レビュー

【ナビレビュー】クアッドコアSoCの採用やハイレゾに対応した「サイバーナビ AVIC-CE901SE-M」

ストレスフリーな操作を10V型ディスプレイの日産セレナ専用モデルで体感

10V型ディスプレイを搭載する日産「セレナ」の専用モデル「AVIC-CE901SE-M」

 ハイエンドカーナビの代名詞と言っても過言ではないのが、カロッツェリアの「サイバーナビ」だ。

 これまでにもDVD-ROMやHDDといったメディア対応、プローブ情報を活用して交通情報を入手するスマートループ、ヘッドアップディスプレイやスカウターといったAR機能など最新技術をいち早く取り入れることで、カーナビ業界のトレンドを作り上げてきた。

 そんなサイバーナビが昨年、2016年モデルでビッグチェンジを果たした。CPUをはじめとしたハードウェアだけでなく、ソフトウェア面でもOSから刷新と、いわば新世代モデルへと進化したワケだ。

 こうした流れを経て登場したのが、今回紹介する2017年モデル。ラインアップは2016年モデルを踏襲しており、大まかに列挙すると7V型ディスプレイを採用した2DIN対応の「AVIC-CZ901」、ワイド2DIN対応の「AVIC-CW901」、8V型ディスプレイを採用した「AVIC-CL901」、それに10V型ディスプレイ&専用装着パネルが付属する車種別モデル「AVIC-CE-901」系の4系列。専用モデルは現状では日産自動車「セレナ」、トヨタ自動車「アルファード」「ヴェルファイア」「ヴォクシー」「ノア」「エスクァイア」、本田技研工業「ステップワゴン」が用意されている。

 これらに加えて、ドライブサポート機能を実現する「マルチドライブアシストユニット」(ND-MA1)および、「データ通信専用通信モジュール」(ND-DC2)を同梱したモデルも用意。こちらはモデル名の最後に「-M」が付くことで見分けることが可能だ。

 今回レビューするのは、10V型ディスプレイを採用する日産セレナ専用モデル「AVIC-CE901SE-M」。これら専用モデルについては、前述のマルチドライブアシストユニット&通信モジュールのほか、車内を撮影するための「フロアカメラユニット」(ND-FLC1)まで同梱された“全部入り”となっている。

ディスプレイを倒すとCD/DVDおよび、SDメモリーカードのスロットが現れる
USBの入力端子は2系統。HDMIは入出力ともに1系統ずつ用意される
MAユニット用のフロントカメラ

2017年モデルの変更点は?

 さて、まずは新型のポイントから触れていきたい。同社の言葉を借りれば、「先進のエンタテインメントカーナビ」化。ざっくりと言ってしまえば「ハイレゾ音源対応」「ミュージッククルーズチャンネルの進化」「リアエンタテインメント」の3点。

 え、カー“ナビ”はどうした?って。9月に行なわれた発表会ではあまり触れられなかったのだけれども、実は重要な部分が大きく変更されている。それは、カーナビというかサイバーナビの心臓部となるメインSoC(System On a Chip)の強化だ。

 2016年モデルではシングルコアのものが使われていたが、2017年モデルではダブル、トリプルをすっ飛ばして一気にクアッドコアにまで強化されているのだ。2016年モデルでもかなりのスピードアップを果たしたと感じていたが、さらなる底上げがなされたわけだ。

「もう遅いなんて言わせない!」

 2016年にフルモデルチェンジを果たし、わずか1年でまさかのSoC更新という力の入れ具合からは、そんな開発陣の声が聞こえてくるようだ。

 とはいえ、コアが4倍になったからといって、速度も4倍とはいかないのはPCに詳しい読者諸氏ならご存じのとおり。カーナビの場合はベンチマークソフトなんてものが用意されているわけじゃないので、その差をなかなか表わしにくいのだけれども、とりあえず分かりやすそうなルート探索でチェックしてみることにした。目的地は紀伊半島最南端近くのJR新宮駅。前回(2016年)の記事に動画を掲載しているので見てもらうと分かりやすいが、2016年モデルでは約6.2秒を要している。で、今回のモデルで同様にチェックしてみたところ約5.2秒と、およそ1秒ほど短縮された。手動計測&道路状況なども同一ではないため厳密な結果ではないものの、スクロールやそのほかの操作においても、よりキビキビとスムーズに動作する印象を受けた。スゴく分かりにくい例えを書くと、2015年から2016年の変化がHDDからSSDに交換したぐらいだとすれば、2016年から2017年はSATA SSDからM.2 SSDに変えたぐらい、って感じか。SoC関係なくなっちゃってるけど、あくまでイメージね。

