試乗インプレッション

「見えないところ」の進化がすごい! ホンダ「フリード+ CROSSTAR」で秋を感じるドライブ

車格が1ランクアップしたかのようなマイナーチェンジ

 10月のマイナーチェンジで進化した「フリード」に新たに登場した、遊び心あふれるSUVルックをまとう「CROSSTAR(クロスター)」。これまでのフレンドリーで若々しい雰囲気はそのままに、ちょっぴりワイルドで頼もしい印象が楽しいドライブを予感させる。秋晴れの空のもと、そんなCROSSTARと都心を離れてプチロングドライブへ出発した。

 SUVルックと言っても、あくまでシティユースが多いフリードユーザーを考えて、街中でも浮かないサラリとしたSUVテイストを心がけたというCROSSTAR。つや消しブラックのフロントグリルや、アンダーカバー風のフロントバンパー、ルーフレールや新デザインのアルミホイールなど、どれもさりげない力強さと遊び心がちょうどいい。本当なら、SUVルックのお約束とも言える樹脂製のホイールアーチカバーも装着したいところだったが、それをつけてしまうと5ナンバー規格に収まらなくなってしまうことが判明して諦めたという。フリードのユーザーには、狭い道の取りまわしや車庫入れのしやすさなどで選んでいる人が多く、数cmのボディサイズ拡大でも困る人がたくさんいる。見た目の印象を完璧にするよりも、そうしたユーザーの利便性を優先したところに、ホンダの良心を感じたエピソードだ。実際、わが家の前の道も狭く、クランク状に曲がらなければならないため、フリードの取りまわしのよさは本当に助かった。

まるも亜希子が本田技研工業「フリード+ HYBRID CROSSTAR」と秋のドライブに出かけた
フリード+ HYBRID CROSSTAR・Honda SENSINGの4WD車(304万400円)。ボディカラーは新色の「シーグラスブルー・パール」。ボディサイズは4265×1695×1735mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2740mm。最小回転半径は5.2m
前後に備わるシルバーのプロテクター風ロアスポイラーが特徴
フロントグリル、バンパー、LEDフォグランプなどがSROSSTAR専用品
フリード/フリード+とも全車でHonda SENSINGが備わる
装着タイヤは横浜ゴム「ブルーアース E50」で、タイヤサイズは185/65R15
しっかりとしたルーフレールも備わる

 さらに、走り出してすぐの低速時から感じたのは、ハイブリッドならではの静かさに加えて、軽快感の中にもシッカリとした剛性感があること。ボディ全体のカタマリ感がちゃんとあり、ストップ&ゴーでの加減速がまったくギクシャクせず、車格が1ランクアップしたかのようだ。実は今回のマイナーチェンジでは、目に見えない部分にきめ細かな改良がたくさん施されており、こうしてちょっと遠くまで試乗する機会を心待ちにしていのだが、こんなにすぐに違いを感じられるほどとは思っていなかった。

最高出力81kW(110PS)/6000rpm、最大トルク134Nm(13.7kgfm)/5000rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.5リッターエンジンに、最高出力22kW(29.5PS)/1313-2000rpm、最大トルク160Nm(16.3kgfm)/0-1313rpmを発生するモーターを内蔵した7速DCTを組み合わせるSPORT HYBRID i-DCDを搭載
パワートレーンはフリクションの低減や軽量化、ノッキング抑制といった改良に加え、燃焼改善などによる燃費性能向上も行なわれている

 雑然とした都心の道をスイスイと走り抜けて、フリード CROSSTARは高速道路を西へと向かう。ここで試してみたかったのは、やはり「Honda SENSING」によるACCだ。従来からグレード別で装備されていたHonda SENSINGがアップデートされ、とくにACC作動中の加減速フィールが向上して、追従走行からドライバーによる加速への移行時間を短縮したという。それはレーンチェンジをして一気に追い越しをかけるようなシーンで、確かに実感できた。追従中に自分でアクセルを踏んでさらに加速をしてみると、その切り替わりにまったくモタつきがなく、とてもスムーズに俊敏に加速してくれる。のんびりとクルージングするのもグイグイと加速するのも、思いのままになる爽快な走りに感心した。

 さらに、EPS制御をリファインしたというステアリングフィールも、「いいクルマを運転している」と感じられる、収まりのよさやシッカリとした操舵感がある。このおかげで、高速カーブのようなシーンでも安心感が高く、スムーズに駆け抜けて行けて気持ちいい。こうした気持ちよさには、ハイブリッド車に対してインテークポートやシリンダーヘッド、ピストンの変更などでノッキング制御や燃焼安定性の拡大などを実現したという細かな改良の恩恵もあるのだろう。また、全車に対して新たな触媒金属を投入したり、制御データの設定やエンジンブロックの軸間スリットを改良したりと、燃費向上対策も施されている。一般道から高速道路まで、これだけの違いが感じられることに驚きつつ、目的地へとフリードを走らせる。

 フリードの広い視界からは、ほのかに色付きはじめている山々が存分に眺められた。今回は2列シートの5人乗り仕様で、キャンプも車中泊も余裕でできそうな広大な荷室がある。途中で後席にも座って試乗してみたが、乗り心地はフラットで快適。ユニークな「デジタル柄」のシートも楽しげで、開放感のある室内はついつい会話が弾み、アクティブなファミリーやカップルにぴったりの空間だ。

フリード+ CROSSTARのインテリア
ステアリングのスイッチ類
フリード+ CROSSTARのシート。専用のデジタル柄を採用する
ラゲッジは2段に分かれていて、荷物の量や大きさなどに応じてボードの配置をアレンジ可能。オプションでスライドレールや棚などを増設することができるサービスホールも設定される
6:4分割のリアシートはダブルフォールダウン機構付のためフルフラット化が可能

 ユーティリティで新たに追加された装備の中で、「なるほど、これは便利」と思ったのが、運転席側のスライドドアが足の動作で開閉できるハンズフリー開閉機能。これまで、ハンズフリー開閉機能は助手席側に装備されるクルマが多かったが、例えばママと子供の2人だけで出かける場合などは、助手席側までまわってスライドドアを開け、子供を乗せてから運転席まで戻る、なんてことはまずしない。運転席側のスライドドアを開けて子供を乗せ、そのままサッと運転席に乗り込める方が便利だ。そうした実際の使用シーンを想定して機能を追加してくれるのは、ユーザーにとって嬉しいことだと感じる。

オプションのハンズフリースライドドアは、これまで多かった助手席側だけでなく、運転席側にも設定ができるようになった

 また、コンパクトクラスでは見た目の雰囲気だけの“なんちゃってルーフレール”が多いのだが、フリード CROSSTARのルーフレールはしっかり耐荷重を備えたモノとなっているのもユーザー想い。積雪地域のことを考え、簡易的なモーター4WDではなく、本格的な4WDにもこだわっている。

 こうして、1日を共にした新しいフリードは、安心感と楽しさと心地よさがしっかりアップしていた。見た目の変化以上に「見えないところ」の進化がすごい、1ランク上のコンパクトミニバンの誕生だ。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。17~18年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:中野英幸