レビュー

【タイヤレビュー】M+Sを感じさせない静粛性で重量級ボディを受け止める横浜ゴムのSUV用新型タイヤ「ジオランダー X-CV」

“SUV本来の性能”を見つめ直したタイヤ

 横浜ゴムが新たにSUV向けに発売する「ジオランダー X-CV」は、ハイパフォーマンスSUVをターゲットにしたタイヤだ。17サイズが今回ラインアップされるが、それらは18インチから22インチというかなり大径なものばかり。それをご覧いただいてもご理解いただけるだろうが、モノコックボディを採用するかなりハイパワーなクルマを視野に入れていることが分かる。だが、近年このタイプのSUVはスポーツカー顔負けの“走り”をターゲットにしたものが多い。現に横浜ゴムではそれらに対して純正装着をしている経験もあるが、銘柄は「ADVAN sport V105」ばかり。スポーツカー顔負けの……という世界は、タイヤが支えていたという側面もあったのだろう。

 ジオランダー X-CVはそこを狙うタイヤではなく、あくまで快適性を重視。ただし、安全性を確保しつつというコンセプトだ。特徴的なのはM+Sとすることで、SUVらしくマッド&スノーもシッカリと抑えているところだろう。オンロードだけではなく、たまの悪路もきちんと受け止め、さらにドライ路面では乗り心地や音にも拘ったというこのタイヤ。話を聞けばかなりバランスはよさそうだが、果たしてそんな世界は達成できるのか?

4月1日に発売されるSUV向けタイヤ「GEOLANDAR X-CV(ジオランダー・エックスシーブイ)」

 そんな目標を達成するために搭載されたコンパウンドは、スノーやウェットでもきちんと作動し、さらにシリカを分散させるポリマーを配合したニュータイプを採用。シリカはこのタイプにしてはかなり増量しているようだ。トレッドパターンを見ればM+Sらしい細かな溝が刻まれているが、左右非対称パターンとすることで走りを確保。リブやショルダーに備わる溝を微妙にずらす「5ピッチ・バリエーション」を搭載することで、各溝が発する音を打ち消すようにも設計されている。さらに、トレッド下のケース部分には「2層ナイロンフルカバー」を奢っている。溝やケースに備えた技術が静けさに対する答えといっていい。

ジオランダー X-CVは専用開発の非対称トレッドパターンを採用。イン側のショルダーとアウト側のセカンドリブでウェットグリップを強化し、アウト側ショルダーとセンター部分でドライグリップを最適化している
「5ピッチ・バリエーション」でブロックエッジが接地する時に発生する周波数のピークを分散。耳障りな音域のパターンノイズを抑えて静粛性を高めた

ジオランダー X-CVは“SUV本来の性能”を見つめ直したタイヤ

ジオランダー X-CVをメルセデス・ベンツ「GLE 350d」に装着して試乗。タイヤサイズは265/45 R20 108W

 そんなジオランダー X-CVを箱根のワインディングで試乗した。クルマはメルセデス・ベンツの「GLE 350d」。タイヤサイズは265/45 R20 108Wである。走り始めてまず感じることは、たしかにM+Sであることを感じさせない静粛性だった。パターンノイズから高音のシャー音は出ず快適だ。まさにコンセプト通りといったところだろう。驚いたのはシッカリ感がかなり高かったことだ。ステアリングの操舵に対する反力がきちんと存在し、コーナーリングにおいても揺らぎなくこらえてくれる印象がある。GLEの巨体であってもきちんと受け止めたその走りは、もはやM+Sとは思えない世界観と言っていいだろう。もちろん、スポーツカーのようにコーナーに飛び込めば頼りなさもあるのだが、そこまで使わない一般的な方々には十分なレベル。これで悪路もOKとならば許せるだろう。

 もはやSUVであることを忘れてしまったかに思えるクルマやタイヤが多い中、ジオランダー X-CVはSUV本来の性能を見つめ直したということなのだろう。オンロード指向に偏り過ぎたSUVに疑問を持つ人にオススメしたい。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。