試乗レポート

メルセデス・ベンツの新型SUV「GLB」が持つ3つの美点とは?

コンパクトSUV×7人乗り3列シート

 これまで世界各国の市場でSUV戦略を推し進めてきたメルセデス・ベンツ。2016年には「SUVイヤー」として勢いづき、今や販売するメルセデス・ベンツの3台に1台がSUVだ。

 さらにメルセデス・ベンツはコンパクトモデルにも強い。直近のデータによると、メルセデス・ベンツの4台に1台がコンパクトモデルであり、1997年の初代「Aクラス」発売以降、じつに650万台以上のコンパクトモデルを世に送り出してきた。したがって、今回紹介する「GLB」のようなSUVのコンパクトモデルは、今後のボリュームゾーンど真ん中というわけだ。

 6月25日に日本で発表(本国では2019年6月11日発表)となった新型GLBは、メルセデス・ベンツのSUVとして9番目に導入された7人乗りの新型モデル。全長4650mmのなかに3列シートを設けている点が大きな特徴。この3列シート構成を可能にしたのが、延長されたホイールベースだ。

 現在、日本に導入されている他のメルセデス・ベンツのコンパクトファミリー、すなわち「Aクラス」「Aクラス セダン」「Bクラス」「CLA クーペ」「CLA シューティングブレーク」が採用する2730mmから、GLBでは2830mmへと100mmホイールベースが延長された。タイヤがボディの4隅に配置されることに加えて、角は丸いが直線基調のデザインを採用することから大柄に見えるものの、全高は1700mm、全幅は1845mmと極端に大きくはなく、国産SUV勢と同レベル。さらにトレッドも前1600mm、後1610mmだから、立体駐車場においても高さ条件さえクリアできれば、タイヤをパレットにこする心配なく駐車できる。

6月25日に発表された新型SUV「GLB」。今回試乗したのはガソリンモデルの「GLB 250 4MATIC Sports」(696万円)で、ボディサイズは4650×1845×1700mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2830mm。ボディカラーはデジタルホワイトで、ガソリンモデルではギャラクシーブルーを含めて2色設定となっている。そのほか直列4気筒2.0リッターディーゼルターボ「OM654q」型エンジンを搭載する「GLB 200 d」(512万円)もラインアップする
足下は20インチブラックAMGマルチスポークアルミホイールに、ブリヂストンのSUV向けタイヤ「ALENZA」(235/45R20)の組み合わせ
ガソリンモデルは直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボ「M260」型エンジンを搭載。最高出力165kW(224PS)/5500rpm、最大トルク350Nm(35.7kgfm)/1800-4000rpmを発生し、WLTCモード燃費は12.0km/L

 GLBと同日発表の「GLA」との違いはボディサイズと乗車人数で、ボディが小さく(4415×1835×1620mm[全長×全幅×全高])、乗車人数が5名となるが、ディーゼルエンジンに4輪駆動方式の4MATICが選べるなど差違が設けられた。

 オーソドックスな直線基調のボディラインと存在感を持たせた直立デザインのグリル、そして強調された4つのホイールハウスによって、どっしりとしたGLBのプロポーションが作り出された。オフロード走行を意識したかのようなタフなデザインでありながら、要所要所には適度な丸みを持たせることで柔和な印象をも併せ持つ。

 力強さと優しさの両面をうまく取り入れていて、アイコン的なかわいらしさもある。メルセデス・ベンツのSUVである「GLS」や「GLE」、そして「GLC」と兄弟関係にあることは一見して明らかなデザインテイストだが、個人的にはEクラス ステーションワゴンベースのSUVモデル「E 220 d 4MATIC All-Terrain」の全長をギュッと圧縮して、全高をちょっと高くしたような“不安定さの中にある安定”みたいな、思わず二度見したくなる一面があって強く惹かれた。

