シン・ソクホ、ハ・ソングク、キム・スンユン、(声の出演)キム・ミニ
*ユーロスペースほかにて公開中
公式ホームページ https://mimosafilms.com/gekkan-hongsangsoo/
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