「バグダッド・カフェ 4Kレストア版」
2024年12月24日(火)シネ・リーブル池袋にて。午後1時50分より鑑賞(シアター1/D-8)
~寂れた店を変えていくドイツ人旅行者。ミニシアターブームを担った印象深い作品

昔の映画の4Kレストア版がけっこう頻繁に上映されている。「それよりは新作映画を」と思いつつも、つい足が向いてしまう作品がある。
「バグダッド・カフェ 4Kレストア版」を観に行ってきた。1987年製作で日本公開は1989年。ミニシアターブームの一役を担うヒット作となった。その後、91分のオリジナル版に未公開シーンを追加して再編集した108分の「ニュー・ディレクターズ・カット版」が2009年に公開された。
そして、今回はそのディレクターズカット版の本編を、パーシー・アドロン監督監修のもとデジタル修復した「4Kレストア版」の公開だ。ちなみにアドロン監督は今年3月に亡くなった。
私がこの映画を劇場で観るのは、2009年の「ニュー・ディレクターズ・カット版」に続いて2回目。その前のオリジナル版は確かレンタルビデオかテレビで観ている。
ドイツから夫とともにアメリカに旅行にやって来たヤスミン(マリアンネ・ゼーゲブレヒト)は、夫婦ゲンカの末に1人で車を降りてしまう。まもなく、彼女はモハーベ砂漠にあるモーテル兼カフェ「バグダッド・カフェ」にたどり着く。そこには不機嫌な女主人ブレンダ(CCH・パウンダー)など個性的な面々が集っていた。ヤスミンの登場によって、彼らの心は次第に癒やされていく……。
ドラマの中心は、ヤスミンとブレンダの交流だ。ヤスミンは最初は夫が迎えに来ると思っていたようだ。実際に、夫はヤスミンよりひと足先にバクダッド・カフェを訪れていて、2人はすれ違っている。
一方のブレンダは、いつも不機嫌で口うるさく、夫は家を出てしまった(実は遠くからずっと見ているのだが)。彼女のささくれだった心が象徴するように、バクダッド・カフェは寂れていた。
だが、ヤスミンがブレンダに無断でオフィスの掃除をしたことがきっかけで、2人の交流が始まる。最初は警戒し怒るブレンダだが、次第に心がほぐれていく。一方のヤスミンも夫を忘れて自立していく。それとともにバクダッド・カフェも楽しい店になり繁盛していく。
ストーリー展開自体はそれほど珍しい話ではない。それでも、製作当時としては斬新な工夫をところどころに施すなどして、面白い映画に仕上げている。特に映像面では冒頭の夫婦のケンカシーンに象徴されるユニークなカメラアングル、随所に挿入される短いイメージショットの使い方、意表を突いた色彩感覚などの鮮烈さが目を引く。
だが、それ以上にこの作品を強く印象付けているのは、舞台となる砂漠にたたずむモーテル&カフェの佇まいだろう。特にポツンと立つ給水塔のイメージは強烈だ。ヤスミンが、給水塔を長いデッキブラシを使って清掃する日本版のポスターを記憶している人も多いだろう(海外では違うポスターが使用されていたらしい)。バクダッド・カフェを目にした瞬間に、パーシー・アドロン監督は「やった!」と飛び上がったのではないだろうか。
そして、もう一つ強烈な印象を残すのが、主題歌「コーリング・ユー」だ。劇中で何度も流れるミステリアスで魅惑的なこの曲は、一度聴いたら耳から離れない。映画ではジェヴェッタ・スティールが歌っているが、その後多くのミュージシャンによってカバーされた。この曲もまた、この映画のイメージを決定づけている。
小物の使い方もセンスがある。序盤のコーヒーポットで、ヤスミンと夫、そしてこの店の現在地を示し、さらにヤスミンとアメリカの人々との習慣の違い(コーヒーの濃さ)まで表現する。
バクダッド・カフェが変わっていく象徴として、ヤスミンの手品を使うあたりも巧みだ。ヤスミンの手品でどんどんみんなが明るくなり、店は繁盛し、最後はミュージカルまで演じてしまう。
個性的なキャラクターも際立つ。ヤスミンとブレンダ以外にも、近くのトレーラーハウスに住む老画家のルディ(ジャック・パランス)、アンニュイな雰囲気のタトゥーの彫り師デビー(クリスティーネ・カウフマン)、モーテルの敷地にテントを張って住むエリック(アラン・S・クレイグ)、そしてブレンダの長男と長女、長男の赤ん坊などがドラマを彩っている。
ドラマのエンディングをこれ以上ないぐらいのハッピーエンドにしつつ、ちょっぴり余白を残すあたりも心憎い仕掛けだ。
でもまあ、やっぱりバクダッド・カフェのロケーションと、「コーリング・ユー」の印象が何よりも強烈。それだけで、この映画を忘れ難いものにしている。個人的には映画史に残る傑作とまでは思わないが、とりわけ忘れ難い映画の1本になっている。何度観ても良い映画だ。
そして、今観ると、この映画には雑多な人種とバックグラウンドを持つ人々が登場しており、彼らが融和していく姿は昨今の分断の時代に大きな意味を持つと感じるのだった。
◆「バグダッド・カフェ 4Kレストア版」(BAGDAD CAFE)
(1987年 ドイツ)(上映時間1時間48分)
監督:パーシー・アドロン
出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト、ジャック・パランス、CCH・パウンダー、クリスティーネ・カウフマン、モニカ・カローン、ジョージ・アキラー、ダロン・フラッグ、ハンス・シュタードルバウアー、G・スモーキー・キャンベル、アラン・S・クレイグ、アペサナクワット
*YEBISU GARDEN CINEMAほかにて公開中
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