試乗インプレッション

「ヤリス」「MAZDA2」の6速MTモデルを乗り比べ。各モデルの最適なトランスミッションを考える

ヤリスとMAZDA2のMTを比較

 マニュアルトランスミッション(MT)車が稀少で貴重な存在になって久しい。試乗した「ヤリス」はその6速MTモデルで、エンジンは直列3気筒1.5リッターDOHCガソリンエンジンを搭載する「Z」グレード(187万1000円)。Car Watchでは前回、販売の主力であるCVTモデルの試乗レポートを行なっているのでそちらも合せてご確認いただきたい。

 さらに今回、競合車としてマツダ「MAZDA2」の6速MTモデルを持ち出した。試乗したMAZDA2は直列4気筒DOHC 1.5リッターガソリンエンジンを搭載する「15S PROACTIVE」(169万4000円)だ。

 両車のスペック概要は以下の通り。ヤリスが120PS/14.8kgfm、MAZDA2が110PS/14.4kgfmだから、一目瞭然でヤリスがMAZDA2を上まわる。さらにヤリスはMAZDA2と比べ、より高いエンジン回転域で最高出力と最大トルクを発生する点も違いとして挙げられる。なお、MAZDA2はモータースポーツベース車(専用ギヤ比の6速MT)として同じ1.5リッターでも116PS/14.9kgfm(最高出力と最大トルクの発生回転数は同一)へと性能を向上させた「15MB」(165万円)をラインアップする。その圧縮比はベース仕様の12.0から14.0まで高められ、4~6速ギヤをクロス化して最終減速比も6.9%ほど加速寄りに。さらにWLTCモード燃費数値は20.2km/Lと0.4km/L向上している。

今回試乗したのは、直列3気筒1.5リッター直噴「M15A-FKS」型エンジンに6速MTを組み合わせるヤリス「Z」(187万1000円)、直列4気筒1.5リッター「P5-VPS」型エンジンを搭載するMAZDA2「15S PROACTIVE」(169万4000円)の2モデル。ヤリスのボディサイズは3940×1695×1500mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2550mm。MAZDA2は4065×1695×1525mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2570mm
ヤリス Zが装着するのはオプションの切削光輝+ブラック塗装の16インチアルミホイール。タイヤはブリヂストン「エコピア EP150」(185/55R16)を装着
MAZDA2 15S PROACTIVEが装着するのは、用品オプションのガンメタリック塗装版(メーカーオプション品はガンメタリック塗装ではない)15インチアルミホイール。タイヤは横浜ゴム「ブルーアース GT」(185/65R15)
ヤリス Zが搭載するM15A-FKS型エンジンは最高出力88kW(120PS)/6600rpm、最大トルク145Nm(14.8kgfm)/4800-5200rpmを発生。WLTCモード燃費は19.6km/L
MAZDA2 15S PROACTIVEが搭載するP5-VPS型エンジンは最高出力81kW(110PS)/6000rpm、最大トルク141Nm(14.4kgfm)/4000rpmを発生。WLTCモード燃費は19.8km/L

 確かにこうしたカタログ数値は乗り味、とりわけ絶対的な加速性能を左右するものの、両車はそうした特性をドライバーとの協調運転で引き出すMT車であるため、運転シーンで評価は大きく異なる。ドライバーや同乗者の耳に届くエンジン音ひとつとってみてもそうだし、発進から停止までの何気ない運転操作から得られる走行特性から結果がイメージと逆転することも多い。

 言い換えれば、シフト操作やクラッチ操作など運転プロセスが増えるMT車の場合は、クルマがドライバーにどれだけ寄り添える特性を持っているかによって評価は異なってくる。そこで今回の試乗は、日常走行での試乗評価に統一。助手席に同乗者がいると仮定して(試乗は筆者のみ)、仮想同乗者の頭が大きくブレず、クルマ酔いしないような気持ちよく移動できる運転操作を心がけてみた。市街地ではスムーズな発進から交通の流れに沿い、都市高速での合流では一気に加速、巡航時には極力6速ギヤで走らせた。