スーパールート探索を行なわない場合、2016年モデルより約1秒ほど探索スピードが速かった

 ヘンな例えはさておき、操作性の面ではまったくのストレスフリー。メニュー操作はもちろん、地図スクロールや拡大縮小、検索、探索と、どれをとってもサクサク。唯一、気になる点があるとすれば、通信モジュールによるデータ送受信に時間がかかることぐらい。ローカルでの操作が速くなったことで、ここの遅さが余計にピックアップされてしまった印象だ。もっとも、それが気になるのは「フリーワード音声検索」とか、ローカルにデータを持っていない施設の検索程度。ルート探索時にもサーバーとの通信を行なっているけれど、そちらはデータ量が少ないこともあり、ほぼ気にならないスピード。どうしても急ぎたいときは、音声検索などを利用しなければイイだけだ。

しゃべるだけでスポットなどの検索が可能なフリーワード音声検索
少し時間を要するものの認識率はかなりのレベル
リストから選択すれば目的地に設定可能
詳細データも確認できる

 操作面で触れておきたいのは「スマートコマンダー」。サイバーナビでは2016年から採用され、手元でナビメニューとAVメニューの呼び出しができたり、地図の縮尺やボリュームをダイヤルで変更できたりと直感的で多機能なうえ、Bluetooth接続で置き場所も選ばないスグレモノ。……ナンだけれども、どうも使っている人が少ないらしい。ジョイスティックのボタンを押すことで実行できる「ダイレクトメニュー」も便利なので、ぜひ使ってみてほしい。

 また、スマートコマンダーを補助するアイテムとして、スマートフォン(Android/iPhone)用アプリ「リアスマートコマンダー」も登場。コレを使えば車内のどこからでも、スマートコマンダー同様の操作が可能になる。

Bluetooth接続のスマートコマンダーは標準装備
ボタンを押し込むことで起動するダイレクトメニューは、ルート案内中か否か、現在地か否かで4パターンが用意されている
コマンダー下部にある2つのボタン「カスタムダイレクトキー」に割り当て可能なコマンド
スマートフォンをスマートコマンダーのように使える「リアスマートコマンダー」

ナビの基本部分は2016年モデルを踏襲

 まず、メニュー画面まわりから見ていくと、ホームメニューを中心にナビメニュー、AVメニュー、Live infoメニューと4画面構成になっているのは変わらず。ただ、メニューの内容は機能追加により項目が増えており、とくにナビメニューでは「フリーワード音声検索」のほか、「駐車場満空」などスマートループ系の項目が追加されている。一見、項目数の多さゆえ分かりづらく感じるものの、よく使う項目はホームメニューに設定しておけばワンタッチで必要な機能を呼び出せる。ボタンサイズの変更も2016年モデルと同じく画面上で簡単に行なえるので、そのあたりはまったく問題ナシだ。

ホームメニュー
ナビメニュー
AVメニュー
Live infoメニュー

 地図画面は基本的に変わらず。ただ、直近の信号が大きく表示されるなど、細かなチューニングが行なわれているようで、より分かりやすい表示となっている。

100mスケール
100mスケール(文字拡大)
10mスケール
25mスケール
50mスケール
200mスケール
500mスケール
1kmスケール
2kmスケール
5kmスケール
10kmスケール
20kmスケール
50kmスケール
100kmスケール
200kmスケール
500kmスケール
スカイビュー
異なる視点やスケールでの表示が可能なツインビュー
AVと地図の2画面表示もできる

 もちろん、2016年モデルから採用となった「マルチレイヤマップ」は健在。画面上部から下部に向かってフリックすることで引き出せる「インスタントメニュー」を使うことで、地図上に表示される情報を簡単にカスタマイズすることができる。「そんなに頻繁には変えないけど、たまに変えたくなる」ような項目が並んでいるため、いちいちメニューを辿っていかなくても済むのはホントに便利。サイバーナビならでは、って感じの機能でグッドだ。贅沢を言えばスマートコマンダーで操作できるようになれば、もっとイイのだけれど。

