オグたんのモータースポーツタイムズ

見どころの多かった2019年のF1を振り返る

今年のF1、空力規制の効果は?

 2019年のF1では、フロントウイングのフラップの枚数制限、フロントウイング下の気流を制御するフェンスの枚数、フロントウイングの前上にあったカスケードウイングの撤廃、シャシー両脇についたバージボードの寸法規制、また、前後のウイングの幅を広げるなどの寸法見直しも行なわれた。これらの主目的は、車体後部にできる乱気流を減らし、後方から接近する車両が乱気流の影響を受けにくくすることで、追い抜きをしやすくするというものだった。

写真左が2019年シーズン最初のメルセデスで右が2018年シーズンのもの。フロントウイングをはじめ、空力まわりが大きく変わっている

 だが、こうした空力規制が行なわれたにもかかわらず、ドライバーたちのコメントによるとやはり接近はしにくく、追い抜き促進への効果はわずかだったという。そのことは、多くのコースで予選でのラップタイムが下がらず、むしろ向上したことでもうかがえた。追い抜きを増やすための空力規制は、マシン単体での空力性能を下げる方向になり、ラップタイムは落ちるはずだったからだ。

 ところが、チームの空力担当者たちは、規制を受けた中でもラップタイム維持か向上のための素晴らしい努力をしてきた。結果、各チームのマシンは、程度の大小はあったが、より複雑で巧妙な形状の空力デバイスを装着し、シーズンが進むにつれてどんどん改修と変更が繰り返され、さらにまた手の込んだ形になっていた。そして、2019ルールによる車体後方の乱気流の改善の効果はより薄れてしまった。

 それでも、ルール変更でDRSの効果がやや増したのとともに、ドライバーたちのかなりの頑張りもあって、エキサティングな追い抜きシーンが見られたシーズンでもあった。予選ではマシンが前年よりも速くなり、とても魅力的な走りもあった。

 2021年にはさらに追い抜きを増やすためのマシンにするという。それは、1周でラップタイムが3秒ほど落ちるという。この新規定についてはいずれまた扱うとして、今はとても速いF1マシンが見られるのは2020年までということになると記しておく。

メルセデスとハミルトンの強さ

シーズン序盤から強さを見せたメルセデス

 今シーズンもメルセデス勢の強さが序盤から目立っていた。開幕戦から5戦連続で1-2フィニッシュという強さだった。しかも今年のマシン、メルセデスAMG F1 W10 EP Power+は、これまでのメルセデスのF1マシンをはるかに上まわっていた。これまでのメルセデスは、パワーユニットの出力を活かして、ストレートや高速コーナーでは速かったものの、長い車体のせいで低速のコーナーが不得意となっていた。ところが今年のマシンは、ストレートや高速コーナーでの速さをある程度維持しながらも、低速コーナーをとても得意とするマシンになっていた。おかげでほぼ全コースに対応できるマシンになっていた。

 これにはさまざまな要因が考えられるが、1つ挙げるとサスペンション、特にフロントサスペンションの機能をより高めていたように思われた。それは、上側のアッパーアームとタイヤ側のアップライトとの接続部分を車体内側寄りにして、旋回しているときのタイヤの性能をより引き出そうとしているようにも見えたからだ。

 このマシンの強さをルイス・ハミルトンは最大限に引き出して走っていた。チームの戦略も上手く機能していた。それが、11勝を含む17回の表彰台という圧倒的な強さにつながったといえるだろう。また、ハミルトン自身もより円熟した境地に入って、高い安定感と落ち着きの境地のような走りや言動を見せるようになったところも、3年連続チャンピオン獲得に大きな効果があったように思えた。

2019シリーズ優勝したルイス・ハミルトン

 バルテリ・ボッタスは、開幕戦での勝利から始まる4勝を含む表彰台獲得15回で、ランキング2位となった。かなり安定した好成績ぶりだったが、予選ではハミルトンにやや負けてしまった。パワーユニットにトラブルが起きるなどやや不利な場面もあった。予選と決勝でハミルトンをより上回ることが来季への課題。でも、かなりやれそうな所まで来ていることをうかがわせた。

