試乗インプレッション

正式発売前のテスラ「モデル 3」に試乗してみた(ただし助手席で)

近々コンフィギュレーターを公開、納車は夏過ぎからを予定

テスラサービスセンター東京ベイオープンの取材時に「モデル 3」の同乗試乗会も行なわれた

 現在、日本でも予約受付が行なわれているテスラ「モデル 3」に試乗することができたのでレポートしよう。この試乗会は、テスラサービスセンター東京ベイオープンの取材の中で行なわれたため限られた時間で、また米国仕様の研究テスト車両への同乗走行であったことをお断りしておく。

より多くのユーザーが対象に

 テスラでは、大型サルーン「モデル S」とSUV「モデル X」がラインアップされる。そこにモデル Sよりふたまわりほど小型のセダンが追加された。それがモデル 3だ。

 5月の時点では前述のとおり予約受付中で、その予約対象者に対して近々コンフィギュレーターを公開し、好みの仕様やモーターの出力などを決定できるようになるという。納車は夏過ぎが予定されている。現時点で日本仕様の詳細は正式決定していないが、関係者によると0-60mph(約100km/h)加速は3.2秒(パフォーマンスモデル)を誇るとのことなので、本田技研工業「NSX」並みの加速性能と言えそうだ。

 モデル 3の米国モデルでは仕様が3つあり、「スタンダードレンジ プラス」(後輪駆動)、「ロングレンジ」(4輪駆動)、そして「パフォーマンス」(4輪駆動)となる。航続可能距離はスタンダードレンジ プラスが約384km、ロングレンジおよびパフォーマンスが約498kmで、アメリカでの価格はそれぞれ3万9500ドル(約438万円)、4万9500ドル(約549万円)、5万9500ドル(約660万円)と発表されている。ロングレンジとパフォーマンスの違いはバッテリー性能の差で、パフォーマンスの方がロングレンジよりも加速性能が0-60mphで1.2秒速いデータとなっている。

 北米仕様のボディサイズは4694×1849×1443mm(全長×全幅×全高)で、日本でも比較的使いやすいサイズだ。

今回同乗試乗したのは航続可能距離310マイル(約498km)、0-60mph加速4.5秒で4輪を駆動する「ロングレンジ」(北米仕様)。タイヤはコンチネンタル「ProContact RX」

 一方、インテリアはさっぱりしており、中央部に大型のスクリーンがある以外、目立った装備は見当たらない。ドライバー側のステアリングを除けば左右対称の光景が広がる。もともとテスラのインテリアはミニマリズムを追及しており、モデル 3のそれはある意味“究極”と言っていいだろう。

 ただし、使いやすさにおいては少々難があるかもしれない。例えば、室内温度を調整したい場合にはスクリーンをタッチしながらいくつかのステップを踏んで画面を変えて調整しなければならないからだ。

ミニマリズムを追及したインテリア
フロントフード下の収納スペース
トランクスペースの容量は425L
トランクスペース下にも収納スペースが用意される
スクリーンの表示例。ナビ、運転モード、バックモニターなどが表示可能
モデル 3のスクリーン表示紹介(49秒)

 テスラモーターズ ジャパン マーケティングマネージャーの前田謙一郎氏は、モデル 3について「より一般的なEVです」と位置付けるとともに、「基本的な構造はモデル Sやモデル Xと共通なので乗り味は一緒です。低重心でスポーツカー的なフィーリングもありながら、室内は広く、セダンとしても十分活用できます」という。

 また、想定購入ユーザー層について前田氏は、「これまでは(高価格帯の)モデル Sとモデル Xでしたから、どちらかというとアーリーアダプターの中のさらにアーリーな人たちが多かったのですが、今後はもっとその裾野が広がっていくでしょう」と話す。そして、「よりデザインにこだわり、かつ走りにもこだわっている方に乗ってもらいたいですね。一方、航続距離が400kmを超えていますので、普通のクルマとして乗りたい方にもかなりおススメです。予想ですが、モデル 3はテスラのラインアップの中で半分以上の販売台数を占めるようになるでしょう」と語っている。

 なお、テスラモデルの特徴として、3GとLTEが搭載されていて常にテスラのサーバーとつながっている点が挙げられる。つまり、ソフトウェアのアップデートがあった場合には即対応が可能ということだ。そのソフトウェアは単にナビゲーションなどに限らず、例えばオートパイロットと呼ばれる運転支援システムなども含まれ、ハードウェアであるカメラやレーダー、その処理を実施する半導体チップはそのままに、さまざまなアップデートが行なわれているのだ。テスラの関係者によると、現在のハードウェアであれば未来に全自動運転の時代が来たときにはワイヤレスアップデートで完全自動運転ができるようになるという。

同乗して感じた剛性の高いボディと低重心の魅力

 では、わずかな時間だったがモデル 3に同乗した印象を記してみよう。

 ゆっくりと駐車場から一般道へ段差を越えて出たときの第一印象は、ボディ剛性が高いことだった。剛性が低いクルマだと、ボディがよじれてきしみ音が発生することが多いのだが、モデル 3にそういったことはまったくない。そこからゆっくりと加速をしていくと、今度は低重心であることが如実に感じられた。まるで路面に吸い付くような、なかなか他のクルマでは味わえないちょっと不思議な印象だ。それは交差点を曲がるときも同様で、ロールもまったく感じずにすっと鼻先が行きたい方向に入っていく様は、低重心でないと味わえない面白さだった。

 その一方、乗り心地に関してはもう少しサスペンションをストロークさせてしなやかさがほしいと感じた。車両重量が1.8t程度のため、ある程度硬めなければいけないことは分かるのだが、ボディ剛性が高いことを利用すれば、サスペンションの動きを大きくしても十分に走行安定性は確保できるので、よりセッティングを熟成させて乗り心地の向上を目指してほしい。最近、モデル Sとモデル Xのエアサス(モデル 3はコイル式)のセッティングが変更されたようなので、テスラとしてもこのあたりは気付いていると思われる。ぜひモデル 3の日本仕様ではよりしなやかさが感じられることを期待したい。

 これまでにモデル Sやモデル Xをテストした経験をもとにすれば、モデル 3は低重心を利用したスポーティなハンドリングと、十分な居住性を確保した室内空間を両立したEVと言うことができ、“たぶん”その印象はステアリングを握っても大きくは変わらないだろう。そのくらい、いずれのモデルの印象とも共通していたからだ。

 もちろん、質感や触感、特にスイッチ類はいまひとつの部分もある。しかし、まずは自動車としての基本性能、走る、曲がる、止まるがどれだけ自然にできているかだ。あらゆるものが電気仕掛けのため、違和感を生み出しやすい。しかし、どうやらモデル 3はその点でもしっかりと作り込まれている印象だった。

内田俊一

AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー 25 バカラと同じくルノー 10。

Photo:中野英幸