ヤリス Zのインテリア。新型ヤリスではインパネの高さを抑えて縦横比を横長にし、上級クラスの車内のようにワイドな空間を表現。ステアリング径はφ365mmとし、センターパッドも小型化してメーター類の視認性を向上させた
ヤリス Zの運転席にはトヨタ初の装備となる「イージーリターンシート」を採用。これはシートの前後ポジションを一定にキープしつつ、シートベース右側面の専用レバーでロックを解除することにより、シートを最後端までスライドできるというもの。電動パワーシートの一部で採用されている「メモリー機能」をロック機構の工夫で再現し、乗降性を高めている
MAZDA2 15S PROACTIVEのインテリア。MAZDA2ではいつまでも乗っていたくなる居心地のよい空間を目指し、インテリアデザインとカラーコーディネートで上質さと遊び心を両立。静粛性についても、人の音の聞こえ方を研究することでより静かで会話のしやすい空間を実現したという
運転席6Wayパワーシート&ドライビングポジションメモリー機能や自動防眩ルームミラーといった装備も用意され、快適性や利便性を高めている

市街地、高速道路での印象は?

 市街地、ヤリスは軽い。発進時のクラッチミートを行なった瞬間からそれが際立つ。車両重量は1010kg(試乗車)とMAZDA2より30kg軽いが、それ以上に動き出しは軽快。ギヤ比を見てみると、ヤリスとMAZDA2の1速はほぼ同じ値だが、最終減速比はヤリスが2.6%ほどローギヤード(加速方向)。さらにヤリスは3気筒であるため、同排気量の4気筒エンジンと比較すれば、主に低いエンジン回転域でのトルク特性に優れていることもあり、結果的にグンとクルマを押し出す感覚が強くなる。印象を左右する“タイヤひと転がり目の力強さ”はヤリス優勢だ。

 1速・25km/h程度でシフトアップし、2速から3速と同じようなタイミングで増速させて市街地の流れに沿って走らせる。50km/hあたりを上限とした市街地では、わりと早めのシフトアップを行ないつつ2000rpmを下まわらないように走らせていると、アクセルペダルに同調した躍度を生み出しやすい。

 国道ではオーバーパスも通過した。一般的な縦断勾配5%程度の上り坂では、試しに5速ギヤを保持したまま通過を試みる。速度低下を見越してアクセル開度を徐々に大きくすると、ゆっくり速度を上げていく。その際、シートを通じて身体全体に、フロアやペダルを通じて下半身に、それぞれ感じる振動は明らかに大きくなるが、早々にシフトダウンして回転数を上げればスマートに対処できた。ただ、シフトダウンさせなくても失速はない。じつに粘っこい特性だから使いやすい。

 この点、MAZDA2はどうか。同速度/同回転数で臨んでみると、アクセル開度に同調してじんわり速度を上げていく。この点はヤリスと同じだが、4気筒であるため振動は少なくMAZDA2が有利だ。しかも、マツダが第6世代商品群からこだわってきた“どの速度域でもアクセル操作に対する躍度発生を等しくする”考え方が功を奏し、適切なギヤ段であれば、絶対値こそ低いものの上り坂であってもアクセル操作に対して平坦路と同じようなタイミングで躍度が得られる。だから、シフトダウンを意識するまでの時間的なゆとりも大きい。

 都市高速ではヤリスの出力&トルク特性が光る。低回転域で力強く、中回転域は徹底してフラット。そして高回転域で再び盛り上がる直列3気筒エンジンの特性そのままに、空力特性にも優れるヤリスのボディをグイグイと引っ張り上げる。最高出力を発生する6600rpmを過ぎても躍度の低下が少ないから気持ちがいい。この点はMAZDA2とも共通している。

 それにしてもヤリスはパワフル。これはCVTモデルでも体感していたことだ。トヨタの誇る高効率エンジン「ダイナミックフォースエンジン」はロングストローク型(ボア×ストローク比1.21。MAZDA2は同1.15)。また、ボア×ストロークの数値から分かるとおり、ヤリスの直列3気筒1.5リッターは、レクサス「UX」や「RAV4」が搭載する直列4気筒2.0リッターから1気筒減らした構成だ。

「2.0リッター版では燃焼の効率を決めるシリンダーヘッドを出力重視のガソリン用と、燃費数値重視のハイブリッド用とで作り分け、ハイブリッド用シリンダーヘッドでは効率指標として用いられるシリンダー内のタンブル比3.1(クランクシャフトが1回転する際の縦渦回転の値)を達成しています」と説明するのは、ヤリスのエンジン開発を担当した技術者だ。

 氏は続けて、「ヤリスが搭載する1.5リッターエンジンのシリンダーヘッドは、開発コストの関係からガソリン用とハイブリッド用で同じ部品を採用していますが、加工はそれぞれ独自に行なってます。その結果、タンブル比でいえば2.0リッターエンジンのハイブリッド用シリンダーヘッドとほぼ同じ3.0と高効率です。それでいて最高出力は120PSと、排気量あたりの出力レベルは2.0リッターエンジンのガソリン用シリンダーヘッド(出力重視)とほぼ同水準です」と語る。

