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【書籍】実務の落とし穴がわかる!IT・AI法務のゴールデンルール30

 実務の落とし穴がわかる! IT・AI法務のゴールデンルール30(松尾剛行著、学陽書房を読みました。本書は、タイトルだけ読むとIT・AI関連の法務実務書のように思えますが、実際のところは”情報法務”の概観を示した本と位置付けるのが良いと思います。

 

1.本書の概要

 本書はIT・AI領域に造詣が深いと考えられる松尾剛行弁護士により書かれた書籍となっており、タイトルにもあるように、昨今のIT技術の高度化によりどのようなビジネスにおいても切っても切り離せないものとなった”情報技術”に特化した形での法務実務の全体像を簡潔に記した書籍になっていると思います。

 冒頭にも書きましたが、本書のタイトルだけ見ると、本書はIT・AI領域の個々の法務実務をサッと初学者にもわかりやすく学ぶための入門書のようにも思えますが、実際のところは、本書の冒頭にもあるように、著者がこれまで扱ってきた実務をベースにした”情報法務”の実務入門書として位置付けるのが適切だと思います。このような位置づけというのは実際に通読してみることでよくわかるところですので、私個人としては、本書は個別に気になる点を読むタイプの書籍ではなく、通読してこそ意味があるタイプの書籍だと思います。

 

2.本書の特筆すべき点

 私個人としては、本書の特筆すべき点としては2点をあげることができると思います。

 

 まず、特筆すべき1点目としては、”情報法務”という新たな領域の全体像を示した点にあると思います。

 これまでもIT・AI領域の法務実務書籍として有益な書籍は多数ありましたが、それらはいずれにおいても、契約審査領域に特化したもの、システム開発領域に特化したもの、AI領域に特化したもの、プライバシー・セキュリティ領域に特化したものといった形で、この領域を一気通貫に整理した書籍というものはなかったように思います。 

 また、法務実務という切り口から離れると、情報法という切り口での書籍はありましたが、実務の観点での情報法務という観点ではなかったというのは、これまた共通するところです。

 これらの状況下で、本書は、個人情報保護・オンライン取引・データと知財電気通信事業法プラットフォーマー・AIというそれぞれの軸で、実務に即したポイントを整理しているのは、非常にビジネス実態に即したものになっていると思います。また、こういった各論だけでなく、総論部分で情報法務における重要ポイントをまとめているのは、著者ならではの観点であり、非常に示唆に富むものになっています。これまで、著者は様々な分野で書籍を刊行してきた認識ですが、それらが一本の線につながる感覚がわかりました。

 

 次に、特筆すべき2点目としては、取り上げられている個々のケースとその解説が、なかなか他の書籍にはない非常に実務的な観点での記載になっている点があげられると思います。

 個々のケース自体はタイトルだけ見ると、まぁ実務を扱っていれば遭遇しそうなものであるし、他の書籍と違いも特にないと思いそうなものになっています。しかしながら、個々の解説部分を見ると、著者の実務ノウハウがよく言語化されており、示唆に富む記述が散見されます。例えば、パッケージ開発のケースに関しては、パッケージ開発とFit&Gap分析に始まり、Gapが大きすぎる場合のリスクを述べ、Gapを埋めようとすることで発生するリスク、さらにはそれに伴う経営の意思決定に関して論じることで、著者が法務の役割として重要視するであろう”全体最適”の議論にまで持ち込んでいる点は、非常に読みごたえがあります。というか、初学者ではこの記載は間違いなく難しすぎるとも思える記載になっています。

 

 上記のように、本書の内容は類書にはない著者のノウハウが言語化されているところであり、私個人としては純粋な初学者よりは、数年程度の経験を積んだ法務の方が読んだ方が得るものはあると思います。

 