インスタントメニューは4項目。これはよく行く地点をリストアップするもの
地図表示の切り替え
マルチレイヤはさらに4項目に分かれている
地図関連
交通関連
セーフティ関連
ゾーン30(緑の網掛け部分)やヒヤリハット地点のON/OFFが可能
操作などの項目

 スポットなどの検索まわりも従来どおり。エリアやジャンルでの絞り込みはもちろん、周辺検索では現在地周辺だけでなく都道府県を指定することも可能だ。駐車場満空などのスマートループ系の検索も同じナビメニューにまとめられ、使い勝手が向上している。

いつもの羽田空港。絞り込んでいかないと見つけられないのはちょっと面倒
ファミリーレストランを検索。リスト上で駐車場の有無が分かるのは便利
コンビニエンスストアを検索。こちらは駐車場だけでなくたばこや酒の取り扱い、ATMの有無まで分かる
駐車場満空情報
TVで紹介されたスポットを検索できる「テレビdeみ~た」
ガソリンスタンドには価格情報も

スーパールート探索を用意

 2016年モデルをアップデートすることで使えるようになった「スーパールート探索」。2017年モデルには当然、最初から実装されている。これは、カーナビで一般的なローカルに持っているデータを使ってルートを探し出すのではなく、サーバーを使うことによって、より膨大なデータから最適なルートを探し出すというもの。

 バリエーションは「推奨/有料標準」をベースに、「推奨2/有料標準」「推奨/有料回避」「推奨2/有料回避」「時間優先/有料標準」「幹線優先/有料標準」の計6パターンで変わらず。そのため、画面上の見た目では従来のルート探索なのか、スーパールート探索なのか分かりづらいけれど、よく見ると「SUPER」の文字があるので判別が可能だ。

 探索スピードはスーパーになっても「爆速」を維持。推奨ルートの探索はものの数秒で完了する。複数ルートの探索をバックグラウンドでやっている様子だが、クアッドコアの威力か操作には影響がなく、推奨ルートであればすぐに案内の準備が完了、ナビをスタートすることができる。

 一方、ルート品質という点ではある程度使い込んでみないと分からないため、残念ながら今回のような短時間の試用ではその可否を判定するのは難しいところ。毎回チェックしているルートで見比べた限りでは、ムリヤリ大回りして別ルートを作るようなことがなくなり、「数分余計に時間がかかるものの、高速料金が安くなる」ルートのような、実用面でうれしいパターンを挙げてくれるようになったと感じられた。具体的には「直近のIC(インターチェンジ)からではなく、1つ先のICを使う」といった具合だ。どちらを使うかはユーザー次第だけれども、そういった選択肢が用意されカンタンに比較することができるのは便利だ。

富岡製糸場を目的地に
すぐに推奨ルートが表示される
6ルートでもそれほど時間はかからない
「1」と「2」の違いがスーパールート探索ならではのポイント。時間とお金のわずかな違いを選ぶことできる
横浜から羽田空港の場合。地元民的には何も考えずに「5」「6」を選んでしまいがちだが、「1」なら170円も高速道路料金が安くなる

 実際に走り出してみると、交差点拡大や方面案内看板、細街路での案内といったあたりは2016年モデルと印象は変わらない。ルートから外れてしまった際のリルートも素早く、まったく不安を感じることなく走ることが可能だ。加えて、マルチドライブアシストユニットを装着することにより、誤発進警告、レーンキープサポート、ターゲットスコープによる注意喚起など、安全系の機能が追加されるのもうれしい。今回は利用することがなかったけれど、「フロアカメラユニット」を活用して駐車時の異常を認識して車内外を撮影する「ライブカーセキュリティ」やドライブレコーダー機能が付加されているのも便利。運転席まわりをスッキリとさせつつ、安全安心機能を利用することができるのだ。

