試乗レポート

“最終型こそ最良モデル”の図式は当てはまるか? メルセデス・ベンツの現行「Cクラス」最終型の実力

メルセデス・ベンツの安全哲学は世代を超えても一貫している

充実装備の「C 200 Laureus Edition」に試乗

 セダン、ステーションワゴン、クーペ、カブリオレと豊富なボディバリエーションを誇るCクラス。前身である「190クラス」(メルセデス・ベンツ日本での表記。190シリーズとも呼ばれる)を初代とした場合、5代目となる現行モデルが日本市場へ導入されたのは2014年7月。まずはセダン、3か月遅れてステーションワゴン、そしてクーペ/カブリオレと続いた。

 迎えた2021年2月、本国ドイツでは最新型のCクラスが発表された。セダンと同時にステーションワゴン(オンライン発表会ではワゴンと表記)も登場し、加えて現行Eクラス・ステーションワゴンがラインアップする4MATIC(4輪駆動)であり、車高を若干高めた「オールテレイン」が新型Cクラスとして初めて用意されるという。

 これまでの流儀にならいセダンはW206型、ステーションワゴンはS206型をそれぞれ名乗る。日本市場への導入は個人的に2022年以降と予想するが、新世代のマイルドハイブリッドシステムを搭載した電動化パワートレーンに始まり、新型Sクラスの「リア・アクスルステアリング」と同様の機能を備えるというから今から興味津々だ。

2月にドイツ本国で発表された新型「Cクラス」では、セダンとステーションワゴンが同時公開された

 そうなると、今回紹介するCクラス(事実上の現行モデル最終型か?)の意義が問われる。しかし、「メルセデス・ベンツは最終型こそ最良モデル」というファンがいるように熟成が進んだCクラスはとても魅力的。筆者もその魅力を知る1人だ。

 もっとも、これは他社であっても同じで最終型の多くは高い評価を得るが、メルセデス・ベンツの場合はあえて資料にうたわない変更箇所がたくさんある。しかもその多くはコストダウン一辺倒ではなく、世界中のCクラス・ユーザーが発した声を反映したものだから、自ずとよいクルマに仕上がっているのだ。

 筆者は先代CクラスのステーションワゴンであるS204型を2台乗り継いでいる。登場してすぐの初期型「C 250」、そして後期型「C 350」だ。両車の走行性能違いは当然のこと(共にV型6気筒モデルで排気量違い)として、買い換えを決意した最大の理由は衝突被害軽減ブレーキである「プレセーフブレーキ」やACC機能である「ディストロニック・プラス」など、発売当時のSクラスと同等の先進安全技術がCクラスに初めて搭載されたからだ。

 かねてよりメルセデス・ベンツのADAS(先進運転支援システム)は、操作系統であるHMIを含めて秀でていたことは取材を通じて理解していたつもりだった。しかし、こうして愛車としてじっくり付き合ってみて初めて分かったことも多かった。その1つが、安全に対するメルセデス・ベンツの哲学だ。

 過去に参加したSクラスやCクラスの国際試乗会の場で、メルセデス・ベンツの安全技術担当者は「技術は普及してこそ全て」と口を揃える。クラスや販売地域に関係になく、可能な限り早く、新しい技術は搭載されるべきであるという趣旨だった。同時に前出の担当者は、「事故被害の軽減効果が立証されている先進安全技術であればなおのこと」とも語る。その通り、従来型(W204&S204)Cクラスも後期型になると、先進安全技術を充実させてきた。

 さらに「最終型こそ最良モデル」と評される理由がある。カタログに記載される装備以外に、表に出てこない大小さまざまな部分の改良が行なわれることだ。その数、現行Cクラスが2018年7月に行なったマイナーチェンジでは6500か所にも及び、これは車体構成部品のおよそ半分にあたる。

 今回試乗したのは充実装備の「C 200 Laureus Edition」(スポーツプラスパッケージ装着車)。インテリアではカーナビゲーションの主画面として10.25インチのワイドディスプレイを車内センターに配置し、ステアリング越しのメーター内には12.3インチのコクピットディスプレイ(Cクラス専用デザイン)を備える。

 外観では、アルミ製ボンネットフードに650m先まで届くウルトラハイビーム機能付の「マルチビームLEDヘッドライト」をはじめとした数々のLEDランプを備え、足下にはランフラットタイプではない18インチのブリヂストン「ポテンザ S001」を履く。先進安全技術群である「レーダーセーフティパッケージ」も標準で装備する。

今回試乗したのはブリリアントブルーの「C 200 Laureus Edition」(613万円)。ボディサイズは4705×1810×1430mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2840mm
マルチビームLEDヘッドライトや18インチAMGアルミホイール&ブリヂストン「ポテンザ S001」などを装着。その奥にはMercedes-Benzロゴ付ブレーキキャリパーやドリルドベンチレーテッドディスク(フロント)が見える

 搭載するパワーユニットは、2018年のマイナーチェンジで加わった1.5リッターのマイルドハイブリッドエンジン。直列4気筒直噴1.5リッターガソリンターボエンジンに、ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター(BSG)と48V系の電動化モジュールを組み合わせることでWLTCモード燃費数値は13.5km/Lを達成する。

 二次電池にはリチウムイオンバッテリー(1kWh)を搭載し、スターター兼ジェネレーター(発電機)はエンジンベルトを介してクランクシャフトに結合される。低回転域ではジェネレーターを「モーターアシスト機能」として活用し、走行に必要なエンジンパワーとトルクを補完。さらにBSGでは、ウォーターポンプを電動駆動とすることでエンジン負荷を減らし燃費性能の向上を図る。