3.本書からさらにもう一歩

 本書自体は、上記のように”情報法務”というものの全体像を示す書籍として非常に示唆に富みます。とはいえ、本書で書かれていることの多くは、既存の議論の組み合わせを変更したものに、著者の法務観を加えたものになっていると思います。

 おそらく実務家としては、この先において、この著者が整理する”情報法務”と言われる領域を実際のビジネスに適用し、仕組化していくことが必要だとは思います。具体的には、Saas領域のビジネスであれば、システム開発のプロジェクトマネジメントモデルや営業プロセスのマネジメントモデルであるザ・モデルといったものを参考にしながら動いているビジネスプロセスへの実装、製造業のビジネスであれば、モノ売りからコト売りへといわれる中でのECM・SCM領域でのビジネスプロセスへの実装など、個々のビジネス・組織ごとに現れる”情報法務”の具体的実装を行っていくことが必要かと思います。

 こういった具体的な実装の経験をつみ、それを自分の中で新たに言語化し、軸を作っていくということが、おそらく著者が本書でも扱っている”法務におけるキャリア論”にもつながってくるのだろうと思います。

 

 いずれにせよ、本書はこれまでになかった整理がなされている書籍であり、また、著者がやりたいことというのが非常によくわかる書籍にもなっていると思います。個人的にはおすすめの書籍です。

【書籍】答えのないリーガル的分野の歩き方

 答えのないリーガル的分野の歩き方(商事法務、渡邊満久・田中陽介・西尾暢之著)という書籍を読みました。地に足つけて、経営・事業へとかかわっていく際の思考のフレームワークを与えてくれる書籍だと感じました。

 

 

1.本書の概要

 本書は、はしがきにもあるように、答えを出しづらいリーガル”的な”領域での価値判断を伴う対応や意思決定の仕組みづくりを行おうとする人のために、考え方の一つの”標準のようなもの”を提示するといったまさに”思考フレーム”を提供してくれる本になっています。

 章立て自体は、前半部分は極めて抽象的な思考のフレームを記載したものになっており、中盤においてはさらに視座を高めた日本人論のようなものが語られ、最終的には具体的なガバナンス設計の話に戻ってくるという極めて抽象的な話と具体的な話の振れ幅が大きな構成になっています。読んでいる人からすると、かなり好みの分かれる構成ともいえると思います。

 とはいえ、本書で書かれているような思考フレームについては、法的な思考を企業の意思決定に用いるという切り口から考えた場合には、思考フレームをある一つの観点で言語化したものとして有益なものになっていると思います。

 

2.本書から得られるもの

 それでは、本書で得られるものは一体何なのかという点については、地に足つけた上での経営・事業への付加価値提供を行う際のヒントが詰まっているといえると思います。

 これまで、法務界隈において、経営・事業との関係でのプレゼンスのあげ方となると、攻めの法務や守りの法務、パートナー・ガーディアン機能など、あるべき法務論といった哲学的な内容からのアプローチが多かったように思います。

 そういった議論と比較すると、本書で記載されている議論というのは、企業活動において最も重要ともいえる”意思決定”に着眼し、法的思考を用いてこのような”意思決定”の合理性をどのように担保していくか、その際のフレームワークを提供するというのはどういうことか、という観点でのアプローチになっていると思います。企業内の法務担当者である自分自身に引き付けて考えると、このようなアプローチというのは、非常に、経営・事業サイドに刺さりやすいものになっていると思います。結局のところ、先述のような哲学的な議論では、法務の人は何をしてくれるの?というシンプルな問いになかなか答えられない印象ですが、このような意思決定のフレームワークを提供する議論では、経営・事業サイドから見た際の目の前の課題ベースでの議論の端緒として機能しやすく、経営・事業サイドと法務の間での議論を行いやすくなる効用があると思います。

 実際、本書で書かれているフレームワーク構築の議論においては、帰納的アプローチ・原理原則アプローチ・コモンローアプローチと思考方法を分類しており、法学を学んだ人からすると、なじみやすいものになっていると思います。