アメリカGPで優勝したバルテリ・ボッタス
日本GPで優勝したバルテリ・ボッタス

 総じてみれば、今年のメルセデスチームは、マシン、戦略、ドライバーともほぼ完璧なシーズンだった。

ルクレールの躍進とフェラーリ

シャルル・ルクレールの躍進によりチームメイト同士で競り合う状況になってしまったフェラーリ

 フェラーリは新加入のシャルル・ルクレールの躍進が目覚ましかった。第2戦バーレーンGPでは自身初のポールポジションも獲得した。決勝でも同チームのセバスチャン・ベッテルを上まわるペースを見せた。だが、ここから躍進するルクレールとベッテルとのチーム内の競い合いになることがしばしばあった。スクーデリア・フェラーリは今季開幕前からシーズン前半はベッテルをエースとして優先するとしていて、バーレーンでもそうした判断をした。半面、それはルクレールの速さをそぎ、勝機を逸することにもなった。

 この2人の問題は終盤まで続いた。ブラジルGPでは決勝中に両車接触という事態にまでなってしまい、結局シーズンを通して効果的な解決策がないままだった。強いドライバーが2人同チームにいるのは、「両雄並び立たず」になることが多い。そのため、スクーデリア・フェラーリはドライバーの格に差をつけた選び方や体制をとることが多いチームだった。ルクレールの速さと急成長は、スクーデリアの予想をはるかに超えたものだったのかもしれない。マッティア・ビノット代表にとっては、難しい采配が来季も求められそうだ。

バーレーンでのセバスチャン・ベッテルとシャルル・ルクレール

 今年のフェラーリのマシン SF90はストレートでとても速かった。ほかにもSF90をストレートで凌駕したマシンはいたが、レースの順位を加味するとSF90が上まわっていた。半面、従来のフェラーリが得意としていたコーナーでメルセデスに負けていた。とくに、低速や中速のコーナーでは差をつけられていた。このことは、ストレートの重要性が高いスパのベルギーGPとモンツァのイタリアGPでルクレールが連勝したことにも現れていた。半面、低速コーナーの多いシンガポールGPでベッテルが優勝したことは、終盤戦に向けて巻き返しの期待もさせてくれた。が、現実はそう行かなかった。

セバスチャン・ベッテル(左)とシャルル・ルクレール(右)
ベルギーGPで優勝したシャルル・ルクレール

 ストレートが速くなり、パワーユニットの出力は最強とも噂されたフェラーリだったが、F1の開催コースにつきものの低速と中速のコーナーで遅れたことが敗因だった。それでもルクレールの成長と、それに刺激を受けたベッテルの頑張りは、よい方向に導けばもっと好結果になっただろうし、来季への期待材料でもある。

大躍進のホンダパワーユニット勢

全戦でポイントを獲得したホンダのパワーユニットを積むレッドブル

 ホンダのパワーユニットは、昨年からの供給先だったトロロッソに加えて、今季からレッドブルにも供給されるようになった。そして、両チームにとっても好結果につながった。

 トロロッソは、ドイツGPでのダニール・クビアトの3位、ブラジルGPでのピエール・ガスリーの2位を筆頭に、前年をはるかに上まわる成績を残した。コンストラクターズランキングも昨年の9位(33ポイント)から、同ランキング6位(85ポイント)になった。これは、クビアトの速さとガスリーの巧さというドライバーたちの活躍もあった。同時に、トロロッソのマシンSTR14の仕上がりが昨年のSTR13よりもよく、ホンダのパワーユニットのよさをより活かしていた。

トロロッソは前年を大きく上まわる成績を残した
ドイツGPで1位のマックス・フェルスタッペンと並ぶ3位のダニール・クビアト(左)
ブラジルGPでは1位にマックス・フェルスタッペン、2位にピエール・ガスリーとホンダ勢の1-2フィニッシュを実現した

 日本GPのフリー走行1回目では、山本尚貴が貴重な働きもしたが、このことは先月記したとおり。

 今季がホンダとの初シーズンとなるレッドブルは、全戦でポイントを獲得し、オーストリア、ドイツ、ブラジルでマックス・フェルスタッペンが優勝した。もう1人のドライバーについては、シーズン前半がガスリー、後半がアレックス・アルボンと、トロロッソのとの間で入れ替えがあった。前半のガスリーはRB15の特性に合わせるのに苦しんだといわれたが、それでも入賞を重ねてもいた。後半のアルボンはフリー走行では限界を試してコースアウトをすることもあったが、決勝では着実に好結果を重ねて、安定感ではフェルスタッペンをしのいでいた。