GLBではスクエアで車高の高いスタイルと、2830mmという長いホイールベースを生かして広い室内空間を実現。メルセデス・ベンツの対話型インフォテインメントシステム「MBUX」も備わる
メーターまわりでは4MATIC車ならではの表示が可能
急なオフロードの下り坂を2km/h~18km/hの間で事前に設定した一定の速度で降りることができるDSR(ダウンヒルスピードレギュレーション)を装備
走行モードに応じてエンジン、トランスミッション、ステアリングなどのパラメーターが変化。「Comfort」「Eco」「Sport」に加え、滑りやすい路面で力強いトラクションを発生させる「Offroad」、ドライバーの好みに応じて特性を自由に設定できる「Individual」を設定する
GLBは3列シート仕様。2列目シートと3列目シートにはISOFIX対応固定装置とトップテザーアンカー(固定ポイント)により、最大4つのチャイルドセーフティシートを取り付けられる
ラゲッジルームは高い車高や多彩なシートパターンにより、十分な積載性を確保しているだけでなく、日常的な利便性も考慮。左右のラゲッジルームトリムに小物入れを設けたほか、テールゲート下部にコート用フック2個、2段階高さ調整式ラゲッジルームフロアなどを備えている

GLBの美点

 試乗したのはガソリンモデルの「GLB 250 4MATIC Sports」。直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジン(224PS/350Nm)に新開発の8速DCTを組み合わせた。昨今、内燃機関は48V系のマイルドハイブリッドシステムを組み合わせるなど電動化が進んでいるが、GLBが搭載する「260」型は現時点、内燃機関のみで電動化は行なわれていない。

 それでも今回の試乗ルートである、都市部から高速道路を経由して湾岸部を目指し、途中で山道を走るようなシチュエーションでは、次に紹介する美点によって終始満足できる走行性能が味わえた。

GLBの美点その1:「エンジン特性に柔軟性があること」

 3列目シートに座る乗員の頭を大きく揺らすことなく、滑らかな加速が気負うことなく行なえる。アクセルを徐々に踏み込んだ際に意識するDCTのダウンシフトタイミングもドライバーの意図に近い。運転状況に応じた走行特性を任意に選択できる「ダイナミックセレクト」の「コンフォート」(この位置が標準)モードでは、じんわりとした滑らかな加速から、必要十分な加速力まで自在に生み出せる。

GLBの美点その2:「電子制御ダンパーの威力」

 GLB 250 4MATIC Sportsには「スポーツサスペンション」と称して電子制御ダンパーが装着されている。このダンパーの減衰特性は大したもので、前述のコンフォートモードではそれこそEクラス並に路面の凹凸をキレイにいなしてくれる。恥ずかしい話、「あー、エアサスペンションだから乗り心地がいいんだ!」と勘違いしたくらいだ。それでいて、ダイナミックセレクトを「スポーツ」にする、もしくは個別設定が可能な「インディビデュアル」モードのサスペンション項目でスポーツを選択すれば減衰力が伸び/縮みともに引き締められて、路面からの入力を一度でグッと押さえ込む。多人数乗車でなければ、こちらもおすすめ。

GLBの美点その3:「3列目シートありきのクルマ作り」

 正直、3列目シートには期待していなかった。4650mmの全長であることや、3列目シートには身長制限がつくことから、失礼ながら長距離は難しいのではないか。また、コンパクトクラスなので遮音性にしてもそれほど望めず、1列目シートと3列目シート間との会話明瞭度もそれなりだろうと……。が、GLBは違った。

 確かに3列目シートの座面は小さい。でも座り心地は驚くほどよかった。筆者(身長170cm)の体躯との関係もあるのだろうが、バックレスト方向へと凹んでいることからしっかりお尻がホールドされ、足下スペースも余裕たっぷりとはいかないが、26cmのシューズが難なく2列目シート下に収納できるし、位置の自由度も高い。バックレストの角度が固定式なのが惜しいけれど、ヘッドレストレイントは適正な位置まで上がり、万が一の際には頭をしっかりと拘束してくれる。

3列目および2列目に座ってみたところ。2列目シートは60:40の分割式とし、140mmの調整が可能な前後スライド機構を備え、後ろにスライドさせて乗員にレッグスペースを提供したり、前にスライドさせて積載性を向上させたりすることが可能。3列目シートは2列目シートのバックレストにあるロック解除レバーを操作することで、2列目シートが前に倒れてスライドしてワンタッチで乗り降りできる