 また、著者は、AI・データ領域での思考の適用を前提にしているようにも思いますが、現代のビジネス環境においてはVUCAとも呼ばれる不確実性の支配するビジネス環境が様々な業界で一般的になっていることを考えれば、AI・データ領域以外へも議論の射程は及んでいくものと思います。

 

3.本書からその先へ

 さらに本書からのその先へ行くとすると、この本の思考を用いて、自分自身がアウトプットを出しながら、手触りを持った持論を形成していくというのが重要なように思います。担当レベルであれば、法務相談の際に、単なる契約書の差分を指摘するのではなく、意思決定に役立つフレームワークを考えてみる、管理職レベルであれば、もう少し視座を高めた経営・事業の戦略レベルでの意思決定に役立つフレームワークを考えてみる、こういった中で、手触りのある成果を出していくことが重要なように思います。

 また、昨今、倉橋雄作弁護士が「経営判断原則と信頼の原則を『よき意思決定』に活かす」(上)(下)旬刊商事法務2369号・2370号などにおいて、意思決定における行為規範の重要性について論じられておりますが、こういった議論との接合性についても考えられるところのように思います。

 いずれにせよ、本書における議論を参考にすることで、自身のアウトプットを行為規範の設計といった方向へとその付加価値を変容させるヒントがあるのではないかと思います。

 

以上

【書籍】企業法務1年目の教科書 法律相談・ジェネコ対応の手引

 企業法務1年目の教科書 法律相談・ジェネコ対応の手引(幅野直人著、中央経済社を読みました。企業法務に従事することになる新人担当者が”企業法務のお作法”を身に着ける本として非常に参考になると感じました。

 

 

1.本書の概要

 本書は、企業法務で遭遇する”法律相談一般のお作法”を丁寧に言語化した本になっています。著者は、同シリーズの書籍として企業法務1年目の教科書 契約書作成・レビューの実務(幅野直人著、中央経済社*1を書いており、同書の中で、いわゆる”契約審査のお作法”を丁寧に言語化していたことから、本書は同じコンセプトで”法律相談一般のお作法”について書いたものになっています。

 本書自体は、著者も書いているところですが、”企業法務1年目で身に着けておくべきこと”をその対象として書かれたものとなっており、企業法務1年目の方が自分の日々の仕事を行うにあたっての一つの”軸”をイメージするために非常に良いと思います。しっかりとしたOJTを受けられるのであれば、こういった観点というのは、上司・先輩から到達点として明示されることもあるかもしれないのですが、すべての職場が必ずしもそういうわけではないので、自分自身の1年目のゴールはどこにおけばよいのかと言う漠然とした不安を払拭するためにも役に立つと思います。

 

2.本書の秀逸な点

 本書が秀逸だと考える部分としては、第1章(概観)、第2章(初動のポイント)、第3章(案件処理のポイント)の部分だと思います。

 本書は、第1章から第3章にて法律相談一般に共通する観点、第4章と第5章にて案件種別に応じた観点、第6章にてケーススタディという構成をとっていますが、法律相談一般に共通する観点をここまで丁寧に言語化した書籍は類書では中々ないように思います。

 例えば、ヒアリングのポイントで触れられている背景事情の確認や相談者の意向の確認、リサーチのポイントで触れられている条文を出発点とする原典にあたる、といった観点については、一般のビジネス本や類似の企業法務本においても触れられていることが多い観点ですが、初期判断のポイントとして対応に必要な社内体制の確認といった観点や情報拡散の管理という観点にまでしっかり触れているのは、企業法務の特性を考慮した上での記述となっていると思われ、実際の業務をしっかりと言語化した記載になっていると思います。もちろん、類似の企業法務本においても触れられることが多い観点についても、丁寧に言語化されているのは非常にわかりやすい点だと思います。

