試乗インプレッション

メルセデスAMG 35シリーズ第1弾。「メルセデスAMG A 35 4MATIC Edition 1」は、ダイレクト感のカタマリだった

特別装備を豊富に付けた743万円の600台限定モデルに試乗

魅力的な仕様の限定600台

 約1年前に日本に上陸したAクラスに、いよいよメルセデスAMGのモデルが加わった。ただし、360PSで登場して381PSまでパワーアップし、世界を驚かせた「45」シリーズではなく、「35」というこれまでなかった数字のシリーズとなる。

 キャラクターとしては数字の大きさのとおりで、「45」ほどの性能はなくてもかまわないが、もっと快適性がほしいというユーザーがターゲット。クルマ自体の味付けもサーキット向けではなく、基本的には公道が主体で、試乗会のステージとして選ばれた群馬サイクルスポーツセンターのようなワインディングを速く気持ちよく走るのに適したものとなっている。

 ちなみに45シリーズの方もすでに本国では発表されていて、日本では東京モーターショーで初披露される予定。360PS→381PSときた2.0リッターで世界最強となるエンジンの最高出力は、さらにパワーアップしてなんと421PS(!)に達したというのも大いに気になるところだが、まずはその前に注目してほしいのが、こちらの35シリーズだ。

メルセデスAMGの新シリーズ「メルセデスAMG A 35 4MATIC」に試乗

 今回ドライブしたのは、その35シリーズの中でも数々の専用装備の与えられた「Edition1」という600台限定の特別仕様車。専用色デニムブルーのボディにゴールドのデカールを貼り、フロントサイドのフリックやリアウイングを配したほか、ノーマルは18インチのところ19インチとした専用色のアルミホイールを履かせるなどしたスポーティなルックスは、遠目にも存在感がある。

600台限定の「メルセデスAMG A 35 4MATIC Edition 1」(743万円)。ボディサイズは4436×1797×1405mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2729mm(数値はすべて欧州参考値)。エディション 1ではないノーマルのメルセデスAMG A 35 4MATICの価格は628万円となる
フロントバンパーはフリックが付くEdition 1専用デザイン
Edition 1ではハイグロスブラックのリアウイングやリアエプロン、リアデュフューザーなども特別装備される
ボディカラーは「デニムブルー」のみの設定。マットテックゴールドの専用デカールが配される
ハイシーン/マットテックゴールドの専用カラーを用いた19インチAMGマルチスポークアルミホイールと組み合わせるタイヤは、235/35ZR19サイズのピレリ「P ZERO」

 AMGパフォーマンスシートが標準で付き、各部が専用に仕立てられたインテリアもこのクルマならでは。さらに、装備の充実するAMGアドバンストパッケージや、AMG RIDE CONTROLサスペンションなどが標準装備され、ねじれ剛性を高めるべくシャシーにも手が加えられている。価格はベース車が628万円のところ743万円となるが、これほど魅力的な内容となることを思えば安いものだ。

メルセデスAMG A 35 4MATIC Edition 1のインパネ
表皮にレザーDINAMICAを用いたマグマグレー/ブラックのツートーンAMGパフォーマンスシートを装着。ドアトリムにもシートと同じスエード調のファブリックが配される
ナッパレザーのAMGパフォーマンスステアリングにはEDITIONのエンブレムが付く
左右スポーク部のスイッチは標準モデルと共通
AMGのロゴ入りサイドシル
アルミペダルを装着
荷室容量はVDA方式で370Lを確保。4:2:4分割可倒方式のリアシートを倒すと1210Lまで拡大できる
ラゲッジ下にはウーファーなどを搭載する

十分すぎるほどのパフォーマンス

 肝心のエンジンは、AMGのマイスターが「ワンマン・ワンエンジン」で組み上げたメルセデスAMG A 45とは別物で、ラインで生産されたベースとなる完成品のエンジンをAMGのノウハウによりチューニングしたものとなる。すなわち、すでに上級機種にある「43」シリーズのような位置付けとなる。A 250にも搭載される「M260」という型式の2.0リッター直4ターボエンジンは、A 250では224PSのところ、メルセデスAMG A 35では306PSと約80PSも引き上げられていて、それが軽量コンパクトな車体に載るのだから、動力性能は推して知るべしだ。