パワートレーンは最高出力135kW(184PS)/5800-6100rpm、最大トルク280Nm(28.6kgfm)/3000-4000rpmを発生する直列4気筒直噴1.5リッターターボエンジンに、ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター(BSG)と48V系の電動化モジュールの組み合わせ。トランスミッションは9速AT

 ちなみに、メルセデス・ベンツが6気筒モデルで展開するもう1つのマイルドハイブリッドシステム「ISG」搭載エンジンでは電動エアコンを採用するが、BSGシステム搭載エンジンでのエアコンは通常のエンジン搭載車と同じくエンジン駆動のままだ。

Cクラス専用デザインのコクピットディスプレイやブラックアッシュウッドインテリアトリムブラックを採用するLaureus Editionのインテリア。オプションで上質な本革シート、快適性を高めるシートベンチレーター(前席)、Burmesterサラウンドサウンドシステム、エアバランスパッケージ(空気清浄機能、パフュームアトマイザー付)などをセットにした「レザーエクスクルーシブパッケージ」(46万4000円)が付く

初期型から乗り心地の滑らかさは大きく進化

 1.5リッター+BSGユニットの走行性能はとても優秀。スタート直後からモーターアシスト機能が入るので、いわゆるタイヤひと転がり目から力強い。トルクコンバーター方式の9速ATはとても滑らかで、シフトアップ時に発生するエンジン回転数低下による出力/トルクをBSGが補うことから躍度も途切れにくい。

 2018年の導入当初、モーターアシスト機能が働くまでには割と大きなタイムラグがあった。アクセルペダル操作に対して電動モーター駆動の力が高まるまでに0.5拍程度の間があったのだ。

 それが今回試乗した事実上の最終型では見事に解消されている。それこそ、駐車場や渋滞時にアクセルペダルをそっと踏み込むような状態では必要な分だけスッと加速し、そこからじんわり深く踏み込んでいくと今度はそれに同調するように加速力は素直に強まる。

 言い換えれば、より大排気量の内燃機関らしさが演出されたので、ドライバーとしては走りのゆとりを感じやすくなった。さらに、Dレンジでの登坂/降坂制御も変更を受け、ギヤ段のホールド制御も緻密になり、意図しないシフトダウンやアップが減っている。

 走行プログラムをスイッチ操作で任意に変更できる「ダイナミックセレクト」では、モード変更時のパラメーター変化量がより大きくなった。快適性重視のコンフォートモードから走行性能重視のスポーツ+モードに至るまで、乗車人数や道路環境など、自分好みの運転スタイルに合わせられる。

 試乗車はエアスプリングと電子制御ダンパーを組み合わせた「エアボディコントロール」を含む「スポーツプラスパッケージ」(33万9000円)を装着していたが、初期型のエアボディコントロールと比較すれば、乗り味の変化、とくに滑らかさの点では大きく進化した。

 現行モデルは登場時から敏しょう性を表現する「アジリティ」をうたい文句にしていたが、初期型では分かりやすく全般的に硬めの足まわりだった。試乗した最終型ではそのアジリティ性能はそのままに角の丸さが加わり、とくに大きな凹凸を通過した際の衝撃吸収力は格段に向上。これには、モデル中期よりランフラットタイヤからノーマルタイヤに変更されたことも大いに関係する。

メルセデス・ベンツの安全哲学は世代を超えても一貫

 ところでCクラスの試乗は、Car Watchですでに掲載されている新型Sクラスの試乗と同時期に行なった。CクラスとSクラスはともにFR(後輪駆動)をベースにした4MATICを備えるモデルで、セダンを基本とするあたりも共通する。

 今回、最新型のSクラスと最終型と目される現行Cクラスを同じ場所で走らせてみて、やはりメルセデス・ベンツが大切にする安全哲学は世代を超えても一貫していると痛感した。シートは調整幅が大きく、視界も広くて死角が少ないこと。各種操作スイッチは徹底して統一され、ディスプレイ表示はどのモードでも文字の判読がしやすいこと。そしてステアリングスイッチを始めとしたHMIでは、先進安全技術を正確にコントロールできることなど。

新型Sクラス

 また、Sクラスではボディサイズが小さくなったかのような扱いやすさを感じさせ、Cクラスでは大きなボディをイメージさせ安心感を高めるなど、メルセデス・ベンツが歴代大切にしてきた筋の通った走行感覚がしっかりと受け継がれている。その上で、最新の先進安全技術を可能な限りどのモデルにも早期に導入するという姿勢にも共感できた。

 新型Sクラスでは、音声認識機能を高めた第二世代の「MBUX」や「ARナビゲーションシステム」のほか、操作系ではセンターディスプレイのほかにシート&ミラー調整部分などにもタッチ方式を採り入れた。これは新しい取り組みで、オンラインでの発表内容を見る限り次期型Cクラスにも踏襲されている。

 筆者は新型Sクラスのタッチ方式よりも、運転中のブラインドタッチがしやすいという意味で現行Cクラス世代の物理スイッチ方式を好むが、メルセデス・ベンツに限らず、この先、物理スイッチは減少の方向性にある。これを機に食わず嫌いを改めるべきだろうか……。ともあれ、最終型こそ最良モデルという図式は現行Cクラスにも当てはまることが確認できた。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:中野英幸