 こういった観点は、企業法務1年目の担当が自身の業務を行い、また、上司・先輩からの指導を受ける中で得た”気づき”を一般化・抽象化して、自分の血肉にするための補助線を与えてくれることと思います。

 

3.本書のその先の学び方

 一方で、2.で述べたような本書で書かれている企業法務の暗黙知を超えて、日々のOJTの中で身に着けていくべき観点もあるように思います。

 まず、企業内の法務担当者であれば、他部署との関わり方というのは、上司・先輩のふるまいをよく見る必要があると思います。本書においても、前記のように初期判断のポイント部分で社内体制について触れておりますし、また、第4章の品質クレームの部分でも他部署とのかかわりについては、簡単に触れているところです。しかしながら、実際の企業内の法務担当者が日々の業務を遂行する上では、思っている以上に、相談部門と法務部門の2者間では解決しない問題が多いです。特に、本書でもあげられているようなクレーム対応というのは、1年目の担当者が想像する以上にいろいろな部署が関わってくる案件です。そして、その状況は会社によって異なってくると思います。そういう観点で、他部署との関わりと言うのは、上司・先輩のふるまいをよく見ながら身に着けていく必要が大きい点になると思います。

 次に、AIやリーガルテックとの関わりというのも、1年目でも直面してくる課題かと思います。OJTを担当してくれる上司・先輩が育ってきた環境とは異なり、現在の企業法務の新人においては、AIやリーガルテックが当たり前の環境でキャリアをスタートすることになります。そのため、自分の業務とのかかわりの中で、AIやリーガルテックをどう使っていくのかは、キャリアのスタート時点から考えても良い課題かもしれません。おそらく、人や組織によるところですが、上司・先輩とは感度が違うこともあるので、うまく自分の中で位置づけを見つけていく必要があるのかもしれません。

 こういった観点は、本書のその先を考える上で、必要になってくる点かと思います。

 

 総じて、本書は”企業法務の1年目のお作法”を身に着ける書籍として非常に有用だと思います。

【書籍】類型別 企業間取引契約書作成のポイント

 類型別 企業間取引契約書作成のポイント(飯田浩隆著、中央経済社を読みました。”ビジネスに即した”契約審査の思考プロセスを学ぶには非常に良い本だと思います。

 

 

1.本書の概要

 本書は、企業間取引の契約審査業務で遭遇することが多いと思われる契約書の累計を取り上げ、それぞれについて”取引条件”と”取引リスク対策”の2つの観点から、契約書のロジックを解説した本になっています。

 実際、著者は企業内での実務に長年従事してきた方であり、本書の中には、後述するように、まさに企業内の実務家ならではの思考プロセスが開陳された記述がふんだんに盛り込まれており、非常に参考になる記述が多い書籍になっています。特に、著者が所属するようなメーカーに勤める方には非常に刺さる記述が多いのではないかと思います。

 

2.本書の用い方

 本書を用いる際の大きな特徴としては、1.でも述べましたが、契約書のロジックを”取引条件”と”取引リスク対策”の2つの観点で分類している点があげられます。

 契約審査の書籍において定番本としてあげられるものとしては、契約書作成の実務と書式(第2版)(阿部・井窪・片山法律事務所、有斐閣)(以下「AIK本」と略します)がありますが、同書とは明らかにそのコンセプトの違いを見てとれます。

 AIK本は読んでいくとわかりますが、個々の契約条項について”法的なロジック”としてどうなっているのかという観点が重視されています。そのため、個々の条項の法的な根拠や判例・裁判例を詳しく説明することで、法的に正確な理解をするという観点が重要視されているように思います。

 一方で、本書は、個々の契約条項について”ビジネスのロジック”としてどうなっているのかという観点が重視されています。これは、”取引の条件”という観点が契約ロジックを整理する切り口として持ち出されていることからも明らかです。例えば、物品売買契約であれば、取引条件を整理する前提で、物品売買の取引プロセスとして、”契約締結⇒目的物の引渡し⇒買主の受入検査⇒代金支払”というビジネスの流れが明示され、ここを出発点に契約の個々の条項を整理していくというのは非常に明快なものになっていると思います。