AMGのノウハウによりチューニングされた直列4気筒DOHC 2.0リッターターボ「M260」型エンジンを搭載。A 250 4MATIC セダンに搭載される同型式のエンジンより最高出力は60kW(82PS)、最大トルクは50Nm(5.1kgfm)それぞれアップした最高出力225kW(306PS)/5800rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/3000-4000rpmを発生する。組み合わせるトランスミッションは7速DCT

 コースインし、少し前に降った雨でところどころ濡れた路面は、季節柄落ち葉も気になる中を慎重にしつつも、せっかくなので全開で走ってみると、やっぱり速い! その加速力はもうこれでも十分すぎるほど。パワフルであるがゆえに、あっという間にレブリミットの6500rpm+αまで回り切ってしまうので、もっと上まで回したくなったことのほうが物足りなく感じられたほどだ。そして、ダイレクト感のある7速DCTが余すことなくそれを伝える。「スポーツ+」モードを選ぶと、45はいらないのでは? と思えるほど瞬発力がMAXに高まり、より迫力あるエキゾーストサウンドになるのもうれしい。

走行モードは「スリッパリー」「インディビジュアル」「コンフォート」「スポーツ」「スポーツ+」の5種類を用意。インパネ中央のディスプレイのほか、ステアリング左側に付くスイッチでも変更できる
走行中の車両データを表示することも可能
メーター表示も好みに応じて変更可能
右側のメーター内にも車両情報を表示させられる

すべてがダイレクト

 足まわりの進化もかなりのものだ。大径偏平の19インチタイヤを履き、サスペンションブッシュ類も強化されているので、それなりに硬さも感じるものの、これまたダイレクト感のある走りが気持ちよい。さらには、群馬サイクルスポーツセンターの路面はけっこう荒れているため、接地性に不安があると安心してアクセルを踏めないのだが、このクルマなら問題ない。電子制御ダンパーは不要な挙動を抑えつつも、動かすべきところはよく動かしているので追従性が高く、タイヤが常に路面をしなやかに捉える感覚がある。

 ステアリングフィールもタイヤと直結したかのようにダイレクトで、応答遅れもなく、正確に狙ったラインをトレースしていける。FFベースの4WDとは思えないほど回頭性は鋭く、そしてアクセルを強めに踏んでも横に逃げることなく前へ前へと進んでいく。これは100:0~50:50で可変トルク配分を行なう4MATICの制御がとても巧みだからにほかならない。ブレーキフィールもまたダイレクトだ。タッチが硬質で、ストロークよりも踏力の強さにより、まるで爪先で直接ブレーキディスクを踏んでいるかのようにコントロールできる。

 途中で雨が本降りになり、コースはヘビーウェットコンディションと化したが、そうなるとなおのこと恩恵を実感。大雨の中でも不安に感じることなく、全開で走ることができた。ESPをOFFにしても接地性が高いおかげで限界付近の挙動がおだやかで掴みやすい。

 ノーマルのメルセデスAMG A 35と少しだけ乗り比べることもできたのだが、Edition 1はエアロパーツが効いてか、車速を高めるほど上から押さえられるような感覚が増すことも分かった。前出のグリップ感の高さには、タイヤの違いだけでなく空力も効いていることに違いない。

 シートの印象も申し分ない。硬質な着座感のバケットシートは、きつく締めすぎることなく、身体を的確に支えてくれて、あくまで快適性を損なうことなくクルマの挙動をダイレクトに伝えてくる。

 とにかくすべてがダイレクト感のカタマリだ。それでいてコンフォートモードを選択してペースを落として流してみると、減衰がマイルドになり、あまり不快な思いをすることなく走れることも確認できた。今回の車両は未登録につき公道を走ることはできなかったが、これなら公道でも快適に乗れるはず。それもメルセデスAMG A 35を選ぶ大きな理由となることに違いない。

 あとに控えるメルセデスAMG A 45の方がさらに刺激的な走りであることは想像に難くないが、それでも所有して使うことを考えると、メルセデスAMG A 45を待つまでもなく、メルセデスAMG A 35を選んだほうが賢明という人は少なくないはず。メルセデスAMG A 35だって、お伝えしたとおり十分すぎるほど走りを楽しませてくれた。ましてやこれほど魅力的な内容の特別仕様車がまだ選べる、この機を逃す手はない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一