 アクセル開度が大きくなる高速域ではMAZDA2も負けていない。絶対的なパワーこそ10PS低いものの、たとえば5000rpmを超えたあたりからやや高めの吸気音が加わるから、速度の上昇以上に気分は盛り上がる。シフトアップ後のつながりもよく、テンポのいい加速が楽しめる点も高く評価したい。

ガソリンモデル、ヤリスはCVT車、MAZDA2はMT車がベストチョイス

 乗り味はどうか。ヤリスは軽さが際立ち、エンジン特性と同じくコシのある粘っこさが印象的。対するMAZDA2は同じく軽さを実感するものの、その先はちょっと硬質な印象が残る。こうした数々の特性から、全長は125mmもヤリスが短い(ホイールベースも20mm短い)ものの、ヤリスは少し大きなクルマを運転しているような感覚だ。これにはシートの表皮やクッション特性も効いている。ヤリスは座面、背もたれともに柔らかな減衰特性で、乗り始めた瞬間からグミに身体半分が包まれているようで心地いい。

 ただ、時間経過とともにその印象は変化した。当初は角が立っているように感じたMAZDA2の乗り味は、そのカチッとしたシート形状やクッション特性が地味に効果を発揮するようで、次第にクルマとの一体感が強くなる。具体的には、ヤリスよりもMAZDA2の方が走行時の振動周期に対して身体が順応しやすいと筆者には感じられたのだ。総じて、ボディの四隅をイメージしやすいのがMAZDA2で、ヤリスはちょっとだけ大きなサイズのクルマに乗っているような安心感がある。

ヤリス(上)とMAZDA2(下)に座ってみたところ。時間が経過するにつれ、シートに対する印象が変わった。ウィンドウに直接投影するヤリスは見た目にもスマート。だが、着座位置によってはウィンドウの歪みに投影した表示類が重なり認識率がわるくなる。一方、MAZDA2は透過度の高い樹脂パネルに投影する方式。慣れるまで視界が部分的に遮られたような感覚になるが、文字は細部に至るまでくっきり。悪天応にも邪魔されない

 MT単体での評価はどうか。筆者はMAZDA2の特性を好む。理由は明確で、前後のシフト操作、左右のセレクト操作ともに、掌にはクリック感にも似たカチッとした操作感覚があるからだ。

 ヤリスもシフト&セレクトともに操作量はMAZDA2と同じようだが、操作はカチッではなくグニュとした感覚がつきまとう。両車ともにシフトゲートへの迷いはなく、たとえばシフトミスしやすい5速→4速へのシフトダウン時でも一発で決まる。シフト操作で大切なレバー長やノブ形状なども適切。体躯やシート位置にもよるが、筆者(身長170cm)が調整したシート位置では両車ともシフト操作はとてもしやすかった。

 ペダル操作はどうか。こちらも配置を含めて筆者はMAZDA2を好む。オルガン式アクセルペダル(ヤリスは吊り下げ式)に慣れているということが大きな理由だが、それ以上にクラッチペダル操作が大きく評価を分けた。

 まずヤリス。クラッチペダルをゆっくりリリースしながらミートポイントを探っていく際、ペダルに伝わる反力が一定であるためかリリース操作がラフになりがちで、滑らかな発進加速をしようにもミートポイントを探りにくいことからタイヤに対して駆動力が一気に伝わりやすい。MAZDA2の場合、左足がこらえやすい(≒ためを作りやすい)ところでじんわり駆動力が発生しはじめるから、そこから右足との連動もスムーズで滑らかな発進加速力を生み出しやすい。

 このように、シフト操作やペダル操作はクルマの評価を左右するものの、慣れてしまえば大きな問題ではないとする意見もある。しかし、筆者はあえてこだわりたい。そもそも、2ペダルのAT車やCVT車が全盛の今、こだわりをもって3ペダルのMT車を選ぶのであればなおのこと。

 今回、ヤリスとMAZDA2の6速MTモデルに短時間ながら試乗。その結果から、ヤリスのガソリンモデルはCVT車が、MAZDA2のガソリンモデルはMT車がベストと判断した。Car Watch読者の皆さんがディーラーで試乗いただく際の参考になれば幸いだ。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:堤晋一