 こういった意味で、本書は、従前、定番書として推奨されてきた書籍とは一線を画する内容となっており、ビジネスのロジックの観点から契約条項を構成するための思考プロセスを学ぶためには非常に良い本になっていると思います。また、より業務に則した目線でいくと、事業部門に対する説明や研修といったものも、本書で書いてあるようなロジックで説明することは、”事業部門にとって非常に刺さる説明”になると思います。

 

3.本書が刺さる対象者

 本書が刺さる対象者としては、法務実務経験を数年経た3年から5年程度の実務担当者が読むと得るものは大きいように思います。このくらいの年次であれば、いわゆる自社における典型契約のひな型との差分をとる経験はそれなりにあると思われるので、そこから一歩抜け出して、ビジネスのロジックで契約書を見ていくというスキルを身に着けていくために非常に有益だと思います。OJTで上司・先輩から指摘される内容の意味がわかるようにもなってくると思います。

 一方で、法的な観点の裏どりをしたいのであれば、前記のAIK本の方が適切だと思いますし、契約審査自体のお作法を学ぶのであれば企業法務1年目の教科書 契約書作成・レビューの実務(幅野直人著、中央経済社*1の方が適切かと思います。この辺りは、書籍から何を学ぶのかという目的次第で使い分けていくのがよいと思います。

 

 総じて、本書は企業内の実務家による”ビジネスのロジック”の観点から契約書の個々の条項を整理したものとして非常に良い書籍だと思います。

【法務】一法務担当者の私が「法務パーソンはビジネスパーソンとしてあるべし」という言葉がよくわからないので考えた

 こんにちは、ちくわと申します。本記事は、2024年の裏legalAC*1 の記事として書きました。

 普段はいわゆるJTCと呼ばれる企業にて、ゆるふわ普通法務担当者として日々の仕事に励んでおります。

 そういった中で、よく聞く言葉として、「法務パーソンはビジネスパーソンとしてあるべし」というようなものがありますし、おそらく面接では「自分は事業をよく知ることが大事だと思っています!」「法務パーソンの前にビジネスパーソンであることが必要です!」と言う人が大多数だと思うのですが、どう考えてもまわりの法務パーソンにビジネスパーソン感がないように感じており、この違和感はいったい何なのだろうかというのが本記事を書くに至った動機になります。

 この観点からのポエムになります。

 

1.どういった背景でこの言葉を使うことが多いのか

 そもそも、どういった背景でこのような言葉が生まれてきたのだろうかと考えてみました。

 まず最初に、会社に雇用されてるんだから当たり前にビジネスパーソンであって、こんな言葉が生まれてきたこと自体どういうことなんだ…と思うに至ったところ、まぁ、おそらく、よく言われる「法務パーソンは偉そう感」を否定するために生まれてきたんだろうとは思いました。私は、自分のことを特殊な職種だと思ってませんし、偉そうにしませんよ、会社に馴染むつもりです!っていうのを言い換えるために使われているというのが、それなりの割合なんだろうと思います。それが自覚的であれ、無自覚であれ、傍から見ているとそんな印象を受けます。

 なので、私としては、この言葉が積極的な意味で使われていることは少ないのが実情だと思っております。

 

2.法務あるべき論との関係

 おそらく、この言葉って、いわゆる法務あるべき論と呼ばれる言説との関係を考えていくことで、その意味合いがより鮮明になってくるんだと思います。

 ご承知の通り、数年前、経産省の国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会の報告書に端を発して以来、法務界隈においては、様々な形で法務あるべき論というのが語られています。最近はリーガルテックベンダーが主催するカンファレンスが主になってこの辺りを取り上げている印象です*2

