試乗レポート

日産の新型「ノート」はコンパクトカークラスの常識を変えた? テストコースで速攻試乗

軽く、コンパクトに、そして安く

 3代目となる新型「ノート」(E13型)にいよいよ試乗する機会を得た。新型ノートのポイントとなるのは、まず全車がe-POWERを採用しているところだ。2016年にノートに投入されたこのe-POWERは、2018年の時点でガソリン車と合わせてノートを登録車ナンバーワンのポジションに押し上げた立役者。ガソリン車の比率が年々減少していったこともあり、いよいよe-POWER1本で行く決断をしたようだ。

 新型ノートが搭載するモーターはEM47型で、先代が搭載していたEM57型とは違い小さいサイズとなる。インバーターも「リーフ」から受け継がれたものから改められ、e-POWERの使い方を考えて40%ものコンパクト化と33%の軽量化に成功。一方で効率を高めており、最大トルクは254Nmから280Nmへ、最高出力は80kWから85kWへと進化。ケースの剛性なども高め、音の発生に対しても配慮した上で、軽く、コンパクトに、そして安くということを実現している。

11月24日に発表された新型「ノート」。2WD(FF)モデルを12月23日に、4WDモデルを2021年2月にそれぞれ発売する予定で、2WDモデルの価格は202万9500円~218万6800円。ボディサイズは4045×1695×1505mm(全長×全幅×全高。Xのみ全高は1520mm)、ホイールベースは2580mm
外観では新しい日産ブランドのロゴや新型のVモーショングリルなどを採用し、足下は15/16インチのホイールカバーに加えて2トーン切削の16インチアルミホイールをオプションで用意。撮影車は16インチのホイールカバーに横浜ゴム「BluEarth FE AE30」(185/60R16)の組み合わせ
室内では、外に向かって広がるようなインストルメントパネルにセンターディスプレイと一体化したメーターを装備したほか、小型の電制シフトレバーが乗るブリッジ型のセンターコンソールには大型の収納スペースやロングリーチのアームレストを装備
こちらはフルモデルチェンジした「ノート」をベースにしたカスタムカー「AUTECH」。発売日および価格は12月に発表する予定。オーテックジャパン創業の地である湘南・茅ヶ崎の「海」と「空」のイメージから想起したブルーのボディカラーが大人っぽさを演出
外観ではドットパターンのフロントグリルや専用デザインのアルミホイールを採用するとともに、低重心とワイドスタンスを印象付けつつ、スポーティさを演出するメタル調フィニッシュの専用パーツを車体下部に装備。フロントバンパーにはAUTECH専用のブルーに輝くシグネチャーLEDを採用し、ひと目で「AUTECH」と分かるスタイルに仕上げている
室内ではシート地に柔らかな手触りで体になじむレザレットを採用し、海面の波の動きをモチーフにした模様を施した。ハンドルやシートにもブルーを配すなど、インテリア全体をブルーとブラックでコーディネートした

 もう1つの注目ポイントは、プラットフォームが刷新されたことだ。先代は「マーチ」などと共用するVプラットフォームだったが、ルノー「ルーテシア」、欧州で販売される「ジューク」などが採用する次世代上級小型車向けのCMF-Bプラットフォームとなった。これに伴い、ボディ剛性は30%、ステアリング剛性は90%、サスペンション剛性は10%アップされたとのことで、走りの質感がどう進化したのかが見どころだ。

 サイズは先代に対してコンパクトになり、全幅は1695mm、全高は1520mmと変わらないものの、全長は4045mmと55mm減、ホイールベースは2580mmと20mm減となっている。そのシェイプアップぶりはひと目で理解できるもので、先代に比べてかなり凝縮された感覚がある。デザインは新生日産を象徴するEV(電気自動車)「アリア」に続くもので、新しい日産ロゴを採用した第1号車というところもポイントの1つだろう。

これがコンパクトクラス?