 レッドブルチームとしては、前年同様のコンストラクターズランキング3位で変わらなかった。だが、優勝回数では4回から3回、獲得ポイントでは419点から417点と、いずれもわずかに前年比割れだった。しかし、ホンダとの1年目ということを考えれば、かなりよい結果だったと言えるだろう。

ドイツGPでトップでチェッカーを受けるマックス・フェルスタッペン

 この両チームのホンダのパワーユニットRA619Hは、バージョンアップするたびにマシンの速さに反映されるパワーアップぶりをうかがわせた。最大出力では、まだフェラーリとメルセデスにやや遅れているようだが、ホンダのエンジンとパワーユニットお得意のドライバビリティのよさは今年も健在だった。ドライバーの操作どおりにパワーが増減することで、コーナーの多いコースや区間では抜群の速さを見せた。ブラジルGPでのフェルスタッペンの勝利と、ガスリーの2位も、コーナリング区間の第2セクターを速く駆け抜け、その終わりのターン11と第3セクターの始まりのターン12からの立ち上がりで上手く加速したことで、第3セクターの長い登りとほぼストレートで競り負けないようにしていた。これは、ホンダのパワー特性のよさを活かしたドライバーたちの技とともに、レッドブル、トロロッソのマシンのコーナリング特性のよさも功を奏していた。

 余談だが、ホンダのドライバビリティのよさの追求は、1989年、1990年のホンダのV10から始まったという説もある。これは当時のホンダF1の責任者の1人であった白井裕氏が今年ホンダ・コレクションホールで行なった講演の中で語っていた。当時マクラーレン・ホンダのドライバーだったアイルトン・セナの要求から、ホンダのF1エンジンは最高出力だけでなく、よりドライバビリティを重視したエンジン開発になり、その傾向はホンダのエンジンにより活かされるようにもなったという。

 今年はセナ没後25年。ブラジルGPでホンダのパワーユニットは1-2となった。もし、セナが今生きていたら、自分の地元サンパウロでホンダがドライビリティのよさを活かした1-2獲得に、「ほら、ボクが言ったとおりでしょう」と誇らしげに言って喜びそうな気がした。ホンダとセナの関係は今も活きているようだ。

ブラジルGPでは1991年のアイルトン・セナ母国初優勝以来となるホンダパワーユニットによる1-2を達成した

 ドライバビリティのよさをやや強調したようになってしまったが、最終戦アブダビGP決勝でのフェルスタッペンによる345.6km/hのストレート最速も記録。DRSや他車のスリップストリームで速度をさらに稼いだ可能性はあるが、他を圧倒するようなストレートスピードを出せるところまで来たことは、ホンダのパワーユニットがパワーを増していることもかなり見せていた。

 いずれにせよ、レッドブル、トロロッロ、ホンダにとって、2019シーズンはとても有意義な日々だったといえる。来年のさらなる発展が今から楽しみなところ。

復活の兆し? マクラーレン、ややダウンのルノー

日本GPを走るマクラーレンのカルロス・サインツ

 マクラーレンは、今季かなり伸びてきた。ルノーパワーユニットとなって2年目のマシン MCL34は、前年をかなり上まわる走りができるようになった。前年のマシンは、サイドポンツーン以降の気流が上手く流れていなかった。これは、昨年の日本GPでの気流可視化走行でも、蛍光ペイントがサイドポンツーン側面の途中で剥がれて乱れていたことでよく分かった。一方、今年のMCL34は、同様の実験でもサイドポンツーン側面に沿って気流が車体後方にまできちんと流れて、ディフューザーの効果向上に貢献していると思われる状態になっていた。そして、他の部分の気流の様子を計測するなど、よりいろいろな研究開発に手を広げられるほどマシンがよくなってきていることをうかがわせた。

 昨年マクラーレンはシーズン後半をマシン開発に充てて、その成果をMCL34に入れた。ルノーのパワーユニットにしたことで、ルノーチームとの比較もできるようになり、自分たちの車体の性能の足りなさをより冷静かつ客観的に見られるようになった。さらに昨年は元インディカーチャンピオンのジル・ド・フェランが来て、「自分の心は今もレーサーであり、勝ちたいんだ」という思いを前面に出して、チームを再び戦う組織に変えようと動いた。今季は、WEC(世界耐久選手権)でポルシェチームを王座に導いたアンドレアス・ザイドルがチームを引っ張った。