 しかしながら、実際に企業内で働く担当者として、この種の議論「のみに」を深ぼっていくことで、自身のスキルアップが図られていくのかというと、ちょっと疑問なところがあります。この観点から入っていくと、要するに、ビジョン先行型で入っていくことになりますが、これ、スティージョブズ並みの大天才でないとかなり厳しいのではないかと思います。法務部門はこうすべきですと言って、どれだけの社内の人に刺さるのか。そうだね、で、法務さんは何してくれるの?で終わってしまう可能性すらある。これを続けていると、法務解体にすら繋がっていきかねない。

 私個人としては、この言葉と法務あるべき論はあまり相性がよくないのではないかと感じています*3

 

3.日々の仕事においてビジネスパーソン「的に」できること

 では、一担当者というレベルに落とし込んだ時に、ビジネスパーソン「的に」できることってなんなのだろうかと、この1年試行錯誤してきました。

 そうしたところ、①経営・事業の課題は何なのかを把握する+②法務としてその課題をどのように解決(またはその支援)を行っていけるかを考える+③解決策としては自部門だけでなく他部門やアウトソース先のリソースも加味した施策を考える+④それを実際に自分でPJとして回してみる、という極めて当たり前のところに行きつきました。特殊なことのない普通の部門です。

 こんなことをぼんやりと考えながら、少しレイヤーも上げた視点で考えてみると、経営・事業戦略と法務戦略はどの程度紐づいているのだろうかと考えることが増えました。最近、公取の執行が活発化しているから~「のみ」からスタートするのは経営・事業課題起点じゃないですし、法務部門の契約審査数の効率化が~「のみ」を考えるのは法務部門の課題ではあるけども経営・事業課題起点ではないですし、法務部門のグローバル化が~「のみ」を考えるのも経営・事業課題を解決するための手段としての組織論が目的化してないか?といった自問自答をする場面が増えました。

 果たして、経営・事業戦略と法務戦略が接合している会社は世の中にどのくらいあるのでしょうか。

 

4.結局、法務パーソンはビジネスパーソンとしてあるべしってどういうこと?

 ぐだぐだと書いてきましたが、一担当レベルでいうと、この会社でやりたいことについて、自社の事業やフィロソフィーといったものと紐づいたものを言えるかってことだと思います。うちの会社は○○というものを提供してるから、その支援のために○○をやりたいと言えるのか、それとも、単に、M&Aを頑張りたい、と言うだけなのか、というようなことだと思います。

 結論として、普通の担当者であることが自分の目指すべき場所というところに戻ってきた次第です。やはり、普通法務担当でした。

 

 明日の担当はきぬんぬさんです。よろしくお願いします!

*1:裏 法務系 Advent Calendar 2024 Advent Calendar 2024 - Adventar

*2:ただし、リーガルテックベンダーは営利企業であり、ビジネスモデルにおいて、単なるSaaS的なソリューションからコンサル的ソリューションへ脱皮しようとするならばこの辺りに触れるのは必然であり、こういったカンファレンスでなぜこの種の言説が頻繁に取り扱われるのかは自分の頭で考える必要があると思う。

*3:より正確には、接合することも可能だけども、両者の意味を相当深く理解しないと厳しい。

【法務】一法務担当者の私がビジネス法務の「法務人材の評価」特集を読んで

 ビジネス法務2024年12月号特集1実例・アイデアを大公開 法務人材の「評価」というものでしたので、読んだ感想を記録します。

 

 法務人材の目標設定や評価というと、よく議論に上がるところであり、定量的なものにしにくい、その業務内容にかんがみて事業部門の動向に影響されることが多く目標設定になじまない、といった観点から、法務部門の特殊性をあげて、目標設定・評価の難しさが議論の俎上に上がることが多いように感じます。

 とはいえ、これもよくある言葉だけども、法務パーソンもビジネスパーソンであるということには変わりはないということからすれば、事業部門と同様に、何らかのアプローチにより適切に目標設定・評価をしていかないと、組織としての体をなさずに、ただの属人化した集団になっていくと思います。