ルート案内がない場合
方面案内看板などの案内は表示
ルート案内中は方面案内看板に色が付き分かりやすい
分かりやすいイラストによる案内も
ARスカウタービューでの案内
カメラマークはスポットウォッチャーと呼ばれる機能。リアルタイムではないものの、その場所の映像を見ることができる
高速道路や都市高速での案内
誤発進警告
はみ出しを注意してくれるレーンキープサポート
道路上のマークを認識して横断歩道を教えてくれる機能も。かなり視界のわるい時でも認識されるので、見落としを防ぐことができる

 自車位置精度については、もはやなにも言うことがない感じ。GPSはもちろん、日本の準天頂衛星「みちびき」、ロシアの衛星測位システム「グロナス」、さらに衛星の誤差補正情報や不具合情報を提供する「SBAS(静止衛星型航法補強システム)」にも対応。加えて上下、左右、回転方向の加速度&角速度を「6軸3Dハイブリッドセンサー」で検出することで、より正確な自車位置を表示することが可能となっている。

 実際、チェックルートとして使っている首都高速道路と一般道が上下に併走する場所や地下駐車場などを走ってみたものの、まったく破綻することなく正確な自車位置を表示。素早いリルートと相まって、どこでも不安なく走ることができそうだ。

一般道での案内を無視して高速へ。本線合流直後にリルートがかかった
逆のパターンで高速から一般道へ。こちらも問題なく一般道での案内に切り替わった
地下駐車場でもさすがの高精度。出口がピッタリなのが実は重要

モデルチェンジの目玉となったAV機能

 今回のモデルチェンジで大きなトピックとして伝えられていたのがAV機能だ。2016年モデルでも筐体構造からプリント基板のパターン設計まで一新と、大がかりな変更を行なっていたものの、さらに48bitデュアルコアDSPから「52bitトリプルコア浮動小数点DSP」へと強化するなどにより、ハイレゾ対応を果たしている。

 同時に、より緻密にセッティングを追い込むことができる「マスターコントロールモード」を搭載。「31バンドグラフィックイコライザー」や0.35cm単位で設定可能な「タイムアライメント」など、コダワリの調整が可能だ。また、今回のセレナなど車種別モデルには、同社のエキスパートによる専用セッティングが施されたモードが用意されており、ユーザーが複雑な調節を行なわずとも、理想的な環境で音楽を楽しむことができる。

 オーディオまわりのレビューについては「本田雅一の新型サイバーナビ『音』限定レビュー」が掲載されているので、そちらをチェックしてほしい。

より使い勝手を増したミュージッククルーズチャンネル。スマホでの歌詞表示も可能になった
待望のハイレゾ対応。フォーマットやサンプリング周波数なども表示される
USBメモリを使った動画再生にも対応
AM/FMチューナー
地デジはフルセグ対応
音響補正機能も強化。より詳細な補正が可能なマスターコントロールモードのほか、車種別モデルには専用にセッティングされたモードも用意される
マスターコントロールモードでは、グラフィックイコライザーが31バンドに
タイムアライメントは0.35cm刻みでの調整が可能
圧縮音源だけでなくCD音源までハイレゾ相当に高音質化するマスターサウンドリバイブ機能を搭載

2017年モデルのお買い得度は?

 と、2016年モデルと比較しつつレビューをしてきた。前回のレビューで「サーバーを使った機能が使えるようになってからが本領発揮」なんて書いたけれど、それが実現したのが2017年モデルといえる。また、機能面だけに留まらず、クアッドコアSoCの採用やハイレゾ対応など、「そこまでやるの!?」ってほどの力の入り具合は、サイバーナビは最先端を突っ走るぞ的な開発側のメッセージを感じさせるもの。

 2015年モデルまでとは大きく変わった2016年以降のサイバーナビ。2017年モデルはその新たな系譜を着実に伸ばしていくと言える出来。サイバーファンにこそ使ってみてほしい1台に仕上がっている。

安田 剛

デジモノ好きのいわゆるカメライター。初めてカーナビを購入したのは学生時代で、まだ経路探索など影もカタチもなかった時代。その後、自動車専門誌での下積みを経てフリーランスに。以降、雑誌やカーナビ専門誌の編集や撮影を手がける。一方でカーナビはノートPC+外付けGPS、携帯ゲーム機、スマホ、怪しいAndroid機など、数多くのプラットフォームを渡り歩きつつ理想のモデルを探索中。