 マクラーレンチームは、ロン・デニス代表の指揮で1980年代から長く繁栄を誇った。が、2013年頃からレースチームとしてあまり上手く機能しなくなっていた。この末期のロン・デニス体制から、ザック・ブラウン体制に刷新しての立て直しの効果がやっと結果に出始めたようだ。

 カルロス・サインツとランド・ノリスの若いドライバーたちは才能を発揮して、さらに成長してきたことも大きかった。サインツはブラジルGPでの3位を筆頭に活躍した。F2から昇格してきたノリスはとくに終盤戦では3戦連続入賞するなど著しい成長ぶりを見せた。

日本GPを走るマクラーレンのランド・ノリス

 結果、マクラーレンはコンストラクターズランキングで前年の6位(62ポイント)から、4位(145ポイント)へと躍進した。

 一方、ルノーはパワーユニット供給先のマクラーレンにコンストラクターズ4位を奪われてしまい、ランキング5位になった。獲得ポイントも前年割れだった。

 ルノーのマシンR.S.19は、カナダやイタリアのようなストレート成分の多いコースではよいところを見せた。が、タイトコーナーのあるコースや区間ではマシンの動きも成績も鈍くなりがちだった。ニコ・ヒュルケンベルグも、チーム新加入だったダニエル・リカルドも、自身の速さも才能も表彰台には結びつけることができなかった。ともにチームを強くしていこうという誘いを受けて2017年にルノーに加入したヒュルケンベルグだったが、3シーズンとも大きな躍進がないままチームを去ることになってしまった。

ルノーのニコ・ヒュルケンベルグ(左)とダニエル・リカルド

 F1は1度マシン性能で遅れをとると、その回復には多大なリソースと時間が必要となる。でも、まだ英国の車体側にはベネトン、マイルドセブンルノー時代などを経たアラン・パーメインのような経験豊富な技術者もいる。どうチームを巻き返せるか? そのリソースは? というところ。

ハースとレーシングポイントとアルファ ロメオ

 今シーズンをとてもエキサイティングしてくれたのが、前述のマクラーレンとルノーとトロロッソに加えて、レーシングポイント、アルファ ロメオ、ハースによる中団グループの激しい戦いだった。

 レーシングポイントは、フォースインディア時代の傾向を引き継いだようなマシンで、ストレートのスピードではフェラーリをしのぐ最速になることもよくあった。セルジオ・ペレスもチーム新加入のランス・ストロールも高速コースでマシンの速さを活かしていたし、ペレスはタイヤの使い方の巧さも活かしていた。

ゼッケン11はフォースインディアのセルジオ・ペレス

 アルファ ロメオは元はザウバーだが、前年からアルファ ロメオが入ってきたことで、予算も人財も含めたリソースの充実ぶりがうかがえた。ロシアGP以降成績がやや下降気味で、ザウバー時代同様にマシン開発のリソースを来季に向けたようではあった。キミ・ライコネンは経験豊富なドライビングで着実に成績を挙げ、アントニオ・ジョヴィナッツィはブラジルでの4位と大活躍した。一時は財政難にあえいだチームだったが、アルファになってさらなる復活に期待というところ。

アルファ ロメオのキミ・ライコネン

 逆に厳しかったのはハースだった。シーズン途中でメインスポンサーの社内事情でスポンサーシップが終わるということもあった。マシンは、改良をするもののその効果が出せず。しかも、イギリスGPではドライバー同士で接触してしまい、新旧のボディで比較テストをしようとしたのが台無しにもなった。ロマン・グロージャン、ケビン・マグヌッセンと若いドライバーたちは、荒削りなリスクテイカーでもあった。半面、恐れ知らずで果敢に攻めることで際だった速さを見せることもあった。今季の不振によって、チームとマシンの制作実務を担当するイタリアのレーシングカーメーカーのダラーラは、かなりの経験とデータを得たはず。これを上手く活かせれば、来季は若い才能をより伸ばした結果を出せるかもしれない。