 

 というような観点で本特集を読んでみて、気になった点は以下の通りです。

 まず、一人法務のための評価サバイバル術(片岡玄一、本書26頁以下)を読んで、法務が法務として組織化されておらず、一人法務のように法務とは異なる専門性を有する上長にうまく説明しないとダメなポジションの経験は、法務の目標設定・評価を事業サイドと目線を合わせるための方策として参考になる点があると思います。

 例えば、同記事における、

具体的には、法務が解決すべき課題を特定し、課題認識を評価者と共有したうえで、その解決を目標にするというのが目標設定において実施すべきことである。

このような課題の特定をする前にSMARTなどのフレームワークを用いても、効果的な目標を設定できるようになるわけではないので、順序を間違えないようにしてほしい。

なお、法務における解決すべき課題とは、自社が抱える法的リスクのうち、発生可能性が高く(または現に発生しており)、事業へのインパクトが大きいものと言い換えることができる。そのため、(1)そのようなリスクを発見し、(2)法務の力でリスク管理に寄与できるものをピックアップしたうえで、(3)具体的な対処方法を策定し、その実現を目標にするというのが具体的設定時の動きとなる。

というのは参考になるように思う。

 

 法務界隈で話題になるテーマとしては、法務機能論があると思うけども、個人的には、こういった機能論を深ぼっていった先に、法務の目標設定・評価というものの解は出てこないように感じております。それよりは、経営・事業の課題を正確に把握し、そこに対して法務としてどのようなアプローチが可能かといった経営・事業の課題ベースのアプローチの方が、実務者としてはより具体的な手法ではないかと考える次第です。 

 そういう意味では、個人の目標設定・評価の前に、法務部門のマネージャー層が、ビジネスパーソンとしてのスキルを高め、経営・事業の課題を把握し、それを法務施策に落とし込むという意味での経営・事業理解が起点になるのではないかと思います。

 本特集であまり出てこなかった観点ではあるのですが、目標設定・評価というのが、所属する法務部員個人に焦点が当たりすぎており、個人の課題として捉えられているような印象があるのですが、それよりは、もう少し組織に焦点を当てて、組織の課題として捉えていくのが適切であるように思います。

 

 本特集の他の記事も参考にしつつ、日々試行錯誤を行っていきたいです。

【書籍】Q&A 若手弁護士からの相談99問 特別編ーリーガルリサーチ

 Q&A 若手弁護士からの相談99問 特別編ーリーガルリサーチ(京野哲也 編著、ronnor・dtk 著、日本加除出版株式会社)を読みました。

 本書は、法務パーソンがいわゆる作業者として法務実務に携わるためのノウハウが言語化されたもので、中々、類書にはないアプローチで書かれた書籍だと思います。

 

1.本書の全体像

 本書は、民事弁護教官などを歴任された京野弁護士と、匿名の企業法務パーソンと思われるronnor氏とdtk氏によって書かれた書籍です。タイトルでは若手弁護士と銘打っていますが、その対象読者として、若手弁護士の他に、若手法務パーソンも含まれたものになっています。

 これまでリーガルリサーチに関して出版されている書籍は他にもあるように思いますが、それらと比較したときの本書の特徴は、実務で答えを出すためのリーガルリサーチとはどういうものかという点に焦点をあてているというものだと思います。本書でも出てくるのですが、リーガルリサーチは法務パーソンであれば見解の根拠を出すために必須であるものに関わらず、人によっては面倒くさいと感じることも多いものです。特に、学術的な観点からのリーガルリサーチをイメージしてしまうと、この傾向は顕著なものになると思います。

 そういった中で、本書は、あくまで実務者が答えを出すという形でリーガルリサーチを位置づけ、どの程度の広さや深さ、そして具体的な順序まで言語化した書籍として類書にないものになっていると思います。

