法務の技法第2版(芦原一郎、中央経済社)を読みました。「仕事」のノウハウ集でありますが、その考え方の基礎に「法律」的な思考を用いる点に大きな特徴があると思いました。
● 本書の内容
法務の仕事をする上で必要とされる能力は多々あると考えられるものの、その中でも、「仕事のノウハウ」に絞って記載された本になっています。
法務の仕事においてベースとなるのは、言わずもがな法的スキル*1なわけでありますが、そのようなスキルが十分であったとしても付加価値あるアウトプットに繋がらなければ仕事上は意味がなくなってしまいます。特に、組織で働くのであれば、人や組織の論理といった自分の価値観や経験とは違う可能性のある様々なヒトやモノと共に働いていかねばならないわけですから、自身の法的スキルをうまく発揮するためには、一工夫必要になってきます。
そういった中で、本書においては、分析力アップ、推進力アップ、説得力アップ、文章力アップ、防衛力アップ、やる気アップという括りで、法務業務を行うにあたっての具体的なノウハウが紹介されています。著者の芦原弁護士の経歴を見るに、20年弱の社内弁護士歴があるとのことなので、実際の現場において培ってきたノウハウが開示されているのは大きな意味があると思います。
● 仕事のノウハウと法的思考
このような仕事のノウハウであれば、何も「法務」というタイトルを付ける必要はなく、単なる仕事の「ノウハウ」本と変わらないのではないかとの指摘もありうるかもしれません*2。
しかし、私個人としては、「法的思考」をベースに法務としてのノウハウが分析・紹介されている点に本書の大きな特徴があると考えます。
例えば、1-5「プリンシパル/立法趣旨」*3という項目。法務部門で仕事をする以上、既存のルールを適用したり、新たにルールを策定する場面は出てくると思います。そんなときの1つの指摘として、本書では、
本事案でのルールにはプリンシパルが明確に記載されていないようですが、最近の法律が第1条にその法律の目的を明記しているように、社内ルールにも、そのプリンシパルとなるべき基本原理を明確に記載することも可能です。(前掲18頁)
といった指摘をします。
法学を学ぶ際に必ず通る道の一つとして、立法趣旨を参照した法解釈というものがあります。社内ルールも一つの規範として機能する以上、このような思考を適用することはある意味では当たり前ではありますが、目の前の当たり前の職務に自身の法的スキルを用いて、付加価値あるアプトプットができているか。特に、社内ルール上にしっかりと規定されていない事態が生じた場合に、法的スキルを用いて、ルールを解釈し、説得的なアウトプットができているか。本書を読みながら、こういった諸点を改めて考えさせられました。
他の項目においては、デュープロセスや利益衡量、憲法訴訟の考え方も参照される等、法的スキルを目の前の職務にどのように役立てていくかという点を論じている点は非常に参考になります。
● 個人的に役立った点
本書ではいくつものノウハウが紹介されていますが、私個人が特に役立ったのは、「社内ルール」に関するノウハウの諸点です。
本書においては、社内ルールを策定するメリットとして、予見可能性、抑止効果、負荷軽減、リスク軽減といった点を挙げています*4。私は、これ以外にも、事業部門に対する説得力という点も感じています。
法務部門をどう位置付けるかといった議論は昨今いろいろな媒体で行われているところではありますが、一法務担当者の立場からすれば、このような法務担当者として職務をこなす!といった形での職務遂行はできますが、法務部門をこう位置付ける!といった議論をトップマネジメントでもないポジションで他部門に働きかけたとしても中々説得力のある職務遂行ができないように思います*5。むしろ、一法務担当者として説得力のある職務遂行をなすのであれば、概念的なものではなく、「社内ルール」に依拠して考えることが大事と思います。そのような視点から考えた場合、本書においては、「社内ルール」の策定・運用・解釈等に関する法的スキルを用いたノウハウが記載されており、事業部門に対して説得力ある活動をする際のヒントとなると強く感じました*6
以上のように、組織内において自身の法的スキルをうまく付加価値あるアウトプットに繋げるという視点から見た場合、本書は非常に有益な本になると感じました。
*1:知識や思考を含む。
*2:例えば、BUSINESS LAW JOURNAL 2020年2月号32頁「2019年総括 購入書籍分野別品評会」のBさん発言において本書が取り上げられていますが、その内容は、「初版が出た頃は、こんな当たり前のことをわざわざ・・・と思って眺めていたのですが、その後、法務部門の人材構成も変わり、組織人としての教育プロセスを経ていない人も増えてきているので、”当たり前”を活字にすることの価値は以前よりも増してきているように思います。」というもので、「組織人としてのノウハウ」という点に焦点を当てているように感じる。
*3:前掲17頁
*4:前掲93頁以下。
*5:もちろん、理念的な部分を考え行動することは大事です。
*6:本書には明記されていませんが、社内ルールに関しては、そのようなルールが策定された経緯、基礎となっていた状況の変化の有無、ルールの多層性、形骸化の有無、埋もれているものはないか等、「管理」するといった視点から見ても、多数の考慮事項があると思います。