ハース、ゼッケン20がケビン・マグヌッセン。ゼッケン8がロマン・グロージャン

 レース結果はともかくも、この中団チームたちは僅差で激しく争ってくれた。テレビに映る機会は限られていたが、国際映像のディレクターがメインに映し出したくなるようなバトルシーンもかなりあった。F1をより面白く魅せてくれた立役者たちだった。

苦戦のウィリアムズ

 全10チームの中で別格の強さと速さを誇ったのがメルセデスチームだったが、その対局だったのがウィリアムズチームだった。

 フリー走行、予選から別格の遅さだった。昨年のF2チャンピオンのジョージ・ラッセルは全ドライバー中、唯一ポイントが得られないままでシーズンを終えた。2011年2月のラリーでの重傷事故以来のF1復帰参戦を果たしたロバート・クビサも、ドイツGPで1ポイント獲得したもののその真価を試すことはできなかった。

 マシンのFW42は、デビュー当初は光ったところもあった。バックミラーは半分カバーを着けて整流効果と空気抵抗の増加抑制の両立を図り、これはレッドブルなどにも取り入れられたほど。バージボード規制から、フロントサスペンションのアームを工夫してまるでフィンの機能のように利用して、気流の向きを制御するのもかなり進んだ考えだった(が、テスト段階でルール違反となり、実戦投入できす)。

 また、メカニックたちによるピット作業はすばらしく、今季最初に静止・作業時間で2秒を切ったのは、フランスGPでのウィリアムズチームだった(クビサ車の1.97秒)。最速タイムではレッドブル(ブラジルGPでのフェルスタッペン車の1.82秒)に敗れたものの、最速ピット作業レース数ではレッドブルとともにシーズン9戦と最多だった。

 こうした光った部分があっても、マシンのタイムにも結果にも結びつけられなかった半面、来期以降のスポンサーやメルセデスとのパワーユニット供給延長は早々に締結と発表できている。来季は、今年の大敗から立ち直りの始まりとなるか? というところ。

光る部分はあっても結果に結びつけられなかったウィリアムズ

 以上が、今季の各チームの振り返りだ。

去っていった人々

 今季のF1は大きな存在を失った。開幕戦の直前にはレースディレクターのチャーリー・ホワイティング氏が開催地メルボルンで急逝した。ブラバムチームでスタッフとして活躍した後、1988年よりFIAのテクニカルデリゲート(技術派遣委員)としてF1の車検や技術ルールを統括し、1997年よりレースディレクターを務めてきていた。早朝から夜遅くまで精力的に活動し、安全向上についてはとくに力を注いできていた。

 もう1人は1975年、1977年、1984年のチャンピオン、ニキ・ラウダ氏だった。ラウダ氏の現役時代のことは映画「ラッシュ」でも描かれたほど。2012年からはメルセデスチームの役員としてルイス・ハミルトンにチーム加入への声がけをし、ともに王道を歩む道筋も作った。最終戦で、ハミルトンが将来フェラーリに行くか? という話題が出たが、ラウダ氏が存命ならどんなアドバイスをしたのか興味深いところだった。ラウダ氏は勝ってもフェラーリの勝利とされる状況が嫌なこともあって、1977年でフェラーリを出た経緯があったからだ。でも、もうそれは聞けない。

2019年はF1のシーンからレースディレクターのチャーリー・ホワイティング氏とニキ・ラウダ氏が去った

 このほか、F2ではベルギーでのクラッシュで、将来が有望だったアントワン・ユベールが他界してしまった(ホアン・マヌエル・コレアも重傷を負った)。今回、F2、F3についても振り返ろうと思っていたのだが、文字数がかなり増えてしまったので、次回へとさせていただく。

 激しいバトルで面白いレース。今年のF1はかなりのところまでいけたと思う。これは、ホワイティング氏もラウダ氏も望んでいたことだろう。半面、安全ということではF2やF3で課題が顕在化してきたし、F1にとっても他山の石ではない。このことはトラックリミット違反(コース逸脱)を後半戦でより厳しくとる姿勢にも現れている(トラックリミットなどについては前回示したとおり)。

 総括すれば、より楽しかった今年のF1。未来に向けての希望ができた今年のF1。未来の安全への課題もできた今年のF1(F2、F3も)でもあった。

小倉茂徳