 そして、本書の特徴としては、①問いを大切にしている②実務的なリーガルリサーチの手法を具体化している③リーガルリサーチ後についても触れている、の3点を挙げることができると思います。

 

2.特徴その①

 本書の特徴その①は、問いを大切にしているという点です。

 企業法務の本というと、あるべき法務論といった形がまず提示されて、それに沿う仕事はどのようなものかと具体化して業務ノウハウが語られていくことが多い印象です。これはこれでそうだと思う点もありますが、このレベルの視座を持っていない人からすると、意識高いなぁ…で終わってしまうことも多々あるように思います。

 一方で、本書は、そういった入り方ではなく、「問い」は何かという点を1章使って説明している点が非常に実務的だと思います。コンサル系のロジカルシンキング本などでは当たり前ですが、法務系の本でこのような入り方をする書籍はなく、いわゆるビジネスパーソンとしての視座ともマッチする書籍だと思います。

 実際、実務を行っていると、問いが不明瞭なまま業務遂行を行っている法務パーソンは多々見られますし、不明瞭ならまだしも、変容してしまっていることすら見受けられます。本書は、まず問いをしっかりとするという「ちゃんとやる」ことの大切さを言語化している点が非常に特徴的です。

 

3.特徴その②

 本書の特徴その②は、実務的なリーガルリサーチの手法を具体化しているという点です。

 繰り返しになりますが、本書は、あくまで、実務で成果を出すためのリーガルリサーチ手法が紹介されています。

 この観点から行くと、若手法務パーソンには、法学部卒でない方もいて、そもそもハードルが高いと思われるリーガルリサーチのハードルを良い意味で下げる方向の紹介がなされていると思います。

 一方で、法学部卒や弁護士資格を有している方からすれば、リーガルリサーチなんてしってるよと思われるかもしれませんが、学術的なものや業務時間に制約なく実施できるリーガルリサーチと、実務の制約条件の中で行わねばならないリーガルリサーチは明らかに異なります。

 本書は、このように、様々なバックグラウンドを持つであろう若手法務パーソンのいずれの方に対しても、「実務での」リーガルリサーチとはどういうものかを指し示す書籍になっていると思います。

 

4.特徴その③

 本書の特徴その③は、リーガルリサーチ後についても触れているという点です。

 日々の業務を行っていると、調べたものをまとめるという作業は非常に苦痛なものになります。私もそうです。とはいえ、折角労力を割いたものですから、何らかの言語化を行っておくことが、自分自身のためになるというのも争いないところだと思います。

 本書では、その方法として、リサーチメモとして具体化する手法から、ブログでの公開*1といった様々な手法を紹介しています。

 中々、第一歩を踏み出すのは勇気と労力が必要なことですが、書籍の感想を書き連ねている私としては、こういった言語化をする人が一人でも増えることを願っているところです。

 

5.まとめ

 本書は、上記のような特徴を有している書籍で、同編著者のQ&A 若手弁護士からの相談199問 特別編―企業法務・キャリアデザイン(京野哲也編著、ronnnor・dtk著、日本加除出版株式会社)*2と併せて読むことで、より相乗効果を増すものと考えられます*3

 具体的には、本99問本にて実務者としての作業ノウハウを身に着ける、199問にて組織内での立ち振る舞いやキャリアを考える際の軸を身に着ける、といった形で、法務パーソンが身に着けるべき暗黙知を身に着けることができるように思います。

 いずれにせよ、本書は、リーガルリサーチに悩む若手法務パーソンの試金石になる書籍だと思います。

 

以上

 

*1:本書では、これをSNS界隈で「小ネタ」と呼ぶとの紹介もされています(本書181頁)。

*2:感想を書いたページです。

chikuwa-houmu.hatenablog.com

*3:なお、いずれの書籍にも経営アニメ法友会が紹介されています(本書182頁など)。




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