 最上級モデルの「X」に乗り込むと、シンプルながらもモダンさを感じさせてくれる仕上がり。アリア譲りの先進一体型バイザーレスディスプレイはひと目で情報が理解できるところがマル。カーナビもクラス最大級の9インチとなかなか豪華だ。収納スペースをうまく隠し、例えばセンターコンソール下にスペースを備えたり、リトラクタブル・インパネカップホルダーとするなどして、生活じみた空間にしていないところが好感触だ。

 シートは座った瞬間から全身をふっくらと包み込むような感覚があり、触れる部分にも気を遣ったところが伝わってくる。これがコンパクトクラス? かなり贅沢な空間がそこにある。ただ、後ろ側にセンターの大型コンソールボックスを持たせようとするあまり、ステアリングを左に切った際に肘が当たるところは改善してほしい。座面を上げて乗れば問題はないだろうが、それでは調整機構も無駄になるのだから……。

 テストコースを走り出すと滑るように動いていく。第一印象はとにかく静けさが際立つ感覚で、エンジンが始動しようとも気にならない感覚があった。かつてのように、瞬間的にエンジン回転が高まることもなくなったことが相当に効いている。先に登場したSUV「キックス」に乗った時にもe-POWERはかなり調教された感覚があったが、ノートのe-POWERはそれ以上。回転を高めずして十分な発電を行ない、モーターに電気を送っていると感じさせてくれる。

 新型ノートでは荒れた路面に差し掛かった時にエンジンを始動させ、滑らかな路面になるとエンジンをできるだけOFFにする制御を行なっている。これはモータートルクが車輪にどう伝わるかを、車輪速センサーを利用して検知するもので、波形が乱れた段階であえてエンジンをかけるようにしたそうだ。その切り替わりポイントは、今回試乗したテストコースではなかなか判断できなかったが、エンジンの存在を完全に黒子にしたさまは驚きがあった。

新型ノートのe-POWERは直列3気筒DOHC 1.2リッター「HR12DE」型エンジンと「EM47」型モーターの組み合わせ。エンジンの最高出力は60kW(82PS)/6000rpm、最大トルクは103Nm(10.5kgfm)/4800rpm。モーターは最高出力85kW(116PS)/2900-10341rpm、最大トルク280Nm(28.6kgfm)/0-2900rpmとなる。WLTCモード燃費は28.4km/L~29.5km/L

 また、新型ノートは遮音性に優れているということもある。先代に対してロードノイズがかなり低減されている感覚で、先代ではリアのホイールハウス内にカバーはなかったが、今回からそこも対策されている。コンパクトカークラスであっても全力で静かにしていこうということが伝わるエピソードだ。

 乗り味はかなり骨太な感覚があり、ステアリングはかなりシッカリとしたフィーリングが得られている。パワーステアリングはコラムアシスト式のEPSとのことだったが、切り始めた瞬間からタイヤの状況が理解しやすく仕上がっていた。フットワークも荒れた路面を見事に吸収しながらフラットさが際立っている感覚。ロールやピッチングは程よく起きるイメージで、e-POWERらしくワンペダルで走行中でもコーナリングでの荷重移動をさせやすい。後にスポーツモードにして意地悪にフル加速もしてみたが、極端にピッチングすることなく、きちんとトラクションを与えていたことが印象的だ。その気になればホットハッチ的にも振る舞えるかもしれない。

 ここまで走りの質感が高く、そして走れてしまうイメージがあると、後席の乗り心地が気になるところ。突き上げはないのかと乗ってみたが、そこでも上質な乗り味は健在。Xの場合はシートのリクライニング機構も付いているし、試乗車にはアームレストもあったため、それらをフルに使えばかなりリラックスした空間が生まれる。ホイールベースが短縮されたとはいえ、身長175cmの筆者のニースペースが、こぶし1つ分余裕があったのだから、これなら実用面で問題はないだろう。

 このようにトータルで激変した新型ノートは、コンパクトカークラスの常識をさらに改めてしまったかもしれない。プロパイロット搭載もOKとなるが、最上級クラスのXでしかそれを得られず、高価になってくるという状況もあるが、それでも十分に許せてしまう質感と走りがこのクルマにはある。これならまたもや登録車ナンバーワンとなる日もそう遠くはないだろう。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はスバル新型レヴォーグ(2020年11月納車)、メルセデスベンツVクラス、ユーノスロードスター。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学