 それに乗り心地がとてもよい。先のダイナミックセレクトにおけるコンフォートモードは、明らかに3列目シートでの乗り心地を意識したダンパーセッティングで、この手の3列目シートに多い、路面の凹凸を通過した際の上下動がピタリと抑えられている。6ライトウィンドウのおかげで開放感も高く、これならクルマ酔いしやすい同乗者でも安心して3列目シートへエスコートできそうだ。会話明瞭度も高く、高速道路の巡航時であっても声を荒げることはなかった。ここは全長が短いことの利点だろう。

 ただし、ダンパー減衰力が高めにセットされるダイナミックセレクトのスポーツモードでは、当然ながら3列目シートでの乗り心地は悪化する。

 ちなみに、GLBの後部ドアを開けたサイドシル部分には注意喚起のステッカーが貼られていて、そこには「3列目シートは169cmまで」とある。このことから乗車には一定の条件がつくものの、170cmの筆者が3列目シートに座ると違法なのかといえば、そうではない。また、靴底の厚みで数cmの誤差は簡単に出てしまうし、たとえば190cm以上の人や168cm以下の方でも大柄な体躯であれば乗り降りが難しく自ずと敬遠されるだろう。

後部ドアを開けたサイドシル部分のステッカー。許容身長を超える場合、事故などのときにルーフや車内の部品に接触してケガをするおそれがあるので、該当する身長の乗員は3列目シートを使わないよう注意喚起を行なっている

GLBの美点まとめ:「大らかな運転スタイルが似合う」

 ダイナミックセレクトのコンフォートモードがもたらす滑らかな乗り心地は、GLBのキャラクターを明確にした。これは兄貴分のGLCやGLEでも感じられるところだが、GLBはコンパクトサイズで大らかな走りを実現した点に魅力を感じる。

 必要十分な加速力を生み出す2.0リッターターボエンジンにしても、日本の道路事情にもマッチした8速DCTのギヤ比(8速100km/hで約1500rpm)によって、たとえば高速道路におけるACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を使った巡航燃費は15.4km/Lを記録するなど、条件さえ整えばカタログ値を大きく上まわることも確認できた。

 現時点での短所といえば、GLAで選択できるディーゼルエンジンと4MATICの組み合わせがないこと。もっともGLBではディーゼルエンジン×前輪駆動の「GLB 200 d」が512万円で用意されているし、さらにGLAにはガソリンモデルとの組み合わせがないことから、むしろ選択の幅はGLBがGLAを上まわる。

 次なる短所は8速DCTの発進制御。クラッチ締結時に限ってきめ細やかなアクセルワークを要求してくるのだ。過去にCar WatchでレポートしたAクラスAクラス ディーゼルBクラスでは感じられなかった項目。搭載エンジンとのバランスで発生した事象なのだろう。

 最後に価格。これは短所であり長所だ。GLB 250 4MATIC Sportsは696万円と確かに高額であり、おいそれと手の出る値段ではないところは短所。一方で、昨今のメルセデス・ベンツが進めてきた装備体系からすれば「レーダーセーフティパッケージ」や「360度カメラ」、「パワーテールゲート」などが標準装備になっている点は長所と捉えた。

 レーダーセーフティパッケージに含まれるACC「アクティブディスタンスアシスト・ディストロニック」、レーンキープアシスト機能「アクティブステアリングアシスト」、ウインカー操作で車線変更する「アクティブレーンチェンジングアシスト」は運転時の疲労を軽減させ、衝突被害軽減ブレーキ「アクティブブレーキアシスト(歩行者/飛び出し検知機能付)」、ドライバー異常時対応システム「アクティブエマージェンシーストップアシスト」などは緊急時に事故の可能性を抑制する。こうした先進安全技術は過去に発生した実際の事故を検証し、その危険を排除する目的で開発されたもの。得られる運転支援度合いは大きい。

 コンパクトクラスの7人乗り×SUVとお膳立てが揃った。そこに、3列目シートの乗り心地を徹底して考えた走行性能と、メルセデス・ベンツ各モデルで定評のある先進安全技術の組み合わせ。12年以上、S204(先代Cクラスのステーションワゴン)に乗る筆者からみても、非常に魅力的な1台だった。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:高橋 学