「君の声を聴かせて」
2025年10月1日(水)TOHOシネマズ 池袋にて。午後12時45分より鑑賞(スクリーン1/C-6)
~単なるラブロマンスを超えた温かで優しい映画

ちょっと前に取り上げた「あの夏、僕たちが好きだったソナへ」は台湾映画の韓国リメイク作品。「君の声を聴かせて」も同様に台湾映画を韓国がリメイクした映画だ。2009年の台湾映画「聴説(Hear Me)」(監督・脚本:チェン・フェンフェン)をリメイクしている。
ドラマの骨格は典型的な青春ラブロマンスだ。大学は卒業したものの、やりたいことが見つからず就職する気になれずにいるヨンジュン(ホン・ギョン)は、両親が営む弁当屋を手伝わされ、配達のためプールを訪れる。そして、そこで出会ったヨルム(ノ・ユンソ)に一目ぼれする。ヨルムは手話で会話をしていた。大学時代に習った手話を使って、どうにか彼女に近づこうとするヨンジュン。まず彼女の妹の(キム・ミンジュ)から話を聞き、電話番号を教えてくれと言うが「自分で聞け」といなされる。
その後、ヨンジュンは弁当の配達の帰りに、偶然ヨルムに再会する。彼女はバイクの調子が悪くて立ち往生していたのだ。そこで、ヨンジュンは彼女に自分のバイクを貸してあげる。これをきっかけに2人は友達付き合いを始める。
実はこの映画には、王道の恋愛話とはだいぶ異なる側面がある。ドラマの会話のほとんどが手話で行われるのだ。聴覚障がい者と思われるヨルム&ガウル姉妹と、大学で手話を勉強してマスターしているヨンジュンは、それぞれ手話を使って会話を繰り広げる。もちろん私も含めて、観客のほとんどは手話がわからないから、字幕で会話の内容を示す。
だが、それ以上に雄弁なのは手話を使う彼らの表情だ。恋するときめき、戸惑い、怒り、悲しみ……。手話を操りながら様々な感情が表現される。その豊かな表情ときたら。手話ってこんなに表情豊かに会話するんだ! デジタルが発達した現代は、以前ほど人と直接会うことが少なくなった気がする。そんな中で、手話を操る彼らから、直接的なコミュニケーションの大切さを思い知るのだった。
手話以外にも「音」に関する興味深い表現がある。序盤で、ヨルム&ガウル姉妹がヨンジュンに誘われてクラブに出かけた場面。そこでは爆音で音楽がかかっているが、それをほぼ無音の状態にして見せる。ヨンジュンは姉妹をスピーカーの前に連れて行く。姉妹はスピーカーを触って爆音を体験する。そして、3人はリズムに合わせて踊るのだ。
また、後半ではヨンジュンが耳栓をして街を歩き、聴覚障がい者の状況を体験する場面もある。車のクラクションが鳴らされても気づかないヨンジュン。周囲の通行人が慌てて教えてくれる。耳が聞こえないということがどういうことかが、リアルに伝わってくるシーンだ。
さらに聴覚障がい者に対する差別を描いた場面もある。ガウルが練習するプールで他の子供たちの保護者が、「病気がうつるからやめさせろ」とクレームを言うのだ。
ヨンジュンとヨルムは何度も会い、お互いの距離を縮めていく。この2人には共通点がある。2人とも何をしたらいいのかわからず、特に夢もないことだ。ヨンジュンは大学で哲学を学んだものの、未だにやりたいことが見つからず就職もできずにいる。ヨルムの夢はガウルをオリンピックに送り出すことだが、自分自身に関しては何もない。もしかしたら、そんな共通点も2人を近づけたのかもしれない。本作は、そんな2人の若者の成長譚でもある。
ドラマの中盤には波乱が訪れる。ただし、物語のトーンをひっくり返すようなことはない。全体に流れる空気感は温かくて優しくてユーモアに包まれている。その空気感がとても心地いい。
はたして、ヨンジュンとヨルムの恋はどうなるのか。安直なハッピーエンドを提示したりはしない。しかし、プールでの2人による心揺さぶる素敵なシーンを経て、最後には驚きの真相が明らかになる。
そこで初めて、この映画が「コーダ あいのうた」や「ぼくが生きてる、ふたつの世界」といった映画の世界にも、つながるドラマだったことを知るのだった。
ヨンジュン役のホン・ギョン、ヨルム役のノ・ユンソ、ガウル役のキム・ミンジュ(アイドルグループ「IZ*ONE」の元メンバー)の瑞々しい演技も見どころの一つ。とくに姉妹を演じた2人の可愛さは特筆もの。演技力もかなりのものだった。
単なるラブロマンスの枠を超えて、聴覚障がい者の現実を知らしめて、なおかつ直接的なコミュニケーションの大切さを伝える。何より温かで優しい空気感が心地よい映画だった。
◆「君の声を聴かせて」(HEAR ME: OUR SUMMER)
(2024年 韓国)(上映時間1時間49分)
監督:チョ・ソンホ
出演:ホン・ギョン、ノ・ユンソ、キム・ミンジュ、チョン・ヨンジュ、チョン・ヘヨン、ヒョン・ボンシク、アン・ミニョン、コ・ギョンマン
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
公式ホームページ https://kiminokoe.jp/
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